第134話 第三小隊出撃

-3日後 昼前

@兵器試験場 監視塔


 モルデミール軍基地の敷地内にある、崩壊前の街の廃墟……ここは、軍により立ち入りが禁じられ、一般市民は立ち入る事が出来ない場所だ。

 この場所の立ち入りが禁じられた理由としては、崩壊前の遺物を軍が独占するという理由と共に、市街戦の演習場として利用するという目的があった。もっとも、遺物を取り尽くした今となっては、後者が主な理由となり、今では兵器試験場と呼ばれるようになったそうなのだが。


 現在、この試験場に親衛隊所属のAM、12機全てが勢揃いしていた。これから、親衛隊内で模擬戦が実施されるのだ。

 何故模擬戦を行うのかと言うと、それは親衛隊の役割に起因している。親衛隊の任務は、総司令官とその近しい人物の身を守る事と、本拠地である基地と街の防衛、そして他の部隊の教導だ。

 また万が一、軍内部で裏切り者が現れ、AMで襲ってくるとも限らない。彼らは、そんな事態でも戦えるように日々訓練しているのだ。


 試験場には監視塔が建てられており、演習や模擬戦を見学できるようになっていた。俺も、カティア機の主任整備兵として、この塔の上へと潜り込むことに成功した。

 今日は、カティアがデビューするという事に合わせて、女だけの第三小隊が出るという事で、かなりの見物客で賑わっていた。……客とは言ったが、全員軍関係者であり、調査対象の者も何人かいる。俺の目的は、コイツらの情報を集める事にあった。


(よし、じゃあ早速動くか)


 適当な奴に目をつけて、話しかけようとしたその時、誰かに肩を叩かれた。振り返ると、精悍な顔つきの男が立っていた。


「よう! お前、アレだろ? 選定の儀に連れて行かれた整備兵ってのは」

「え、ええそうですが……。どちら様です?」

「何だよ、俺の名声も地に落ちちまったのか? 俺はギャレット・ロウだ」


 ギャレット・ロウ……親衛隊の隊長だった筈だ。何故こんな所にいる? いや、それよりも……。


「こ、これはロウ少佐! 失礼しましたッ!」


 俺は、急いで敬礼する。軍に於いて、上官に敬意を払う事は絶対だ。大急ぎで取り繕う。

 それにしてもこの男、制服を着崩していてだらし無かったので、まさか佐官クラスだとは思わなかった……。


「はは、いいっていいって。お前の事は、おやっさんから聞いてるぜ。若いのに凄腕らしいな?」

「おやっさん? ああ、博士の事ですか?」

「ああ。アイゼンメッサー技術大佐には、俺の鉄巨人が世話になってるからな。そういやお前、この間俺の機体の修理も手伝ってくれたらしいな?」

「ああ、あの機体ですね」


 親衛隊所属機が皆AM-5 アルビオンである中、隊長機だけAM-3 サイクロプスを使っていたのを思い出す。


「あの後、何だか調子が良くてよ。感謝してるぜ!」

「それは良かったです。……そういえば、ロウ少佐はあちらに行かれなくていいんですか?」

「ん? ああ、最初は第二小隊と第三小隊が戦うからな。俺達、第一小隊は見学だよ」

「なるほど」

「おっと、そろそろ始まるみたいだな。ほら、お前も座れよ」

「失礼します」


 ロウ少佐にベンチの隣を勧められ、着席する。他の将校も調査したいが、この男も調査対象である。本来ならカティアの役目なのだろうが、彼女が使い物にならない以上、この際俺が調査した方が良いだろう。


「お前、ウチの新人……えっと、カチュアだっけ?」

「カティア准尉です」

「そうだ、カティアだ! その娘の専属になったんだって?」

「ええ、ご縁がありましたので……」

「フッ……まあ、あんな所で一緒だったんだしな。それにしても、よくあんな少人数で帰って来れたな?」

「准尉の腕前に助けられたのと、岩グモ達も腹が減ってなかったみたいなのが幸いしましたね」

「ああ、前に大人数で押し掛けたしな……。それにしてもあの娘、そんなにスゲェ奴なのか?」

「そ、そりゃあもう!」

「ほう、ならこの後の模擬戦も楽しみだな!」


 カティア達の場合、電脳化していないので、本人の戦闘能力とAMの操縦は無関係だ。だが人間は、他人を評価する時に、その人が持つ特徴や外見などに引きずられ、関係の無い他の事柄についての評価が歪められてしまう事がある。確か、ハロー効果とか言ったか?

 例えば、あの人は字が綺麗だから頭が良いに違いないと思ったり、この人は有名大学出身だから仕事が出来るに違いないと思ったりする事だ。


 耳を澄ませば、他の人間も同じことを思っているようで、カティアのいる第三小隊が期待されている様子だ。……まあ、第三小隊の参加自体が珍しいという事もあるのだろうが。


 ロウ少佐と話しながら模擬戦開始を待っていると、何やら騒がしくなった。


「そ、総司令官!? それに、ジャミル様も!?」

「総員、敬礼ッ!」

「ん……おっヤッベ、総司令官に狂犬王子だ! おい、お前も敬礼しろ敬礼!」


 何やら騒がしいと思うと、何やら偉そうな人物達がゾロゾロとやって来て、設置された特別席へと座っていく。俺もロウ少佐に促されて、その人物達へと敬礼する。周りの人間も、その人物へと敬礼し、姿勢を正していた。

 総司令官と呼ばれていた事から、奴が今回の標的である、デリック・エルステッドで間違いなさそうだ。すると、その周りの人間が今回の抹殺対象者である幹部クラスの人間だろう。


 流石に近づくことは出来ないが、連中の顔を把握出来たのは収穫だ。電脳に連中の顔を保存しておこう……。自分だけじゃ、顔覚えるの苦手だしな。



《これより、親衛隊第二小隊と第三小隊による模擬戦を始める! 戦闘開始ッ!》


 その後しばらくして、模擬戦開始の合図が試験場に響く。その合図と共に、位置についていたAM達が動き出した。


「始まったみたいですね」

「まあ、女共は最初に二機は喰われるだろうな」

「分かるんですか?」

「まあな……。ジーナの奴、学習しないからな。奴には隊長なんて向いてねぇんだ」

「はぁ……」


《2-3、3-1、3-2撃破! 速やかに場外へ!》


 そうロウ少佐が話した矢先、早速第三小隊の機体が2機、撃破判定を受けて脱落した。彼の予言通り、第三小隊の隊長機が無謀に突撃し、撃破判定を貰ったらしい。

 先程、第三小隊へ期待していた場の雰囲気も、今となっては消え失せてしまっているようだ。


「……ほらな、言わんこっちゃない」

「これで3対2ですね」

「こりゃ、第三小隊の負けだな」

「まだ分からないのでは?」

「残ったのは、戦闘経験が乏しい奴と新人だ。これはダメだろ」


 実際、普通なら負けは確実だろう。経験、そして数の面でも劣っている。

 だが、カティアの機体にはヘカトンケイルを積んでいるのだ。負けたとしても、目を見張る活躍が出来る筈だ。


 今回の模擬戦で、カティアには注目を集めて貰う為、活躍してもらわねばならない。

 カティアには、内部協力者を作って貰う必要がある。先程のハロー効果ではないが、協力者を得るにあたり、模擬戦での活躍が、相手への信頼を得る事に繋がるかもしれない……。カティアには、英雄になって貰う必要があるのだ。


《ヴィクター、どうしよう……ジーナとティナが早速やられちゃったんだけど!?》


 カティア機のコックピットから、通信が入る。卑怯かも知れないが、カティアの活躍の為にオペレーターをしてやるとしよう……。



 * * *



-同時刻

@兵器試験場


 模擬戦開始の合図の少し前……第三小隊間の通信では、監視塔に総司令官が来ている事を知ったジーナが興奮し、大騒ぎしていた。


《お、おお! 閣下だ! 総司令官が私達の活躍をご覧になられるぞッ! いいか皆、この模擬戦絶対に勝つぞッ!》

《す……凄い気合ね、ジーナ……》

《何だカティア、元気が無いじゃないか? そんな事では、勝てるものも勝てないぞ! なあ、皆?》


(そう言われても……)

(行き遅れ陰キャと、ルーキーが味方じゃあねぇ……)


 その様子に、若干引き気味のカティアと、諦めた様子のティナとエルメアであった。


《これより、親衛隊第二小隊と第三小隊による模擬戦を始める! 戦闘開始ッ!》


 しばらくして、模擬戦の開始が宣言される。すると、ジーナ機が合図と共に走り出し、廃墟の街へと躍り出した。


《うおおお、行くぞぉ!》

《あっ、お姉様待って!》

《ちょ、ちょっとジーナ!? 作戦じゃ、相手の様子を見つつ慎重に行くとか言って無かった!?》

《ハハハ! カティア……実戦ではな、作戦は柔軟かつ臨機応変に変える必要があるのだッ!》

《いや、変わりすぎでしょ!?》

《行くぞ、全機私に続けぇ!》


 カティアとエルメアが突然の事に呆然としている間に、ジーナ機はどんどん進出し、その後を追うようにティナ機も走り出していった。



   *

   *

   *



《……む、そこだな!》


 ジーナ機が、レーダーの反応を頼りに廃墟の街を走り抜け、敵機へと接近する。そして、ビルの影に敵機を確認すると、ハチェット代わりの金属棒を装備して、突撃を敢行する。


《うおおお……ぐっ!》


 しかし、バコンバコンッ!と、ジーナ機に衝撃が走る。どうやら被弾したらしい。

 ジーナが被弾した方向を確認すると、残りの3機が隊列を組んで、遠距離からジーナ機に一斉射撃を加えていた。敵側は、1機を突出させて囮にして、敵を釣り出す作戦をとったようだ。


 敵側は、通信回線をオープンにすると、ジーナに対して煽りを入れてくる。


《ジーナちゃん、相変わらずだね!》

《相変わらず馬鹿というか、正直というか……》

《まっ、俺はそういう女……嫌いじゃないぜ♪》

《クソ、馬鹿にするなッ! ……きゃっ!?》

《ハハハ、きゃっ!だってよ。可愛い声も出せるじゃん!》


 ドゴンッ!と大きな衝撃が、ジーナ機を襲う。

 ジーナが敵の射撃に気を取られている間に、囮役の一機が、ジーナ機へと近接攻撃を加えたのだ。


 模擬戦では、当然実弾は使用していない。弾薬は全て練習弾だし、近接戦闘用武装のハチェットは、巨大な金属棒で代用している……。

 だがパイロットにダメージが無いとは言え、その衝撃はかなりの大きさだ。思わず、ジーナが可愛い悲鳴を上げてしまう。


 AMのシステムには、模擬戦モードが存在する。機体が大きな衝撃を受けたり、コンピューターの計算で、実戦だったら撃破されたと判断されると、撃破判定を受けるのだ。

 モルデミール軍では、撃破判定を受けた機体はその場でしばらく操縦を放棄して、通信を切る事になっていた。

 ジーナ機は、この攻撃により撃破判定を受けたようで、その場で動かなくなり、沈黙した。


《全く、敵の目の前で余所見はいけないなぁ? ……うおっ!?》

《その言葉、そっくりお返しよッ!》


 囮役の機体が、ジーナ機を撃破した事で油断していると、ジーナ機の背後から急にティナ機が飛び出し、金属棒が振るわれた。

 ティナ機の攻撃により、囮役の機体は撃破判定を受けたようで、その場に沈黙する。


《おいおい、ガキにやられちまったのかよ》

《なっさけね〜!》

《ハハハ! とりあえず、撃て撃て!》


 残る3機の機体が、装備している30mm口径のアサルトライフルを構えると、ティナ機に向けて一斉に射撃を始める。

 先程は牽制目的でばら撒いていたが、今度は本気で狙って撃ったようだ。ティナ機に何十発もの練習弾が命中し、コックピットが大きく振動する。


《ぐっ、クソ……!》


 ティナ機が反撃しようとライフルを構えたその瞬間、コックピットに撃破判定のアラートが鳴り響いた。


《嘘ッ!? クソ、ついてないわね……》


 30mm口径の機関砲弾であれば、AM-5の主要部は充分に耐える事が可能だ。ただし、可能なだけであり絶対ではない。

 徹甲弾が何発も命中すれば、その内装甲に歪みが生じ、いつかは本来の防御性能を発揮できなくなる。その為、何十発もの砲弾を受けたティナ機のコンピューターは、撃破判定を出したのだ。


《2-3、3-1、3-2撃破! 速やかに場外に!》


 審判の指示が出て、撃破判定を受けた機体が退場していく。


《よし、後は2機だけだな。チョロいモンだぜ》

《そういや、例の新人いるんだろ?》

《よっしゃ、じゃあ早速……先輩達の洗礼を受けて貰うとするか!》

《ハハハ、そりゃ良いな!》



   *

   *

   *



 開幕早々にジーナとティナが撃破され、カティアは動揺していた。そして、通信をヴィクターの電脳に合わせると、助けを求めた。


「ヴィクター、どうしよう……ジーナとティナが早速やられちゃったんだけど!?」

《ええと、隊長機と……その2番機か? もう一機はどうした?》

「ええと、ちょっと待って。……エルメア? エルメア、聞こえる?」


《あわわわわ、カティアさん……こ、これからどうすればいいんでしょうかッ!?》


「あ〜ヴィクター、ダメみたい……」

《まあ、この際都合が良い。勝手に動いても問題無さそうだしな》

「で、どうすればいいの?」

《まずは、脅かしてやるか。レーダーを確認しろ、見方は覚えてるな?》

「……うん、大丈夫!」

《よし。敵は今、固まって道路を移動してる……そこをガトリング砲で攻撃してやれ》

「了解!」

《連中、完全に舐めきってやがるな……。多分、1機はやれるぞ!》


 カティア機はヴィクターの指示を受けて移動すると、敵のいる道路に繋がる十字路へと躍り出した。


《ばぁ!》

《初めまして、新人ちゃん!》

《よろしくぅッ!》


 だが敵もレーダーを使用できる以上、カティアの行動はバレバレであった。敵は、カティアが射線へと出てくるのを待ち、一斉に射撃を始めたのだ。


──ウィィィヴヴヴヴヴヴッ!


 当然、カティアも黙っていない。カティア機の持つ、4砲身のガトリング砲が回転すると、大きな唸り声を上げて砲弾を吐き出す。ここまでは普通の事だ。

 しかしカティア機は、彼らにとっては予想外の行動を取ったのだった。


《な、何だとッ!?》

《お、おい……どうなってやがるんだッ!?》

《何だよあれ……うおおッ!? クソ、やられた!》


 カティア機はガトリング砲を射撃しつつ、十字路を移動すると、十字路の先へと抜けて敵からの射線を切った。


 ……これだけである。


 移動しつつ射撃。電脳化しているパイロットであれば、自分の肉体の延長としてAMを操縦できる為、難無く出来る芸当である。

 だが、電脳化していない彼らは、操縦桿だけでAMを操縦しているのだ。人間が行う動きを、たった二本の操縦桿と付属するボタンだけで実現するのは無理がある。


 そもそも、マニュアル操縦は本来戦闘用ではなく、重機用途の機能である。先程の近接攻撃も、AMによる採掘動作や伐採動作などを、そのまま攻撃に転用していたのだ。

 そして、もし火器で射撃する場合は『①その場に立ち止まる、②射撃モードに切り替える、③武器を構える、④狙いを定める、⑤射撃』という、複雑な操作をする必要があった。その為、移動しながら正確に射撃するなど、とても出来ない芸当だったのだ。


 ところがカティア機の場合、ヘカトンケイルの恩恵により『①敵をロックオン、②射撃』という様に、操縦を簡略化してくれる為、先程の様な移動射撃を容易にしていた。

 その為、カティア機は他の機体よりも遥かに戦術的な行動を可能としているのだ。


《よし、1機やれたみたいだな。こっちで観てる連中も大騒ぎしてる。この調子でいくぞ!》

「次はどうすればいい?」

《奴ら、焦ってるみたいだな。お前のとこに直行してるぞ。そのまま先に進んで、適当なビルの影に隠れたら、IFFを切れ!》

「はぁ、何ですって!?」

《お前らが使ってるレーダー……今それはIFFで、味方の位置を表示してるだけなんだが……》

「えっと……あ、あいえふ……何?」

《敵味方識別装置だ。……まあ、要は機体のIFFを落せば、お前の位置が敵のレーダーに映らなくなるんだ》

「あっ、あった! これだ! これを切ればいいのね?」

《まあ、卑怯だから攻撃する前には元に戻せ。流石に不審がられるだろうしな》

「了解!」



   *

   *

   *



 カティア機を追ってきた敵機であるが、いつの間にかカティア機がレーダーから消失し、完全に見失ってしまっていた。


《クソ、何処へ行きやがった!?》

《いつの間にか、レーダーからも消えたぞ! 一体どんな手品を使いやがった!?》

《ん? おい、これって奴の武装じゃないか?》

《ああ……何でこんなところに?》


 しばらくカティア機が消えた地点を捜索していると、地面にカティア機のガトリング砲が置かれているのを発見した。

 そして、不審に思いつつソレに近づいたその時、突如カティア機の反応がレーダーに出現した。しかも、自分達の背後に……。


《はっ!? お、おいレーダーを良く見てみろッ!》

《なっ、後ろ!? そんな馬鹿なッ!》

「貰ったッ!」


──ドゴンッ!


 カティア機は、金属棒で敵の背後から殴りかかった。殴られた機体は撃破判定を受けたようで、そのまま動かなくなった……。


《く……隙ありッ!》


 攻撃を終えたカティア機に、最後の1機が迫る。通常であれば、接近攻撃の後は隙が生じる。だが、カティア機はヘカトンケイルのお陰で、崩壊前のパイロット達の戦闘データを基にした行動を反映できる。

 その為、他の者達とは違い、予めプログラムされている動作ではなく、柔軟な動き……相手にとっては、常に初見となる様な動きが可能なのだ。


──ガキンッ……ギギギ……!


《な、なんだとぉ!?》


 カティア機は、攻撃してきた機体の金属棒に、自身の金属棒をぶつけて防御する。ちょうど、鍔迫り合いの様な格好だ。

 お互いに大きな力を加えられた金属棒が、軋みを上げながら歪んでいく。


 この様な事態は、普通なら殆ど発生しない。敵側のパイロットも、突然の出来事で困惑している様子だ。


「……今よ、エルメア!」

《は、はいッ!》

《なっ……やるじゃねぇか!》


──ドゴンッ!


 カティア機が、最後の1機を抑えている内に、エルメア機が敵機の背後から奇襲をかける。エルメア機は、事前にカティアの指示で動いていており、隙を見て急接近していたのだ。

 その一撃が有効打となり、最後の1機も沈黙した。


「……終わった?」

《ああ、今ので最後だ。まだまだ動きはぎこちないが、その内良くなる筈だ。お前も、もっと操縦に慣れるんだな》

「ちょっと、少しは褒めてくれてもいいんじゃない?」

《お前のは、ヘカトンケイルのお陰だろうが。多分、ソレが無けりゃ瞬殺だよ》

「まあ、否定は出来ないけどさ……」

《こっちも、お前の活躍のお陰で大盛り上がりだ。……まあ、良くやったな》

「何よ、初めからそう言いなさいよね!」

《おっと、こっちでも動きがあった。また後でな……》



《だ…第二小隊、残機無し! 戦闘終了、帰還せよ!》


 少し遅れて、審判が模擬戦終了を宣言する。


《か、カティアさん……あの……》

《うおおお、カティアァァァ! 良くやったぞぉ!!》

「ジ、ジーナ……ちょっとうるさい。エルメア、とりあえず戻りましょう?」

《は……はい、そうですね!》


 その後、ガトリング砲を回収した後、他の機体達と共にカティア機も撤収した……。



 * * *



-模擬戦決着直後

@兵器試験場 監視塔


《だ……第二小隊、残機無し! 戦闘終了、帰還せよ!》


 何とかカティアを勝たせる事が出来た。まあ、カティア以外の機体は、トロ過ぎて話にならなかったのだが……。あのザマだと、崩壊前の戦場なら数秒ももたなかっただろう。

 やはり、電脳化していない人間にAMを操縦させるなど無理があるのだ。


 しかし崩壊後の世界では、あんなお粗末な状態でも強大な戦力になり得る。堅い装甲に、強力な火砲、そしてそれらを容易に運搬出来る能力を持つ兵器は、今の時代にはそうそう存在しない。

 カティアにははぐらかしたが、やはりAMパイロットは全員抹殺するべきなのだろう……。


「……ふふふ」

「ん?」

「はははッ! スゲェ、なんだよあの新人は!?」

「ロウ少佐?」


 突然、隣に座るロウ少佐が笑い出したかと思うと、急に立ち上がった。


「悪いが失礼するぞ! あ〜クソ、今日は第二小隊じゃなくて第三小隊と模擬戦を申請するんだった! 見てろよ、俺が奴を倒してやるからよ!」

「は、はぁ……」


 血が騒ぐってやつか? 確か、奴はモルデミール軍でナンバー1のパイロットだ。カティアの戦闘を見て興奮したのだろう。

 まあ、奴の機体は所詮旧世代機だし、電脳化もしていない。カティアならそこまで苦戦せずに勝てる筈だ。


 カティアには最低でも、親衛隊全てを相手にしても勝てる位になってもらわなくてはならない。奴に勝てない様じゃ、話にならない。

 今日はもう、第三小隊の出番はない。帰ったら調整と、反省会を開くとしよう……。





□◆ Tips ◆□

【第三小隊のAM編成】


●ジーナ機(AM-5 アルビオン)

 機体番号は3-1。隊長機として小隊の指揮を務めている。だが、真っ先に相手に斬り込んでいく為に、模擬戦開始直ぐに撃破判定を貰う事が多い。


[武装]・30mmアサルトライフル

    ・ハチェット



●ティナ機(AM-5 アルビオン)

 機体番号は3-2。2番機として、ジーナ機に付き添っている。大抵、ジーナ機を攻撃して隙ができた相手を攻撃しているので、結果としてジーナ機を囮に使っている。


[武装]・30mmアサルトライフル

    ・ハチェット



●エルメア機(AM-5 アルビオン)

 機体番号は3-3。主に相手への牽制と、斬り込み役のジーナとティナのバックアップを行う。パイロットであるエルメアの戦闘経験が浅く、未だに射撃に難があるので、散弾を使用するショットキャノンを装備している。


[武装]・105mmショットキャノン

    ・ハチェット



●カティア機(AM-5 アルビオン)

 機体番号は3-4。武装は、巨人の穴蔵で回収したガトリング砲を、そのまま装備している。

 操縦支援システム“ヘカトンケイル”を搭載しており、現在カティアによる操縦の適正化を行なっている最中である。

 小隊内での役割はまだ決まっておらず、模索中である。


[武装]・30mmガトリング砲

    ・ハチェット

    ・プラズマカッター

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