第119話 反撃開始
-内戦3日目 昼過ぎ
@セルディア上空 ウリエル21号機
ロゼッタから、AMの部隊が接近しているという報告を受けた直後……。ヴィクターは司令官権限を利用して、戦闘衛星群セラフィムを投入する事に決めた。
本心では、セラフィムの投入は避けたかった。だが、今回は対処に向かうには人手も時間も無く、かと言って迫り来る脅威を放置する事も出来なかった為、まだ敵が街から遠い位置にいる、今の内に叩いてしまおうと決断したのだ。
ヴィクターが今回用いる“ウリエル”は、大出力のビーム砲を搭載した戦闘衛星で、地上に向けて攻撃が可能だ。特徴的なのは、照射の絞りや出力を調整する事で、戦術・戦略攻撃どちらにも使用出来る事だ。基地などの対施設用の大規模な攻撃から、対兵器目的の小規模な攻撃まで可能で、汎用性が高い。
照準を調整したウリエルは、各衛星より供給された電力を受け取ると、搭載された大容量のコンデンサーに電力をチャージして、砲口の絞りを調整する。そして、蓄えられた電力が加速器を介して、大出力のビームを生産し圧縮、収束させると、地上へ向けてその裁きの炎を降り注いだ……。
* * *
-同時刻
@カナルティアの街北東の平野
カナルティアの街と、モルデミールの丁度中間に位置する平野では、12機のAMから成る部隊がカナルティアの街に向け進軍していた。
彼らは、モルデミール軍の部隊であり、今回のカナルティア攻略の切り札とも言える存在だった。
カナルティアの街の戦力では、AMの部隊を相手にする事は出来ない為、彼らが街に到着した時点で、この戦いの勝敗は決まってしまうのだ。
その為、彼らは勝ち戦に行く気分で、完全に浮かれていた。遥か上空……軌道上から、自分達が
《この戦いが終わったら、美味い飯と酒をたらふく腹に入れるぜ!》
《ま、戦いなんて起きないだろうがな。鉄巨人に敵う奴なんざいないだろ》
《それにしてもカナルティアの街は、さぞ豊かなんだろうな!》
《彼女に、良い土産を持ち帰れたら良いんだけどな……》
《羨ましいねぇ。ま、俺はあっちで女を作る予定だがな!》
《おい、無理矢理襲うんじゃねぇぞ? 軍紀を乱したら銃殺か、懲罰部隊行きだぞ》
《しないわ! 失礼な……》
《ハハハ! テメェの顔じゃ、声かけても逃げられるに決まってらぁ!》
《違いねぇ!》
《言ったな、このヤロウッ!》
《 《 《 《 ハハハハハッ! 》 》 》 》
そんな彼らだが、突如コックピットに警報が鳴り響き、全員が驚いた。
──ピピーッ! ピピーッ!
『警告、友軍の戦術攻撃エリアです。至急、現エリアより退避して下さい』
《な、何だこの警報は!?》
《お前もか? 故障じゃ無いのか、初めて聞くぞ……何だこりゃ?》
『ウリエル21号機が砲撃準備を開始。着弾まで残り15秒。至急、当該エリアより退避して下さい。……12……11』
《な、何だ!? 何が起きてやがる!?》
《隊長! レーダーに俺達を取り囲む様な、円が表示されてます!》
《戦術攻撃ぃ? 何だこりゃ?》
《隊長、何かモニターが秒読みをはじめましたぜ!》
《嫌な予感がする……。全機、退避だ!》
『5……4……3……』
《クソ、何だ! 何が起きてるんだッ!?》
《退避って、一体どこに!?》
《このモニターに表示された範囲から出ればいいのか? ……くそ、間に合わねぇッ!》
『2……1……弾着』
──ジュイィィンッ!
秒読みが終了すると、彼らの周りは突如強烈な閃光で包まれた。
大出力のビームが地上に降り注ぐと、AMの部隊は機体を爆散させたり、焼失させて全滅した。当然、乗員は全員死亡し、自分達の身に何があったかすら分からなかっただろう……。
光が収まると、大地は焼け焦げ、辛うじて残ったAMの残骸が散らばっていた……。
* * *
-同時刻
@街西部地区 警備隊本部
「……ん、何だあの光は?」
「何ですか、隊長?」
「いや、何か遠くに光の柱が……ありゃ?」
「……何も無いじゃないですか。見間違いじゃないですか?」
「いや、俺はこの目でハッキリ見たぞ! 何だったんだありゃ?」
「どうでもいいですけど、これからどうするんですか? もう降伏しましょうよ……」
「は? おい新入り、本気で言ってんのか?」
「だって、敵も今降伏すれば、罪には問わないって……」
「んな、分かりやすい嘘に騙されてんじゃねぇ!」
「いったッ! え、嘘なんですかぁ!?」
「当たり前だろ、降伏して出て行ったら、その場で撃ち殺されるぞ?」
「ヒエ……」
「しかし、この状況はどうしたものか……」
警備隊長ノーマン……いつものおっさんは、どうしたものかと思案する。
警備隊は自治防衛隊に対し、徹底抗戦の姿勢を崩さず、未だに警備隊本部に籠城していた。自治防衛隊は、警備隊による激しい反撃に対し、積極的な攻略を断念し、部隊を警備隊本部の周りを包囲するように展開し、お互いに睨み合いを続けていた。
この状況を打開するには、打って出るか、援軍の到着を待つしかない。
しかし、備蓄していた食糧は、ヴィクターの新たな村の開拓に寄付する為、全て売っ払ってしまっていた。もってあと1週間程だろうか。
さらに、打って出ようにも、切り札になりそうな車両は故障して、動かない状態だった。
「こうなると、外から援軍が来るのを待つか、修理が終わるのを祈るしか無いな」
──バシュンッ!
「うおっ!? クソ……狙撃だ、おちおち外も眺められないな!」
「た、隊長! 気をつけて下さいよぉ」
外の様子を窺う為、窓から顔を出していたノーマン目掛けて、銃弾が飛んできた。幸いにも狙いが逸れ、弾丸は窓近くの壁にめり込んだ。
そして、ノーマン達のいる部屋に、伝令が入って来た。
「報告します!」
「お、良い知らせか?」
「いえ……屋上の見張りより、中央地区から敵の大部隊が接近中との知らせがありました!」
「このまま囲んでりゃ勝てるのにか? くそ、敵もわざわざご苦労なこったな!」
「隊長ォ〜、どうするんですか〜!?」
「情け無い声出すんじゃねぇ! ドーザーを前に出せ! 敵の攻撃に備えるんだッ!」
「了解しました!」
「ほら新入り、テメェも来るんだよ!」
「こんな事なら、逃げとくんだった〜!」
「うるせぇ!」
「あいったッ!」
* * *
-数時間後
@街西部地区 警備隊本部付近
フェイ達をグラスレイクへ送り出した後、俺達はアポターやビートルに乗り込むと、それぞれの目的地へと向かった。
俺とミシェルはアポターに搭乗し、警備隊員達を伴い警備隊本部へと向かった。これから、本部の解放作戦に臨むのだ。
カティアとジュディ達は、ビートルやバイクで孤児院への増援に向かわせた。あそこは、彼女達の故郷の様なものだし、気になっているだろう。
それに、ジェイコブ神父にも恩がある。まあ、彼がいるから大丈夫だとは思うが、戦力は多いに越した事は無いだろうしな。
「……ミシェル、用意してくれ」
「はい!」
「お前達も、作戦通りにな!」
「「「「「 了解です! 」」」」」
警備隊本部が近づいてきて、爆発音や銃声が大きくなって来た。助手席に座るミシェルや、アポターの後ろに付いて来ている警備隊員達に声を掛け、戦闘の準備をする。
衛星で状況を確認すると、敵の大部隊は既に到着し、ちょうど敵が攻勢に出た所のようだ。警備隊本部からの猛攻撃の中、装甲車がジリジリと本部に接近し、それを盾に後ろを多数の自治防衛隊員が追従していた。
意外な事に、敵が使用していた装甲車は崩壊前の物だった。これでは、警備隊の持つ武器では殆ど歯が立たないだろう。この装甲車は、ノア6にも同型機があり、電脳による遠隔操縦が可能だ。
だが、この場にある車両は皆データの送受信機がイカれているのか、こちらからの操作を受け付けない物が多かった。上手くいけば、司令官権限で全車両のエンジンを停止して、戦わずに無力化することも出来たのだろうが、それは無理そうだ。
何とかして撃破するか、行動不能……もしくは撤退に追い込むしかあるまい。そして、その為の作戦は既に練ってあるのだ。
「よしミシェル、ミサイル全弾トップアタックモードで、上に向けて発射しろ!」
「あの、まだ敵の姿も見えませんし、ロックしてませんが……」
「大丈夫だ、誘導は俺がやる。やってくれ!」
「分かりました!」
ミシェルが、アポターに残った5発のミサイル全てを発射する。俺は、電脳と衛星を駆使してミサイルに目標を指示すると、ミサイルはそれぞれ敵の装甲車の上部に着弾していき、ミサイルの本数と同じ5台の装甲車を撃破した。
──ィィィン、スガァンッ!
──ィィン、ドガァンッ!!
「のわっ!?」
「何だッ!?」
「がっ……かひゅ!」
「そ、装甲車がッ!?」
「な、何てことだ……!」
撃破した装甲車の周りにいた兵員は、衝撃で肺を潰されたり、破片を喰らったりして倒れ、周りは突然の出来事に混乱しているようだ。
そして俺は、追い討ちをかけるように、辛うじて遠隔操縦が可能だった車両のFCS(火器管制)を乗っ取り、周りにいる敵に向けて射撃を始めた。
──ウィィィン……ダダダダダッ!
「ん? う、うわぁ!?」
「何が起きてるッ!?」
「止めろ、味方だぞ! 何やってる!?」
「まさか、裏切ったのか!?」
「クソ、そいつの中に手榴弾を投げ込め!」
「ど、どいつが敵なんだ!?」
混乱の中、突如味方からの攻撃を受けた敵は同士討ちを始める。その間に、俺達はアポターを先頭に敵陣の只中に突入すると、敵に向けて攻撃を始める。
ミシェルが操るアポターの20mm機関砲が火を吹き、随伴してきた警備隊が火炎瓶を装甲車に向けて放り投げる。
20mm機関砲では、崩壊前の装甲車の装甲は抜けない。だが、その威力は歩兵の持つ小火器の比ではなく、被弾した車体には大きな衝撃が伝わった。
さらに、投擲した火炎瓶により、仲間の車両が火に包まれていく。その様を見た敵は、味方の装甲車が次々と撃破されている様に錯覚を始める。
俺は思ったのだ。訓練環境が整っていない崩壊後の世界で、戦車や装甲車という密閉された環境下で、乗員は平静を保てるか?
答えは、無理だ。恐らく、彼らは碌な訓練をしてないだろうし、装甲車での実戦も初めてだろう。そんな中で、攻撃を受けたらパニックになるに決まってる。
別に、敵を撃破する必要は無い。士気を挫き、撤退させてしまえば良いのだ。
事実、敵の装甲車部隊には、最初の5台を撃破した以外は、大したダメージは与えていない。だが、“突如飛来したミサイル”という、崩壊後の世界ではあまり馴染みの無い兵器の登場により、その頼れる戦力が瞬殺されてしまった……。
そんな中、自分の車両に火がついていたり、大きな衝撃があれば、とても落ち着いていられる状況では無いだろう。敵は混乱し、既に士気はガタガタだった。隊長車っぽい車両を特定して、狙い撃ちしたのも良かったかも知れない。
士気と指揮を失った彼らに、もはや攻勢は維持出来なかった。
そんな中、タイミングを見計らった様に、本部に籠城していた警備隊が打って出てきた。いつものおっさんが、メガホン片手に指示を出している。
『よぉ〜し! よく分からんが、敵はガタガタだ! 総員、突撃ィィィッ!!』
「「「「「 うおおおッ! 」」」」」
敵もその様子に怖気づいたのか、一斉に撤退を始める。中には、まだ無傷の装甲車を捨てて、逃げて行く者達もいる。やはり、装甲車での戦闘に慣れていなかったのだろう。
「て、撤退だ! 逃げろォ!」
「この車両はもうダメだ! 早く脱出するんだ!」
「ま、待ってくれぇぇ!」
「ヒィィ、助けてくれぇ!」
万が一に備えて、セラフィムによる戦術攻撃の用意をしていたが、必要無さそうだな。
「……ふぅ、一時はどうなる事かと思ったよ!」
「ヴィクターさん、やりましたね!」
「ああ。思い切って、ミサイル全部使ったのが成功したな!」
「僕が敵の立場だったらと思うとゾッとします。……けど、これからはミサイルが使えませんね」
「ああ。機関砲の弾もほぼ尽きたし、今後アポターは頼れそうに無いな。補給に戻すか?」
「あっ、前から隊長さんが歩いて来ますよ!」
「ああ、おっさんか! 無事だったんだな」
周囲の安全を確認した後、俺はアポターから降りて、おっさんに挨拶する。
「よう、おっさん! 助けに来たぞ」
「弟子ぃ! 良くやってくれたな、流石はガラルドさんの弟子だぜ!」
「おい、止めろ! おっさんに抱きつかれても嬉しく無いっての!」
「そうだ、ギルドが……!」
「ああ、それなら大丈夫だ。俺は今、支部長の任務で警備隊に肩入れしてるんだ」
「何だって? 詳しく聞かせてくれ!」
俺はおっさんに案内されて、解放に成功した警備隊本部へと向かった。
* * *
-数時間後
@街中央地区 議会
「何ですって!?」
「め、面目次第もございませんッ!!」
プルート達がいる議会の一室は、重苦しい空気に包まれていた。何と、警備隊本部攻略に向かった部隊が敗走したと言うのだ。しかも、包囲していた部隊も一緒に……。
聞けば、虎の子の装甲車が突如撃破され、その半数以上を損失してしまったというのだ。
実際には、乗り捨てて逃げた物が多いのだが、兵士達は撃破されたと錯覚していたのだ……。
「まさか、ギルドの攻撃!?」
「いえ、それにしては対応が早すぎます」
「使者殿の仰る通りですね……。指揮官、中央地区の防御を固めて下さい。街に出ている部隊は、順次撤退させるように」
「はっ! 失礼しますッ!」
報告に来た指揮官は、敬礼をして部屋を去った。
「……くっ、こんなハズでは!」
「プルートさん、まだ慌てる事はありませんよ」
「そ、そうですね。敵がどうやって装甲車を撃破したかは知りませんが、鉄巨人に敵う筈はありません」
「その通りです。後少しの辛抱ですよ……」
「とにかく、中央地区の防御を固めます。到着まで守り抜けば、我々の勝利です!」
「モルデミールに勝利を! では、私も失礼しますよ」
部屋を出た使者は溜息をつくと、顎に手を当てながら思案する。
(……これは、最悪のパターンも考慮するべきですかね? まあ、鉄巨人が到着すれば勝利は確実なのですが。考え過ぎですかね?)
嫌な予感がして、最悪の事態を想定する使者だったが、自軍の兵器の強さを思い出し、杞憂だと考えることにらした。
だが、期待しているAM部隊が既に壊滅している事を、彼らが知ることは無かった……。
(私を失望させないで下さいよ、プルートさん。)
□◆ Tips ◆□
【ウリエル】
セラフィムを構成する、人工衛星の一つ。
大出力の中性粒子ビーム砲を搭載しており、地上に向けて攻撃が可能。特徴的なのは、照射の絞りや出力を調整する事で、戦術・戦略攻撃どちらにも使用出来る事で、対施設目的の大規模な攻撃から、火力支援目的の小規模な攻撃まで可能である事で、汎用性が高かった。
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