第111話 先制攻撃

-ヴィクター達の出発から数十分後

@エルハウス農園 邸前広場


 エルハウス邸の前に、ガフランク自警団の遊撃隊の騎馬が集結し、隊列を組んでいた。その数20騎程。

 遊撃隊とは、選ばれた者で編成された自警団のエリート部隊だ。それぞれ、騎馬の上でリボルバーや、ライフル、ショットガンなど、自前の得物の確認をしている。


「いや〜、壮観っすね!」

「うん、馬がいっぱい」


 しばらくして、エルハウス家の四男メビウスと、五男モーリスが、馬に乗って遊撃隊の前に出る。


「皆、準備できたか? じゃあ行くぞ……」

「「「「「 いやいやいや!! 」」」」」

「……何だよ?」

「いや、何かあるでしょう坊ちゃん!?」

「俺達、死ぬかもしれないんですぜ!?」

「何かこう、やる気が出る演説とかするでしょ、普通!?」


 隊長であるメビウスの、やる気を感じられない態度に、遊撃隊の面々からツッコミが入る。


「うるさい! ミシェルが……俺のミシェルがあんな奴にたぶらかされて、危険な事してるんだぞ! 正気でいられるものかッ!!」

「「「「「 えぇ…… 」」」」」


「も、モーリス坊ちゃんも、何か言って下さいよ!」

「……ミシェル、大丈夫かなぁ」

「コイツもダメだぁ!」

「だ、大丈夫ですよ坊ちゃん! あのヴィクターって方も、Cランクなんですから……きっと大丈夫ですって!」

「……本当に?」

「……多分」


「あれ、大丈夫なんすかね?」

「駄目なんじゃない?」


 遊撃隊の……というより、指揮官のあまりの様子に、呆れるカイナ達であった。すると、遊撃隊員の何名かが、カイナ達に話しかけてきた。


「嬢ちゃん達、助けてくれ!」

「きっと、女の子に応援されたら坊ちゃん達も、やる気出ると思うんだよ!」

「え〜、そっすか?」

「逆効果だと思う」

「「 そんなこと言わずに!! 」」

「ん〜、まあそこまで言うなら……。あっ、良い事思いついたっす!」


 カイナは、メビウス達に近づいていく。


「ミシェルのお兄さん達、良い事教えてあげるっすよ!」

「「 …… 」」

「ジュディは、強い男が好きらしいっすよ」

「「 なにっ!? 」」

(よし、食らいついた!)


 カイナはこれ幸いと、ジュディのある事ない事を兄弟に吹き込んでいく。


「私、強くてしっかりした男が好きだから。頑張ってね、メ・ビ・ウ・ス・君♡(ジュディの声真似)」

「うひょひょ〜!」

「モーリスゥ〜♡ お願ぁい、狼旅団やっつけてきてぇ♡(ジュディの声真似)」

「へへへ……!」

(((( ……見なかった事にしよう ))))


 自分達のリーダーの、あまりに残念な姿を見て、少し失望した遊撃隊員達だった。だが、カイナが色々とやったお陰で、メビウスとモーリスはいつもの調子を取り戻した。


「……マシュー兄さんから言われた通り、この作戦はガフランクの明日を左右する大事な作戦だ。失敗は許されないッ!! 皆、心してかかれ!」

「「「「「 おうッ!! 」」」」」

「ガフランクを脅かす敵は、俺達が撃ち破るッ!! 遊撃隊、出撃だッ!!」


「おっ、出るみたいっすね」

「カイナ。後で、ジュディのサンドバッグになっても知らないからね?」

「えぇ! ノーラ、助けてくれないんすかッ!?」

「肉だからミートバッグか」

「いやァァァ!」

「ほら、いいからさっさと出す!」


 二人はビートルに乗り込むと、騎馬隊の後を追うように、農園の道を走り出した。



 * * *



-日没

@ドーソン農園南東 狼旅団前哨キャンプ付近


 遊撃隊は小高い丘に陣取り、眼下の狼旅団のキャンプを眺めていた。


「……結構、規模がデカいな」

「どうする兄ちゃん?」

「お前は狙撃が得意な奴と、ここから敵を狙撃してくれ。敵を牽制できる。その間に俺達は突撃する!」

「でも、もう陽も落ちたし、暗くて敵が見えないんじゃないかな」

「あっ、確かに……」

「しかもこう暗いと、馬で突撃も難しいんじゃないか? それに、敵の車両はどうすんだよ! 動き出したら、騎馬じゃ太刀打ちできないぞ!」

「うっ、それは……どうしよう」


 困った兄弟の元に、カイナ達が近づいていく。


「あの〜、お話があるんすけど」

「……何だよ?」

「マシューさんから、預かってる物があるんすけど」

「兄さんから?」


 カイナは、二人をビートルに案内する。そして、ビートルの荷台には、60mmの軽迫撃砲と、その砲弾が積まれていた。


「これって……今日キャラバンが持ってきたやつだよな?」

「よし、これなら車両もぶっ壊せるぞ! いや、でも数台が限度か……」

「動かれたら、狙うの難しいしね」

「あ、それ照明弾しか無いんで、攻撃には使えないっすよ?」

「はぁ!? 使えない女だな!」

「ジュディさんと交代しろよ!」

「酷ッ! ってかそれ渡したの、あんたらのお兄さんじゃないっすか!?」

「「 正論を言うな! 」」

「理不尽っす〜ッ!」


 カイナ達が揉めてる間に、ノーラは他の隊員に指示して、迫撃砲を設置させる。


「……まあとにかく、灯りはある訳だな。迫撃砲に2人ほど人員を割いて、狙撃が得意な奴をここに残すとして、突撃要員は15騎程か……」

「兄さん、車両の方はどうすんだよ?」

「問題はそれなんだよ。結局、振り出しだな」

「やっぱり、何とか奇襲を成功させて、奴らが車に乗り込む前に叩くしかないかな?」

「う〜ん、それはリスクが高すぎるな」

「けど、それ以外にどうしようもないよね」

「あっ、車は自分が何とかできるっすよ?」

「「 はぁ!? 」


 メビウスとモーリスが、敵の車両への対処に関して議論していると、カイナが会話に割り込んできた。

 カイナは、アサルトライフルを手に持つと、マウントされたグレネードランチャーに榴弾を装填する。


「うしし、これ早く使ってみたかったんすよね〜♪」

「おいおい、そんなんでどうする気だよ?」

「そんな変な銃で、どうにかなるなら見物だが……」

「いくっすよ〜、えいっ!」


──ポンッ……ドカーンッ!


「「 えっ……!? 」」

「もういっちょ!」


──ポンッ……ボカンッ!


「「 …… 」」

「まだまだ!」


──ポンッ……ドゴッ!


 カイナはしばらくポンポンと、グレネードランチャーを発射し、敵の車両を次々と破壊していく。

 突然の出来事に、敵のキャンプは混乱しているようだ。


「……あ、今ので弾切れっす。でも、車両はあらかた片付いたし、今のでいい感じに敵も混乱してるっすよ? 攻めるなら今じゃ無いっすかね?」

「よ、よし! 何だかよく分からんが、突撃だァ! 遊撃隊、出撃ッ!!」

「「「「「 ウォォォッ!! 」」」」」


 カイナのグレネードランチャーによる攻撃が開戦の狼煙となり、メビウスの合図と共に騎馬隊が混乱の最中のキャンプに突撃していく。それと同時に、先程設置した迫撃砲から照明弾が発射され、キャンプを明るく照らし出した。

 ただでさえ突然の爆発に混乱していた敵は、闇の中、突如閃光に照らされながら出現した騎馬隊により、さらに混乱する事になった。


──ドドドドドッ!!


「な、何だこの明かりは!?」

「き、騎馬隊!? ガフランク自警団だ!」

「て、敵襲ーッ!!」

「うわぁぁぁ……ゴバァッ!?」


 騎馬隊が敵のキャンプに到達すると、騎馬隊は散開し、逃げ惑う敵を攻撃する。敵は馬の突撃に踏み潰されたり、逃げ惑う背中を撃ち抜かれて、次々と倒れていく。


「こうしちゃいられないッ!」


 そんな中、エルハウス家五男坊のモーリスは、自前のライフルを担ぐと丘の上へと走る。他の狙撃要員は、既に狙撃を始めているが、丘の上なら、自分の狙撃の腕前を最大限に発揮できるはずだ。

 ……しかし、そこには先客がいた。ノーラである。ノーラは、いつの間にか敷いたシートの上に伏せながら、ライフルのスコープを覗いている。


「おい、何でここにいるんだ!?」

「狙撃してるから」

「どけよ、ちんちくりん! 俺の方が上手いんだから、場所を譲れ!」

「私の方が上手い」

「何だと!」

「うるさい、狙撃の邪魔」


──ドシュンッ! ガシャン……。


「おい、話は終わって無いぞ!」


──ドシュンッ! ガシャン……。


「……クソッ! 目にもの見せてやる!」


 ノーラは狙撃を始め、それ以降無言になってしまった。モーリスは、ノーラから近い位置に伏せると、スコープを覗く。

 戦況は、こちらが有利の様だ。メビウスの指揮の下、騎馬達は暴れ回り、逃げ惑う野盗達を追撃している。


 だが、敵もやられてばかりではなく、一部の者達を中心にまとまり始め、反撃に移ろうとしていた。

 未だに、敵の方が数は多い。反撃に移られると、こちらが不利になる。


(狙うは指揮官……アイツか!)


 モーリスは、野盗達のリーダーらしい人物を特定し、引き金に指をかける。


──ドシュンッ! ガシャン……。


 しかし、発射寸前でターゲットは倒れてしまった。タイミング的に、近くにいるノーラがやったのだと悟り、自分の獲物を奪った彼女を睨み付ける。だが、ノーラは意に介さず狙撃を続けている。


(クソッ! 女の癖に!!)


 その後も、ノーラに獲物を奪われたり、自分が外した敵をノーラが仕留めたりといった事が続いた。


──バキュン! ガチャ!


(くっ、また外した!)


──ドシュンッ! ガシャン……。


(当てた!? そ、そんな馬鹿な……!)


 見下していたノーラが、自分よりも高い技量を持っている事実に直面し、モーリスは自分が自惚れていた事を悟ったのだった。




 その後、皆の奮戦により、狼旅団南東キャンプは陥落し、遊撃隊は勝利を収めたのだった。



 * * *



-夜

@ドーソン農園北東 狼旅団前哨キャンプ付近


 目的地近くの適当な所で馬を繋ぎ、徒歩で野盗の前哨キャンプが見える場所までやって来た。少し先に、キャンプと篝火が見える。その場で、持ってきた軽食を食べながら、敵の人数を数えたりして夜が来るのを待った。

 そして、キャンプが夜の休息時間になるのを見計らい、俺達は夜襲を仕掛ける事にした。


「……そろそろ行くか。カティア、準備は出来てるか?」

「こっちは大丈夫よ。サプレッサーもつけたし、弾も貰ったやつを装填したわ」

「よし。ミシェルは大丈夫か?」

「はい。貸して頂いた銃も、準備できてます!」


 今回は、闇夜に紛れた暗殺を主体に戦う。敵は、俺とカティア、ミシェルの3人より確実に多い。この数の差を埋めるには、敵に察知されないうちに、素早くキャンプを制圧する事が重要になる。


 その為、今回は皆に装備を貸与することにした。当然貸与なので、今回限りで後で返してもらう予定だ。具体的には、夜間作戦用ゴーグルを渡した。これがあれば、暗視と赤外線視が可能になる。

 キャンプの中は、篝火が灯されており、ある程度は明るいのだろうが、それまでは暗い中を進む。もし暗さで足元をすくわれ、転んで敵に気づかれたら目も当てられない。

 また、暗視や赤外線視の機能を使えば、敵を発見するのにも役立つ。


 それからカティアには、現在使用しているカービン用のサプレッサーと、専用の亜音速弾を渡した。これで、ギリギリまで発砲音を小さくでき、マズルフラッシュも抑えられるはずだ。弾道特性は変わるかもしれないが、どうせ近距離戦になるので問題ないだろう。

 ミシェルには、連合軍で使われていたPDWを貸した。遺物を使わせることになるが、あげた訳ではないので、この場合はポリシーには反しない……はずだ。


 今更だが、ミシェルの装備は、以前俺があげた中折れ式ペッパーボックスピストルくらいで、碌な装備が無い。

 普段ミシェルには、砲塔の操作をさせたり、爆薬や罠の設置を担って貰っているので、あまり気にした事は無かったのだ。今度、ボリスの所や、俺の試作品在庫から、適当なものを見繕ってやるとしよう。


「よし、行くぞ」


 俺達は暗闇の中、敵のキャンプへと進んでいく。



 * * *



-数十分後

@狼旅団 北東キャンプ


「ふぁ〜あ。夜の見張りなんてついてねぇな」

「全くだ。俺たちのボスとかいうのも、何でもっとこうグイグイいかねぇかな? 俺たちなら、あんな田舎すぐにぶっ潰せるだろ?」

「俺たち? はっ、ボス達が持ってる車両が無いと、俺たちただの雑魚じゃないか」

「何を! 俺たちは自治防衛隊で、地獄の訓練を──」

「いやいや、そんなの無かっただろうが」

「ま、せいぜい賄賂を受け取って不正を見逃したり、住民から罰金徴収カツアゲしたりだわな」

「へへ……違いない。今も昔もそう変わらねぇな!」


 キャンプでは、カナルティアの街の元自治防衛隊員の男3人が歩哨に立っており、キャンプの周りを見回っていた。


 以前より、プルートの政策により自治防衛隊員の多くがクビにされ、大規模な人員の入れ替えがあった。その結果、彼らのように野盗になる元自治防衛隊員が多く存在していた。

 元々、彼らは街で横暴を繰り返し、街の住民から快く思われていなかった。そんな彼らを雇いたいという物好きは、街にはいなかった。

 また、彼らも今更真面目に働く訳もなく、大抵はこの3人のように、野盗やブラックマーケットで用心棒になったりと、悪の道に身をやつしていたのだ。


「それにしてもよ、何で俺達が見張りなんて……普通は新人とか、ペーペーの仕事じゃねぇのか?」

「新人って言うなら、俺達もそうだぞ?」

「ま、言わんとしてる事は分かるけどな。でも、あの元から野盗のだらし無い連中に歩哨やらせて、サボられてる内に自警団に攻められたら、困るのはこっちだぞ?」

「なるほど。その点、この仕事を俺達にやらせるボスは、優秀みたいだな」

「ま、ハズレ仕事なのは違いないがな!」


 彼らは自治防衛隊員として、最低限の戦闘訓練を受けている。その上、クビになる際に持ち出した武器は、その辺の野盗の持つ物より上等な物だ。その為、彼等のような元自治防衛隊員はエリート扱いを受けて、周りの野盗達からちやほやされていた。

 ……まあ、訓練といっても大したものでは無かったし、上等な武器といっても崩壊後の基準なので、その辺の野盗に比べたら少しマシ程度なのだが。


「ガフランクを手に入れられたら、一生遊べるよな?」

「俺は、いい女がいればそれでいいよ」

「お前、まだそんな事言ってるのか?」

「街じゃさすがにそこまでは出来なかったしな」

「正直、街の方が美人は多そうだけどな」

「そうかな? まあ、ヤレればいいや」

「そういや、ガフランクの……ええと、エルハウス家だっけか、あそこは美男美女揃いらしいぞ? 特にあそこの長女は、金髪の美女だとか」

「マジか!? それは期待でき……ッ!」


──ピュンピュンピュンッ! ……ドサッ。


「ん? 何の音だ?」

「おい、大丈夫か!?」

「何だ? おいどうした!?」


 何か風を切るような、甲高い音が聞こえたと思ったその時、野盗の一人がその場に倒れ込んだ。急な体調不良か、ただふざけてるだけか……倒れた男を揺さぶると、だらりと頭がこちらを向き、その額には穴が開いていた。


「なっ!?」

「て、てきしゅ……ッ!!」


──バシュッバシュッ! タタタタタッ!


 男が何者かにより殺されたのを悟り、声を上げようとした瞬間、二人は倒れた男と同じように、その場に倒れ込んだ。


 そしてしばらくして、暗闇からヴィクター達がその姿を現した。


(危ねぇ〜、騒がれる所だったぞ!)

(ちょっとミシェル、何先走ってるのよ! 奴らが通り過ぎたら、背後から撃つって作戦だったでしょうが!?)

(ご、ごめんなさいッ! マリア姉さんの事を汚されてるみたいで、我慢出来なかったんです……)

(まあ、分からんでもない……。どうせ皆殺しにする予定なんだ、少しは冷静にな、ミシェル)

(はい……気をつけます)


 とはいえ、ミシェルにとって相手は自分の故郷を襲う敵であり、目の前で自分の家族を襲うような話をされたら、とても穏やかにはいられないか。

 それにしても、元自治防衛隊員か……。プルートの政策の、思わぬ副産物ってところか? まあ、恩返しついでにその掃除もしてやるかな。


(よし、じゃあ手筈通りに。カティアはそっちから回れ)

(ミシェルは俺と来い。お手本を見せてやる)

(わかった!)

(わかりました!)


 カティアと別れ、俺とミシェルはキャンプに潜入した。



 * * *



-数十分後

@狼旅団 北東キャンプ内


 敵のキャンプ内部に侵入した俺達だが、順調に制圧を進めていった。大抵の連中はテントで寝ていたし、外にいた連中も、素早く制圧して、気付かれる事も無かった。

 そして、最後となったテントに、ミシェルを侵入させ、中を掃除させる。


「ん、誰だ?」

「あれっ、起きてる!?」

「何だこのガキッ!?」

「ええと……さよなら!」


──タタタタタッ! タタタッ!


「がッ……!?」


 反応が動かなかったので、てっきり寝ているのかと思ったが、ゴロゴロしていただけで起きていたらしい。ミシェルも、慌てる事なく引き金を引いて、敵を始末した。


《カティア、こっちは終わったぞ》

《分かった。じゃあ、集合場所で待ってる!》


「よし、カティアと合流するか」

「はい!」


 敵は、今ので最後のはずだ。カティアの方も、無事に終わったみたいなので、集合場所であるキャンプの入り口に戻る。



   *

   *

   *



「お疲れ〜」

「……カティア、お前どうしたんだ?」


 そこには血塗れのカティアが、ドラム缶に点けられた炎に照らされ佇んでいたのだ。変なホラーよりも怖いかもしれない。


「いや、弾をケチってナイフを使ってたら、こうなっちゃって……。やらなきゃ良かった」


 聞けば、寝ていた連中は口を塞いで、文字通り寝首を掻いてきたらしい。


「何やってんだよ……。まあ、結果良ければ全て良しなのかもしれないが」

「お陰でナイフもダメになるし、服も気持ち悪いし。……シャワー浴びたい!」

「おい、その服もう捨てろよ? アポターの洗濯機が汚れそうだ」

「そうする。……で、この後はどうするの?」

「ミシェル、あのロボットを呼んでくれ」

「はい!」


 待機させていたテトラローダーを、ミシェルに呼ばせる。先程テトラローダーの身体には、この作戦に備えてかごを取り付けていた。

 これから、敵の武器やら何やらを頂いていくので、その運搬をさせるのに使えると思ったのだ。例えるなら、歩兵随伴の輸送ロボといったところだろうか。


「ミシェルとカティアは、コイツとキャンプの中を漁って来てくれ。コイツらの武器を奪えば、ガフランクで使えるだろ?」

「なるほど、だから籠を取り付けたんですか!」

「そういう事だ」

「ヴィクターは?」

「俺は、敵の車に細工してくる」


 キャンプには、トラックや武装車両が数台程停められていた。だが、想像以上に数が少ない。

 やはり本隊が別にいるのは、本当の話なのかもしれない。後で衛星で探ってみるか。


 ともかく、数は少ないとはいえ貴重な車両だ。敵もこのまま無視出来ないはずだ。

 持ち帰っても良いのだが、敵との戦闘時に使った時に、このままでは味方の誤射を招くだろう。外観を弄るにしても、敵が迫っている今、そんな時間はない。なので、ブービートラップとして使わせてもらう事にした。


 車を、エンジンを動かしたら爆発するようにしたり、死体に手榴弾を仕込んだり、持ち帰れない物資に罠を張ったりと、色々やった。

 これで、敵の本隊とやらにも、少しはダメージを与えられるはずだ。



 カティア達が武器を回収し終え、俺達は死体だけとなったキャンプを撤収し、エルハウス家へと帰還する事にした。

 帰りは、テトラローダーにライトを点けさせて、夜道を照らしながら帰った。行きよりもゆっくりだが、仕方ない。


 そして、エルハウス家に帰還する頃には日付が変わっていた。



 * * *



-翌日

@ガフランク東部丘陵地帯 狼旅団本陣


「マ、マーカス旅団長、報告致します! 前哨キャンプがやられました!」

「先制攻撃か……敵も中々やるな。で、被害はどうだったんだ?」

「全滅です! 生存者はごく僅かでした」

「何だと! それはどっちのキャンプの話だ!?」

「両方です!」

「両方だと!? そんな馬鹿な……」

「と、特に北キャンプは、至る所に罠が仕掛けてあるそうで……。現在までに、死体を片付けようとしたり、物資を回収しようとして4名が、車両を動かそうとして1名が死亡してます!」

「ブービートラップだと……クソ、してやられたな! よし、現状をもって前哨キャンプは放棄する。生き残った連中も用済みだ、始末しておけ!」

「はっ! それから、本日は襲撃作戦とのことでしたが……」

「作戦は延期だ! 全員にそう伝えろ!」

「はっ!」


 報告してきた団員は、敬礼すると、司令部として使っているタープから出て行った。


「面白くなってきたじゃねぇか! なぁ、リロイ曹長?」

「そうですね。ですが、5名も仲間を失うとは……」

「クソ、モルデミールに連れて帰ってやりたかったが……。この借りは、必ず返させてもらうぞ!」

「ええ。その為にも、作戦を練り直しましょう!」





□◆ Tips ◆□

【PDW-08】

 統一暦520年当時最新の、連合軍正式採用PDW。ブルパップ式でMAR-06よりも小型軽量。先端に各種センサー類を搭載している。共和国製であり、連合では車両搭乗員や、パイロット、特殊部隊、基地の警備隊など、後方要員の自衛用に用いられていた。

 専用弾を用いることで、貫通力を高めているが、新型の歩兵用耐弾装備に対する効果は不明。


[使用弾薬]4.6×30mm弾

[装弾数] 45発

[発射速度]850発/分

[有効射程]250m

[モデル] マグプル PDR / FN P90

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