第108話 西へ……2

-2日後

@ガフランクへの街道 アポター車内


 依頼を受け、カナルティアの街を出発して2日目。俺達は、キャラバンの護衛として車列に加わり、ガフランクへと車を走らせていた。

 今回の依頼は、自治防衛隊からの支援物資を輸送するトラックを護衛することだが、依頼の対象は大型トラックが2台だけだ。他にもキャラバンには他の大型トラックやら、中型トラック、燃料輸送車、武装した車が多数走っているが、他の商人達のものらしい。このように、長距離の物資輸送の際は、商人同士で話を合わせて、キャラバンを組む事が多いそうだ。

 こうする事により、野盗の襲撃を躊躇わせる効果があり、また襲われたとしても、それぞれの護衛戦力を集中させる事ができる為、商人達の護衛費用を抑える事ができて経済的なんだとか。まあ、俺達は万が一の時は護衛対象を第一に動くつもりだが。


 カナルティアの街の食料は、実に6割以上をガフランクに依存しているらしく、狼旅団が活発になってきている現状、商人達は今のうちに食料を買い付けておきたいのだろう。

 今回は急を要する仕事の為、キャラバンは全て機械化されており、護衛も商人も全員が車両に搭乗している。だが、車列を組んでいるので、馬車よりはマシだが速度はそこまで速くない。俺達だけなら、もっと早く到着するはずだ。


「よし! ストレートフラッシュだ!」

「う、嘘でしょッ!?」

「あれ、カティアさん? 自信満々だったけど、フルハウスじゃないですか?」

「くっ……!?」

「何賭けてたっけ? ブラジャーだっけ、パンツだっけ?」

「ゆ、許して……!」


 暇になっていた俺は、カティアとストリップ・ポーカーをして楽しんでいた。要は脱衣ポーカーだ。

 ルールは簡単。勝負に負けたら、着ている物を一つずつ脱いでいく。また、勝負に累計3回降りる毎に1回負けとみなす。

 最終的に、全部脱いで裸になったら負けで、残った者が勝利だ。賞金は10万Ⓜ︎を、俺のポケットマネーから出す。最初は冗談のつもりだったが、そう言ったらカティアは即答で参加を表明した。


 ……あれほどギャンブルはやめておけと言ったのに、懲りてないな。まあ、誘ったのは俺なのだが、今後の為にも教育が必要だろうか?

 ちなみに、俺に負けはありえない。何故なら、スカウトバグでカティアの手札を把握できるからだ。暇潰しのつもりだったが、これ以上は可哀想か? それとも、今後の教訓の為に、脱がせるべきか……?


「……ん? おいカティア、服を着ろ。多分、敵が襲って来る!」

「えっ、嘘ッ!?」

「ミシェルも、料理の仕込みを中止して、準備してくれ!」

「わ、分かりました!」


 衛星が、こちらに接近する多数の車両を発見した。といっても、接敵するまでまだ時間がある。カイナ達にも連絡を入れて、敵の襲撃に備える。今回、カイナとノーラの二人は“ビートル”に乗って付いてきている。ジュディはバイクだ。

 恐らく、これから走りながらの戦いになる。止まれば良い的になるしな。俺は、運転席に移動すると、ホーンを鳴らす。事前に敵を察知したら、合図することになっているのだ。


 すると、小型の武装したトラックが、アポターに横付けして来る。他の護衛の車だ。俺は窓を開けて、会話を試みる。


「おい、敵襲か!?」

「分からん! だが、この車列の右翼から多数の車両が来てる!」

「本当なのか!? こっちからじゃ確認できないが……」

「後数分で、土煙が見えるだろうさ! 車列の横っ腹を食い破られないようにした方が良いぞ!」

「……分かった。信じるぜ、“腕潰し”! おっと、今は“遺物使い”だったか? とにかく、皆に伝えて来る!」

「何だそりゃ? まあいいや、ウチのジュディにも手伝わせよう」

「あのバイクのネェちゃんか!? 良い女だよな、兄ちゃんの女か?」

「無駄口叩く暇があったら、さっさと伝えて来いよ!」

「おっと、そうだったな!」


《ジュディ。右翼の防御を固めるように、他の車両に伝えて来てくれ》

《はいよ!》

《カイナとノーラも、準備しておいてくれ》

《了解っす! ビートル君はウチらに任せるっすよ》

《任せて》



 * * *



-数十分後

@ガフランクへの街道


 しばらくして、多数の車両が草原を駆け、キャラバンに迫って来ているのが確認できた。


「ヴィクターさん、撃ちますか!?」

「いや、まだだ! 敵か味方が撃つまで撃つな!」


 ほぼ確実に敵だろうが、まだそうと決まったわけではない。もしかしたら、ただの武装した車好きの集団かもしれないのだ。

 なので、敵が撃つか味方が撃つまでは何のアクションも起こさない予定だ。敵が撃てば野盗認定できるし、味方が撃てば相手が野盗じゃなかったとしても、つられて撃ってしまったと言い訳ができる。


 ……もっとも、キャラバンに近づく際はあらぬ攻撃を避ける為に、白旗を掲げながらゆっくり近づくのがマナーらしいので、やはり敵には違いないだろう。


「来たぞーッ! 撃てェ!!」


──ドドドドッ!

──ダダダダダッ!!


 今回は敵と認定し、こちらから仕掛けるようだ。キャラバンのトラックや、護衛の車両に搭載された“ビッグダム”やら“キングダム”と呼ばれる機関銃が火を吹く。

 他にも、変わり種では“バリスタ”と呼ばれる、中近世に使われた弩砲のような兵器も使われているようだ。


「ミシェル、射撃開始だ! ミサイルは撃つなよ!」

「了解です!」


──ドンッドンッドンッドンッ!


 一際大きな20mm機関砲の発砲音が周囲に響いたかと思うと、未だに味方の射程外にいる敵の車両に命中し、横転させた。その後、曳光弾か徹甲榴弾が車の燃料に引火したのか、燃え上る。


「バイクが来るぞ! 火炎瓶だ!」


 周囲の声の通り、バイクに乗った集団が、火炎瓶の様な物を手にして迫って来ていた。


《ジュディ、誤射されたら堪らん! アポターの左翼に来て、身を守れ!》

《分かった!》


「ヴィクターさん! 接近する敵のバイクはどうしますか!?」

「ほっとけ! ミシェルは車、カティアは窓からバイクを狙え!」

「分かった!」

「了解です!」


《ノーラ、お前はビートルの砲塔でバイクを狙え! 護衛対象に敵を近づけるな!》

《わかった》


 俺は仲間に指示を出すと、アポターの運転席についた。今まで自動運転だったが、何かあった時の為に、手動で動かせる準備をする。



 * * *



-数十分後

@アポター車内


 俺の心配をよそに、皆善戦したらしく敵の大半を撃破して、残りを追い払う事に成功した。襲撃前に、敵の来る方向に全火力を集中出来たのが幸いしたらしい。

 もっとも、キャラバン側も無傷とはいかず、護衛車両が何台かやられ、死人や怪我人も出たみたいだ。


 現在、街道上にてキャラバンは休止して、遺体の葬いや、破損した車両の応急修理、怪我人の手当てなどを行なっている。次の出発は2時間後の予定で、俺達はその間にアポター内で昼食を摂る事にした。

 今日の昼食は、ミシェル特製ミートスパゲッティのハンバーグ乗せと、サラダというガッツリしたものだ。


「アポター君、やっぱ強いっすね! 敵の車が吹っ飛んで爆発したっすよ!?」

「やっぱり、ミシェルのご飯は美味しい」

「あ、ありがとうございます、ノーラさん!」

「ジュディ、バイクだと疲れないか?」

「そりゃ疲れるけど、楽しさの方が上回るかな?」

「まあ、まだ出発まで時間あるし、なんだったら昼寝していくか? 奥のベッドルーム、使っていいぞ。ジュディもカイナも、運転で疲れてるだろ?」


 今回の護衛依頼だが、6人全員でアポターに寝泊まりしている。車内には、防音のマスターベッドルーム(俺の寝室)と、二段式のカプセルベッドがあり、さらにダイニングスペースを弄れば、広いベッドに早変わりするので、長旅でも全員で快適に過ごすことができるのだ。

 さらに、女性には嬉しいシャワールームも完備しているし、洗濯機だってある。快適すぎて、ガラルドガレージにいる時もこの中で過ごしてしまいそうだ。


「そうだね。じゃあ、バイクに燃料入れたらちょっと寝かせてもらおうかな?」

「ウチも、ちょっと寝かせてもらうっす!」

「あっ、僕ちょっと外を見てきていいですか?」

「ああ。変な奴に声かけられたら言えよ? 後でボコってやるから」

「ははは……」

「私は、アポターの屋根で昼寝する」

「屋根で? ……確かに気持ち良さそうだな、いい天気だし。あっ、落ちるなよノーラ」

「ん、大丈夫」

「私は……」

「カティアは、俺との勝負の続きだ。どさくさに紛れて、逃げようとしても無駄だぞ? パンツがブラジャー、どっちを脱ぐか選んどけよ?」

「いや〜、もう勘弁してよ!」

((( 何の勝負をしていたの!? )))


 先程までアポターにいなかったジュディ達は、ヴィクターとカティアの会話に疑問符を浮かべた。


「そんなことしたら、もうお嫁に行けないじゃないッ!」

((((( 嫁に行く気があったのか!? )))))


 そして、カティアの衝撃発言に、同じ事を考える一同であった……。



 * * *



-さらに2日後 昼

@ガフランク農園連合 圏内


 あの襲撃から2日。再び襲撃される事は無く、俺達はガフランクに到着した。……らしい。

 というのも、別に『ガフランクにようこそ!』みたいな看板があるわけでもなく、だだっ広い小麦畑が広がっていたり、トウモロコシやら野菜などが栽培されている畑が広がっていたり、牛や羊が放牧されていたりと、農園風景が広がっているのだ。


 ぱっと見は、牧歌的で平和な光景だ。こんな所が襲撃を受けているのか……。


「いい景色だな!」

「ハンスさんの所の夏小麦は、もう収穫の時期か。変わってないな……」

「ん? なんだミシェル、この辺の事知ってたのか?」

「あっ! ええと、それは……」


『止まれぇぇ!』

『ガフランク自警団だ! 積荷を確認させてもらうッ!』


「……何だ?」

「あっ……」


 外から声が聞こえ、キャラバンが速度を落とした。急いで運転席に戻ると、馬に乗った武装した男達が、キャラバンを取り囲んでいた。前の車から合図され、車を停める。

 すると、護衛対象のトラックの運転手が降りてきて、俺の所までやってくる。


「どうした?」

「ガフランクの自警団です。どうも、ピリピリしてるみたいで、積荷を確認させろって事らしいです」

「まあ、そういう事なら仕方ないだろうな」


 襲撃を受けているのは本当らしいな。一応、運転手なので車を降りて待機しておくか。




 キャラバンの先頭の車両から、積荷の確認をしているようで、しばらくして俺達の車の番になった。


「おいモーリス、これどうするよ……?」

「お、俺に聞くなよ兄ちゃん!」

「うーん、やっぱりマシューにぃに聞いてきた方がいいかな?」

「でも、マシュー兄さんだって、今忙しいだろ? 戦力になりそうだし、何とかならないかな?」

「……なあ、確認しなくていいのか?」

「あ、ああ悪い。もう少し待ってくれ!」


 積荷の確認をしていたのは、まだ若い青年の二人組のようだ。二人共、金髪碧眼でかなりのイケメンだ。会話の内容からすると、兄弟だろうか?

 そして、アポターとビートルを見るなり、コソコソと二人で話し出してしまった……。


「ヴィクター、まだ終わんないの?」

「ああジュディ、何かこの車見たら相談しだしてな」

「まあ、目立つからね。仕方ないんじゃない?」

「お、おい兄ちゃん、あのひと!」

「ん? ……んんッ!?」


 何やらジュディを指差したと思ったら、イケメンのうち一人が物凄い速さでジュディに近づいて来た。


「失礼……はじめまして、私はガフランク自警団のメビウス・エルハウスと申します。是非、貴女のお名前をお聞きしたい!」

「は? ……ジュディだけど」

「おお! ジュディさん、私は貴女の様な女性にお会いできて、光栄です! 長旅でお疲れでしょう、是非我が家でおもてなしさせて頂きたい!」

「あっ、兄ちゃんずりーぞ! ゴホン……お、俺はガフランク自警団のモーリス・エルハウスって言います! よろしくお願いしますッ!」

「……はぁ」


 突如、ジュディにモテ期が来たようだ。しかし残念だが諸君、ジュディは俺の女だ。君達がいくらイケメンだろうと、ジュディはなびかないぞ!

 ……靡かないよね? 何だか自信無くなってきた。だって、コイツらイケメン過ぎる! 語尾に『キラーン!』って効果音がついても、おかしくないくらいだ。

 お願いします、靡かないで下さい!


「……ヴィクター、どうしたらいい?」

「ナンパだろ? 振ったら?」

「あー、間に合ってるからいいよ」

「「 そ、そんなッ!? 」」


 イケメン二人は、絶望の表情を浮かべている。やったぜ! ジュディ、愛してるぞ!

 それにしてもコイツら、『エルハウス』って名乗ったが、どっかで聞いた名前だな?


「き、貴様はジュディさんとどういう関係なんだ!?」

「う〜ん……主人?」

「主人……だとぉ!?」

「ジュ、ジュディさん! アイツ何なんですか!?」

「あ? 馴れ馴れしいなお前……アタシの男だけど?」

「そ、そんなぁ!?」

「おい、モーリス。俺は、キレちまったぜ……」

「俺もだよ、兄ちゃん!」


 モーリスと呼ばれた青年は、胸元のホイッスルを吹いた。


──ピピーッ!!


 すると、武装した騎馬達が俺を取り囲み、銃口を向けてきた。


「ちょっ、ヴィクター!? おいテメェら、何のつもりだ!?」

「……どういうつもりだ?」

「今からこの車両は、我等ガフランク自警団が接収する!」

「はぁ!?」


 メビウスという青年がそう宣言すると、周りの騎馬達にも動揺が走った。


「ぼ、坊ちゃん!? さ、流石にそれは……」

「せ、正当性があるんですかい!?」

「うるさい! 今はそれどころじゃないだろう!」

「そうだぞ、いつ奴等が攻め込むか分からない状況だ。戦力は多い方がいいにきまってらぁ!」

「で、ですが…!!」


 何だが、仲間割れが始まってしまった。青年達が指揮を執っているようだが、周りの自警団の団員は皆大人で、青年達の行動を諫めているようだ。

 ……青年達は、実力者のボンボンとか何かかな?


「……ねぇ、何してるの? 二人共?」

「ん?」


 いつの間にか、ミシェルがアポターから出て来ていて、俺達の間に割って入って来た。


「「「「 ミシェルお嬢様!? 」」」」

「「 ミシェル、何でこんな所に!? 」」


「さっきから話を聞いてれば……二人共、勝手な事ばかり言って!」

「ち、違うんだミシェル!」

「おおお落ち着こう! な!?」

「ヴィクターさんにも、ジュディさんにも、自警団の皆にも迷惑かけて……!」

「や、やめて? お兄ちゃん、そこから先は聞きたくないよ?」

「ミシェル、待って! 落ち着いてぇー!」

「お兄ちゃん達のバカッ!! もう嫌いッ! ふんっだ!」

「「 ぬおおおおッ、ミシェルゥゥッ!! 」

「全部、マリアお姉ちゃんに言いつけるんだからッ!」

「「 それだけは勘弁して下さいッ!! 」」


「……何これ?」

「さぁ?」


 イケメン二人は、頭を抱えたり、地面に頭を打ちつけたりしている。せっかくのイケメンが台無しだな。


「あの、ヴィクターさん。兄たちが、失礼しました!」

「あっ、ミシェルのお兄さん達だったのか。何か会話の流れでそうだと思ったけど」

「……不本意ですがね」

「「 ミ、ミシェルっ!? 」」


 確か、ミシェルの本名は『ミシェル・エルハウス』だったな。確かに皆んなイケメンだし、金髪碧眼だ。

 天然で金髪というのは、かなり珍しい。子供の頃は金髪でも、成長するにつれて、髪の色が濃くなる人間が多いのだ。…………かくいう俺もそうだった気がする。

 しかし、成長しても天然の金髪を維持できるとは、エルハウス家は奇跡の遺伝子でも持っているのだろうか?


「お兄ちゃん達、キャラバンを家まで案内して! 仕事でしょ!?」

「「 分かりましたぁ!! 」」


 ……何か、ミシェルに弱みでも握られてるのか? 兄弟はいなかったから知らないが、普通は年上が偉いものじゃないのか?


「なあ、ミシェル?」

「あっ! ヴィクターさん、出発の準備です! 準備をしましょう!」

「……」


 まあ、後でゆっくり聞こう。


 キャラバンは、ガフランク自警団の案内で、農園風景の中を進んで行くのであった……。

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