第120話 孤児院の(一方的な)戦い

 カナルティアの街では現在、自治防衛隊と警備隊の他に、野盗が入り込んでいた。野盗といっても、その正体はモルデミール軍の部隊なのだが、こちらは自治防衛隊と比べて少々事情が違った。



 野盗に扮している部隊は、いわゆる懲罰部隊の様な存在であり、その構成員はモルデミールの犯罪者だったり、降格処分を受けた兵士であったりと、ガラの悪い者達や、運のない者達が多かった。

 モルデミール軍はかなり軍規が厳しく、こうした懲罰部隊がかなり存在している。モルデミール軍は基本的に、これらの部隊を最前線に投入する方針を採っており、戦後は後方の正規部隊が敵の街に駐留する予定だった。


 懲罰部隊は、車両などの兵器はほとんど与えられず、大半が歩兵で構成されている。そして軍の制服など、所属が示される物は一切貸与されない。

 その為、懲罰部隊の兵士は皆私服で作戦行動を行う事になる。だがそれは、相手に野盗として認識させる為である。最前線に懲罰部隊を送り込む事で、モルデミールは進駐する自軍に対して、『野盗討伐』の大義名分を得る事ができるのだ。

 かなり周りくどいが、これはギルドのある街を攻略する際に、ギルド側の報復を警戒して考案された為である。最も、その詭弁がギルドに通用するか、未だに試された事は無いが……。


 さらに、懲罰部隊の存在は、敵の街から略奪を行ったり、虐殺などの汚れ仕事をさせるのに都合が良かった。

 そして、後で攻略対象の街を支配する事になった際に、『略奪や虐殺は全て野盗の仕業であり、我々は野盗を討伐した正義である』とうそぶくのだ。そうすれば、ギルドや他の街、更には地元住民へ正当性を主張でき、印象操作も期待できる。

 もし地元住民の不満が溜まっても、定期的に懲罰部隊の人員を『略奪を行った野盗』やら、『虐殺の当事者』として公開処刑にでもすれば、良いガス抜きにもなる筈だった。


 今回の場合は、正規部隊を秘密裏に“自治防衛隊”として、カナルティアの街に潜伏させていた事と、予定が狂って警備隊と全面衝突する事になってしまい、正規部隊も前線で戦う羽目になってしまったが……。

 その一方で懲罰部隊も、門を制圧したり、街中で略奪をしたりと、その役割を忠実にこなしていた。そして、その魔の手はウェルギリウス孤児院にも及んでいた……。



 * * *



-警備隊本部奪還作戦決行時

@街北部地区 ウェルギリウス孤児院


「隊長、本当にこの教会なんですかい?」

「ああ、上からの指示だとここの筈だ……」


 孤児院の教会の前で、ガラの悪い男達が徒党を組んでいた。彼らは、モルデミール軍の懲罰部隊の一つであり、見た目は野盗や、ならず者のような格好をしていた。


 彼らの目的は、ジェイコブ神父の抹殺と、孤児院からの略奪であった。これはプルートの指示であり、検問所を潰して回る神父への報復と、弾薬工場の確保の意図があった。

 ……もちろん、現場にその意図は伝えられはしない。


「何でまたこんな……どうせなら、酒場とか綺麗なネェちゃんのいる所が良かったぜ!」

「ヒャハハハ! ちげぇねぇ!」

「隊長、帰っていいですかい?」

「ゲラゲラゲラッ!」

「全員黙れ! 目的は、ここの神父のジジイを殺す事、それから……」

「「「「 略奪ッ! 」」」」


 全員がニヤニヤと笑みを浮かべつつ、教会の入り口に歩みを進め、これからの事を考えていた。

 懲罰部隊はその性質上、非道な行為が認められていた。というより、奨励されていた。その為、以前は真っ当な人間であったとしても、懲罰部隊に堕ちた者は大抵ゲスになってしまうのだ。


「全く、正規部隊の連中は貧乏クジだな!」

「略奪もできねぇ、女も抱けない、しまいにゃクソみたいな軍規を守れだと! 何が楽しいんだかな?」

「ま、俺達はその分楽しませてもらうさ」

「へへ……俺、いっぺん逃げ惑うガキを、背中から撃ち殺してみたかったんだ!」

「お〜、怖い怖い……」

「デュフフ……おで、子供とヤるのが夢だったんだな!」

「うわぁ……オメェは相変わらずキモいな……」

「……おい、開けるぞ?」


──ドカッ!


「えっ、な……何です〜!?」


 一人が教会の扉を蹴飛ばすと、全員が武器を構えながら中へ突入する。突入したロビーには、シスターのメリアが驚きの表情を浮かべていた。


「ど、どなたです〜? 見張りのロイドはどうしたんです〜?」

「おいシスターのネェちゃん、神父を出しな! ちょっと用があるんだよ!」

「えと、神父は今外出中でして〜」

「何、本当なんだろうな!?」

「ほ、本当ですよ〜!」

「クソ、面倒だな! 隠れてないか確認して、待つしかないか?」


 隊長が、抹殺対象の神父の事を考える中、他の者は別の事を考えていた……。


「おい、あのシスター……」

「ああ……チビだが、中々デケェ胸してるな」

「隊長、待つんならこの女とヤってていいですかい?」

「デュフフ……おで、シスターとヤるのも夢だったんだな!」

「あ? 程々にしろよ?」

「よっしゃ! 流石隊長、話が分かる!」

「何の話です〜?」


 男の一人が、不思議そうな顔をしたメリアに近づくと、後ろから抱きついて、その胸を鷲掴みにした。その瞬間、メリアの顔が青ざめた。


「ひっ……や、やめて下さい……」

「おろ? さっきみたいな、能天気な喋り方はどうしたよ?」

「や、やめて……離して……」

「にしても、デケェな! シスター辞めて、娼婦にでもなったらどうだ?」

「おい、次俺だぞ! 早く揉ませろよ!」

「ヒヒヒヒ……早く剥いちまおうぜ!」

「バカ、この服着せたままの方が良いだろうが!」

「デュフフ……その通りなんだな!」


 メリアは、身体をプルプルと震わせ、拳をギュッと握りしめた。その様子を見た男達は、嗜虐心を刺激され、ニヤニヤと下卑た笑みを浮かべる。


「あ、貴方達は!? って……あ〜やっちゃいましたか……」

「あ? んだテメェは!?」

「お前が神父か?」

「いえ、神父見習いの者です」

「何だ? 兄ちゃんも混ざるか?」

「ギャハハ、そりゃ傑作だな!」

「それより、その手に持った物騒な物をこっちに渡しな」


 ロビーに、神父見習いのロイドがやって来た。その手には、神父の武器コレクションの一つが握られていた。

 “RK-M”と呼ばれるアサルトライフルで、大容量のドラムマガジンが取り付けられていた。


「いえ、これは神父の物でして……。今度リサイタルで使うんでちょっと……」

「あ? ゴチャゴチャ言ってねぇで、よこせや!」

「それより、彼女から離れた方がいいですよ?」

「ヒャハハ、テメェの女か? 離れなかったらどうなんだよ? ほれ、モミモミっと……」

「う……うう……」

「あん? 何だこの女、泣いてんのか?」

「泣かせちゃった? ま、後で慰めてやるよ!」

「……うううっ! うらぁぁぁーッ!!」

「なっ、ガバッ!?」

「ああ、遅かった……」


 突如唸り出したメリアは、姿勢を下げて男の羽交い締めを解いた。そして、振り返りながら立ち上がり、身体のバネと回転を利用して、叫びと共に強烈な拳を男の顔に叩きこんだのだ。

 メリアに殴られた男はそのまま気絶し、拳の衝撃と共に床に倒れ伏して、しばらく周りは沈黙の時が流れた。


「「「「「 ……は? 」」」」」

「ロイドォォォ!! そいつをよこせェェ──ッ!」

「……はい。神父のだから、壊さないでね?」

「っせぇ! さっさとしろォ!」

「な、マズいぞ!」

「クソ!」


──ガシャコンッ! ダダダダダダッ!


 気弱そうなシスターが突然男を殴り飛ばすという、あまりに突然の出来事に、呆然とする男達。それを他所に、豹変したメリアはロイドの手からアサルトライフルを奪うと、男達に向けて発砲した。

 対応が遅れた男達や、反撃しようとした者は蜂の巣にされ、残った者達は教会を飛び出すと、その扉を閉めた。


「ハァハァ……何だ、あの女!?」

「イカれてやがる……!」

「隊長もやられちまった、どうする!?」

「デュフフ、反撃するに決まってるんだな!」

「コイツの言う通りだぜ、皆殺しだぁ!」


──ダダダダダダッ! カチカチカチッ!

──ビキバキ……ゴシャ! バタンッ……


「チッ……弾切れかよォ! おいロイド、タマァよこせやぁぁ!」

「弾薬? はい」

「……皆殺しはやめだな」

「だな……逃げろォ!」


 反撃しようと意気込んだ男達。だが突如教会の扉が穴だらけになったかと思うと、メリアが扉を蹴破りながら外に出てきた。

 その鬼気迫る勢いに、男達は戦意を喪失し、逃げ出した。


「ざっけんなコノヤロウッ!」


──ガシャッ、ダダダダダダダダダッ!


「ぎょえぇぇ!」

「ヒィィィィィ!」

「デュフフ、シスターはもう懲り懲りなんだなぁ!」

「逃げんじゃねぇ! 待てやおらぁぁぁッ!!」



 男達が教会前の道路に飛び出すと、1台のバイクと衝突しそうになる。


──ブロロ……キキーッ!


「危ねぇだろ、ぶっ殺すぞ!」

「あっ、こいつ……目的の奴!」

「今はそれどころじゃ無いだろ!」

「待てやゴラァ!!」

「「「 ヒィィッ! 」」」

「あん……ってメリア、それ俺の銃じゃねぇか! 勝手に使ってんじゃねぇ!」

「っせーな! しけた事言ってんじゃねぇ!」

「……オメェ、また病気か?」


──ダダダダダダダッ!


「おらぁ! おらおらおらぁッ!!」

「ヒュー! ロックじゃねぇか!」


 メリアは神父に向かって中指を立てると、逃げ惑う男達の背中に銃弾を浴びせて、全員を始末した。


「神父ーっ!」

「おっロイドか、状況を説明しろ!」

「えっと……防衛の為に、神父の武器を部屋から出してたら、野盗が教会に侵入してきまして……」

「それでアレか……。ガキ共は大丈夫なんだろうな?」

「ええ。全員、外には出さないようにしてます」

「まあ、この際丁度いいか。すぐに戦闘準備だ!」

「戦闘ですか? 相手は?」

「知らん! 街中で、俺の事狙ってきた奴らがいてよ、しつこく追っかけてきやがったんだ」


『いたぞ! クソ神父だ!!』

『『『 うおおおッ! 』』』


 声がする方を見れば、大量の野盗が教会に向けて走って来ていた。


「げ、撒いたと思ったんだがな……」

「まあ、神父の行き先はここしかありませんしね」

「仕方ない、ああなりゃメリアも使えるな。おいメリア、その銃は貸してやる! お前も手伝えや!」

「あん? 私に指図するなぁ!」



 * * *



-同時刻

@街北部地区 路上


 ヴィクターと別れたカティア達は、バイクのジュディを先頭に、孤児院へと向かっていた。

 途中、野盗や自治防衛隊と戦闘にはなったが、彼女達の敵ではなかった。


「それにしても、街中に野盗が入ってるなんてビックリだわ!」

「……それ、ウチらへの嫌味っすか?」

「カティアの意地悪」

「違うわよ! ……でも、足を洗ってくれて本当に良かった」

「カティア……」

「……ごめんなさい」


 ビートルの車内が変な空気になり、皆の口が閉じる。そんな空気を打開するかのように、先行しているジュディから通信が入る。


《みんな、ちょっといい?》

「どうしたの、ジュディ?」

《孤児院の方角が騒がしいんだ。銃声が聞こえる……急いだ方がいいかもしれない!》

「子供達が危ないわ! 飛ばして、カイナ!」

「っす!」


 バイクとビートルは速度を上げると、孤児院へと急いだ。



 * * *



-数刻後

@街北部地区 ウェルギリウス孤児院


「……えっと」

「こ、これは……」

「何というか……」

「……ひどいね」


 カティア達が孤児院に到着すると、教会の前には野盗らしき男達の死体の山が築かれていた。


「あれ、カティアじゃないか!」

「ロイド、戦闘があったの!?」

「ああ、神父とメリアが大暴れでさ。いや〜、参ったよ」

「メリア? ……まさか、また病気が?」

「ああ。僕が目を離したばっかりに……」


 メリアは現在、孤児院で働いているが、以前は街で働いていた。だがある日、見知らぬ男に襲われかけてしまい、その際に精神を病んでしまったのだ。

 具体的には、知らない男に身体を触られると、凶暴化して暴れ出し、手がつけられなくなってしまうのだ。その為、街で働く事が出来なくなり、自分がいた孤児院へと戻って来てしまった。


「あれ。カティア、お帰りなさいです〜。それに、ジュディにカイナちゃん、ノーラちゃん? 皆もお久しぶりです〜!」

「メリア、病気は? 大丈夫なの!?」

「カティア、もう大丈夫です〜。ご心配をおかけしました〜」

「あん? 誰かと思えばカティアか。それに、ジュディにカイナ、ノーラか……随分と久しぶりだな?」

「あ……」

「その……」

「お久しぶり……です」


 ジュディ達はかなり気まずかった……。もう足は洗ったとはいえ、彼女達はこの前までこの孤児院を襲った連中と同じ、野盗だったのだ。

 その為、彼女達には神父の顔が、怒っているように感じられたのだ。……まあ元々、神父はそんな顔なのだが。


「ヴィクターに頼まれて、援軍に来たのよ。けど、必要無かったみたいね?」

「ヴィクターが? そういや聞いたぜ、ジュディ達もヴィクターの世話になってるんだってな?」

「「「 は、はい……! 」」」

「援軍に来たなら丁度いい、孤児院の警備を手伝えや。人手が増えりゃ、メリアが暴走するような事も無いだろうしな!」

「……それ、私への嫌味ですか?」


 ロイドが、神父の言葉に反応し、苦い顔をする。


「でも、カティア達が手伝ってくれたら助かります〜。子供達の面倒も見なきゃなので〜」

「もちろん! ね、皆?」

「も、もちろん!」

「任せてほしいっす!」

「頑張る」

「じゃ、後は頼むわ。色々あり過ぎて疲れちまった……俺はちょっと寝るわ……」


 神父は、あくびをしつつ手を振ると、教会の中へと入っていった。



 * * *



-数時間後

@街西部地区 警備隊本部


 警備隊本部を解放した後、警備隊は敵が残していった装甲車を鹵獲した。そしてそれらを用いて、本部の周りを固めて、再度の襲撃に備えていた。


 そんな中、俺はおっさんに呼ばれて、作戦会議に参加していた。


「で……これからどうするんだ、おっさん?」

「まずは、仲間の救援と門の確保だ! 警備隊として、野盗が街に入り込んでる現状は看過できん!」

「確かに、敵もしばらくは攻めて来れないだろうしな。それに、門から入る増援を断つのは正しい判断だと思う」


 現在、敵も味方も戦力が街中に分散している。敵も先程のような、大規模な攻勢を仕掛けるのは無理があるだろう。そうなると、敵は本拠地の中央地区に撤退し、防御を固めてくるはずだ。


「弟子の言う通りだ。まずは、街で孤立している仲間の救援! それから門の確保! その後は、入り込んだ野盗の殲滅だ!」

「「「「「 はっ! 」」」」」

「でだ、弟子……。手伝ってくれるよな?」

「とりあえず、俺の任務は警備隊本部解放までなんだがな?」

「だったら、おれがギルドに依頼する! おい、ギルドの書類あるよな? 俺の代わりに、依頼書書いといてくれ!」

「了解です!」


 おっさんが部下に、ギルドの依頼書を書くように指示する。


「で、俺は何をすればいい?」

「とりあえず、部下達にアレの運用を教えてくれ!」

「アレ? ……装甲車の事か? 多分、車とそう変わらないぞ」

「それ以外にも、戦い方とか……なんか、そういうのがあるだろ!  撃破したお前なら、何か分かるんじゃないか?」

「なるほど、だったら任せとけ」

「よし、車が動かせる奴を全員集めておけ! では以上、解散ッ!」


 おっさんがそう言うと、会議室のメンバーは一斉に立ち上がり、キビキビと動き出した。


「じゃあ弟子、部下達の教育……頼んだぞ?」

「付け焼き刃になるがな……」

「とりあえず、連中と戦えれば問題無いさ!」

「ハードル高いな……。で、おっさんはこれからどうすんだ?」

「地下の駐車場で、秘密兵器の準備をする」

「秘密兵器?」

「ま、楽しみにしとけって! よし、行くぞ新入り!」

「はい!」


 おっさんは、いつもの隊員を連れると、会議室を出て行った。一人残った俺は、装甲車の運用……特に、現状必要になるであろう事を頭にまとめていた。

 とりあえず、歩兵の盾になるように動くように指導したり、攻撃を受けても絶対に外に出ないという事を教えればいいか? 敵も、崩壊前の装甲車は撃破出来ないだろう。それが可能なAMの部隊は既に潰しているし、積極的に運用してもいいはずだ。


 大体、隊員達に教える事をまとめ終えて溜息をつくと、先程の隊員の一人が部屋に入って来た。


「失礼します、ヴィクターさん!」

「ん、もう集まったのか?」

「いえ、依頼書が出来たので、確認をお願いできますか?」

「ああ」


 隊員から書類を受け取り、目を通す。


「何々……装甲車のインストラクターに野盗の殲滅、敵性勢力への共闘……色々あるな?」

「ええ、隊長が書けるだけ書いとけと言うもので……」

「まあいいけどな……。ん? 報酬額が書かれて無いぞ?」

「隊長が、ツケで頼むと……」

「つ、ツケだって!? 命を張るのにか!?」

「申し訳ありません、ヴィクターさん!」

「いや、アンタのせいじゃ無いだろ! まあ、こんな時だしな。仕方ないか……」

「おお、ヴィクターさん……ありがとうございますッ!」

(クソ……後でおっさんに、死ぬまで奢らせてやる!)


 心の中で、おっさんに対して悪態をつくと、再び書類に目を通す。ギルドへの配慮か、自治防衛隊を敵性勢力と呼び変えたりしているのは気になったが、特に問題は無さそうだった。


「ん?」

「どうかされました?」

「いや、何でもない。書類は大丈夫だ、後で俺が支部長に渡しとくよ」

「で、では……よろしくお願いします!」


 隊員が部屋を出て行く中、俺は書類に書かれていた依頼者の項目が気になった。


(そういや、依頼者……ノーマン・マイズナーって誰だ? お偉いさんかな? ま、どうでもいいな)


 その名前が、あのおっさんの事を指しているという事を、この時の俺は気がつかなかった。

 いつもなら、話の流れや文脈で気がつきそうだが、朝からギルドへ乗り込んだり、セラフィムを動かしたり、警備隊本部を解放したりと、濃密な1日を送っていたのだ。恐らく、疲れていたのだろう。


「ふぁ〜あ、眠いな。そういや、ガフランクから今まで碌に休んで無いな。落ちついたら、ノア6でしばらくゆっくりしよう……」

「失礼します、ヴィクターさん。該当する隊員を集めて来ました!」

「分かった。じゃあ、始めるか」


 俺は会議室にて、隊員達に鹵獲した装甲車の運用を講義した後、警備隊本部に停めたアポターの車内で一夜を過ごした。

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