第112話 本隊襲来

-狼旅団のキャンプ襲撃後 深夜

@エルハウス家 客間


 エルハウス家に帰った後、客間を貸してもらえることになり、泊めてもらえることになった。正直、アポターでも良かったのだが、マシューの好意を無碍にはできない。

 せっかくなので、ここはお言葉に甘える事にした。


 カティアとジュディ達女性陣は、ミシェルの部屋にお呼ばれしていた。……何故かマリアさんも一緒に。

 ミシェル曰く、ミシェルの部屋は屋敷で一番大きな部屋らしく、ベッドも複数人でも余裕な程大きいらしい。……お嬢様だな。

 マシューも、マリアさんやミシェルの護衛になると賛成していたので、俺は一人寂しく夜を過ごす事になった。


 一人になってしまった俺は、気になっていた狼旅団の本隊について探るべく、ロゼッタと電脳通信でやりとりしながら、衛星を使ってガフランク周辺を偵察していた。

 しばらくして、それらしき反応は見つけることができた。


《これか? かなりの数の車両を持ってるみたいだな……》

《間違いないかと。それと、気になる点が》

《何だ?》

《IFF(敵味方識別装置)に反応があります。この反応は恐らく、AM-3 サイクロプスの物と思われます》

《AM!? 何だってこんなところに?》


 AM……以前、セルディア中央銀行の金塊を頂いた時、ロゼッタが乗っていた兵器だ。大体、10m程の人型機動兵器で、人間が電脳化を始めた時に確立してきた兵器だ。


 AMは、元々共和国陣営の作業用機械で、南極大陸開拓に用いられる予定だった。しかし、各国の猛反発を受けて、その開拓事業は頓挫してしまった。

 そうして役目を終えるかと思われたAMだが、今度は連合により宇宙開発や兵器としての利用がされるようになり、崩壊前はAMといえば陸戦兵器の代名詞だった。


 人型のロボットには色々と弱点はあるが、AMの最大の強みは、電脳直結操縦が可能という所にある。つまり、自分の身体を動かすのと同じ要領で、操縦ができるのだ。その為、操縦者はさながら巨人になった気分になるそうだ。


 そんな兵器だが、第一世代型や、第二世代型といった古い機種は、作業用機械時代の名残で、操縦桿によるマニュアル操縦が可能だ。電脳直結操縦の関係で、本来ならそんな物必要無いのだが、共同開発元である共和国側の強い要望で残されていたらしい。

 それを利用すれば、電脳化していない崩壊後の人間でも、動かせない事もないだろう。ただし、AMをレストアできる高い技術力が必要になるが……。


《AM-3は第一世代型です。ですので、こちらから遠隔操縦する事はできません。敵が固まっている今の内に、セラフィムで戦術攻撃を仕掛けてはいかがでしょうか?》

《いや、だめだ。絶対に大騒ぎになる。それに、まだAMだとは限らないんだろ?》

《断言出来ませんが、確率は高いですね》

《武装車輌については、明日の内に対策を練る。それに、もし相手がサイクロプスだとしても、何とかできる筈だ》

《もしもの時は、お気をつけ下さいね》


──コンコンコンッ


《誰かきたな。ロゼッタ、また後で……》

《はい。おやすみなさいませ……》

「ヴィクター、まだ起きてるか?」

「ああ、どうぞ」


 突如、客間のドアがノックされて、マシューが入って来る。


「疲れてる所、悪いとは思ったんだが……」

「いや、ちょうど寝付けなかったんだ。気にするな」

「そう言ってくれると助かる。……どうだ、一杯やらないか?」


 そう言うマシューの手には、酒瓶とグラスが握られている。


「ああ、美味い酒は大歓迎だ」

「それなら期待してくれ。ウチで作ってるウイスキーだ」


 二人で客間のソファーに腰掛け、グラスに注がれたウイスキーを持ち、乾杯する。


「これは……ブレンデッドか」

「ああ。もしかして、口に合わなかったか?」

「いや、美味い。正直、ウイスキーはシングルモルト派だが、これは美味い……。街で飲んでたウイスキーはもう飲めないな!」

「それは良かった。一応、商人にも卸してはいるが、熟成の関係で数は少なくてな。殆どが、自分達で楽しむ為に取って置いてあるのさ」

「文字通り、とっておきって訳か。そりゃ美味いわけだ! ……それで、何か俺に用があったんじゃないか?」

「ああ、先程の奇襲作戦の礼を言いたくてな。遊撃隊に同行したお仲間も、随分と活躍したそうじゃないか」

「それは、ミシェルに言ってくれ。俺達はただ、仲間の為に手を貸しただけだ。それと、初対面の俺達を信用してくれたマシューの采配だな」

「そうか……だが、ガフランクを代表して礼を言う。ありがとう、感謝する」


 マシューは、グラスをローテーブルに置くと、しばらく沈黙した後、口を開く。


「ミシェルはその……レンジャーとして、やっていけると思うか?」

「……どういう意味だ?」

「ハッキリ言えば、私はミシェルには向いていないと考えている。あんな小さな身体で、命を張ってるなんて……考えただけで恐ろしい! ミシェルには、一刻も早くこの家に帰って来て欲しいのだ」

「確かに、一人じゃ生きていくのは難しいだろうな」


 ミシェルはまだ14歳で、しかもクエントに破門されている。俺達が手を差し伸べなかったら、一体どうなっていただろうか?


「だろう? だったら──」

「一人ならな……だが、今は俺達がいる。仲間がいる。それに、今後はどうなるかまだ分からないだろ?」


 確かにマシューの言う通り、ミシェルには向いていないのかもしれない。心配なのも、よく理解できる。だが、今後の成長は期待してもいい筈だ。ロゼッタも、ミシェルは飲み込みが早いと褒めていたしな。

 ここで、ミシェルの夢と可能性を潰してしまって良いのだろうか? いや、良くはない!


「それに、ミシェルの夢なんだろ? それを潰しちまっていいのかよ?」

「それは! そうなんだが……」

「街だって、思ってるほど悪い人間ばかりじゃないぞ?」

「それは、ヴィクター達を見れば分かるさ」

「そう心配するなよ。今だって、仲間達と部屋で一緒だろ? それに、可愛い子には旅をさせよってよく言うだろ? 手元に置いときたい気持ちも分かるが、ミシェルの為にも認めてやったらどうだ? 現に、さっきも奇襲を成功させたんだしさ」

「そうだな。……頼んでもいいか? ミシェルの事を」

「ん〜そうだな。そういや、報酬の話だが……このウイスキーも貰えるか? それで手を打とう」

「フフフ、成る程な……。変な奴より信用できるな。分かった、樽で用意しよう」

「マジか、そんなにくれるのかよ!?」

「……ミシェルの事、よろしく頼む!」

「ああ!」



 * * *



-2日後 昼

@エルハウス家 食堂


 あの後、狼旅団の本隊の動向をマシューと話し合って、対策を練る事にした。その結果、街道に罠を張ったり、購入した迫撃砲などの兵器の使い方を訓練するなど、基礎的なものに落ち着いた。


 俺達は、インストラクター的な立場で自警団の訓練を手伝ったり、ミシェル達はあちこちに罠を仕掛けに行ったりと、本隊の襲撃に備えて準備していた。

 衛星からの情報だと、敵にまだ動きは無いが、数日中には攻めて来ると思われる。


 午前の訓練がひと段落し、昼食の時間となった。エルハウス家の食堂に入ると、ノーラとモーリスが何やら口論をしていた。

 奇襲作戦の時に何かあったらしく、この2日間で二人は仲良く?訓練に明け暮れていた。


 それにしてもノーラも、初めて会った時は感情表現が乏しいと感じていたが、大分明るくなってきたな……。良い傾向だろう。


「クソッ! 次は負けねーぞ、ちんちくりん!」

「はぁ、お子ちゃまが……」

「な、何だと! 年下の癖に!」

「数ヶ月違いで、ほぼ同い年でしょ?」

「うるさい! だったらお前もお子ちゃまだろ!」

「ふっ……私はもう、大人の女だから」

「は? 何を言って……」

「ね、ご主人様?」


 ノーラが、俺の左腕に抱きついてきた。

 一方、モーリスは俺とノーラを見比べると、驚愕の表情を浮かべた。


「なっ!? あ、アンタ……ジュディさんという女性ひとがいながら……!」

「アタシが何だって?」

「作業終わったっすよ〜!」

「あっ、ジュディさん!」


 ジュディとカイナが、ガフランク東部の避難誘導の手伝いから帰って来た。間違いなく、敵の本隊が攻めて来る以上、戦場になりそうな地域の農家には避難してもらう事になったのだ。


「ジュディさん! この男、他の女性と関係持ってますよ!」

「……だから?」

「へっ?」

「それなら、ウチも関係あるっすよ?」

「な、何だって!?」

「あ、ノーラずるいっす! ウチも混ぜるっす!」


 今度は、カイナが右腕に抱きついて来る。


「……ヴィクター? さっきから無言だけど、調子悪いのか?」

「……この2日間、俺は我慢してたんだ」

「えっ、急に何? どしたのさ?」

「ご主人様?」

「どうしたっすか?」

「皆夜になると、ミシェルの部屋に行きやがって……」

「「「 あっ…… 」」」

「それなのに、こんな風に密着されてさ……俺は今、必死に耐えてるんだ。流石に、他人の家で問題起こす訳にはいかないからな?」

「「 ご、ごめんなさい! 」」


 ノーラとカイナは、俺から離れた。

 ミシェルの部屋では、毎晩パジャマパーティーが行われており、俺は寂しい夜を二晩も過ごしているのだ。そろそろ爆発しそうだった。


「……今夜、3人でそっち行くから」

「待ってるぞ……」

「えっ、ウチらもっすか!?」

「アタシだけじゃ、収まりそうにないし……」

「ジュディの秘密を探るチャンス」

「確かに!」

「おい」

「くそぅ……俺も自警団辞めて、レンジャーに転職しようかなぁ……」


 ヴィクターのハーレム状態を目の当たりにしたモーリスは、本気でレンジャーに転職しようか考え出していた。最も、ヴィクターの場合は特殊なので、レンジャーになればモテる訳ではないのだが……。

 そもそも、モーリスはイケメンなので、声を掛ければ大抵の女性は落ちるはずだが、不幸な事にガフランクに彼のタイプの女性はいないのだった……。



 その後、カティアとミシェルが罠の設置作業から帰り、エルハウス家のメンバーが集合して、昼食となった。



 * * *



-数時間後

@エルハウス農園 邸前広場


「て、敵襲だ!」


 昼食後、奇襲した時に敵から鹵獲した武器を、自警団員達と整備していると、馬に乗った団員が敵の来訪を告げた。


「ドーソン農園の方から、ゆっくりと車列が近づいて来てる! 至急、臨戦態勢を!」


 その報告を受け、周りは一斉に慌ただしくなる。

 衛星で敵の動きを確認すると、30台程の武装車両が間隔を取りつつ、じわじわとここエルハウス農園に迫って来ていた。先日のブービートラップのおかげで、警戒しているようだな。


「ヴィクター、奴らが来たらしいな!?」

「読み通りだな! ゆっくり近づいて来てるらしい」

「ああ、ここが踏ん張りどころだ! 俺は指揮に戻る。ミシェルを頼んだぞ!」

「任せろ、マシュー!」


 俺は、アポターに戻ると、出発準備を整える。



 * * *



-数時間後

@ドーソン農園 エルハウス農園への街道


「リロイ曹長、今のところ順調でありますね!」

「油断は禁物だぞ? 敵のブービートラップで、仲間が死んでいる。きっと、何か仕掛けてくるはずだ!」

「でも、その為に間隔開けてゆっくり進んでるんでしょう? あっしなら、何も考えず突撃しちまいまさぁ!」


 リロイは、旅団長マーカスから車両部隊の指揮を任されていた。リロイは、先日のヴィクターが仕掛けたブービートラップのせいで慎重になってしまい、こうしてノロノロと進軍していたのだ。


「しっかし、これじゃ自慢の高機動戦闘ってのはできませんな」

「嫌味か? だが、分からないでもない。正直、自分でもこの現状には苛ついているんだ」


 狼旅団が使用している車両は、少々特殊な物だ。ギルド製の車をコピーして、改造されたソレは【ウルフパック】と呼ばれている。

 それぞれ通信機を搭載しており、軽快な走破性を活かし、敵のトラックなどを複数両で包囲して、集中攻撃を加えるという連携戦法を得意としていた。その為、狼旅団の団員達は、このノロノロとした現状に若干苛ついていたのだ。


──ヒュルルル……


「ん? 何の音だ?」


──ドガァンッ!!


 上の方から風を切る様な音が聞こえてきたと思ったら、今度は車列の後方から爆発音が聞こえてきた。


「なっ!? 迫撃砲か! 総員、散れッ! 全速で前進せよ!」

《了解ッ!》


──ヒュルルル……ドガァンッ! ドカーンッ!


 先程の砲撃を皮切りに、次々と迫撃砲による砲撃が車列に降り注ぐ。砲撃により、次々と車両が吹き飛ばされていく。

 リロイの指示により、ある者は街道を全速で前進し、ある者は農園の畑に侵入し、ある者は迫撃砲を片付けようと砲撃地点に向かって行った。


 だが、リロイの恐れていた事が発生した。味方が次々と罠にかかっていったのである。


《こちらウルフ13、敵の砲撃地点に接近中!》

《こちらウルフリーダー、罠に注意されたし!》

《いたぞ……敵をはっけ……ぬわっ! こ、これは落とし穴!? ダダダダダダッ……ザ…ザザ……》

《ウルフ13!? 何があった、応答しろ!?》


《こちらウルフ6! 畑の中に、金属製のスパイクが仕掛けられてる! タイヤがパンクして動けねぇ!》

《う、牛が突っ込んでくる!? う、うわぁ〜!!》

《こ、小麦畑……の中に……バリスタが……注意され、たし……ザザザ……》

《モルデミールに栄光あれぇ!》

(味方が次々とやられている……このままでは!)


 リロイが撤退の指示を出そうとしたその時、前を走っていた車両が突如横転した。リロイ達の車は、動線を遮られる形となり、急停車する。


「どうした、大丈夫か!?」


 前方の車に向かって呼びかけるも、応答がない。そして、後部銃座に乗っている部下の一人が、敵の攻撃だと気がついた。


「曹長、敵の攻撃です! 事故じゃありません!」

「何だと! 至急、発進だ!」

「りょ、了解でさぁ!」

「敵の攻撃地点は、分かるか?」

「あの方角かと……一瞬ですが、弾道の様な物が見えた気がします!」


 リロイは双眼鏡を手にすると、敵の攻撃地点と思われる地点を見る。するとそこには、いるはずのない車両が見えたのだ。

 先のキャラバン襲撃作戦の生き残りから報告を受けていた、射程外から攻撃してくる怪物トラック。その特徴に合致する車両が、リロイの双眼鏡に映し出されていたのだ。


「馬鹿な! まさか、ガフランクに残っていたというのか!?」


 そしてリロイは、その怪物トラックの砲塔から火が噴いた光景を目撃し、それが彼の最期に見たものとなった。



 * * *



-同時刻

@ガフランクの街道 アポター車内


「もう一両撃破しました!」

「よし、引き続き頼む」

「ミシェル、楽しそうねソレ……ねぇ、次は私にもやらせてよ!」

「やめろ、カティア。ほら、次俺の番なんだからカード引かせろよ!」

「う……」


 ミシェルが端末を弄って、狼旅団の車両を次々と撃破していく。さらに、他の車両も自警団や、事前に張っていた罠にかかって撃破されていく。

 この調子なら、敵を撃破できるだろう。


 今回の作戦は、マシューが立案したものだ。敵の規模の詳細なデータを、酒の礼にあくまで予想という形で、マシューに伝えたところ、彼は今回の作戦に踏み切った。


 敵は、先日俺が仕掛けたブービートラップのせいで、疑心暗鬼になっていると思われる。その為、敵は罠を警戒してゆっくりと進軍することになる。

 だが、そうなるといい的だ。事前に、照準を街道に合わせておいた迫撃砲陣地を作っておき、敵の通過に合わせて砲撃を加える。その後、敵は速度を上げたり、バラけて畑の中に侵入してくるだろう。

 そこにも事前に罠を張っておき、敵を嵌める寸法だ。今のところマシューの作戦通りだが、作戦を実行できる自警団の練度も大したものだ。


 敵も、まさかこれだけの迫撃砲などの兵器や、罠があるとは思っていなかったのか、次々と撃破され、混乱しているようだ。


「また一両、撃破しました♪」


 ミシェルの楽しげな声が聞こえてくる。その裏では、狼旅団の人間が死んでいるのだが、モニター越しだとそんな実感は湧かないよな。まあ、連中に同情する気は1mmも無いが……。


 そんな敵にとっては地獄の中、俺とカティアはババ抜きをして楽しんでいた。……いや、楽しいのは俺だけかもしれないが。


「ほら! つ、次は負けないからッ!」

「じゃあ、これだな……っておい、何で指に力入れてんだよ。カード引かせろよ」

「……考え直さない? これ、ジョーカーよ?」

「嘘つくの下手糞か! いいから諦めろッ!」

「嫌よッ! もう、これ以上は……ほ、本当にお嫁に行けなくなっちゃう!」

「そうそう、今度ノア6でポールダンス、期待してるからな?」

「うっ……あれ、本当にやるの?」

「そういう賭けだったろうが。まあ、これでもっと条件は悪くなるが……なッ!」

「あっ、カードが!」

「はい、俺の勝ち! 次は何要求しようかな〜♪」

「うう……もう、ギャンブルなんて懲り懲りよッ!」


 ちなみに今回のギャンブルは、カティアの方から申し込んできた。ババ抜き10回勝負で、カティアが勝てば、例の「全裸より恥ずかしい下着を着て、ポールダンス」を撤回すること。俺が勝てば、カティアに好きな事を何でも命令できるという条件だ。

 ちなみに、今ので10勝0敗で俺の勝ちだ。だが、性欲がピンチの今、この場でカティアを脱がしたりする訳にはいかない。今の状況だと、カティアでも反応してしまう。


「……じゃあ、お前はしばらくギャンブル禁止な?」

「言われなくても! …って、それだけ?」

「何だ? じゃあ、ジュディみたいな下着でも履くか?」

「あんな紐みたいなやつを!? 冗談でしょ!」

「そうか? ジュディの奴は、動きやすくて気に入ってるみたいだぞ? 最近じゃ、カイナとかノーラも真似してるしな」

「嘘でしょ!? ……でも、ちょっと気になるかも」

「そうだったんですか!?」

「ミシェル、何で話に……。それより、敵はどうだ?」

「あっ! えっと、沈黙しました。もうほとんど残ってないみたいですね」


 窓から外を見ると、至る所で煙が上がっている。畑が火事にならないといいが……。


《ヴィクター様、例のAMが接近中です》

《了解、警戒する》


 カードを片付けて、運転席に移る。


「皆、警戒しろ! 片付けたと思った時が、一番危ない」

「わ、わかりました! もう少し索敵します!」

「ん? ねぇ、向こうの方何か光ってない? 狙撃用スコープにしては大きいような……」


《警告、敵のレーダー照射を受けています》


「なっ!? マズい、全員衝撃に備えろッ!」


 その時、車外から轟音が響き、車体が大きく揺れ動く。


──ドゴォンッ!


「うおっ!? 早速撃ってきやがった!」

「きゃっ! 何なのよ!」

「ッ、これは!? ヴィクターさん、これを!」

「遂に来たか。本当にAMだよ……レストアしたにしても、ただの野盗にしちゃ技術力高くないか!?」

「関心してる場合じゃないでしょ!」


 ミシェルが見せてきたモニターには、連合の第一世代型AM……AM-3 サイクロプスが、膝立ちになり、砲口から煙をあげたバトルライフルを構えている姿が映っていた。





□◆ Tips ◆□

【AM-3 サイクロプス】

 数々の試作の果てに完成した、初の量産型AM。第一世代型AMで、元となった作業用パワードスーツの出力を向上させ、装甲を施し、専用の武装を装備させて完成した。その結果、ガッシリとした無骨なデザインとなっている。その名の通り、頭部にメインセンサーやカメラが一点に集中しており、単眼の巨人のように見える。

 動力は、発電用の高性能ガスタービンエンジンとバッテリーの併用。初期のパワードスーツ時代から継承された、油圧駆動システムを一部に採用しているのも大きな特徴。

 崩壊前、連合軍では既に退役しており、予備兵器として保管されていたが、闇ルートで流れた本機が、同盟陣営の内紛やテロで使用されていたりと、AMの中でも一番仮想敵である同盟と戦っていた機体といえる。




【ウルフパック】

 モルデミール軍の制式戦闘車両。ギルド製の車両をコピー・改造して、武装を施したもの。前面に鉄板を溶接し、防御力を高める措置はしてあるが、基本的にオープントップの為、乗員を狙われると弱い。

 崩壊後の世界では珍しく、無線通信機を搭載しており、仲間との連携が可能。軽快な走りと走破性により、複数両で相手を包囲して、集中砲火を加える戦法をとる。

 3人乗りで、基本は一人が運転手、助手席に通信手(車長)、後部銃座に機銃手が乗り込む。


[モデル]IFAV

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