第107話 西へ……1

-5日後 朝

@ノア6 整備場


「何コレ、本当に車の中なの!? そこら辺の家なんて、目じゃないわ!」

「凄い、オーブンに冷蔵庫まである……。ヴィクターさん、これは何ですか?」

「食洗機だな。食器を洗ってくれるんだ」

「じゃあ、コレは?」

「ピザ窯か? ピザが焼けるんだよ」

「あ、後で使い方教えて下さい!」


 アポターを回収して、5日が経つ。本日、遂にレストアとカスタムが完了した。特に、内装に一番時間がかかった。カティアやミシェルからの要望を聞いて、色々と凝った。

 その甲斐あって、皆からは好評のようだ。


「よし、じゃあそろそろ出るか。ジュディ達も待ってるだろうしな」


 ジュディ達は、俺達がノア6に乗ってきた車で、一足先にカナルティアの街に帰っている。ちなみに、ジュディは例のバイクに乗って行った。

 ついでに、フェイの休暇が終わる事と、モニカが例のワニ革の加工がしたいそうなので、一緒に連れて行ってもらっている。そういえば、革のなめし加工もそろそろ終わる頃だったな。


 ジュディ達がカナルティアの街に行くのは、レンジャーとして活動しているバックグラウンドが欲しいからだ。

 彼女達は、今後頻繁に死都に出入りする事になる。その為、死都に出入りしてもおかしくない、Cランクぐらいまでランクを上げてもらいたいのだ。


 ちなみに、彼女達は現在Eランクだ。野盗になったとは言え、律儀にレンジャー登録を抹消している訳ではない。

 つまり、バレなければ罪に問われないのだ。しかも、ジュディ達といた連中は、俺が全員始末したか捕らえている。不本意だが、囚われていた人達も、今じゃ俺を崇めている。最悪、ギルドにはフェイもいるし、何の心配もないはずだ。


「ヴィクター様、お気をつけて」

「ああ、行ってくる」

「ロゼッタさん、また授業して下さいね!」

「ウソでしょ!? 私はゴメンよ!!」

「カティアさん。ヴィクター様の相棒を名乗るのでしたら、もっと勉強して頂かないと……」

「嫌だぁ〜、勉強したくない!」

「ガキみたいな事言うな、カティア! 忘れ物無いな? ほら、早く乗れ!」


 俺達はアポターに乗り込むと、ノア6を後にした。



   *

   *

   *



「……ロゼッタさん、あそこで一人ぼっちなんですよね、ヴィクターさん?」

「ん? ああ、そうなるな」


 しばらく走った所で、ミシェルが話しかけてきた。あの混浴事件の後、頭を冷やしたミシェルが謝ってきた。正直気まずかったので、これを機にまたいつも通り……とはいかないかもしれないが、お互いに仲間として接するようにと決めた。……ノーラとのプレイで気まずかったのは内緒だ。

 初めのうちはギクシャクしてたが、数日経った今ではいつも通りだ。


「う〜ん、ロゼッタなら大丈夫だと思うぞ? 多分、今頃映画でも観てるんじゃないか?」

「あっ、映画! この中でも観れるんでしょ!? 早く観せなさい!!」

「はいはい。『テトラ君 シーズン3』でいいか?」



 * * *



-同時刻

@ノア6


「……一人になってしまいました。せっかくですし、映画でも観ましょうか♪」


 ヴィクター達を送り出した後、ノア6で一人になってしまったロゼッタであったが、最近観られなかった映画を観る時間が手に入ったので、内心ちょっと喜んでいた。

 さらに、ヴィクターとは電脳を介していつでも繋がっているし、最近では“腕時計”を介して、ヴィクターのハーレム要員達との交信が可能になっているので、別に寂しくもなかったのだ……。



 * * *



-数時間後

@ガラルドガレージ


「うおおおッ!? す、凄いっす……これがアポター君っすか!?」

「ご主人様、お帰りなさい。」


 ガレージに着くと、カイナとノーラが出迎えてくれた。ちなみに、ノーラはあの一件以来、髪を染める事にハマったらしく、もとの黒髪に、毛先を赤色のグラデーションに染めている。その為、ちょっとパンクな外見になったが、中々似合っているな。


「で、ギルドの方は大丈夫だったか?」

「はいっす。問題なく依頼受けられたっす!」


 カイナからこの数日の近況を聞いていると、ガレージの入り口からバイクのエンジン音が聞こえてくる。しばらくすると、フェイとジュディが中に入ってきた。

 実は、ギルドが俺を呼んでいるらしく、街に帰ったら連絡するように言われていたのだ。こちらから出向こうと思っていたので、まさかフェイの方から来るとは驚いた。


 ……それだけ緊急の用件という事だろうか?



「ヴィーくん、お帰り!」

「フェイ、何かあったのか?」

「それが、ヴィーくんに指名で依頼が来てて……」

「詳しくは、中で話そうか。ほら、アポターに乗ってくれ」

「あっ、その車完成したのね!」


 アポターの中に入ると、カティアとミシェルが壁のスクリーンでテトラ君を鑑賞中だった。そういやコイツら、ガレージに到着したというのに、一向に外に出て来なかったな……。


「わぁ!! 何これ、凄いねヴィーくん!」

「あっ、フェイ」

「おい、そろそろテトラ君はお終いにしろ」

「え〜、今いいとこなのに……」


 俺は、電脳でスクリーンを操作して、電源を切る。


「ああっ、テトラ君がッ!?」

「消したわね、この鬼、悪魔ッ!!」

「うるさい! 今からフェイと仕事の話をするんだ、ダイニングを開けろ!」


 カティア達を追い出して、フェイとテーブルにつく。


「で、依頼って何だ?」

「自治防衛隊のトップ、プルート・スカドールからの依頼よ」

「プルートか……」


 プルートには、モニカ誘拐の件で世話になっている。確かその際に、何かあれば協力すると約束していたな。


「内容はキャラバンの護衛なんだけど……。実はここ数日の内に、街の周りで野盗……狼旅団がまた活発になってて……」

「つまり、危険度が高くなっていると?」

「ええ。多分、確実に襲撃されるわ。しかも報告では、奴等武装した車両なんかも使ってくるらしいの」

「そりゃまた物騒な……」

「依頼は、ガフランクへの、スカドール家からの救援物資を届ける依頼ね。それに便乗して他の商人達もガフランクへの商品を輸送したいみたいだけど……」

「ガフランク?」

「正式には【ガフランク農園連合】って言うんだけど──」


 ガフランクとは、セルディア西部に広がる穀倉地帯に存在する、農園群を中心に構成された、農家達の互助同盟のことらしい。要するに、だだっ広い村みたいなものだ。

 セルディア西部では、農家一人あたりの持つ農地が広く、それぞれが家族経営の農園を形成している為、“村”が存在しない。その為、野盗による襲撃から身を守る為や、家畜を襲うミュータントに対抗する為、また農作物の価格管理や、既得権益の保護などの目的で結成されたのが、このガフランク農園連合というものらしい。


「今、そこに狼旅団の大軍が攻めて来ているらしくて……」

「なるほど、だから救援物資なのか」

「そう。かなり危険な依頼だけど……その顔は受けるつもりなのね?」

「ああ、プルートには借りがあるからな」

「自前の車両での参加もできるし、ヴィーくんなら大丈夫だと思うけど、無理はしないでね」

「ああ。後でギルドに行くよ」

「ありがとう。正直ギルドとしては、依頼を受けてくれて助かるわ」

「今日は、仕事は終わりか?」

「いえ、戻るわ。じゃあ、先にギルドで待ってるから。準備が終わったら来てね」

「ああ、またな」

「ジュディ、ギルドまで送って欲しいんだけど!」

「フェイ姉、今行くよ!」


 アポターから出ると、フェイはジュディを呼んで、ギルドへと帰っていった。先日、バイクに乗り始めたばかりだというのに、早速タンデム(二人乗り)とは……やはり才能なのか?


「良いな〜、私もバイク欲しい」

「お前、昔ジェイコブ神父のバイクをぶっ倒したんだろ? やめとけよ」

「ちょっ! 何でその話知ってるのよ!?」

「ジュディから聞いたよ」

「ジュディ! 後で覚えてなさいッ!」

「……いや、多分返り討ちにあうだろお前」


 ジュディは、ロゼッタから戦闘訓練を受けている。数日、手解きを受けただけのカティアでは、太刀打ちできる訳がない。


「あの、ヴィクターさん。そういえばガレージの隅のバイクって、動かないんですか?」

「あれか? う〜ん、ノア6に持って帰れば直せると思うが……」


 ガラルドガレージの隅には、壊れて錆び付いた古いバイクがある。一度、暇な時に直そうとしたが、街では碌な部品が入手できず、諦めていたのだ。


「あの……できたら、直して頂けませんか?」

「何だミシェル、バイクに乗りたいのか?」

「はい……僕も、ジュディさんみたいにカッコいい女性になりたくて……」


 最初、ミシェルをまだ少年だと勘違いしていた時は、ジュディに好意を抱いているのだと思っていた。だが実際には、ミシェルはジュディのようなカッコいい女性に憧れて、目で追っていたというのが真相らしい。

 正直、既にミシェルはカッコいい顔立ちをしているが、そういう事ではないのだろう。


「まあ、そのうちな」

「あ、ありがとうございます!」

「ちょっと、あれ私の家の物なんだけど!?」

「ほう……ならカティア、お前なら直せるのか?」

「ぐ……分かったわよ! 好きにすれば!?」

「ありがとうございます、カティアさん!」


 まあ、ミシェルがバイクに乗れるかどうかは別として、レストアには興味がある。これまで色々な物をレストアしてきたが、もはや俺の趣味となり、楽しんでしまっているのだ。


「まあ、バイクの話はその位にして、ギルドに行くぞ。仕事だ」

「えぇ……少しくらい、ゆっくりしましょうよ」

「まあ、今回は数日がかりの仕事になる予定だ。その間、アポターで過ごせるだろ?」

「あっ、確かに!」

「テトラ君の続きが見れますね!」

「よし。カイナ、車を出してくれ!」

「了解っす!」


 その後、カイナが運転する車に乗って、ギルドへと向かう事にした。


「この車はどうだ、カイナ?」

「いや、他の車運転したことないから分かんないっすよ!」

「それもそうだな」

「でも、ビートル君は凄いっすね! 腕時計で呼べば、自動で来てくれるし、最悪ウチがハンドル握らなくてもいいんすから」

「ビートル? この車の名前か?」

「そうっす! 6本足だし、砲塔も何かツノっぽくないっすか?」

「お前は、変な名前付けるのが得意だな」

「酷ッ!?」


 俺がアポター入手前まで乗っていた6輪駆動車だが、カイナから『ビートル』という名前を付けられたらしい。まあ、機械に名前があると愛着が湧くしな。その名前で呼ぶとするか。



 * * *



-数十分後

@レンジャーズギルド ロビー


 ギルドのロビーに入ると、ジュディがいた。ちょうど良かったので合流し、受付で待っていたフェイの元へ行き、依頼の登録をする。


「えっ、依頼ってガフランクに行くんですか!?」

「ああ。何か問題があるのか、ミシェル?」

「い、いえ。何でも無いです……」

「じゃあ、この依頼登録するわね?」

「あ、そうだフェイ。この依頼、パーティー組んでもいいか?」

「……もしかして、ジュディ達と?」


 ジュディ達は、俺達と別にチームを組んでいる。元から3人でチームを組んでいたので、それを維持しているのだ。別に、俺達のチームに吸収しても良かったのだが、彼女達は自分達の力でランクを上げていきたいそうだ。

 だが今回の依頼は、自治防衛隊からの指名依頼なので、殆ど強制の任務に近い。依頼を達成できれば、多くの功績が得られ、ランクアップが近づくはずだ。この機会を逃すのは惜しい……。


 ──というのは、表向きの話だ。


「ヴィクター。悪いけど、アタシらは自分達の力で……」

「ジュディ、ちょっと来てくれ」


(何だよ?)

(頼む、付いてきてくれ)

(……アタシらが必要なの?)

(ああ。ほら、夜の相手がさ……)

(あ〜、カティアとミシェルとはヤらないんだっけ?)

(……ジュディの方が魅力的だよ)

(バカッ! こ、こんな所で何言ってんのさッ!?)

(赤くなっちゃって、可愛い奴だな)

(〜ッ! わ、分かったよ! 行けばいいんだろ、行けば!!)


「という訳で、俺のチームとジュディのチームでパーティーを組む。それで登録しておいてくれ」

「分かったわ。すぐに先方に伝えるから、出発は明日の朝、西門に集合でお願いね」

「ああ、分かった」


 俺達は依頼を登録して、帰路についた。



 * * *



-その夜

@スカドール家 プルートの執務室


「奴が依頼を受けましたか……。ボードン、連中に伝えて下さい」

「へい!」

「ククク……ヴィクター・ライスフィールド、不穏分子たる貴様には引導を渡してやる!」


 プルートは、ワイングラスに酒を注ぐと、それを優雅に飲み干した……。





□◆ Tips ◆□

【アポター】

 アポカリプスシェルター®︎カスタム。通称、アポター。崩壊前のキャンピングカーを、ヴィクターがカスタムした車。

 6×6の駆動系により、オフロードでの走行も十分に可能。また、ハイドロニューマチック・サスペンションの採用により、車体を常に水平に保つ事ができるので、不整地でのキャンプでも負担にならない。

 動力は、“受信機”による無線給電方式を採用した為、半永久的な活動が可能。また、これを外部に給電する事で、ガラルドガレージの“電池”としても機能する。他にも、燃料タンクを備え、随行する車両への給油ができる。

 車体上部に遠隔式砲塔を備え、車内の端末から射撃が可能。武装は、20mm機関砲1門と、それを挟み込むように4連装ミサイルランチャーが2門装備されている。他にも、小口径レーザーによる、ハードキルタイプのアクティブ防護装置が装備されており、車体に飛翔する物体を撃ち落とすことができる。

 運転席は、中から外が見えるが、外からは中の様子が見えない特殊なガラスでできており、自動運転の際にドライバーがいなくても、目立たないように工夫されている。




【ガフランク農園連合】

 セルディア西部に広がる穀倉地帯に存在する、農園群を中心に構成された、農家達の互助同盟。カナルティアの街の食料の、6割以上はガフランク産である。

 いわゆる、農業協同組合に性格が近く、独自の自警団も組織している。

 名前の由来は初代会長、ガフランク・エルハウスより取られている。現会長は、マシュー・エルハウス。

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