第121話 内戦の様相

-内戦4日目 朝

@警備隊本部 地下駐車場


 ガフランクから街に帰ってきてから、色々と濃い1日を過ごした後、俺とミシェルは警備隊本部に停めたアポターの車内で一夜を過ごした。

 一方のカティア達は、あのまま孤児院で過ごしたようだ。朝には帰って来るらしいが、その前に俺とミシェルでやっておきたい事があった……。


「よし、ミシェル乗ってみろ」

「はい。よいしょっと……んっ、凄いです! 意外とおっきい……!」

「ヴィクター、帰ってきたわよ。……って二人とも何してんのよ?」

「あっ、カティアさんお帰りなさい。ジュディさん達も!」

「おっ、帰って来たな。見てくれ、テトラローダーを改造してみたんだ」

「テトラローダー……って、ミシェルのロボットの事よね?」


 俺は昨日、警備隊員達に装甲車の運用をレクチャーした後、ミシェルのテトラローダーに改造を施していた。

 このテトラローダーは前の持ち主の改造で、背中に騎乗して移動する目的で使用されていた。だが改造と言っても、足を乗せる為のラックと手摺りが溶接されているだけで、実際にはしがみついていたというのが正しい。


 そこで俺は、ミシェルの身体に合わせて、即席の座席を取り付けたのだ。これで、無理なく騎乗できる上に、敵に出会った時に、乗ったまま銃で反撃することもできる。

 本来ならテトラローダーに攻撃させれば良いのだが、腕部内蔵の機関銃は壊れており、ノア6に帰らなければ直せそうになかった。また、元々持っていた2振りのマチェットは、実用性皆無なので廃止した。

 結果、今のところは敵に遭遇した際は、搭乗している人間がテトラローダーを盾にしながら反撃するしかないのだ。


 正直、テトラローダーに乗るなんて崩壊前の人間からしたら違和感があるが、考えようによっては悪くない。テトラローダーは、重武装に対応する為、かなり積載力に余裕を持たせた設計をしている。その為、外付けで運搬用のラックなどを取り付けてやれば、兵站輸送支援ロボモドキへと早変わりするのだ。

 戦えて乗れて盾になる、歩兵直協支援ロボット……中々良いんじゃないか?


 まあ冷静になれば、崩壊前なら真っ先に敵の攻撃で撃破されただろうし、戦車などの兵器には敵わないので、微妙と言えば微妙で一種のロマンの様な存在だ。

 だが、そんなロマンも実現出来てしまう。そう、崩壊後ならね。


「ミシェル、これ名前とか付けないんすか?」

「えっ? 確かに……名前が無いと可愛そうですね」

「名前付けるなら、ミシェルがつけろよ? また、カイナに変な名前付けられたら堪らんからな」

「ひどっ!? えっ、ビートル君とか結構自信あったのにぃ!」

「う〜ん、決めました! チャッピー……なんてどうですか?」

「……良いじゃん」

「え、うっそぉ!? 犬みたいっすよ、ウチの方が絶対センスあるっすよ!」


 チャッピーか……知性を得たロボットみたいな名前だ。古い映画のロボットで、そんなのがいた気がする。そのロボットもボロボロでスクラップみたいな感じだったし、とてもマッチしていると思う。

 意図せずこの名前を付けたのだろうが、俺にとっては良いと思える名前だった。……まあ、犬みたいな名前なのは否定しないが。


「ちょっと待って欲しいっす、ウチの考えた名前は……ってあれ、ご主人様? ミシェル?」

「何してんだカイナ? 全員揃ったから、飯にするぞ」

「えっ、ちょま……! まだ話は終わって無いっすよ〜!」


 一人、不満そうなカイナを置いて、俺達はアポターの車内に入る。

 カティア達は、まだ朝飯を食べていないらしい。何でも、子供達の食べる物が無くなると困るからと、孤児院からの食事の提供を拒否したらしい。健気な事だが、おそらくあの孤児院は、暫く籠城できるだけの備蓄があったので、心配は無いと思う。

 まあ、わざわざこの事を伝えて、水を差すような事はしないが。それに、ミシェルの飯は美味いしな!


 その後、俺はこれからの予定を全員に話した。俺達はこれから警備隊の依頼を受けて、自治防衛隊と戦う。俺は、おっさんに呼ばれてしまっているので、他のメンバーはその間、それぞれ動いてもらう。

 全員腕時計で通信できるので、バラけた方が戦況の詳細な把握などの役にも立つだろう。


 警備隊はこれから攻勢に出て、門の奪還と街に入り込んだ野盗の掃討を行うらしいので、全員でその手伝いに向かう。

 カティアはジュディと、カイナはノーラとツーマンセル(2人組)で動いてもらい、警備隊の活動を手伝ってもらう。


「2人組といえば、ウチらっすね!」

「カイナ、背後は任せる」

「ジュディと? そういえば、今まで組んだ事無かったわね……」

「まあその、よろしくね……」

「んじゃ皆、仕事頑張ってな!」

「あのう……僕は?」

「ああミシェル、お前には大事な仕事がある……」

「は、はい!」

「ミシェル、お前の仕事は警備隊を繋ぎ直す事だ!」

「……はい?」


 ミシェルは、先程改造したチャッピーを早速運用してもらい、各地への補給活動を行なってもらう。要は、運び屋だな。

 街の中では、未だに孤立している部隊が多く存在する。まだ、本部が解放された事を知らない者達もいるだろう。


 ミシェルには、彼らに補給と情報を提供する事で、分断された警備隊を繋ぎ直してもらう。そうすれば、中央地区に籠る敵への包囲を形成することができる筈だ。


「ミシェル……今この街じゃ、数多くの警備隊の部隊が孤立している。補給を通して、それを助けてやってくれ」

「僕一人で……ですか? でも僕、車の運転した事とかありませんよ?」

「大丈夫、お前は一人じゃない。チャッピーがいるだろう?」

「なるほど……だから、荷物を載せる為のラックを取り付けてたんですね! 分かりました、やってみます!」

「よし、じゃあカティア達は現場の奴に従って、ミシェルは倉庫に向かってくれ」



 * * *



ー数時間後

@カナルティアの街 北門


 警備隊本部では、臨時で部隊の再編が行われた。鹵獲した装甲車も有効活用するべく、誤射を防ぐために警備隊の旗が立てられている。

 彼らの目的は、門の奪還だった。


 そして現在北門では、警備隊と野盗の間で激しい戦闘が繰り広げられていた。敵は城壁の塔や、窓にも陣取っており、警備隊の攻撃をものともしていなかった。


──ダダダダダッ!

──バシッ! ピュンピュンッ!


「クソ、敵の攻撃が激しい!」

「装甲車を前に出せ! 俺達は、攻撃部隊が仕事をしやすいように援護だ!」

「了解ッ!」


 しばらくして、随伴する2台の装甲車が道路を前進する。敵は、迫り来る装甲車に対して集中砲火を浴びせるが、装甲車にダメージは無い。火炎瓶や手榴弾が飛んで来るが、装甲車はその歩みを止めない。


「くそ、聞いてないぞ! 何だアレは!?」


──ピュン!


「がッ!?」

「ちくしょう、狙撃だッ!」


 敵の攻撃が装甲車に集中している間に、後方に残った人員で、敵を狙撃していく。

 敵にとって見れば、迫り来る装甲車というストレスを抱えつつ、後方から狙撃してくる警備隊への対処という、集中力を乱される環境で集中力を使う事をしなければならないのだ。とても厄介だろう。


 野盗達が対車両用の重火器を持っていなかった事や、街に入ることが目的で、門を守っている敵が想定よりも少なかった事も幸いした。結果この作戦は上手くいき、装甲車は城壁に取り付く事に成功したのだった。

 そして、装甲車の後部ハッチが開かれると、中から武装した警備隊員達が飛び出して、城壁の中へと侵入して行く。


「くそ、敵が中に入って来たぞ!」

「狙撃に対処するのでこっちは手一杯だぞッ! 中の連中に任せておけ!」

「敵に登られたら堪らない! 俺も行く!」


 侵入した敵に対処すべく、一人が城壁の中へと続く階段を降りる。だが、すでに敵との戦闘に備えて、屋内では下に続く階段に向かって銃口が向けられていた。

 これなら、敵を狙い撃ちにできる。入って来た敵も十数人だし、心配し過ぎたかと思ったその時、導火線に火がついた手榴弾が階段から投げ込まれた。


「手榴弾だッ!」

「い、嫌だぁぁぁ!」

「押すな! やめろぉぉぉ!」

「バカ、投げ返せ!」


──ドガァンッ! パラパラパラ……。


「ゴホゴホ……くそ、やられた!」


 爆発の衝撃で視界が歪む中、何とか体勢を整えた男は、黒いライダースジャケットを着た、赤毛の若い女が盾を構えながら突っ込んで来るのを見た。


「はぁぁぁッ!」

「な、何ッ!?」


──ドカッ!


「ぐはッ!?」

「っらぁッ!!」


──ゴシャ!


 赤毛の若い女……ジュディは、盾で野盗の男を突き飛ばすと、棍棒で男の頭を叩き潰した。男は、しばらく身体をピクピクさせていたが、その内動かなくなった。


「ちょっとジュディ、先走り過ぎ!」

「いや、反撃してきそうだったし……」

「だからって、勝手に動かないでよ! 私との連携はどうなったのよ!?」

「……それだったら、カティアがさっさと撃てば良かったんじゃない?」

「そ、それはそうだったかもしれないけど……」

「おい、嬢ちゃん達喧嘩は後にしてくれ!」

「「 あ、ごめんなさい…… 」」

「よし、じゃあ作戦通りに頼むな?」

「塔の上は任せたぞ、嬢ちゃん達。俺達は他の部屋を見てくる!」


 塔の制圧を任されたカティア達は、盾を構えたジュディを先頭に、階段を登っていく。


「おい、下はどうなっ……ッ!?」

「女……?」

「撃て、敵だッ!」


──ダダダダダッ! ビシッ、ピチュンッ!


「カティア!」

「任せて!」


 ジュディが盾で銃弾を弾きつつ、カティアはジュディの背後から、敵に射撃していく。

 そして、敵の弾が切れた瞬間を見計らって、ジュディとカティアは散開し、敵を次々と倒していった。


「うわぁ、来るな! 来るなぁ!」

「うおおおっ!」


──パンッ!


「うっ……!」

「おおお……っておいっ、アタシの獲物ッ!」

「ふふん、早い者勝ちよ♪  さっきのお返しみたいな?」

「クソ……今度、覚悟しときなよ!」

「でも、今の良かったわね。この調子でいきましょ!」

「……そうだね」

「じゃあ、合図するね」


 カティアは、発煙筒を取り出すと、後方の警備隊に向かって合図を送る。すると、後方の隊員達は射撃をやめて、一斉に門に向かって駆け出した。

 塔の制圧が完了したという事は、既に城壁内の敵は総崩れに近い。このタイミングで一斉に突撃を敢行し、速やかに門を制圧するのが、この作戦だった。


 その後、警備隊はカティア達の助力と、隊員達の奮闘もあって、無事に北門の奪還に成功したのだった。



 * * *



ー同時刻

@街西部地区 路上


──ダダダダダダダッ!

──パリンッ、ボォンッ!


「火炎瓶だ、気を付けろッ!」

「怯むな、撃ち返せッ!」


 カティア達が、北門で戦闘している頃……西部地区では警備隊の小部隊が、撤退中の自治防衛隊の部隊と鉢合わせして、戦闘になってしまっていた。

 お互いに、装甲車を盾にして撃ち合っているが、敵の方が頭数が多いようで、若干押され気味だった。


「クソ、敵の方が優勢だな……」

「どうする?」

「やるしか無いだろ!」


 しばらくお互いに撃ち合っていたが、気がつくと、段々と敵の攻撃が緩くなってきた。

 

「な、なあ……敵の数、減ってないか?」

「はぁ、気のせいじゃ無いか?」

「だが、攻撃がさっきより収まってきたのは確かだ」

「よし、今うちに反撃に出るぞ!」

「「「「「 おうっ! 」」」」」



 * * *



ー同時刻

@街西部地区 集合住宅の屋上


──ダンッ! ダンダンッ!


「……新しいライフル、調子良いみたいっすね?」

「うん、いい感じ」

「次、装甲車の裏で伏せてるのとかどうっすか?」

「……採用」


──ダンッ!


 警備隊と自治防衛隊の部隊が戦闘をしている裏で、付近の背の高い建物の屋上から、ノーラによる狙撃の支援が密かに行われていた。

 しかし乱戦の最中、その事に気がつく人間は一人もいなかった。


 だが、狙撃手にとって、位置を知られないという事は重要な事なので、彼女達はさして気にしなかった……。



 * * *



ー同時刻

@街東部地区 歓楽街


 現在、街の至る所で警備隊と自治防衛隊、もしくは野盗との戦闘が行われていた。そんな中、東部地区の歓楽街では警備隊が地の利を活かし、待ち伏せや、奇襲などを駆使して有利に戦っていた。

 敵も、狭く入り組んだ道の多い歓楽街では、装甲車を有効に活用できず、防御側の警備隊に有利な環境だった。


 だが、本部との連絡が途絶え、部隊は次第に孤立してしまった。そして現在、ある部隊が道路に土嚢やガラクタを積んだバリケードに身を隠しながら、設置した機関銃を用いて、自治防衛隊と戦闘を行っていた。

 だが補給が受けられなかった為、彼らの弾薬は今にも底を尽きそうだった……。


──ダダダダダダダ!


「撃て撃て、弾が尽きるまで撃ち尽くせ!」


──ダダダダダンッ……カチカチッ!


「た、弾切れです!」

「だったら再装填リロードしろ! バカかお前は!」

「ですから、その弾も無いんです! 弾薬箱はもう空ですよッ!」

「な、なんだって!?」

「くそ、ここまでかよぉ!」


 敵との戦闘中、固定した機関銃の弾が切れた警備隊は、撤退する他無かった。だが、彼らには守るべきものがあったのだ……。


「……いや、俺は退かないぞ! アイツらを通したら、俺の行きつけの店が荒らされちまう!」

「この先には、愛しのエリーちゃんがいる娼館だってあるんだ! エリーちゃんは俺が守るぞ!」

「俺は、まだツケを払ってない店が……って待てよ、このまま奴らを通せば、ツケはチャラに……」

「「「 なる訳ないだろ、ふざけるなッ! 」」」

「ですよねぇッ!」


 理由は下らないかもしれないが、皆自分の憩いの場である歓楽街を守りたいという想いは共通していた。

 そんな彼らの元に、救世主がやって来る……。


「ん? お、おい何か後ろから来るぞ!?」

「くそ、挟み撃ちかよ!」

「ま、待て……アレは……!」


 彼らの前に、1台のテトラローダーが道路を滑走しながら近づいて来た。


「まさか、崩壊前のロボットか!?」

「何で、あんな危険な奴が街の中に!?」

「ん? おい、妙だ。何か持ってるぞ?」

「何々……『撃たないで下さい。僕は悪いロボットじゃないよ!』だと。どうなってやがる!?」


──ィィィィィン……


 混乱する彼らの前に、テトラローダーが停まる。その手には、「攻撃しないでくれ」と書かれた板が握られており、ボディには箱や麻袋のような物が取り付けられていた。

 ますます訳が分からない状況の中、ロボットの背中から一人の少年が降りてきた。ミシェルである。


「驚かせてごめんなさい! 警備隊の方達ですよね?」

「……少年、今オレは君がこのロボットから降りたように見えたんだが?」

「あ、はい。この子、僕のロボットなんです。チャッピーって言います」

「「「「 犬かよッ!? 」」」」

「酷い! いい名前なのにッ!」

「ガガピーッ!」


 皆、心労で自分の頭がおかしくなったと思ったり、夢でも見ているのだと感じていた。

 人間を見たら、見境なく殺しに来ると有名な死都のロボット……。それが、自分達の兄弟や息子位の少年に従っているなど、彼らには理解出来ない事だった。


 だが、ミシェルの口から出た言葉に、皆食らいついた。


「ええと、警備隊長のノーマンさんからの伝言です!」

「「「「 なにッ!? 」」」」

「えっと……『我々は自治防衛隊の包囲を退け、本部の解放に成功せり。本隊は戦力を再編し、門の奪取に向かう。孤立している部隊は、至急近くの部隊と合流して、街の敵を掃討せよ』との事です」


 その言葉を聞いた面々は、喜んだり難しい顔をしている。


「ノーマン隊長……やっぱり、無事だったんですね!」

「敵を退けるなんて、流石だぜ!」

「しかし、合流しようにも目の前の敵をどうにかしなければ……」

「ああ、弾も無いしな。今だって、悠長にしている暇は無いぞ!」

「あっ、本部からの補給持ってきてます。受け取って下さい!」

「「「「 本当か!? 」」」」

「今出しますね」


 ミシェルは、チャッピーの脚のラックに括られていた弾薬箱を外すと、チャッピーに運ばせて彼らの前に置いた。


「はい、どうぞ!」

「よ、よし急いで装填して反撃だ! これでまた戦えるぞ!」

「「「 了解! 」」」

「あっ、さっき他の方達に会ったんですけど、娼館前に集合するって言ってました!」

「おう、俺らも奴らをやっつけたら合流する! ありがとよ、少年!」


 ミシェルは弾薬を渡すと、チャッピーに騎乗してその場を去って行った。他にも、孤立している者達がいるのだ。彼らの元に弾薬と情報を届けるべく、ミシェルは混迷の街の中へと消えて行った……。


 その後、カナルティアの街では、ロボットに乗る少年が警備隊に弾薬を配って回る場面を目撃され、噂になるのだった。



 * * *



-同時刻

@街西部地区 警備隊本部:地下駐車場


「ど、どうだ弟子……直りそうか?」

「ん? ああ、待ってろ。ここをこうしてっと……よし、できた! エンジンかけて見てくれ!」

「よし新入り、エンジンかけろ!」

「は、はい!」


──キュルキュルキュル……ドルンッ、ドッドッド……


 いつもおっさんに“新入り”と呼ばれている隊員が、消防車のセルモーターを回すと、エンジンが錆びた音を響かせながら動き出した。


「おお……よぉっしゃぁぁ! 弟子、お前は最高だぁ!」

「やめろ、おっさんにくっつかれても嬉しく無いぞ!」

「でも、流石ですねヴィクターさん……うちの整備員でも原因が分からなかったのに」

「どうだ、今からでも警備隊に入らないか?」

「遠慮しとくよ」

「かー、つれないなぁ!」


 カティア達を戦場に送り出した一方で、俺は警備隊本部に残っていた。何故なら、おっさんに仕事を頼まれていたのだ。

 その仕事というのが、警備隊本部で眠っていた消防車の修理だった……。正直、荒事だと思っていて拍子抜けだった。命を危険に晒しているカティア達には申し訳ないな。


「それにしても、なんで消防車なんだ? 秘密兵器って言うから、期待してたんだが……」

「しょ、しょ〜ぼ〜しゃ……って何だそりゃ? いいか……こいつは【インフェルノ号】だ、覚えとけよ!」

「警備隊の秘密兵器なんですよ!」

「は、はぁ……。まあいいや、汚れたからシャワー浴びて来るわ」

「おう、助かったぞ弟子!」

「ヴィクターさん、お疲れ様ですっ!」


 俺は修理で汚れた身体を洗うべく、アポターへと帰る。

 しかし、なんで消防車なんだ? 確かに、暴徒鎮圧に放水車を使用する事はあるが、この事態ではあまり効果が無いように思える。まあ、奴らの士気高揚になるなら、何でもいいか。



「よし……タンクに燃料と、圧縮ガスを詰めろ! コイツが動けば、怖いもの無しだぜッ!」

「了解です!」


 ヴィクターは、エンジンしか見ていなかったせいで気が付かなかったが、この消防車は消防車では無かった。

 崩壊前は、消火用の放水車として活躍していたこの車だが、崩壊後は放水システムを改造され、タンクに可燃性燃料を詰めた火炎放射車として使われていたのだった……。





□◆ Tips ◆□

【インフェルノ号】

 警備隊本部……旧消防署に眠っていた消防車を改造した、自走式大型火炎放射器。崩壊後、長いこと役目が無かったが、10年前のデュラハン襲撃事件の際に、その役割を見直され改造された。

 放水システムが改造され、大型の火炎放射器と化しており、その名の通り、対象を地獄の業火で焼き払う……というコンセプト。対ミュータント用として警備隊が保有していたが、今まで使われた事は無かった。

 改造には、デュラハン襲撃事件の英雄……ガラルド・ラヴェインの戦闘が参考にされており、デュラハンも倒せるらしい。

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