第114話 不穏な空気
-AM撃破の翌朝
@カナルティアの街 レンジャーズギルド
「アレッタ〜、ちょ〜暇ぢゃん」
「皆、狼旅団の対処に行ってますからね」
レンジャーズギルドの受付で、受付嬢のブレアが、同僚のアレッタに絡み始める。
いつもなら、朝のこの時間は混雑しているのだが、現在ギルドのロビーは閑散としていた。というのも、レンジャーの多くが、周辺の村からの救援依頼を受けて、狼旅団の対処に当たっている為、街にいるレンジャーは少なかったのだ。
「こら、だらしないわよブレア!」
「のわッ! すんません、フェイ姐さん!」
「全く……暇なら、溜まってる書類でも片付けたらどう? また、期限ギリギリまで溜めるつもり?」
「い、いや〜ちょうどやるとこだった感じなんで!」
「どうだか……」
「んじゃっ!」
ブレアは、受付の奥に引っ込むと、自分のデスクに積み重なった、書類のタワーを崩し始めた。
「でも、本当に暇ですよね。それにしても、何でまた狼旅団が……フェイさん、何か聞いてますか?」
「私も、何も聞いてないわ。まだ調査中ね。……そういえば、アレッタの実家って商会だったわよね? 何か聞いてないの?」
「いえ、特には……。父も色々と調べてはいるみたいですが、成果はないみたいです。せいぜい、自治防衛隊がガフランクにキャラバンを送るって情報を掴んで、それに便乗したくらいでしょうか」
「あっ、ヴィーくんが受けた依頼ね」
「父も、ヴィクターさんの活躍を知って、ビックリしてましたよ。彼なら仕事を任せてみたいって」
「そう、それは光栄ね。でも変な依頼はダメよ?」
フェイ達が雑談していると、ギルドの入り口が開かれ、数人の人間が入ってきた。皆、赤いシャツの制服を着ている……自治防衛隊の人間だ。
その先頭には、自治防衛隊のトップである、プルート・スカドールの姿があった。
「ようこそ、プルート様。本日はどのような用件でしょうか?」
「急な来訪申し訳ない。この頃問題となっている、狼旅団への対処について、支部長と至急協議したい事がありましてね」
「支部長に面会をご希望ですか? では、どうぞこちらへ」
フェイは、支部長室へとプルートを案内し、ギルドの奥に消えていった。
「何の話かな?」
「ブレアさん!? 仕事の方は……」
「いいのいいの。あんなの本気出せばらくしょーだって」
「は、はぁ……」
「あっ、アレッタ受付!」
「えっ?」
ブレアに指摘され、受付に顔を戻すと、そこには自治防衛隊の隊員が立っていた。
「あっ、ごめんなさい。何か御用ですか?」
「喋るな! 静かにしろ」
「えっ? ひっ、な、なにを……!?」
「ちょ……え、まぢ!?」
アレッタが隊員に話しかけると、隊員の男は突如拳銃を抜き、アレッタの額に突きつけたのだ。
「……執行官、来てッ!」
「……ッ!」
「あがっ!」
「ぶ、ブレアさん!?」
ブレアが声を上げて、執行官を呼ぶ。隊員の男は、拳銃を握った腕とは逆の腕をブレアに伸ばすと、その胸倉を掴み引き寄せてから突き飛ばす。
ブレアは体勢を崩し、その場に倒れる。
「ブレアさん、大丈夫ですかッ!?」
「……って〜、女の子に手を上げるとか、まぢあり得なくない!?」
「喋るなと言った筈だ! 次は殺すぞ!」
「はいはい……分かったっての」
いつの間にか、ギルドの入り口からは、武装した自治防衛隊の隊員達が次々と入ってきて、入り口を封鎖されてしまった。
そして、ブレアの声を聞き付けて、執行官の二人がロビーに出てきた。だが、アレッタ達が人質になっているのを見ると、すぐさまお互い顔を合わせた後、手を上げて降参した。
* * *
-同時刻
@レンジャーズギルド 支部長室前
「……?」
「どうかされましたか?」
「い、いえ……ロビーの方が騒がしい気がして」
「ああ、申し訳ない。部下達がどうしてもお供すると言って聞きませんでして。おそらく、大勢でギルドに押しかけてしまっているのでしょう」
「はあ……そうでしたか」
──コンッコンッコンッ
「支部長、お客様をお連れ致しました。自治防衛隊のスカドール様です」
「どうぞ」
フェイが支部長室のドアをノックして、中にプルートを案内する。
「これはプルートさん、ようこそいらっしゃいました。今日はどのようなご用で?」
「どうも。デロイト支部長もお変わりないようで……」
「ああ、フェイ君……お茶をよろしくお願いします」
「かしこまりました、支部長」
「いえ、その必要はありませんよ」
そう言うと、プルートはフェイを抱き寄せて、羽交い締めにすると、その頭に拳銃を突きつけた。
「きゃっ! な、何を……!?」
「おっと、動かないで下さいよシスコ・デロイト。私は貴方とは違って、戦闘は慣れていないのでね。つい引き金を引いてしまうかもしれませんよ?」
「……何のつもりですか?」
「入れッ!」
プルートの掛け声と共に、支部長室のドアが蹴破られ、部屋の中に自治防衛隊員が数名なだれ込んで来る。そして、プルートの両脇に整列すると、銃を支部長に向けて構える。
「きゃっ! こ、これは一体……!?」
「そいつも見張っておけ」
「了解しました!」
「きゃっ!? ちょっと、離しなさいよ!」
プルートはフェイを隊員達の元へ突き飛ばし、連行されていくのを見届けると、拳銃を支部長に向ける。
「あまり、ウチの職員に乱暴な事はしないで頂きたいのだがね……」
「それは貴方次第ですね。まずは両手を挙げてもらいましょうかね?」
「分かりました。……で、貴方達は一体何が目的ですか?」
「カナルティアの街の占領ですよ」
「ほう、それはまた大胆な……。それで、“占領”といいましたが、この街を手に入れて、独裁者にでもなるおつもりかな?」
「独裁者? フフ……まさか。私は閣下の忠実な僕に過ぎません。上に立つ者は一人で良いのです」
「閣下?」
「モルデミール……と言えば、分かるでしょうかね?」
「まさか……。プルート・スカドール……貴方は一体?」
「おっと、つい喋り過ぎましたね……。連れて行きなさい!」
「「「「「 はっ! 」」」」」
「……申し訳ないが、このステッキが無いと歩けないのでね。これだけは勘弁してもらえないかな?」
* * *
-数時間後
@街西部地区 警備隊本部 会議室
「一体どういう事だッ!?」
「今言った通りだ。警備隊は本日をもって解散。貸与している装備は返却し、設備は自治防衛隊に引渡すように……」
「だから、どうしてそうなったかって聞いてんだよッ!」
「この決定は、議会の総意で決まった事だ。君に説明する必要は無いよ、マイズナー君」
「チッ、クソが……!」
警備隊本部の会議室には、偉そうな男達が椅子に座っており、警備隊の制服を着た男と揉めていた。この偉そうな男達は、警備隊のスポンサーである、街の商工会の幹部達……つまるところ、議会の議員達だ。
彼らは、警備隊の現場指揮官である男に、突如警備隊の解散と、武装解除、及び自治防衛隊への仕事の引継ぎを要求してきたのだ。
「おい。今朝、自治防衛隊の連中がギルドを抑えたらしいじゃねぇか、あれは一体何なんだよ!?」
「さあ、我々にはあずかり知らぬ事だ」
「何か問題でもあったのだろう?」
「それより、さっさと動いたらどうかね? この分だと、君の退職金は0Ⓜ︎という事でもいいのだがね」
「ふぉっふぉっふぉっ……そいつは傑作ですなぁ!」
「ゲラゲラゲラゲラ!」
「……ああ、分かったよ」
そう言うと、指揮官の男は会議室を出て行った。
「いやはや、それにしてもスカドール家には感謝ですな!」
「全くその通り、今回はウチもたんまりと稼がせていただきましたよ!」
「フフフ……笑いが止まりませんなぁ!」
「ふぉっふぉっふぉっ!」
「そういえば、自治防衛隊がレンジャーズギルドを制圧したという事は、職員も捕らえられたのですよね?」
「ええ、おそらく。……それが如何した?」
「いえ……幾ら出せば、職員が買えるかなと思いましてね」
「おやおや、闇奴隷ですか? 相変わらずお好きですなぁ」
「確かに、受付嬢は一度抱いてみたいですなぁ!」
「まさに、男の夢!」
「そういえば、受付嬢にはブランドール商会の令嬢もおりましたな……」
「上手くすれば、ブランドール商会と、質の良い闇奴隷を同時に手にできますな!」
「私は、ギルドの金庫に幾ら入ってるかが気になりますがね」
会議室が欲に塗れた空間と化していたその時、けたたましいサイレンが鳴り響いた。
──ウゥゥゥゥゥゥッ!!
「な、何だこれは!?」
「戒厳令のサイレンだとッ!?」
このサイレンは、警備隊本部……旧消防署から発せられたサイレンで、崩壊前は大規模な火災や、災害発生時に鳴らされるものだったものだ。
崩壊後は、街の非常事態に鳴らされる事になっており、これが鳴らされると街は戒厳令が敷かれ、住民の外出が禁じられ、住民は警備隊などの指示に従う事になっていた。今回鳴らされたのは、10年前のデュラハン襲撃事件以来であり、あの時の事を覚えている者は、恐怖に
街全体に響く程の、大きなサイレンが鳴り響き終わると、今度は野太い男の声が響いた。
『あー、警備隊指揮官のノーマン・マイズナーだ! 警備隊の全隊員に告ぐ! 先程我々は、議会の決定により、解散を命じられた! その後、仕事は自治防衛隊が引き継ぐそうだ……』
「お、驚かせおって……デュラハンでも街に入って来たかと思ったわ!」
「全く、伝えるにしてもやり方があるでしょうに! 使えないッ!」
「彼の退職金は払わなくて良さそうですな」
「まったく」
警備隊の解散を告げるのだと、会議室の一同がそう思っていた。だが、その予想は大きく外れる事になる。
『だが、俺は認めないぞッ! 議会の連中、何か怪しいからな!』
「あの馬鹿が! なんて事をしでかすんだ!」
「ああ、スカドール家に何と弁明しよう……」
『……そう思って、事前に連中がいる会議室に仕掛けを仕掛けておいた。そしたらこうだ!』
『いやはや、それにしてもスカドール家には感謝ですな!』
『全くその通り、今回はウチもたんまりと稼がせていただきましたよ!』
『フフフ……笑いが止まりませんなぁ!』
「「「「「 んなッ!? 」」」」」
議員達は、愕然とした。何と、先程の自分達の会話が、大音量で街中に放送されてしまっていたのだ。何処かに、盗聴器が仕掛けられていたらしい。
『……って訳で、自治防衛隊は怪しい! 自治防衛隊には武装解除と、捜査受け入れを要求するッ! それから全警備隊員に命じる────』
暫しの沈黙の後、この街の運命を決める決定的な言葉が放送された。
『現刻を持って、警備隊は武装した自治防衛隊との交戦を許可する! 分かりやすく言うぞ! 武器を持った赤シャツは全員撃ち殺せ! 責任は全部俺が取る! 街の住民達は、巻き込まれないよう、家から出ない事を勧める。繰り返す────』
「ど、どどどどうしましょう!?」
「とりあえず、ここから逃げましょう!」
全員が席を立ったと同時に、会議室のドアが蹴破られ、武装した警備隊の隊員達がなだれ込んで来た。
『動くな! 全員取り押さえろッ!!』
「お、お前達! 何のつもりだ!?」
「我々が誰だか分かっているのか!?」
「い、痛いッ! ワシの腕は、そっちには回らんのだぞ!?」
「なっ! 何をするだァーッ!」
議員達は、警備隊に次々と捕縛されると、何処かへと連行されて行った。
* * *
-数十分後
@警備隊本部 駐車場
「た、隊長〜!」
「ん、何だ新入り?」
「何だじゃないですよ! とんでもない事したじゃないですか!?」
「怖気づいたか? だったら参加しなくても良いんだぞ?」
「いや、ここで行かなきゃ男が廃るってモンでしょ! 自分は隊長について行きますよ!」
いつも、ヴィクターやカティアから『おっさん』と呼ばれ、警備隊員からは『隊長』と呼ばれているこの男……ノーマン・マイズナーは、新入りの肩をバシバシと叩いた。
「何だ、言うようになったじゃないか、ええ!?」
「痛ッ! ちょっ、本当に痛い……いったぁッ!」
「……よし、行くぞ! 乗れッ!」
「……はいっ!」
二人は、意気揚々と目の前に停められている真っ赤な車……崩壊前は消防車と呼ばれていた車に乗り込んだ。
「よし、行くぜッ!」
ノーマンは、車のエンジンを入れるべく、セルモーターを回す。
──キュキュキュキュキュ!
──キュキュキュキュキュ……
……が、反応は無かった。
「ありゃ?」
「……隊長?」
その時、近くを歩いていた警備隊員がノーマンに残念な報せを告げる。
「あっ隊長……その車なんですけど、前メンテナンスした時に、何か動かなくなっちゃったんですよ」
「な、何ィ!? 何で、メンテナンスしたら壊れるんだよ、普通逆だろうがッ!?」
「さあ〜、何でですかね?」
「隊長、報告します! 自治防衛隊の部隊が、こちらに接近中との事です!」
「なっ、早くないか!?」
「そりゃあ、あんだけ啖呵切ったんですから、敵も黙って無いですよ!」
「うるさいぞ、新入り!」
「あいったッ! 酷ォ!」
「総員、戦闘準備だ! 武器庫からありったけかき集めて来い!」
「「 了解ですッ! 」」
「……隊長」
「何だ、新入り?」
「自分、不参加でいいですか?」
「却下だ!」
* * *
-昼
@レンジャーズギルド ロビー
自治防衛隊に占拠されたレンジャーズギルドでは、職員達が監視の下、ソファーに座らせられていた。喋る事は許されず、皆無言で座っている。
執行官や支部長に関しては、武装解除された上に腕を縛られて、目隠しまでされていた。
アレッタはガタガタと怯えてしまい、隣に座るブレアがその肩を抱いて宥めていた。
外からは、銃声や爆発音が聞こえている。先程、戒厳令のサイレンと放送で、警備隊と自治防衛隊の戦闘が始まった事は分かったが、この街は一体どうなってしまうのか……。
プルートは、ギルドを占拠した後に何処かへ行った為、現在は見張りの隊員達しかいない。
(ヴィーくんにこの事を知らせないと……!)
フェイは、そう考えて行動に移す事にした。
「ねぇ、ねぇちょっと!」
「喋るな! 殺されたいのか!?」
「お願い、お花摘みに行きたいのだけど……」
「はぁ!? 何言ってるんだ貴様?」
「だから、トイレに行きたいって言ってるのよ! 鈍感ねッ!」
「なっ!?」
見張り達は集まると、ヒソヒソと話し合った後、見張りの一人がフェイの腕を掴む。
「立て!」
「痛ッ! ちょっと、もうちょっと優しくしてよ!」
「黙れ!」
見張りがフェイをトイレの前に連れて来ると、そのまま女子トイレまで付いて来る。
「ちょっと、ここ女子トイレよ!?」
「分かってる!」
「分かってて入るの!? この変態ッ!」
「なっ!? 怪しい事をしないか見張るだけだ、俺は変態じゃないぞ!」
「はぁ……分かったわよ」
そのまま、フェイは見張り同伴で女子トイレの中に入ると、個室の中に入る。そして、ドアを閉めようとするが、見張りに止められてしまう。
「待て、ドアは開けたままだ」
「はぁ、冗談でしょ!? この変態ッ! スケベッ!」
「ぐっ……な、何と言われようと、ダメだ!」
「……ここで騒いだら、どうなるかしら?」
「何?」
「キャーッ、この人変態よッ! ……とか?」
「や、やめろ! ほ、ほら、後ろ向いてるから」
「きゃーッ! 助けてぇ! この人へんた……ムググッ!」
「だーッ! もう分かった、分かったから! さっさと済ませろ!」
見張りは、フェイの口を閉じると、個室のドアを閉めた。
(よしっ、今のうちに……!)
フェイは、“腕時計”を操作して、全員にメッセージを送信した。
* * *
-同時刻
@エルハウス邸 食堂
エルハウス家で昼食をご馳走になった後、食後のお茶を楽しんでいると、ミシェルの今後について話題になった。そろそろ街に帰るところだったし、丁度いいかもしれないな。
「そういえばミシェルは、この家に帰って来たって事でいいのか?」
「えっ? いや、またカナルティアの街に戻るけど……」
「「「「 何だって!? 」」」」
カチャンと食器が落ちる音が響き、マシューを除く、4人の兄弟の視線が俺に集中する。
「……お前達、騒々しいぞ」
「兄貴! 何でそう平然としてるんだよ!?」
「ミシェルがまた出てくんだよ!? 嫌だよね?」
「ヴィクターと話し合ってな……彼に、ミシェルを任せる事にした」
「「「「 何だって!? 」」」」
「だから、騒々しいぞ!」
マシューの発言に、兄弟全員が驚愕の表情を浮かべる一方、ミシェルも目を見開いて驚いた表情をしている。
「マシュー兄さん? いいの!? 反対してたんじゃ……」
「反対だ。……だが、それでもミシェルは出て行くんだろう?」
「……うん、もう決めた事だから」
「それに、家に留めて置いても、どうせまたすぐに家出をするだろうしな」
「うっ……」
「それに、ヴィクターなら信用できそうだ。ヴィクターとも話し合ってな……彼にミシェルを任せてみる事に決めたんだ」
「マシュー兄さん……ありがとう!」
「ほら、お前達もミシェルの決めた事を応援してやってくれ!」
「「「「 ……ミシェルを、よろしくお願いします! 」」」」
「お、おう……任せとけ!」
さっきまで睨んできた兄弟達が、一転して心配そうな顔付きで、俺に頭を下げてくる。やはりミシェルは愛されているんだな……。彼らの為にも、ミシェルは責任を持って教育していかなくてはな。
だが、せっかくの感動的な場面だったのに、マリアさんの一言が全てをめちゃくちゃにしてしまった。
「ミシェル……良かったわね、お嫁に行く許可が貰えて!」
「うん、お姉ちゃん! 皆、僕幸せになるから!」
「「「「「「 ぬわぁ〜にぃぃッ!? 」」」」」」
兄弟達は、今度はマシューも含めて大きな声を上げた。あっ、俺も上げてたわ……。
何だよ、嫁って! そんなの聞いてないぞ!?
「マリア、どういう事だ!?」
「あらマシュー、聞いてないの? ミシェル、ヴィクターさんと一緒にお風呂に入ったんですって! それも、お互いに裸で」
「んなっ、それは本当なのか!?」
「ああ、確かに以前、そんな事があったな……」
ミシェルが女の子だと発覚したあの日だ。あの時までは、男の子だと思ってたんだっけ。
そういえば、ミシェルの故郷では裸を見せるのは家族だけとか何とか言ってたな。つまりその理論だと、俺とミシェルは家族に……夫婦になってしまう訳だ。……妹とかじゃダメかな?
「おいヴィクター、聞いてないぞ!」
「待て、あれはちょっとした事故みたいな物で────」
「事故? 事故だと!? 大事な夫婦の契りの儀式を、事故だと言うのか貴様ァ!?」
「そんな大層なもんじゃ無いって! 何かと勘違いしてないか!?」
やべ、地雷踏んだかも……。それから、この様子じゃ妹って線はダメっぽいな。
そういえば、ミシェルを俺の妹に……とか言ってたら、この兄弟達が発狂しかねないな。何かシスコンっぽいし、危ないところだったかもしれない……。
それよりも、マシューがカンカンだ。他の兄弟と比べて冷静だと思っていたが、そんな事は無かったらしい。
とりあえず、こういう時は誠意を持って堂々と……だ! 確か、何かで見た。
「……俺に、ミシェルを下さいッ!」
「「「「「 ダメに決まってるだろうがッ! 」」」」」
「……マシュー義兄さん」
「やめろッ! そんな風に呼ばれたくは無いッ!」
「えっ……ヴィクターさん!? な、なんか僕照れちゃいますよ……えへへ♡」
「何やってんのよヴィクター」
「うるさいぞカティア」
俺の人生で最大の敬意を込めたつもりだが、ダメみたいだな……。もう、どうすりゃいいんだよ。
「ちょっと皆、ミシェルが決めた相手にケチつける気なの!?」
「マリア姉さんの言う通りだよ! さっき皆、僕が決めた事を応援するって言ったよねッ!?」
「そ、そんな事は知らなかった! 撤回だッ!」
「ハーレム野郎に、ミシェルをやってたまるか!」
「そ、そうだそうだ!」
「ジュディさんだけでなく……俺達のミシェルまで……」
「畜生ッ! 俺もレンジャーに転職するぅ!」
「「 ミシェルねぇちゃん、けっこんするの〜!? 」」
「そうよ〜、みんなお祝いしなきゃね♪」
「「 わぁ〜、おめでと〜っ!! 」
「おいマリア、子供達に変な事を吹き込むんじゃないッ!」
もうやだ……。
エルハウス家が紛糾する中、突如フェイから緊急の連絡が入った。
「ん? ……な、何だってッ!?」
「どうしたの、ヴィクター?」
「全員、腕時計を確認しろ!」
「あっ、フェイから連絡が……って何よこれ!?」
「全員、急いで準備だ! 今すぐカナルティアの街まで帰るぞ!」
俺の号令に、カティア達は席を立って、急いで食堂を出て行った。
そのただ事じゃない雰囲気に、エルハウス家の一同も口を閉じて、その様子を伺っている。
「ど……どうしたんですか、ヴィクターさん?」
「ミシェルも、腕時計を確認しろ!」
「はい……ええっ、そんな!?」
「何だそれは、ミシェル?」
「マシュー兄さん、ごめんなさい。僕、行かなくちゃ!」
「あっ、待てミシェル! おいヴィクター、一体何なんだ!?」
「カナルティアの街で、内戦が勃発したらしい!」
「なに!?」
「すまないが、ミシェルの話はまた今度だ!」
「あっ、おい! ちょっと待て、意味がわからんぞ! ちゃんと説明しろッ!」
俺達は、急いで準備を済ませると、全員でアポターに乗り込んだ。
今回は、ノンストップでカナルティアの街に向かいたいので、少々狭いかもしれないが、全員アポターで過ごしてもらう。ビートルは、自動運転でアポターに追従させて、ジュディのバイクはアポターの車体後部に積んだ。
《ロゼッタ、話は聞いてるな!?》
《はい、伺っております》
《フェイも心配だが、ガレージにいるモニカも心配だ! ロゼッタ、出られるか?》
《はい。ですが、今回は如何致しましょうか? AMですか? それともヘリコプター?》
《……いや、以前俺が作った車があるだろ? あれに、指定する補給品を積んで、街に直行してくれ!》
《冬の間、ヴィクター様がお造りになったあの車ですね。了解致しました》
状況が飲み込めず、ポカンとしているエルハウス家の面々を尻目に、俺達はカナルティアの街へと出発した。
そして、アポターとビートルの後を追うように、1台のテトラローダーが動き出した……。
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