第122話 降伏

-内戦6日目 夜

@街中央地区 議会


「撤退も投降も許しません。後もうすぐで我々は勝てるのです、死守を命じなさい!」

「し、しかし……兵達も限界です! 今日だって、地元住民に隊員が襲われたという報告がありました。もう、街が一丸となって我々を潰しにかかって来てます! これ以上は……」

「黙れぇッ!」


──バキュンッ!


 部屋の中に、プルートの拳銃の音が響く。そして、異常を察知した見張り達が部屋に入って来る。


「ぷ、プルート様……大丈夫ですか!?」

「銃声が聞こえましたが……」

「……ふぅ、ああすいません。お騒がせしましたね、見張りに戻って下さい」

「は、はぁ……」

「了解しました……」

「貴方も、いいですね?」

「し、しかし……」

「いいですね、指揮官? 鉄巨人さえ到着すれば、我々の勝ちなのです。私の指示に従いなさい」

「……了解……しました」

「さあ、行きなさい!」


 プルートに拳銃を突きつけられた指揮官は、いつもの敬礼をすることなく、部屋を出て行った。


 カナルティアの街が戦場になって6日目の夜、プルートは苦悩していた。

 当初、自分達は警備隊を追い詰め、街の占領まであと一歩の段階まで来ていたはずだった。だが、警備隊本部の襲撃に失敗し、いつの間にか勢いを取り戻した警備隊は、全ての門を奪還。

 その後、中央地区以外の全ての地区を解放し、自分達のいる中央地区を完全に包囲してしまった。さらにその包囲の輪も、着実に狭められつつある状況だ。

 解放された地区では、家に篭っていた街の住民も外出するようになり、自由への喜びと、我々への反感を募らせているそうだ。そのせいか、街の住民が歯向かってきて、兵士に被害が出ているそうな……。


 懸念していたギルドの援軍はまだ到着していないが、こちらの頼みの綱である鉄巨人部隊も、未だに到着していなかった。

 現状を打破するには、やはり鉄巨人部隊の到着まで耐えるしかない……。


「それにしても、変な噂ばかり……どれもこれも、奴がこの街に帰って来てからだ!」


 奴……ヴィクターが街に帰って来てからというもの、プルートは意味の分からない報告を聞かされ続けていた。

 バイクで暴れ回る神父、同じく2人乗りのバイクで暴れ回る暴走姉妹、空に出現した光の柱、謎のスナイパー、首狩りマダムにロボットの配達屋……アレもコレも、全部ヴィクターが帰って来てからだった。そのタイミングで、戦況は優勢から劣勢へと転じていったのだ。

 そう、全部ヴィクターのせいだ! そう思えて仕方なかった。


「くそ、ヴィクター・ライスフィールドォ! 許さない、計画を台無しにしやがって! ちくしょぉめぇッ!!」


 プルートが部屋で大声をだして、暴れ回っている様子を、使者と呼ばれる男がドアの隙間からコッソリと窺っていた。


(……ああなってはもうダメですね。はぁ、期待外れでしたね)

「あ、あの……」

「おっと失礼! プルートさんは、気分が悪いようですね。出直すとしましょう!」

「それがいいと思いますよ」

「では、お勤めご苦労様です」

「はっ、ありがとうございます!」


 使者は見張りを労うと、その場を立ち去った。



 * * *



-数十分後

@議会前 自治防衛隊のキャンプ


「……俺の部下を全員集めろ。大至急だ!」

「りょ、了解しましたッ!」


 先程、プルートに拳銃を向けられた指揮官の男が、自分の天幕へと部下を招集する。


「クランプ准将、一体どうしたんですか?」

「新たな作戦でしょうか?」

「……今夜、諸君に集まって貰ったのは、この戦いの今後について話す為だ」

「この戦いの今後……ですか?」

「そうだ。諸君も気づいているだろうが、我々は現在劣勢だ」

「し、しかし……まもなく、鉄巨人部隊が来るのでは? そうなれば、我々は再び優勢に転じるかと──」

「私が見た作戦指示書によれば、鉄巨人部隊の到着は一昨日の予定だった。遅くとも、今日の朝には来る筈だったのだ。だが、奴らは現れなかった……来なかったのだ! 何故か!?」

「そ、それは……途中でトラブルを抱えた機体が出た……とかですかね?」

「……作戦指示書には、『脱落機は無視して急行』と書かれていたのだよ。12機だ……12機全機が脱落するなどあり得るのか!?」

「そ、それは……」


 集まった部下達の顔に、不安がよぎる。


「そこで私は、ある可能性に行き着いた。それは、既に鉄巨人は撃破されているという事だ!」


──ざわざわ……


 指揮官の男のとんでもない発言に、天幕の中は騒がしくなる。


「クランプ准将、流石にそれは……」

「無いと言えるのかね? 君は親から、ギルドの攻撃の苛烈さを聞いているんじゃないか?」

「え、ええ……」

「ギルドの人質が、何者かに奪取されたのは知っているだろう? 奴らは既に、援軍を呼んでいる筈だ。だが、未だに介入してこない、何故だと思う?」


 指揮官の男の次の言葉を待って、部下達はゴクリと唾を飲んだ。


「必要ないからだよ。鉄巨人が街に到着すれば、我々の勝利だ。だが裏を返せば、鉄巨人が来ないなら我々は敗北する!」

「じ、准将! いくら何でもその発言はマズいです!」

「そうですよ、憲兵にでも聞かれたら……!」

「ふん、構うものか。いいか、ギルドの援軍が来ないという事は、奴らの中で我々の敗北が既に決定している……つまり、鉄巨人が既に撃破されているという事に他ならないのだ!」


──ざわざわ……


「私は先程、プルート様に撤退を進言した。現状包囲されてはいるが、一点突破ならモルデミールまで撤退することができると。……だが、奴は『撤退も投降も許さない』だと! クソッタレ、我々をなんだと思ってるんだ! 現場を知らない、若造の分際で!」

「じ、准将!?」

「落ち着いてください!」


 突如、先程の出来事を思い出し、指揮官が暴れだした。そして、部下数名に抑えられてしばらくして、落ち着きを取り戻した。


「……ふぅ、すまない。ありがとう」


 指揮官は乱れた服を正すと、部下達に向き直り宣言した。


「……皆、命令だ。降伏してくれ!」

「な、なんですって!?」


──ガヤガヤ……


 指揮官の突然のこの発言に、部下達は驚き狼狽える。


「聞いてくれ。このままでは負ける。負けた後の事を考えてみろ、碌でもないに決まってる。だが、もし違う未来があるとすれば? また、国に残して来た家族に、もう一度会えるとしたら? もちろん、奴の命令通りに最後まで戦いたいならそれでもいい。私の命令より、奴の命令を遵守したというだけだ。降伏した者達も、直属の上官である私の命令を遵守しただけで、私は罰せられても諸君には関係ないだろう。だが、私は指揮官……諸君の上官だ。私の任務は、諸君の命に責任を持つ事。……みすみす君達を喪う訳にはいかないのだ! だから、命令だ。皆、降伏してくれないか?」

「クランプ准将……」

「うぅ……」

「私の命令を聞く者は、配下の兵にこの事を伝え、急いで準備せよ! ついて来ない者は置いていく! 出発は1時間後、以上解散ッ!」

「「「「「 了解ですッ! 」」」」」



 その夜、指揮官直属の部隊からの連絡が途絶えた。



 * * *



ー内戦7日目 朝

@街西部地区 警備隊本部


 ここ数日、俺達は警備隊側に参加して、自治防衛隊と戦ってきた。当初は劣勢だった警備隊だが、本部解放を機に反攻に転じると、自治防衛隊を中央地区に押し込める事に成功した。

 今は中央地区解放を目指して、じわじわと包囲を狭めているが、敵の防御は厚く、攻めあぐねている状態だった。


 そんな中、俺はおっさんと支部長に呼ばれて、警備隊本部へ召集された。カティアを伴って警備隊本部に行くと、そこには異様な光景が広がっていた。


「何だ、あれ……?」

「あの人達……自治防衛隊よね?」


 警備隊本部の前では、赤シャツ達が警備隊員に見張られながら一列に並び、一箇所に持っている武器を放り投げ、捨てられた武器が小さな山となっていた。

 まるで戦争映画とかで観る、降伏後の武装解除のシーンのようだった。


「……降伏か?」

「じゃあ、戦いは終わりって事?」

「さあな。とりあえず、おっさん達の所に向かうぞ」



 * * *



-数分後

@警備隊本部 会議室


「おお、来たか弟子!」

「おはようございます、ヴィクター君」


 案内された会議室に入ると、おっさんと支部長が声をかけてくる。だが、それよりも異様な光景が目に入った。何故かかつての連合軍の制服……それも、将校用の礼服を着た中年の男が、背後から二人の警備隊員に銃を突きつけられながら座っていたのだ。


「ええと、そいつは? 表のと何か関係があるのか?」

「ああ、こいつは敵の指揮官だ。……まあ、正体はモルデミールの奴だったんだがな」

「モルデミール軍の将校のようです。明け方に彼が率いる部隊ごと、こちらに降伏を申し入れてきました」

「……って事は、全員が降伏した訳じゃないんだな?」

「ええ。残念ですが、まだ戦いは続いています」

「で、俺達に何の用だ? 今度は何をすればいい?」

「この戦いの終結ですよ」

「はっ? 何だって!?」

「詳しくは、彼に話してもらいましょうかね」

「デロイト支部長、本当にコイツの言う事を信じるんですか? 降伏したって言っても、さっきまで敵だったんですぜ?」

「まあ、大丈夫でしょう。さ、話して下さい」


 おっさんと支部長が、自治防衛隊の指揮官に視線を移すと、指揮官の男は頷いて話し出した。


「モルデミール軍の、アルバート・クランプ准将だ。頼む! 奴を……プルート・スカドールを始末してくれッ!!」

「プルートを……どういう事だ? 奴もモルデミールの関係者だったのか!?」

「そうだ。奴は、閣下直属の人間だ! 戦いの事を何も知らんくせに、我々を使い捨ての駒にする悪魔だ!」

「閣下っていうのは……いや、それよりもどういう事だ? 准将って言う位だから、アンタが指揮を執ってたんじゃないのか?」

「まさか! 私は奴のお守りに過ぎない……。今回の作戦は全て奴が立案し、私はそれを元に兵を動かしてたのだ。だが兵達を率いる以上、私は彼らの命に責任を持つ必要があるのだ……」

「けっ、負けそうになって逃げ出した奴が何言ってんだか……」

「うるさいぞ、おっさん!」

「うぇ!? 弟子、お前そいつの肩持つのかよ!?」

「いや。だけど、下の者の事をちゃんと考えて、大局を見極められるってのは大した才能だよ。少なくとも、好感が持てるね」

「そうですよね! 隊長も少しは見習った方が──」

「うるさいぞ新入り!」

「あいたっ!」


 俺が軍のブートキャンプで、上官から受けた仕打ち(教官に追いかけ回されたり、教官に追いかけ回されたり……)が脳裏に浮かぶ。うぇ、気持ち悪くなってきた……考えるのはやめよう。


「少なくとも、降伏するってのは勇気が必要な行為だよ。確かにコイツは敵かもしれないが、その勇気には敬意を払うべきじゃないか? 彼が降伏してくれたおかげで、警備隊も無駄に血を流さなくて済むんだぜ?」

「それは……そうかもしれないけどよ。けっ、弟子に感謝しろよ!」

「ありがとう、青年。ええと、確か……」

「ヴィクターだ。ヴィクター・ライスフィールド」

「ライスフィールド……そうか、君があの……!」

「何だ、俺の事知ってんのか?」

「あ、ああ……奴がよく話していたよ。君のせいで、何もかもめちゃくちゃだ……とね」

「奴……プルートか? そういや、プルートを始末してくれってどういう意味なんだ?」

「さっきも言ったが、奴は我々を捨て駒としか見ていない……。私は撤退を進言したが、奴は撤退も降伏も許さないと抜かした! このままでは、他の兵も無駄に命を散らしてしまう! 虫のいい話なのは承知している。頼む、そうなる前に奴を始末して、この戦いを終わらせてくれ!」

「なるほど、話は分かった」


 現在、指揮官が不在の自治防衛隊は、プルートの指示で動いている事になる。つまり、プルートさえ始末できれば、この指揮系統は瓦解する。

 そこでこのクランプ准将を使って、降伏を宣言すれば、他の兵士は投降し、この戦いは終わるはずだ。


「そういや、何で降伏を決断したんだ? まだ、趨勢が決するには早いと思うが……」

「……作戦では、2日前には我が軍の誇る鉄巨人が到着する予定だった」

「鉄巨人……何だそりゃ?」

「崩壊前の兵器だ。機械でできた巨人で、その装甲は銃も大砲も効かない、ほとんど敵なしの存在だ。もっとも、それもギルドにやられてしまったようだがね……」

「さて、何の事でしょう?」


 クランプ准将が支部長を見るが、支部長は知らない様子だ。そりゃそうだ、その鉄巨人……AMの部隊は、俺がセラフィムを使って消し飛ばしたのだから。


「鉄巨人が到着すれば、我々の勝ちだった。だが、それが実現しない以上、我々は既に敗北したに等しい……。そう悟り、奴に撤退の進言をした。そして、進言を却下された私は、せめて自分の部下達だけでもと……」

「なるほど。だが、プルートを始末するにしても、奴は本部のど真ん中にいるんだろ? アンタには悪いかもしれないが、包囲を狭めていくしかないんじゃないか? まさか、潜入して暗殺してこいとか言わないよな?」

「いや、手はある。どうか聞いて欲しい……!」


 その後、俺達はクランプ准将の話を聞きながら、作戦会議を行った。


 クランプ准将の話によれば、彼の部隊がいなくなった事で、敵はかなりの戦力低下になっているらしい。

 そこで、多方面から敵の本部目掛けて進軍する。これは総攻撃を偽装した陽動で、敵はこれに対処する為、本部から戦力を割かざるをえなくなる。

 さらに、わざと進軍しない箇所を設定し、前線に穴を設ける。そしてその穴を使って、少数の選抜された部隊を送り込み、防御の薄くなった本部を急襲するというのが、クランプ准将が考えた作戦だった。要するに、コマンド部隊による敵本部の奇襲だ。


 作戦会議の結果、この作戦は多少の修正の後に実行に移される事となった。おっさんは、敵の立てた作戦に乗るのが不満なのか、最後まで嫌そうな顔をしていたが、結局は了承した。

 そして、支部長からの任務を受けて、俺とカティアは、敵本部急襲の部隊に組み込まれる事となった。



 * * *



-数十分後

@ガラルドガレージ


 作戦会議の後、ガラルドガレージに帰って来た。


「おーい、帰ったぞ。ミシェルの調子はどうだ、ジュディ?」

「ああ、熱は変わらないね。しばらく安静にするしかなさそうだよ」

「うぅ……ごめんなさい、こんな時に」

「気にするな、今までミシェルはよくやってくれたよ。何か、チャッピーとミシェルの噂が街中に広がってるらしいしな?」

「皆んなからは、“人形遣い”って呼ばれてるっすよね!」

「はい、ちょっと複雑です……」


 ミシェルは毎月くるの症状のせいで、朝から体調が悪いようだ。女の子って、大変だよな……。


「よし……ジュディ達は、ミシェルを連れてノア6に帰還してくれ」

「……戦いはもういいの?」

「ああ。多分、今日の作戦が上手くいけば終わる。ミシェルをこんな状態のまま置いて行く訳にもいかないし、アポターもビートルも補給が必要だしな」

「ヴィクターさん……?」

「ミシェル、ノア6にはロゼッタもいる。何かいい薬でも出して貰えよ」

「……ごめんなさい」

「身体の事は仕方ないだろ? 今はゆっくり休め。後は俺とカティアで何とかするから」

「……はい」

「じゃ、そうと決まれば移動するよ。ミシェル、ほらおぶってやる」

「すいません、ジュディさん」

「ヴィクター、あんたのベッドルーム借りるよ」

「ああ、頼んだぞ」


 ジュディはミシェルを背負うと、アポターに運んで行った。


 そろそろ、アポターの食料も底を尽きそうだったし、警備隊の優勢が確保された以上、この車両達の戦力はもはや必要ないだろう。

 彼女達も、ガフランク防衛戦から休みなしだ。そろそろ限界だろう。一足先に、ノア6で休んでもらう。


「ご主人様、そういえばアポター君の運転どうするんすか?」

「ノーラかジュディに任せてもいいが、今回はロゼッタに任せて、遠隔運転で移動させる。だからお前も、アポターでゆっくりしてていいぞ?」

「いや、一応門の人達に怪しまれないように、ビートル君にはウチが乗ってくっす!」

「そうか、頼んだぞ」

「了解っす……ご主人様も、お気をつけてっす! ノーラ!」

「準備できてる。ご主人様、気をつけて……」


 俺とカティアは、ガレージを出発するアポターとビートル、そしてチャッピーを見送ると、ガレージにて戦闘準備に取り掛かった。


「カティア、破片手榴弾取ってくれ」

「これ?」

「いや、そりゃ閃光手榴弾だ。……そうだな、それはカティアが持ってろ。破片手榴弾は、その丸い奴だ」

「これね、はい。……ったく、私も早く休みたいわね」

「Cランクになってしまった弊害みたいなもんだ、諦めるしかないな」

「ま、報酬良かったからいいわ。あ、そうだ! 私またアレ食べたい!」

「アレ?」

「あの、卵が掛かった……」

「ああ、オムライスか?」

「そう、それ! あの、不思議な食感が堪らないのよね♪」

「じゃあ、さっさと終わらせて、ノア6に帰らないとな。よし、行くぞ!」


 武装を整えた俺達は、警備隊本部へと向かった。



 * * *



ー内戦7日目 昼

@街中央地区 議会


「何だって!? もう一度言いなさいッ!」

「はっ、敵の大規模攻勢です! 応戦しておりますが苦戦しているらしく、増援を要請してきています!」

「クソ、あの指揮官の部隊が失踪した矢先にこれか! 本部の守備隊を向かわせて応戦し、追い返しなさい!」

「そ、それではここの守りが手薄になるのでは……!?」

「敵が迫っているのですよ? そんな悠長な事は言ってられないでしょう! やりなさい!」

「りょ、了解です……!」


 プルートは、朝から散々な目に遭っていた。自分の補佐役をする筈の指揮官が、配下の部隊ごと行方不明になっていたのだ。

 そのせいで、部隊の編成を見直したり、指揮官の捜索を命じたりしなくてはならなかった。彼の部隊の失踪は大きく、現在の防衛戦略を瓦解させかねない出来事だった。


「次から次へと……だが、持たせてみせる! 鉄巨人部隊の到着まで、あと少しなのだ!」


 プルートは、自分に言い聞かせるように、そう呟いた。



 * * *



ー1時間後

@街中央地区 議会


 本部の守備隊を前線に投入した後、プルートは部屋の中で街の地図を眺めながら、今後の戦略を練っていた。そんな時、窓の外が騒がしくなった。


──パパパパパン!

──ダンッダンッ!


「……ん? 銃声か?」

「大変です、プルート様ァ!」

「今度は何ですか!?」

「敵が、敵が直ぐそこにッ!!」

「なんだとッ!?」

「あっ! プルート様、危険です!」


 プルートは、部下の制止を無視して窓の外を見る。窓の外……議会前の広場に装甲車が3台、議会の門を突き破って展開しており、中から武装した警備隊の隊員達が降りてきていた。そして、最低限残っていた本部の守備隊と戦闘状態になっていたのだ。


「なっ! まさか、突破されたのか!? 前線はどうなっている!?」

「そ、それが……戦闘中の為か、通信が途絶していまして……」

「くそっ! ……ん、あれは!?」


 プルートは、警備隊の中に知っている人物が混じっているのを見つけた。自分の計画をことごとく台無しにしてくれた、憎い奴……そう、ヴィクターである。


「ヴィクタァァァッ!! クソッ、ボードン! ボードンはどこだぁ!?」

「へい、ここに……」

「行け! 奴を蜂の巣にしろッ!! 見張りのお前もさっさと戦って来いッ!」

「は、はいっ!」

「任せて下せぇ!」


 報告に来た部下が部屋を出て行き、ボードンはテーブルに置いていたかぶとを被り、全身を鎧で固めると、部屋を出て行った。


「ヴィクターめ、今度こそ引導を渡してやるッ! 無敵となったボードンにどう殺られるか見物だな!」

「おやおや、張り切ってますねプルートさん?」

「こ、これは使者殿!?」


 窓の外を窺っていたプルートの背後に、いつの間にか使者が立っていた。


「申し訳ありません、敵の侵入を許してしまいました! ですが、今すぐに対処させますのでご安心下さい。今は辛い時ですが、鉄巨人部隊が到着するまでの……」


──バンッ!


「時間は……あれ?」

「残念ですよ、プルートさん」

「し……しゃ……どの?」

「私も貴方に引導を渡す必要がありましてね。いやいや、残念ですよ……。閣下が目をかけた方を殺さなくてはならないというのは」

「な、なぜ……?」


──バキュンッ! ……ドサッ


 使者は、プルートの腹に拳銃を発砲した後、プルートの頭を撃ってトドメを刺した。

 数々の陰謀に関与し、カナルティアの街を混乱に陥れた張本人……プルート・スカドールはその若い人生に幕を閉じた。


(さて、これでモルデミールの情報が漏れるのは防げましたかね? 後は、私自身のこの身ですが……今は無理そうですね)


 使者は、どう逃げようか考えながら窓の外を見るが、今は無理そうだった。流石に、戦闘中の中を逃げるのは無理だ。


(……ほとぼりが冷めるまで、隠れてるしか無さそうですね。まあ、どうせ負けるでしょうし、そうなったら降伏する連中に混ざるなり、人質の振りをして乗り切りますか)


 そう考えて、使者は部屋を出ると、議会の建物の中へと消えて行った。その判断が、間違っていたとも知らずに……。



 * * *



ー同時刻

@街西部地区 警備隊本部


「おいおいおい、まだか? まだなのかァ!?」

「お、落ち着いて下さいよ隊長ォ!」

「これが落ち着いてられるかってんだ! もう、戦闘は始まってんだぞ!」


 警備隊本部では、警備隊長ノーマンと、いつもの新入りが消防車……インフェルノ号に乗って待機していた。本来なら、彼らも敵本部急襲部隊の一員だったのだが、インフェルノ号の火炎放射システムの故障が発覚した為、現在修理待ちだったのだ。


「だー、おいまだか!? まだなのかッ!?」

「隊長、修理完了しました!」

「っし、待ってました! インフェルノ号、出撃だぁ!」

「うわわ! 隊長ォ〜、これ可燃物満載なんですよ!? もっと安全に……ひえぇぇぇっ!」


 インフェルノ号は、警備隊本部の地下駐車場を飛び出すと、中央地区めがけて爆走するのだった……。

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