第110話 最後通牒

 そのテトラローダーは、俺が見知った物とはかなり異なっていた。背中の乗用ラックもそうだが、全体的に毒々しいペイントが施され、至る所に尖った鉄筋の様な物が突き出しており、頭は人間の頭蓋骨を模した金属製のカバーで覆われていたりと、かなり威圧感を与える様な外観をしていた。


 武装は、両腕に大型の刃が握られていた。本来なら、テトラローダーに接近戦は向いていないのだが、威圧感はあるな……。マシューが、男に手を出せないと言っていたのはこの事か。


「って〜なぁ! ったく、道くらい舗装しとけっての!」

「……また貴様か、何の用だ?」


 魔改造テトラローダーに乗っていた男が、悪態をつきながらから飛び降りると、そこにマシューが近づいていく。周りの人間は作業を止めて、マシュー達のやりとりを息を飲んで見守っている。


「これはこれはマシューさんじゃないですか。ご機嫌麗しゅう……なんつって」

「御託はいい! 何の用だ!? 我々ガフランクは、野盗ごときに降伏などしないぞッ!」

「ありゃりゃ、相変わらずだねぇ。せっかくいい話を持ってきたってのに……」

「いい話だと?」

「ああ。ボスからの伝言だ、今ここで降伏しないと、明日中にここに攻め込むってさぁ!」

「……ふん、最後通牒という訳か」

「本当に、変なボスだよな。俺ならこんな事しないで、さっさと攻め入るのによ! なあ、ジャルドー?」

「ガガピー!」

「降伏しないなら、今ここで何人か殺っちまっても構わねぇよなぁ!? ギャハハ!」


 男はそう言うと、背後のジャルドーという名前のテトラローダーに振り返る。するとテトラローダーは、それに答えるように、両手のブレードをブンブンと振り回した。

 その光景に、周りからは悲鳴や、マシューを案じる声が聞こえる。


 そんな中、俺は男の左腕を見た。そこにはカティア達に与えた物と同じ、“腕時計”がついていたのだ。……カラクリが分かった気がする。

 俺は、男に近づくと、質問を投げかけた。


「ヴィクター!? 危ないぞ、離れろ!」

「大丈夫だ、マシュー。なあ、このロボット……あんたが改造したのか?」

「ん? 誰だお前は……まあいい、それがどうした?」

「いや、随分と趣味が悪いなと思ってさ」

「何だと!? このガスタン様の美的センスをバカにするとは、お前死にたいのか!?」

「大体、テトラローダーに接近戦とか何考えてんだ? 腕の機関銃を直した方が、何倍も強いだろうが。ああ、できないのか。こんなアホ丸出しの改造するんだからな?」

「おいヴィクター、何で挑発してるんだ!?」

「グギギ……お前、もう我慢できない! ジャルドー、来い!」

「ビー!」


 ガスタンとか言う男がそう言うと、テトラローダーが俺の前に立つ。テトラローダーは、何か喋っているようだが、スピーカーが故障しているのか、先程から変な電子音しか発していない。


「ヒャハハ! 命乞いでもすれば助けてやってもいいぞ?」

「良く言うぜ、左腕の装置が無いと何もできない癖によ」

「なっ、何故それを……!?」


──ガシャ、パァン!


「イダァァァッ! う、腕がぁぁ!!」


 俺は、ガスタンの腕時計を拳銃で撃ち抜き、テトラローダーの権限を奪った。見たところ、どうも内部システムがかなりメチャクチャに弄られていたみたいで、さっきの腕時計を使って、優先度の高い命令を割り込ませる事が出来るようになっていたようだ。

 電子回路の経年劣化と、内部システムのエラーのダブルパンチが、この奇跡を引き起こしたのだろうか? ……まあ、それもここまでだが。


「ちょっとちょっと、なんの騒ぎ!?」

「カティア、それにミシェルまで」

「外が騒がしかったので、様子を見に……。ノーラさん達は、アポターの砲塔を操作してくれています」


 チラリとアポターを見ると、砲塔がこちらを向いていた。榴弾とか装填してないよな? 頼むから撃たないでくれよ。


「お前ぇ、よくもッ!! ジャルドー、殺れ!」

「……ヴィクター、さっきから何言ってんのこの人?」

「さあな。たぶん、頭がちょっと可哀想なんじゃないか?」

「ジャルドー? どうした、何故動かない!?」

「そうだ、ミシェルにあげるか! ミシェル、腕出して?」

「は、はい……」

「なっ!? そ、それは……!」


 ミシェルの腕時計を弄って、テトラローダーの指揮権をミシェルに移譲する。


「よし、これでこのロボットはミシェルの物になったぞ。」

「ええ……。こんな趣味の悪いのはちょっと……」

「まあまあ、改造すればテトラ君みたいになるかもしれないぞ?」

「本当ですか!? もらいます!」

「ちょっとヴィクター、私には!?」

「あれ、全裸より恥ずかしい下着を着て、ポールダンスしてくれる話はどうなったのかな?」

「な、何でもないです……」

「分かればよろしい」

「ジャルドー! 俺が分からないのか!?」

「お、おいヴィクター、何がどうなってるんだ?」


 マシューが近づいてきて、説明を求めてきた。


「このロボットが、ミシェルのことを気に入ったんで、あのガスタンとか言う男の命令は、もう聞きたくないって言ってるんだ」

「何ッ!? ……見る目があるじゃないかコイツ、流石はミシェルだな!」


 ありゃ? ちょっとした冗談のつもりだったが、マシューって結構ノリが良い奴なのかな? ともかく、あのガスタンとか言う男はこれで無力化できた。後は、敵の情報を聞き出すだけだな。


「ほら、ミシェル。何か命令してみろよ」

「えっ、う〜ん……じゃあ、踊れ!」

「ガガピー!」


──ザシュッ!


「お、俺の髪がぁ!!」

「あ、ごめんなさい! 中止、踊るの中止です!」


 ミシェルが命令すると、テトラローダーはその場で全身を揺らし、腕をブンブンと振って踊りだした。その結果、近くにいたガスタンの頭に刃が振るわれ、頭頂部の髪の毛がサラサラと散った。

 その様子に、ミシェルは急いで中止を命令するが、時すでに遅し。そこには、先程までとは変貌を遂げたガスタンが立っていた。……ブレードの切れ味は、しっかりしてるみたいだな。


 その様子に、周りからは笑いの声が響き、ガスタンはプルプルと震えている。


「こ、このガキィッ!! よくも俺のジャルドーを! 返せ、俺のジャルドーを返せよッ! ……グハッ!」

「貴様……私の可愛い妹に手を出そうとしたな?」

「マシュー! て、てめぇ! 俺に手を出したらどうなるか……ウガッ!」


 マシューは、ガスタンをボコボコにした後、部下に命じてどこかへ連行して行った。


「マシュー、そいつまだ殺すなよ〜!」

「分かってる。ちゃんと情報は聞きだすさ」


 あ、殺すのは確定なのね。まあ、この辺りでは奴隷とかは使われていないらしいし、情報を聞き出したら生かしておく価値もないか。


「ヴィクターさん、手伝って下さい!」

「ん、何をだミシェル?」

「この趣味の悪い塗装を剥がすんですよ」


 ミシェルは、いつの間にか手にブラシや工具を持っている。まあ、情報が得られるまで動けないことだし、手伝ってやるか。


 俺とミシェルは、エルハウス家のガレージにテトラローダーを連れて行き、作業に興じる事となった。



 * * *



-夕方

@エルハウス邸 食堂


「そういやマシュー、さっきの男はどうしたんだ?」

「今頃、刑場の土と混ざってるんじゃないか?」

「殺して埋めたって事か?」

「いや、ガフランク流の処刑でね。縛って地面に寝かせた罪人を、専用の耕運機でズタズタにして、土と混ぜてやるのさ。来年には花が咲くだろうよ」

「うわ、グロいな……」

「さて、そろそろ集まったかな?」


 食堂には、エルハウス家の兄弟達の他に、自警団の面々が集合していた。マシューが、ガスタンから聞き出した情報の擦り合わせと、今後の作戦会議を行うのだ。


「……よし、では本題に入るぞ。敵は先程、我々に最後通牒を突きつけてきた!」


 場は一時騒然となるが、マシューの声がそれを抑える。


「当然、降伏する気は無い! 使いの者を尋問したところ、敵はここから東にあるドーソン農園から北東と南東の位置に、それぞれ前哨キャンプを設営しているらしい事が判明した。最後通牒を知らせに来た以上、敵は明日には本格的にガフランクに攻め込んで来るだろう」


 テーブルに広げられた、ガフランク周辺の地図の上に、敵を表現する木彫りの狼が二体と、ガフランクを表す馬車の模型が置かれる。古典的な、戦場のイメージを掴むブリーフィング手段だ。


「そして、敵の本隊がさらに奥に陣取っているらしいが、詳しい話は分からなかった。まあ、死ぬ間際の妄言かもしれん。ひとまずの脅威は、この二つの前哨キャンプだ」

「兄さん、わざわざその話をするって事は……まさか、攻め入る気なのか!?」

「その通りだ、メビウス。お前達、遊撃隊にはこれから南東のキャンプを抑えてもらう予定だ」

「そ、そんな無茶な!?」

「そうだよ、兄さん! 遊撃隊の人員は、そんなにいないんだぞ!」

「ほう。いつも『俺のライフルから逃げられる奴はいないぜ!』とか言ってるだろ、モーリス? 今こそ、その自慢の腕前を発揮する時じゃないか?」

「うっ……」


 俺達を検問で止めた時の勢いは何処へやら、メビウスとモーリスは怖気づいてしまっている。ちなみに、襲撃を提案したのは俺だ。

 敵が攻め込むのが確実な以上、そうなる前にこちらから打って出て、相手の戦力を減らせるだけ減らす。


 陽動の意味も込めて、一緒にガフランクに来たキャラバンも、既に食糧を積み込んで出発させている。


「……まあ、安心しろ二人とも。今回は、頼もしい助っ人がいる」

「「 頼もしい助っ人!? 」」

「彼女達だ」


 マシューが指差したのは、ジュディ達3人娘だった。


「「 ジュディさんだ! わ〜いッ!! 」」

「いや、アタシは行かないよ?」

「「 ええっ!? 」」

「カイナっす! よろしく!」

「ノーラ」

「ジュディさんには、この屋敷の警備……特にマリアの警護をしてもらう予定だ」

「「 そんな、ジュディさん…… 」」

「何か、凄く失礼な人達っすね……」

「所詮顔だけ」


 今回は、ジュディ達とは別行動だ。元から違うチームだし、彼女達もやる気だった。そういえば、肉体関係がある男女が同じ部隊いると云々……とか言っていたが、何かもう今更になってしまったな。

 そうなると、その内カティアも喰ってもいいかもな。……いや、やっぱ無いな、うん!


「……何か失礼なこと考えてるでしょ」

「いや、気のせいじゃないか?」


 今回、ジュディにはマリアさんの警護と、エルハウス邸の警備を頼んでいる。最後通牒を報せに行った使者が帰らないのだ、敵もすぐに襲撃してこないとも限らない。

 それに、先程の話ではないが、ジュディが奇襲に参加すると、ジュディに気があるミシェルの兄達が暴走しないとも限らない。なので、遊撃隊に同行するのはカイナとノーラに任せることにした。


「そして、北東のキャンプだが……ヴィクター、本当に良いのか?」

「ああ、俺とカティア……それに、ミシェルがいれば大丈夫だ」

「「「「 何だとッ!? 」」」」


 ミシェルの兄達が、一斉に声を上げる。


「兄貴、正気なのか!?」

「うわ〜、マジかよ!?」

「マシュー兄さん、ミシェルを参加させる気なのか!?」

「ダメだろ! ミシェルは女の子なんだぞ!」

「もう決まった事だ! ミシェルだって、もう自分の事は自分で決められる歳だ! それに、もう表で馬を準備して待ってる」

「「「「 こうしちゃいられないッ!! 」」」」


 マシューを除く4人の兄達は、食堂を出て、ミシェルの元へと飛んで行った。

 それにしても、たった3人で攻めるということよりも、ミシェルが参加することしか気にならないとは……。


「……全く、困った弟達だな」


 なんて事を言ってるマシューだが、最初ミシェルの参加には猛反発していた。だが、ミシェルがマシューの耳元で何かを囁くと、一転して態度を変えてしまったのだ。

 ……やはり、ミシェルは何か弱味でも握っているのだろうか?


「奴らは、ここに攻め込もうと意気込んでるはずだ。だが、まさか自分達が攻められるとは思ってないだろう。今夜が、このガフランクの命運を分ける! 遊撃隊、頼んだぞ!!」

「「「「「 おうッ!! 」」」」」

「残る自警団員も、今夜は襲撃に備えて、各農園に声をかけて回れ! 以上で作戦会議は終了する。解散!」



 * * *



-数分後

@エルハウス農園 邸前広場


 エルハウス邸の前に出ると、馬が3匹おり、その周りにちょっとした人だかりができていた。ミシェルと、その兄達だ。


「考え直さないか、ミシェル?」

「み、ミシェルゥゥ……本当に行くのか〜? お兄ちゃん心配だぞ?」

「いつからこんな子にぃぃッ!?」

「やめろよ、危ないぞミシェル!」

「もう決めたの! 僕だって、もう子供じゃないって事を証明してみせるんだからッ!!」


 実は、先程のテトラローダーをいじっている最中に、ミシェルから相談を受けていたのだ。ミシェルは見ての通り、兄弟達から愛されている。それはいい事だが、度が過ぎれば毒となる。

 ミシェルが家出したのは、何をするにも口を挟まれるようになり、それを窮屈に感じ、嫌気が差したかららしい。だが帰ってきた今、兄達はミシェルを引き留めるだろう。だから、ミシェルがもうレンジャーとして一人前に活躍できる事を、兄達に見せつけてやりたいそうだ。


 俺としても、ミシェルは俺の正体を知る、数少ない仲間だ。協力は惜しまないつもりだ。

 それに、ミシェル以外の奴が食事を作るなんて、もはや考えられなくなっているしな。


「あ、ヴィクターさん! 準備はできてます。さあ、行きましょうッ!!」

「貴様ァ!! ミシェルに何かあったら、タダじゃおかないからなぁ!!」

「本当に行くのか〜!? やめとこ?」

「クソ……ジュディさんだけでは飽き足らず、ウチのミシェルまで……!!」

「ミシェルゥ……」

「……ミシェルは愛されているんだな」

「……そうね」


 今回の作戦では、馬を使って移動する予定だ。まだ陽が落ちる前に、敵のキャンプまで馬で近づき、陽が落ちて暗くなった頃合いに奇襲を仕掛ける作戦だ。

 何故馬なのかと言うと、ビートルはカイナ達が使うし、アポターだと目立ってしまうからだ。こんな時の為に、アポターに光学迷彩とか搭載すれば良かったかな?


 ともかく、エルハウス農園から借りた馬の1匹に乗り手綱を握る。俺は事前に、電脳に『乗馬』の技能を学習させている。先程試したが、バイクのような失敗は無かったので、問題ないはずだ。

 カティアも、馬には乗れるそうなので、大丈夫だろう。何でも、ウェルギリウス孤児院では、年に何回か乗馬教室が開かれていたらしい。馬に乗れれば、牧場や、馬車の御者などへの職に就きやすいのかもしれない。流石はジェイコブ神父だな。


「「「「 ミ、ミシェル…… 」」」」

「あーもうっ! あんまりしつこいと、皆のこと嫌いになっちゃうよ!?」

「「「「 いやだぁー!! 」」」」

「何アレ、ヴィクター?」

「さあ……何かの隠語か何かかな?」

「お待たせしました、ヴィクターさん、カティアさん。さあ、行きましょう!」


 ミシェルを先頭に、3騎の騎馬は小麦がたなびく農園の道を駆けて行く。そして、その後ろに先程のテトラローダーも随行していた……。



 * * *



-同時刻

@ガフランク東部丘陵地帯 狼旅団本陣


 ガフランク東部……ガフランクの勢力圏外にある丘陵地帯。そこに、狼旅団の本陣があった。野営用のテントがいくつも並び、武装車両が並べられ、整備要員が各車両を点検して回っていた。


「マーカス旅団長、報告致します!」

「ん、どうしたリロイ曹長?」


 車両の点検を眺めていた、マーカスと呼ばれた40代くらいの男が、部下と見られる男に呼び止められた。


「規定の時間ですが、ガスタン少尉がまだ帰還しません」

「ガスタン? ああ、あの使えないロボット使いの可哀想なやつか 」

「つ、使えない!? あの、ガスタン少尉のロボットは、あのレンジャーズギルドですら警鐘を鳴らすほど、危険な存在だと伺っていますが……」

「それは、現役で動いてる奴らだろ? あのロボット達はな、自分達の縄張りに、自動で動く整備基地を持ってるのさ。ただでさえ強いのに、どれだけ傷つけてもすぐに直るし、弾も補充される。だから脅威になるんだ」

「そうだったのですかッ!?」

「だが、アイツのはどうだ? 馬鹿みたいにトゲトゲさせて、ただの見かけ倒しだろ。上の連中が、無理矢理俺の旅団にねじ込んだから、仕方なく使ってやってるがな……ありゃ早死にするな」

「で、では……ガスタン少尉は?」

「ほっとけ。で、他にも報告があるんだろう?」

「はい。ガフランクから、例のキャラバンがカナルティアに向けて出立したようです。今回も襲撃を?」

「いや、今回はやらなくていい。どうせ積荷も食糧だしな。……それに、これ以上俺の大切な部下を失う訳にはいかないからな」

「……先日の件は残念でした」


 リロイの発言に、二人はしばし沈黙する。先日のキャラバン襲撃の際に、指揮をしていたマーカスの部下が死亡しているのだ。


「まあ、これであの疫病神が居なくなってくれるなら、ガフランク攻略も捗るってもんよ!」

「は、はい! 先立った彼らの為にも、この作戦は成功させなくてはッ!」

「どちらにせよ、最後通牒も出したんだ。これで大手を振って、活動できる!」

「旅団長も律儀な方ですね。まるで、大昔の戦争みたいじゃないですか?」

「俺らは野盗を利用するが、俺ら自身は野盗じゃないからな。それに、事前に通告しておけば敵の防御が強くなる。そこへ、何も知らない前哨キャンプの連中をぶつけてやれば、用済み連中を始末できるって算段さ」

「あの野盗達ですね。……確か、元自治防衛隊員でしたっけ? 我々モルデミールの兵士と比べて、やけに練度が低いですよね」

「所詮、平和ボケした連中だ。精々、今夜はゆっくり休んでもらうさ。まあ、明日には戦って貰って、ガフランクの土に消えてもらうがな」


 ニヤリと、二人の口角が上がる。


「しかし、ガフランク自警団も中々手強いですね。あのマシュー・エルハウスも中々の切れ者ですし」

「ああ、敵じゃなかったら俺の部下に欲しいくらいだ。丁度、欠員が出たしな」

「上手くやれば、家族を人質にして、こちらに引き込めるのでは?」

「いや、それじゃダメだな。俺の部下にはハートが必要なんだよ!」

「ハート……ですか?」

「あるだろ? 旅団と仲間に尽くす、熱いハートが」


 マーカスは、リロイの胸に拳を突き出す。


「もちろんです! モルデミールに勝利をッ!」

「モルデミールに勝利をッ! 期待してるぞ、曹長!」

「はっ!」


 二人は向かい合って敬礼する。


「……そういえば、万が一先日の車両のような、強い敵が現れたらどうしましょう?」

「何だ、心配か? 案ずるな、その時は俺とコイツの出番だ」

「おっと、そうでした。ウチには最強の戦力があるのを忘れてましたよ」

「なにっ!? ……まあ、ほとんど出番が無いからな、コイツ」

「目立ちますし、旅団長の1機しか配備されていませんからね……」


 二人が見上げた先には、鉄の巨人が夕陽を受けてたたずんでいた。それは、かつてAM(アーマードマニピュレーター)と呼ばれた、人型機動兵器だった……。




 狼旅団。カナルティアの街とその周辺では、単なる野盗集団との認識だが、その実態は異なっていた。

 狼旅団……正式には、『モルデミール軍機械化遠征旅団』。その正体は、カナルティアの街の北東に位置する、モルデミールと呼ばれる街からの侵略工作部隊だったのだ。





□◆ Tips ◆□

【テトラローダー 狼旅団仕様】

 狼旅団に使役されていたテトラローダー。ジャルドーという名前が付いていた。毒々しいペイントに、尖った鉄筋や端材を溶接したトゲトゲしいボディ、ドクロのような頭蓋骨を模した頭部など、どこか世紀末感漂う外観をしている。

 武装は、腕部内臓の機関銃があるが、弾薬(6.8×43mm弾)が崩壊後の世界ではあまり流通していない為、使われていない。代わりに、廃品のリーフスプリングを改造して作った、大型のマチェットを腕部マニピュレーターに握らせる事で、接近戦を可能としている。

 しかし、本来テトラローダーに白兵戦機能はプログラムされて無い為、その効果は不明。せいぜいが、相手を威圧することができるくらいだろう。

 ガスタンの持つ腕時計で命令を下す事ができたようだが、後にミシェルの腕時計に権限が移り、ミシェルの物となる。


[武装]・特製マチェット×2

    ・トゲトゲボディ




【モルデミール軍 機械化遠征旅団】

 通称、狼旅団。カナルティアの街の北東に存在する敵性都市、モルデミールからの侵略工作部隊。

 混成旅団であり、歩兵の他に工兵や特技兵が属し、任務に当たっている。特徴的なのは、現地のならず者達を抱き込み、表向きは野盗として、自分達の手を汚す事なく、通商破壊や略奪に従事させている事が挙げられる。

 本隊は、多数の武装車両を有している他、一握りのエリートが、崩壊前の人型機動兵器であるAM(アーマードマニピュレーター)を運用する為、崩壊後の世界ではかなりの戦力を保有している。

 旅団長は、マーカス・フランベル大佐。

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