第118話 内戦4

-ヴィクター達がギルドを襲撃している頃

@街の道路 自治防衛隊の検問


「ふんっ!」


──バチンッ!


「あ、ありがとうございますッ!」

「全く、弛んどるぞ貴様らァ! 敵に襲われただぁ? なら反撃すれば良かろうッ!」

(クソ……威張りちらしやがって……!)

(やめろ、ここは大人しく……な?)

(あ〜腹立つなぁ……)

(何も知らない癖に……)


 昨日、ジェイコブ神父にメチャクチャにされた検問の一つでは、見回りに来た上官が現場の隊員達をビンタして、気合いを入れていた。

 聞けば、神父姿の男がバイクに乗りながら検問所を襲撃……。隊員1名がやられた上に、貴重な車両をお釈迦にされたらしい。


 だというのに生き残った隊員達は、全身をすすや埃塗れになりながらもピンピンしていた為に、上官にサボっていたと思われていたのだ。


「大体、敵は一人だろう!? 何をしていたのだ!」

「し、しかし……神父の格好をしてたんですよ!? 流石に、いきなり聖職者を殺めるのは躊躇いますよッ!」

「しかしもヘチマもあるかッ!」


──バチンッ!


「痛ッ! ありがとうございますッ!」

「ふん。貴様らが車両を潰されたせいで、こことの通信ができん。よって、補充が届くまで今日は私がここにいる事になった。感謝するのだな!」

(ウゲェ……マジかよ……)

(勘弁してくれ)

(こいつ、死んでくれないかな?)

(……ん? この音は!?)


──ブロロロロ……


 隊員達が説教を受ける中、隊員達は聞き覚えのある音を耳にする。見れば、昨日のバイクがこちらに向かって来ているではないか。

 さらに、バイクには昨日の神父の他に、昨日とは違い、後ろに身なりの良い女性も一緒に乗っていた。


(お、おい……アレってまさか!?)

(や、奴ら……また来たのかよッ!?)

(ヒエッ……!)

(もう嫌だッ!)


「小隊長! 何か近づいて来ます」

「うん? 丁度良い、貴様らに手本を見せてやる。おい、奴を停めろ!」

「はっ!」


 上官の男は、自分の部下にそう命じると、部下はメガホンを持って道路の真ん中に立った。


『そこのバイク、停まれ!』


──ギュルン、ギュルルンッ! ブロロロロッ!


『お、おい停まれ! ……うわぁ!』

「どけどけぇっ! 邪魔だゴラァッ!!」

「オホホ、ごめんなさいね〜!!」


 バイクに停止を呼びかけるも、バイクは加速して検問に突っ込んで来た。部下は怖気付き、背中を向けて逃げるも、バイクの後座に跨る女性が突き出した刀剣がその首を刎ね飛ばし、バイクはそのまま走り去ってしまった……。


「な、何なのだアイツら……。ん、神父姿……という事は奴が! おい、全員発砲しろ! 何をしているッ!?」


 余りに突然の出来事に、しばし呆然としていた上官だったが、直ぐに反撃を指示した。

 だが振り返って見ると、先程まで説教していた隊員達の背中が離れて行くのが見えた。


「アイツらッ! こんの、臆病者がァ! こうなったら敵前逃亡の罪で、私自ら引導を──」


──ジジジジジ……


「ん、何の音だ?」


 上官が足元を見ると、車の下からコロコロと、導火線に火が付いた手榴弾が転がってきた。


「ぎょえぇぇぇぇッ!!」


──ボカーンッ!!


「差し入れ、気に入ってくれたかしらね?」

「だといいな」

「相変わらず、ジェイクの運転は危なっかしいわね」

「なんだと? だったら降りろやッ!」

「スリルがあって楽しいって意味よ。でも、そろそろ帰った方がいいんじゃない? 孤児院も1日開けてるじゃないの」

「ウチのガキ共はそんなヤワじゃねぇよ! ……まあ、ビーチェを置いたら帰るわ」

「そう。心配してくれてありがと。久しぶりのツーリング、楽しかったわ!」

「冗談抜かせ、誰がテメェなんか心配するかよ!」

「相変わらず、素直じゃないわね」


 背後から聞こえてくる爆発音に、さして気にする様子も無く、バイクは道路を駆けて行った。



 * * *



-内戦3日目 昼過ぎ

@街中央地区 議会


 街の政治中枢である議会は現在、自治防衛隊の大部隊が集結し、司令本部と化していた。

 内戦が始まると共に、自治防衛隊は議会を急襲し、この街の最高権力者である首長を殺害。その後、内戦の首謀者であるプルートが現地入りし、作戦指揮を執っていた。


 ヴィクター達が、レンジャーズギルドを強襲し、人質となっていたギルド職員達を救出してから数時間後。首長の執務室では、重苦しい空気が漂っていた。


「……で、報告は以上ですか?」

「は、はい!」

「はぁ……あのですね、警備隊本部が落とせないのは分かります。敵も手練れですし、士気もある。それに、防御側が有利なのは常識です」

「は、はい……仰る通りです」

「問題は、目と鼻の先にあるギルドを襲撃され、人質を全員奪われた事です! 一体何をしていたんですかッ!!」

「も、申し訳ございませんッ!」


 現在、部屋の中では戦況報告会が開かれており、自治防衛隊の指揮官がプルートに叱責を受けていた。


「で、ちゃんと奴らの居場所は把握してるのですか?」

「そ、それが……追尾部隊も損害を出してしまい、逃げられてしまいました……。現在、鋭意捜索中でして──」

「見失ったのですかッ!? 検問は何をしてるのです!?」

「それが、先程も報告した通り……各地の検問所が襲撃され、現場指揮官が何名もやられておりまして」

「あの、バイクに乗った神父の件ですか……。分かりました、正直に報告してくれて助かります。ソレについては心当たりがあります。早急に対処させましょう」


 報告では、各地の検問所が襲われ、小隊長や分隊長クラスの下級の現場指揮官が、次々と戦死しているらしい。

 手柄や、責任逃れに適当な事は言わず、事実を報告するあたり、この指揮官は優秀なようだ。


「プルートさん、マズいですね。作戦を早めなければ……」

「そうですね、使者殿……。指揮官、本国からの部隊は、あとどの位で到着しますか?」

「はっ、後2日から3日の予定です!」

「それまでに、敵の大部分は潰さなくては……。指揮官、人質捜索は中止です! 部隊を集結させ、警備隊本部の攻略に向かって下さい!」

「はっ! モルデミールに勝利を!」


 指揮官はその場で敬礼すると、部屋を出て行った。


「まったくお恥ずかしい……。作戦ではこの様な事は──」

「プルートさん、作戦にイレギュラーは付き物です。それに、本国からの“鉄巨人部隊”が到着すれば全て終わるでしょう」

「使者殿……。ええ、その通りです! 閣下の為に……モルデミールに勝利を!」

「モルデミールに勝利を! ……しかし、人質を奪われたのはマズいです。このままでは、ギルド本部から応援を呼ばれる恐れがありますね」


 彼らがギルド職員を拘束していたのは、ギルドに援軍を呼ばれない為だ。ギルド職員……特に、シスコのようなギルド幹部は、ギルドの重要人物としてその身柄が守られる。

 もしシスコが援軍を呼べば、遥か彼方のギルド本部から、遺物の兵器をはじめとする、強力な相手がやって来る事になるのだ。


 そして人質が奪われた以上、ギルド本部からの援軍がやって来る可能性は高い。そうなると、自治防衛隊はギルドを襲撃し、街の秩序を乱している存在と判断され、攻撃を受ける事になるだろう。

 そうなる前に、このカナルティアの街を完全に掌握する必要があるのだ。いくら、強大な戦力を持つギルドでも、街の内政に干渉する事はしない。だから、早々にこの内戦を終結させる必要がある。


「使者殿、そこまで心配なさらなくとも良いのでは? ギルド本部は、海というのを隔てた別の大陸……果てしなく遠い所にあるのですよね?」

「いや、甘く見ない方が良いですよ、プルートさん。貴方も見たでしょう? 奴らは遺物を使っているんです、何をするか分かったものじゃない!」

「そういえば、支部長のシスコ・デロイトが帰還した際に、空を飛ぶ機械に乗ってましたな。確かに、私の浅慮でした……」


 プルートは、しばらく街に駐機していたギルドの航空機を思い出していた。


「いえ、分かって頂ければ……それより、お耳に入れておきたい事が……」

「何でしょう?」

「私の情報によると、奴が……ヴィクター・ライスフィールドが、この街に入っている様です」

「なっ、そんな馬鹿な! 奴はガフランクで……という事は……!?」

「はい。ガフランク攻略は失敗……フランベル大佐も戦死したと見ていいでしょう」

「あ、あのモルデミールが誇る武人が!? な、なんと……」

「奴は危険です。早く始末しなくては!」

「クソッ、何度この顔に泥を塗るのだ、奴は!? 使者殿、奴の対処はお任せ下さい。必ずや、奴を仕留めて見せます!」

「頼みましたよ……。では、私はこれで」


 そう言うと、使者は部屋を出て行った。


 プルートは回想する。以前からヴィクターの事は、危険視していた。だから、何度も始末しようとしたが、そのことごとくを奴は踏みにじって来た。

 ある時は、適当な依頼を餌に死都に向かわせるも失敗。直接こちらに出向いた時に、護衛のボードンに暗殺させようとするも、見破られて失敗。そして今回の作戦に合わせて、狼旅団本隊とぶつけても失敗。

 もはや不死身を疑う、目の上のタンコブの様なものだった。


「……ボードンっ!」

「へい!」

「奴と出会ったら、必ず仕留めろッ! その為に、その鎧を用意したんだからな!」

「任せて下さい、奴を蜂の巣にしてやります!」


 ボードンは、全身をゴツい鎧で固めていた。その鎧は、“アーマードホーン”と呼ばれるミュータントの素材で出来ており、銃弾を通さない、正に無敵になれる鎧だった。

 どんなに高い戦闘力を持とうが、攻撃が通らなければ意味は無い。正に、対ヴィクター用の切り札だった。


 そして皮肉にも、その鎧に使われているアーマードホーンの素材は、ヴィクターが倒したものだったという事を、彼らが知る事は無かった……。



 * * *



-同時刻

@カナルティアの街 南門詰所


 ギルドを襲撃し、人質を助け出した俺達は、南門に人質達を送り届けた。殆どが受付嬢で女性だった為、危険を避ける為に街から避難することになるだろう。

 避難先は、グラスレイクだ。現在、周辺の村々も襲撃を受けており、街のレンジャー達が依頼を受けて、対処に当たっている。現在、安全な場所は俺が村長をしている、グラスレイクぐらいしか無い。


 ちなみに、避難を提案したのはフェイだ。既に村ではギルドの出張所用の建物が完成しており、出張所には職員用の仮眠室や、緊急用の医務室がある。充分に、彼女達を寝泊まりさせる事は出来る筈だ。それに、いざとなれば俺の別荘の空き部屋も提供できる。


 フェイとモニカも、安全のために避難して貰う予定だ。その為、ロゼッタにトラックを動かしてもらう事にして、カイナにロゼッタとモニカをガレージから連れて来てもらうよう頼んだ。

 その間、俺は支部長にこの事態について話を聞く事にした。


「連中、何が目的なんだ? 何でこんな事をしてるんだ?」

「……モルデミール。プルートさんは、そう言ってましたね」

「モルデミール?」


 モルデミール……セルディア北東部の地域だ。かつては大きなスタジアムがあり、様々なスポーツの大会が開かれていた。

 連合軍の基地や学校もあり、俺にとってはあのクソアマ教授に軍に売り飛ばされてから、しばらく地獄の日々を送った因縁の地だった。


「で、モルデミールが何だって?」

「モルデミール……【敵性都市】の一つです」

「敵性都市? 何だそりゃ?」

「ギルドに敵対的な街って事よ、ヴィーくん」

「昔、あの街にもギルドがあったのですがね……時の指導者が、軍拡に乗り出しましてね。ギルドに対しても、兵力の供出を要求してきたのです」

「私が生まれる前の話よ」

「……で、その時のギルドの対応は?」

「もちろん拒否しましたよ、ギルドは政治には不干渉ですから。……ですが要求は止まらず、時の支部長が殺されてしまいました。この件で、ギルドはモルデミールを敵性都市と認定し、報復にギルド本部からの攻撃部隊が街に攻撃を加えて、ギルドは街から去りました」

「攻撃ね……。連中それで懲りたんじゃないのか?」


 ギルドは、遺物の兵器を運用していた。攻撃と簡単に言うが、被った損害は大きかった筈だ。


「さあ、それは分かりませんが、完全に忘れていたのは確かです。あの辺りは閉鎖的で、今では交易もしてないですからね」

「なら、準備してたんだろうな。かなりの時間をかけて……」

「……そのようですね」

「それで、何で軍拡を?」

「あの地域は、これといった産業が無くて、この街と比べて貧しい地域なのです。ですがある時、崩壊前に軍が使っていたバンカーの扉が開き、そこから流れが変わりました」

「なるほど……。玩具を手に入れて、見せびらかしたかった訳か」


 大方、閉じられたバンカーに眠っていた崩壊前の兵器を手に入れて、それらを基に軍備を拡張。周辺の村や街を従えて、貧しい生活からオサラバという筋書きだったのだろう。

 ギルドの攻撃を受けた所で懲りずに、今になって再び牙を剥いた……とか、そんな感じなんだろうな。

 そういえば、ガフランクでAMと戦ったが、奴等がモルデミールの部隊だったと考えれば納得できる。


 人間というのは、いつの時代も愚かなものだ。強大な力を持つと、それを振るってみたくなるものだ。

 だが、俺も人の事は言えない。俺は奴等のように、無闇に暴力は振るわない様にしなければ……。


──ドンッドンッドンッ!


「失礼するっすよ〜。ロゼッタさん、到着したっす!」

「よし、じゃあ避難の準備するか。フェイも準備しとけよ」


 俺は詰所を出て、ロゼッタの元へと向かう。


「ヴィクター様、報告したい事が……」

「何だ、ロゼッタ?」

「北東からこの街に向かって、AMが12機程接近中です」

「12機……中隊規模か。さっき言ってた、モルデミールの奴らだな」

「内訳はAM-5 アルビオンが3機、AM-3 サイクロプスが9機です」


 AMは通常、4機で小隊を組む。恐らく、第二世代のアルビオンを隊長機に、サイクロプスが随伴しているのだろう。

 これが街に到達すれば、この内戦……いや、侵略戦争はモルデミールが勝利してしまう。


 高度な文明の産物は、容易に世界を壊し得る。俺は、今のこの世界を気に入っている。その世界を脅かす物を、俺は崩壊前の人間として、遺物を間違った事に使われる事を見過ごす事は出来ない。

 ……いや、違うな。崩壊前の人間の……とかそんなのじゃない。単純に、自分のエゴだ。


 何か、以前も同じ事言った気がするな。さっきまで、無闇に暴力は振るわないとか思っていたが、早速破る事にする。力を制するのは、やはり力のみなのだ。

 少なくとも、今回攻めてきたのはあちらの方だ。正当防衛という理論武装はできるだろう……。


「ロゼッタ、“セラフィム”を使う。そのAMの中隊を殲滅するぞ!」

「了解致しました」



 ……しばらく後、遠くの空に一筋の光の柱が空から伸びたが、内戦の騒ぎの中、誰も空を見上げる人間はいなかった。



 * * *



-数十分後

@カナルティアの街 南門詰所


「しかし、まさかフェイ嬢とヴィクター君が恋仲だったとは驚きましたよ」

「黙っていて申し訳ありません」

「いえいえ、いい事じゃないですか。結婚式には是非招待して下さいね」

「はい!」

「さ、そろそろ避難するのでしょう?」

「……本当に、支部長は避難しなくて良いのですか?」

「ええ、私はこの街を離れる訳にはいきません。ギルド本部に連絡も取れましたし、執行官も護衛についてくれます。しばらく、こちらでお世話になりますよ」

「で、ですが……!」

「それに、ヴィクター君もいます。何も心配することはありませんよ」

「……そうですね。では、どうかお気をつけて!」

「ええ、フェイ嬢も皆さんを頼みましたよ」


 フェイと支部長が、別れの挨拶をしていると、詰所の扉がノックされた。


──ドンドンッ!


「フェイ、そろそろ出るぞ。準備できたか?」

「ヴィーくん、今行くわ! それでは支部長、行ってきます」


 フェイ達は、ロゼッタが運転するトラックに乗って、グラスレイクに出発して行った。


「ヴィクター君、ちょっといいかな?」

「……何だ、支部長?」


 トラックを見送っていると、支部長に話しかけられた。


「君達に任務だ。自治防衛隊……いや、モルデミールと戦ってくれないかな?」

「冗談きついな。敵が何人いると思ってるんだ?」

「もちろん分かってる。だから、任務だよ。ヴィクター君、警備隊本部を解放してきてくれ。そうすれば、この戦況は大きく変わる筈だよ」

「ギルドは政治には不干渉なんじゃないのか? 一方の勢力に加担していいのかよ?」

「それは違います。彼らは、敵性都市の人間です。攻めて来た敵性都市に対して、街の人々と共闘するのに問題は無いですよ。それに、我々もこの街の人間なんですから……多少の贔屓は問題ないでしょう?」

「やれやれ、公私混同は良くないな」


 正直、何故プルートがこんな事態を引き起こしたのか、気にはなる。それに先程セラフィムで、モルデミールから来るAMの中隊に対して攻撃を加えた。

 敵の本拠地に乗り込んで人質を救出したり、敵がガレージを狙って来たりと、もう俺はこの戦いにかなり首を突っ込んでしまっている。今更、断る理由も無い。


「……分かった、報酬は期待してるぞ?」

「善処します」

「た、大変だーッ!!」


 俺が、支部長からの任務を受諾したその時、警備隊の隊員が大声を上げて、俺達を呼びに来た。


「どうした?」

「ロボットです! 崩壊前のロボットがやって来ましたッ!」


 隊員が指差す方を見ると、見覚えのあるテトラローダーが1台、警備隊に囲まれていた。ガフランクで敵から奪い、ミシェルの物となった機体だ。

 今まで完全に忘れていたが、どうもミシェルを追いかけて、ガフランクからついて来ていたらしい。テトラローダーは、不整地での使用は想定していない為、俺達より遅く、到着がズレたみたいだ。


「ああっ、君はッ!?」

「おい少年ッ! 危ないぞ、離れるんだ!!」

「大丈夫です、これ僕のロボットですから!」

「「「 僕のロボットォ!? 」」」


 異変に気がついたミシェルが、テトラローダーへと駆け寄る。当然、警備隊はミシェルを止めようとするが、ミシェルの口からは想像の斜め上の言葉が発せられたのである。


「ごめんね! まさか付いて来てるとは思わなかったよ」

「お、おい……大丈夫なのか?」

「大丈夫ですよ。ほら、踊ってみて!」

「ガガピーッ!」

「ね? ちゃんと、僕の言う事聞きますから」

「踊ってる……のか、これ?」

「一体どうなってるんだ?」


 ミシェルが命令すると、テトラローダーは身体を揺らし、踊り出した。その様子に、警備隊は混乱し、どうして良いか分からないようだった。

 ……ミシェルのフォローに回ってやるか。


「そのロボットは、ミシェル……その子の言う事を聞く。だから、お前達に危害を加える事は無いぞ」

「「「 ヴィクターさんがそう言うなら…… 」」」

「それに、このロボットが味方だと思うと心強くないか?」

「「「 た、確かに…! 」」」

「それから俺は今さっき、警備隊本部解放の任務を受けた。これから作戦会議を開く。もし付いて来たい奴がいたら集めといてくれ!」

「ほ、本当ですかッ!?」

「み、皆に伝えて来ます!」

「自分も行きます! 行かせて下さいッ!!」


 俺がそう言うと、テトラローダーを取り囲んでいた隊員達は散って行った。


「しかし、付いて来てるとはな」

「今、腕時計を確認したら、ちゃんと追従モードになってました……ごめんね」

「ピピッ?」


 ミシェルがテトラローダーに謝るが、テトラローダーはよく分かっていないような電子音を発するだけだった……。このゴタゴタが終わったら、ノア6で整備してやろう。


「ん? そういえば、籠が付いたままだな。という事は……おっ、こりゃ丁度いい!」

「あ、これって……狼旅団から奪った……」


 テトラローダーには、ガフランクで取り付けた運搬用の籠が付いたままになっていた。中を確認すると、狼旅団のキャンプを襲撃した際に鹵獲した武器が、入れっぱなしになっていた。全てガフランク自警団と一緒に整備した為、いつでも使用できそうだ。

 本来なら、あのままガフランクに寄付する予定だったが、ありがたく使わせてもらうとしよう。


 現在、南門は警備隊の臨時拠点として、各地で敗走した隊員達が続々と集まっている。彼らの中には、武器を失った者も多い為、これは好都合だった。


「よし、反撃開始だな!」


 これから始まる戦いに、気合を入れていたその時、伝令に来た隊員達が焦った様子で報告をしてきた。


「ヴィクターさん、大変ですッ! 自治防衛隊の大部隊が、警備隊本部に向かってるとの報告が入りました! 装甲車に、武装車両も多数います!」

「マジかよ……アポターの補充まだなんだぞ。やれるか…?」


 現在、アポターはガフランク防衛戦にて弾薬を消費しており、機関砲弾が数百発と、ミサイルが5発しか残っていないのだ。


「ヴィクターさん、大変ですッ!」

「またか……今度は何だよ?」

「侵入して来た野盗達が、北部地区での略奪を開始したそうです! このままでは、武器や弾薬が野盗達に流れてしまいますッ!」

「げっ……ジェイコブ神父のいる所じゃねぇか! まあ、あの人なら大丈夫……かな?」


 ジェイコブ神父は、元Aランクレンジャーだ。かなり強かったし、何とかなるか?

 だが、あそこは孤児院だし、子供達が犠牲になる恐れがある。しかも、弾薬工場みたいな所だし、敵に奪われると厄介だ。……応援を向かわせるべきか?


 色々と前途多難だが、引き受けてしまった以上、やるしか無い。俺は、全員を集めて作戦会議を開くことにした。





□◆ Tips ◆□

【敵性都市・地域】

 ギルドに敵対的だったり、ギルドの存在を拒んでいる街や地域の事。大抵の場合、独裁体制をとっていたり、軍事拡張路線を突き進んでいたり、変な宗教が蔓延していたりする事が多い。




【ト・ルータス装甲車】

 かつて連合軍の、主にセデラル大陸の国家で運用されていた、8輪の多用途装輪装甲車。モジュール化された車体が特徴で、任務によりモジュールを変更する事で、装輪戦車や、装甲兵員輸送車、戦場救急車、戦闘指揮車などの多彩な用途に使用する事ができた。

 ノア6にも数台保管されているが、金塊運搬やショッピングモールに突っ込まされるなど、碌な運用をされていない。

 カナルティアの街に存在する物は、最終戦争時にニュータウンの治安維持任務に動員された物で、大半が装甲兵員輸送車タイプ。自治防衛隊が所有しており、彼らの最強の戦力と言ってもよい。

 電脳による遠隔操作が可能だが、カナルティアの街の物は、長い年月により劣化しており、遠隔操作を受け付けない物が多い。


[モデル]ボクサー装輪装甲車

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