第105話 キャンピングカー

 ブリーフィングルームの巨大なモニターに、大型の6輪トラックと、装甲戦闘車両を足して2で割ったような車が、緊張感溢れるBGMと共に映し出される。

 続いて、大規模なデモの映像、ゾンビが街を闊歩しているような映像、核爆発の映像など、世界の終わりを彷彿とさせる映像が流れだす。


『政治崩壊、パンデミック、世界大戦……この世界はいつ訪れるとも知らない、危機に満ちています! いざ危機が迫った時、貴方が取る選択が、貴方と家族の今後を大きく左右するのです!』


 まずは典型的な広告方法である、消費者の危機感を煽る導入のようだ。不安商法っていうのか? 正直、キャンピングカーに不安商法って、ビックリだけどな……。


『地下シェルター? 堅実です、それもいいでしょう。ですが、その後は? いずれ、外へと繰り出す必要があります。物資の調達や、迫り来る何かから逃れる為に……。ですが、もしシェルターごと移動できたら? そんな貴方に、当社の【アポカリプスシェルター®︎】をご紹介いたしましょう!』

『……汎用性の高いキッチンに、ダイニングスペースも充分に確保。シャワー室に、水洗トイレも完備! カプセル式二段ベッド、マスターベッドルーム、さらにリビングスペースは臨時のベッドルームへと可変する事ができ、5〜6名での充分な生活が送れます!』

『もしガス欠になったら? 大丈夫、この車は電力受信機(搭載予定)により、例え地上が火の海になろうとも、絶えず衛星からの電力を得ることができ、走り続ける事ができます!』

『もし敵に襲われたら? オプションで搭載可能な砲塔により、最大20mm口径の機関砲が、敵をなぎ倒すことでしょう!(映像はイメージです。武装は軍用モデル予定)』

『実績あるUzusi社製大型トラックをベースに、オフロード性能を強化! 6輪駆動により、どんな所へでも、貴方の家族を連れて行く事が可能です!(連合法に基づく通行可能地帯に限る)』

『しまった、紛争地帯だ! ご安心下さい、装甲板(オプション装備です。別料金予定)により、安全に通行ができますよ!』

『……他にも、車体後部にはオートバイを搭載可能。電動のアームにより、速やかにバイクを上げ下げできます(注:バイクは別売りです)』



 テンポ良く商品の紹介が進んでいくが、「搭載予定」やら「映像はイメージです」だの注釈テロップ満載で、信用できないものが多い。また、電力受信機に至っては連合の機密なので、まず搭載できなかっただろうし、武装も法に抵触する。

 だが、溢れるロマンだけは感じられる。作った連中も、きっと楽しんでいたに違いない。



『……アポカリプスシェルター®︎はキャンプやレジャー、世紀末の生活まで、幅広く貴方を支えます!(発売未定、予約受付中)』


 その後しばらく紹介が続き、映像は爆発を背景に駆け抜けるキャンピングカーと共に、商品ロゴが表示されて終了した。


「「「 …… 」」」

「あ〜、今回はこの車を入手するのが目的だ。……何か質問あるか?」

「えっと……何アレ? 凄すぎでしょ……」

「ほ、本当にあんなの実在するんすか!?」

「すごい……あれがあれば、野営しなくてよくなる!」


 ジュディは信じられないといったような感じで、カイナとノーラは興奮気味だ。もし、本当に広告通りのスペックを発揮できるならと考えると、俺でも興奮する。

 いや、そう都合良くないのは分かっている。所詮、広告は広告なのだ。カタログスペックと、実際に発揮するスペックは違う。


 だが、自分の手であの車を実現させるというのも一興だ。幸い、それが可能な施設と、受信機をはじめとした機器は所持している。

 俺ならやれないことはない!


「だが、一つ問題がある。この車が保管されている場所だが……キラーエイプの巣窟になっていた」

「……えっと、何匹くらいだったんすか?」

「見た感じ、80匹くらいかな。まあ多くて、100匹くらいじゃないか?」

「ちょっ、ヴィクター!? それ、危険度Bクラス以上あるでしょうがッ!」


 ジュディが言う“危険度”とは、ギルドが設定しているミュータントなどの強さの指標だ。危険度Bだと、『Aランクレンジャーもしくは、Bランク複数名での対処を推奨』といった感じだ。


 キラーエイプ……俺がガラルドの世話になるキッカケを作ったミュータントだが、未だにリベンジ出来ずにいた。コイツらは、単体の戦闘力はそこまで強くはないが、群れを作ることで、その危険度が高くなるという性質があるのだ。

 100匹の大規模な群れなら、その危険度はBクラスにはなるだろう。


 あの時は逃げる事しか出来なかったが、今は装備もあるし、仲間もいる。何とかなるはずだ。


「じゃあ、明日に備えて準備しておけよ〜」

「あ、おい!」

「何かヤバそうっすね……」

「頑張るしかない……」



 * * *



-翌日

@死都 ショッピングモール


 昨夜は、フェイがやたらと積極的だったな。正直、ロゼッタとか他の女の子との関係を黙ってたから、愛想をつかされたと思ったが、杞憂だったようだ。


 しかし、最近は複数人を相手にすることが多いな……。ガレージでも、基本的にフェイとモニカを二人同時に相手にするし、昨夜もロゼッタとフェイと寝た。

 ロゼッタは依存症だと言っていたが、正直言って、酒やら薬に走らないだけ健全だと思う。今のところ困ることもないし、別にこのままでいいかな?


「……ヴィクター、どうしたの?」

「ああ、悪い。ちょっと考えごとをな」


 ジュディに声をかけられ、我に返る。現在、俺達は目的地である、キャンプ用品のイベント会場となっていた、ショッピングモールへと向かっていた。

 移動には、軍用の装甲兵員輸送車を使っている。ちなみに自動運転機能を使用している為、運転手はおらず、こうして4人で兵員室でくつろいでいる。


 今回はキャンピングカーを手に入れて、ノア6まで牽引する必要があるが、いつもの車だと牽引時にパワー不足になるかもしれない。

 俺の、崩壊前の物はなるべく外に出さないという、自重方針からは外れるが、今回は目を瞑ろう。そもそもこの方針自体、最近は曖昧になっている気もするしな。



 しばらく走り、目的地に到着する。

 会場は、ショッピングモール内の屋内会場と、野外会場に分かれている。本来なら、野外会場にはトレーラーハウスなどが展示されていたのだが、以前グラスレイクにほとんど持って行ってしまった為に、今は閑散としている。


 そしてその際に屋内を調査したところ、キラーエイプの群れがたむろしており、以前のように追われるハメになったのだ。あの時は、閃光手榴弾などを駆使して逃げたが、酷い目に遭ったものだ。

 キラーエイプめ……今日こそ奴らに引導を渡してやる。三度目の正直って奴だ!


「よし、行くぞ! カイナとノーラは上階の確保と援護、ジュディは俺と来い!」

「「「 了解! 」」」


 警戒しながら、ショッピングモールの中へと入ると、獣臭い匂いが鼻を刺激する。ショッピングモールは、半分外、半分屋内のような設計で、中から空が拝め、風通しは良い。

 にもかかわらず、これだけの匂いがあるということは、それだけの数の猿がいるということなのだろう。


「「「 ギャー! ギャー! 」」」


 しばらく歩いていると、奥から猿の群れが迫って来た。


「よし、カイナ達はそのまま上を抑えろ。ジュディ、背中は任せた!」

「はいよ!」


 カイナ達は階段を上がり、上階へと登って行く。俺は懐かしの、アンバージャックという渾名あだなのブルパップ式アサルトライフルを構える。

 ちなみに、以前使っていたアサルトライフルは、先日カイナにプレゼントした。


 街であんな車を乗り回しておいて、今更装備を隠蔽しても仕方がない事に気がついた俺は、今回のノア6帰省を機に、装備を更新する事にしたのだ。

 正直、MAR-06アンバージャックの方が、電脳化している俺には使いやすく、軍に入った時もこれで訓練していたので、身体が慣れているのだ。


 俺とジュディは、猿達に向けて発砲を始める。銃声が響き、猿が倒れていくが、猿達はどんどん増えていき、その勢いは止まる様子がない。


──ダダダッ! ダダダダッ!

──ダンッ! バンッ!


「やっぱり、こっちの方がしっくりくるな!」

「ヴィクター、背中借りるよ!」

「了解!」


 ジュディはそう言うと、俺の背後でショットガンのリロードを始める。

 ジュディには、以前俺が作ったセミオート式のショットガンを渡している。外観を従来のポンプアクション式に似せる為に、チューブ型弾倉を採用しているので、リロード時は1発ずつ弾を込めていく必要があるのだ。ジュディのリロードが終わるまで、彼女の援護をする。


《ご主人様、配置ついたっす!》

《いつでも撃てる》


 カイナ達には、骨伝導式のインカムを装備させている。これにより、電脳化していない彼女達でも、腕時計を介して俺との交信が可能になるのだ。


《よしノーラ、奥から来る奴を狙え。動目標だが、落ち着いて狙えよ》

《頑張る》

《カイナはノーラの護衛だ。余裕があったら、そこから援護してくれ。サプレッサーはつけろよ?》

《あの銃のコンドームみたいな奴っすよね? ちゃんとついてるっすよ!》

《……何だよ、その表現は》


「ヴィクター、後ろ!」


 ジュディの声に、後ろを振り返ると5匹の猿が後方から迫っていた。


「くそ、挟み撃ちか。ジュディ、やれるか?」

「ま、任せな!」


 上からノーラ達が援護してくれているとはいえ、前から迫って来る猿は多い。ジュディに背中を任せて、俺は前から来る猿達に対処する方がいい。


──ダンッ! ダンッ! カチッ!


「クソッ、すばしっこいんだよッ!」

「リロードか? 援護するぞ」

「いい! ヴィクターは前だけ見てな!」


 ジュディは地面に銃を放ると、背中に背負っていた棍棒を手に持って、猿達に突撃して行った。後方から迫る猿は、ショットガンの連射で2匹仕留めている。残るは3匹だ。


「ほらほら、かかってきな!」

「キキーッ!」

「もらった!」

「ギャッ!」


 ジュディに飛びかかった猿が、ジュディのフルスイングで吹っ飛び、地面に叩きつけられる。猿はしばらくピクピクと痙攣したのち、絶命したのか動かなくなった。


「「 ギャー! ギャー! 」」


 仲間を殺され、逆上した猿がジュディに飛び掛かる。素早い動きだが、ジュディは攻撃を回避して、すれ違いざまに1匹の猿の頬に、拳を叩き込んだ。


「グゲェ!?」

「ふんっ!」

「……ッ!」


 ジュディの拳を叩き込まれ、着地に失敗した猿は、瞬時に肉薄したジュディに、頭をゴシャ!という音と共に、頭を棍棒で割られて絶命した。


「キキィィッ!」


 その後ろから最後の猿が迫る。ジュディは棍棒から手を離すと、振り返りつつ太ももに装着している拳銃を引き抜き、猿に向けて発砲する。


──パン、パン、パンッ!


 今にも飛びかかろうとしていた猿は、その場で銃弾を浴びて転倒し、動かなくなった。


「ギ……!」


 猿の奇襲部隊は全滅し、ジュディはショットガンを拾うと、ヴィクターに合流する。


「終わったよ! そっちは?」

「おつかれ。大分倒したが、まだ隠れてるだろうな」

「分かった。警戒して進むよ」

「それにしてもジュディ、大分強くなったな?」

「ママ……ロゼッタさん程じゃないけどね」


 バイオロイドであるロゼッタは、今のところ俺よりも強い。もしかしたら崩壊後の現在、世界で一番強いのではないだろうか?

 そんな彼女と毎日組手をしていれば、電脳化していない彼女達だとしても、それなりに強くなるはずだ。


《ご主人様、この後どうするの?》

《ノーラ達は、そのまま上の階を移動して、俺達について来てくれ。足場が崩れてるかもしれないから、気をつけろよ!》

《わかった》

《了解っす!》


 俺達は、静まり返ったショッピングモールの廃墟を、警戒しながら進んでいく。



 * * *



-数分後

@ショッピングモール イベント会場


 大抵のショッピングモールには、イベント用に開けたスペースがあるものだ。ここも例に漏れず、そういうスペースがあり、俺達の目的であるキャンピングカーが展示されているはずだった。


「あっ、ヴィクターあれ!」

「ああ、あれがそうだな」

「凄い、本当にあるのかよ……!」


 イベント会場に到着した俺達だったが、無事に目的のキャンピングカーを見つける事が出来た。というより、会場のど真ん中に、垂れ幕付きで展示してあった。

 ……注目されてたのかな?


「ん? ……やっぱり、タダじゃくれないか」

「ヴィクター?」

「囲まれてるぞ、気をつけろ!」

「ッ!」


 手に持ったアサルトライフルのセンサーを通して、多数の生体反応が俺達を包囲するように展開し、ジリジリとその包囲の輪を狭めているのが分かった。


「ウキーッ!」


 目の前のキャンピングカーの上に、一回り以上大きな猿が乗り、鳴き声を上げる。おそらくボス猿だろう。

 ボス猿の鳴き声と共に、周りに隠れていた猿達が一斉に姿を現し、俺とジュディを取り囲んだ。


「10……20……少なくとも、30匹位いるんじゃないか?」

「ど、どうすんのさ!?」

「少なくとも、直ぐに襲ってくる様子はないな」


 猿達は、俺達の周りをグルグルと走り回っている。しばらくすると、ボス猿がキャンピングカーから降りて来て、俺達に対峙する。

 ボス猿は、歯をむき出しにして後脚で立ち、両手の鋭い爪を見せつけるように威嚇している。


「……なあ、ヴィクター。もしかして、タイマン希望ってこと?」

「そう……みたいだな……」


 猿は、群れのボスの座を巡って争うものがいるらしいが、そういった習性でもあるのだろうか? 目の前のキラーエイプのボスからは、「後ろのキャンピングカーが欲しけりゃ、俺を倒してみな?」とでも言っているような雰囲気を感じる。


 いや、もしかしたら残った群れを守る為に、ボスである自分自らが前に出てきただけなのかもしれない。ハッキリと判別してないが、周りの猿は子供やメスが多いみたいだし……。


「……わかった、付き合ってやるか」

「ちょっ、本気!?」


 俺は、ナイフを抜いて構えると、ボス猿に対峙する。


「よし、かかって来いッ!!」

「ウキキキッ!!」


──バチィンッ! ボスッ!


「キキ……ギィ……!?」

「「 ……えっ? 」」


 ボス猿が両手を広げ立ち上がり、決闘前の威嚇をしていたその時、突如ボス猿の胸に穴が開き、ボス猿は膝をついた。


──バチュンッ! ドサ……


 次の瞬間、今度はボス猿の額に穴が開き、ボス猿はそのまま前のめりに倒れて、動かなくなってしまった……。


「「 ウッキーッ! 」」

「「「 キキーッ!! 」」」


 ボスが死んだのを見て、猿達は蜘蛛の子を散らすように逃げていった。


「……ま……まあ、結果的にキラーエイプを撃退できたし、いいんじゃない?」

「それは、そうなんだけどさ……」


 なんだか納得できないような、そんな感覚を覚えながら、俺は後方の上階フロアを眺める……。



 * * *



-同時刻

@ショッピングモール 3F


「ノーラ、ノーラ! 見てこれ、すっごくエロくないっすか!?」

「カイナ、集中して」

「はえ〜……崩壊前の女の子達って、本当にこんな下着履いてたんすか! ウチもノア6で下着貰った時はビックリしたけど、ご主人様達にとっては普通だったんすね」

「……」


 ノーラとカイナは、ショッピングモールの上階を移動して、ヴィクター達の後を追っていた。途中、ランジェリーショップ(かなりアダルティなブランド)のマネキンに、カイナが興味を示して寄り道していた。

 というのも、先に進もうにも天井が崩落している箇所があり、このまま前に進めない状態だったのだ。


 ちなみに、カイナ達に支給されている下着は、完全にヴィクターの趣味が反映されている為、カイナは勘違いしているのだった。


(……これは、下の階に移動した方がいいかな?)


 ノーラがそんなことを考えていると、前方に見える広場で、ヴィクター達が猿に囲まれているのが見えた。ノーラは急いでその場に伏せると、担いでいたスナイパーライフルのバイポッドを下ろして、スコープの蓋を開き狙いをつける。


「どうしたんすかノーラ!?」

「敵! ご主人様達が囲まれてるッ!」

「ま!? やばいっす!」


 カイナも、ノーラの隣に伏せてアサルトライフルを構える。


「……カイナ、狙えそう?」

「う、ウチはちょっと自信無いかな〜……」

「分かった」


 敵との距離は、そこまで離れていない。さらに、撃ち下ろす形になる為、射撃するには絶好のポジションだ。だが、敵の近くに仲間がいる為、誤射の恐れがあった。

 カイナは、あまり自信が無いようだ。ここは、ノーラの腕の見せ所になるだろう。


「な、何かデカい奴が出てきたっすよ? ボス猿って奴っすかね?」

「殺る」

「あれ? 何かご主人様、ナイフ構えてるっすけど……状況的に決闘みたいな……」


──ドシュンッ! ガシャッ……チリリン……


「……感じがするんすけど」


──ドシュンッ! ガシャッ……チリリン……


 ほんの数秒。カイナはその間に、自分の隣からサプレッサー付きのボルトアクションライフルの発砲音と、ボルトを操作して飛び出した薬莢が転がる音を2回聞いた。


「……あの、ノーラさん?」

「んっ、片付いた」

「いや、今なんか決闘するみたいな雰囲気だったっすよ!?」

「油断大敵……。狙撃の基本は奇襲だから」

「い、いいんすかね……それで……」

「カイナ、ご主人様達と合流しよう」


 そう言うと、ノーラは立ち上がり、ライフルを背中に担いだ。



 * * *



-数分後

@ショッピングモール イベント会場


 しばらくして、カイナ達が降りてきて、合流することとなった。


「見事な狙撃だったな、ノーラ!」

「ん、これくらいなら楽勝」

「うわっ、凄いっす! これ、あのアポ……何とかって車っすよね!?」

「アポカリプスシェルターな」

「何か長いっす……。もう“アポター”君で良くないっすか?」

「正直、名前ダサいから好きに呼んでいいぞ?」

「いや、ヴィクター……アポターも変な名前だから」

「あっ、ジュディ酷いっすよ!」


 アポカリプスシェルター改め、アポターだが一つだけ問題があった。それはどうやってコイツを外に出すかだ。牽引するには、外に停めてある装甲車まで持っていかなければならない。

 カイナ達と合流する前に、車体を一通り調べたが、経年劣化により、とてもエンジンがかかりそうになかった。


 外に出さなければ牽引はできない。どうやって外に出すかまでは考えてなかったな。さて、どうしたものか……?






 結局、何も思いつかなかったので、装甲車をショッピングモールの入り口からダイナミック入店(入り口のシャッターやら、自動ドア、その他備品を踏み潰しながらの入店)を敢行させて、そのまま引っ張っていくことにした。

 無理矢理な感じがするが、致し方あるまい……。



 * * *



-1時間後

@死都 ノア6への帰路


「そういえば、最初からこの装甲車で突っ込めば、ウチら戦わなくても良かったんじゃないすか?」

「……」

「……ヴィクター?」


 確かにその通りだ。装甲車なら、キラーエイプの群れごとき、簡単にひねり潰せただろう。


「いや、今回はお前達の実力を測る……という、もう一つの目的があってだな?」

「そうだったの?」

「そうだったんすか!?」

「知らなかった」


 彼女達を連れて来たのは、単にカティア達がノア6で研修を受けていて、同行出来なかったからなのだが……。そんなことを言える雰囲気ではない。

 それに、崩壊前の兵器をむやみやたらと使うべきでは無かったし、彼女達の戦闘に関する問題点も見つける事が出来た。結果良ければ、すべて良しなのだ。


「あ、ノーラ。お前、今夜お仕置きだから」

「「 えっ!? 」」

「ど、どうして……!?」

「お前が狙撃した時に、貫通した弾がアポターに穴開けたんだよ」

「「「 あっ…… 」」」

「お前のライフル、貫通力がかなり高いからな。もし、敵の後ろに味方とか、人質がいたら当たってたかもしれないぞ?」

「……ごめんなさい」


 いや、ノーラは正直良くやってくれた。だが、昨日のブリーフィングで、キャンピングカーに傷をつけたら罰を与えると宣言しているので、無視する訳にはいかない。


「ちょっとヴィクター、それ酷いんじゃない!?」

「ノーラがかわいそうっす!!」

「分かってる! ノーラ、別にお前の事を責めてる訳じゃない。むしろ良くやってくれた。俺達を守ろうとしたんだよな?」

「……はい」

「だが、今回は装備が悪かった。距離が限定されるショッピングモール内で、そのスナイパーライフルは過剰な性能だったんだ」

「……」

「罰は与える。だが、今回の働きの褒美として、今回はみたいな状況にピッタリな銃をやる」

「……いいの?」

「俺が作ったやつだから、癖とかあるかもしれないし、精度も保証できないけどな。まあ、使ってやってくれ」


 マークスマンライフルって言うのか? そんな銃も一応作ってある。だが、マークスマンライフルを持ち出すくらいの距離で戦闘が起きたなら、狙撃の成績がイマイチな俺は、逃げるか接近すればいい。無理に敵の狙撃手と対決する必要はないのだ。

 さらに、アサルトライフルでも600mくらいなら弾が届く事に気がつき、完全にお蔵入りになっていた。


 ノーラは狙撃を担当する関係上、素人である俺が作った物ではなく、今では“遺物”と呼ばれている、崩壊前の高精度な製品を使用させている。

 その為、ノーラは俺の在庫処分に寄与していないのだ。この際、在庫をノーラに押し付け……プレゼントすることで、この場を丸く収めるとしよう。


「ノーラ、いいなぁ。ウチなんて、このクソボロボロの銃なのに……」

「何だ、カイナ。文句があるなら……」

「あっ、無いっす! やっぱ遺物の銃は高性能っすよね! いいの貰ったな〜うん」

「分かればよろしい」

「あっ、でもこの銃……後で塗装し直していいっすか? 流石にこれは無いんで……」

「なん……だと……!?」


 お、俺の傑作ウェザリングを潰すというのか!? だが、考えてみればもう必要無いか。すでに街で目立ってしまっている以上、目立たないようにする必要も無いからな。

 ……ウェザリングは惜しいが、カイナのモチベーションが上がるなら、それも許可してやろう。


「イ、イイゾ。好キナ色ニ塗リナサイ……」

「な、何でそんな悲しそうな顔してんのよヴィクター?」

「うるへー!」


 さらば、ウェザリング。よろしくアポター君。

 こうして俺達は、目的のキャンピングカーを手に入れ、無事にノア6に帰還した。





□◆ Tips ◆□

【アポカリプスシェルター®︎】

 とあるキャンピングカーメーカーと、軍装品メーカーがコラボレーションして作ったキャンピングカー。イベント向けの試作品で、商品化はされていない。

 著名なトラックメーカーであるUzusi社製の、大型6輪駆動トラックをベースに作製されており、オフロードに強い。オプションで、機関砲やミサイルなどの武装化、装甲板による装甲化が可能(予定)だったらしい。

 過剰な性能を広告していたが、インテリアだけはかなり豪華な仕様だった。


[モデル]Action Mobil Globecruiser 7500 Family




●ジュディの装備●


【スレッジガン】

 ヴィクターが製作した銃器の一つで、セミオート式のショットガン。外観は、従来のポンプアクション式ショットガンに近い。

 セミオート式による高い発射速度と、確実に作動する機関部が特徴。また、重量も大型散弾銃にしては軽めの為、長時間の活動での負担が軽減されている。

 使用弾薬は通常の散弾の他に、電極を発射して対象を無力化するスタン弾、貫通力重視のサボット弾などを使用する。

 

[使用弾薬] 12ゲージ

[装弾数]  7+1発

[有効射程] 弾丸により変動

[モデル]  ベネリ M4



【ジャストミート】

 マッシブグラマーな女の子、ジュディちゃんのバット型棍棒。ヴィクターが、ジュディ用に作成した。

 外観は、細身の金属製ベースボールバットといった感じだが、ヘッドの部分には、太く短いビスが無数に飛び出しているという、凶悪な見た目をしている。分かりやすく言えば、超高品質の釘バット。

 材質は“レガルチタン”と呼ばれる、共和国製の高品質チタン合金を使用している。



【P-10】

 ジュディのサイドアーム。

 民生品の拳銃で、ヴィクターが発掘した崩壊前の遺物をレストアした物。

 主に警察で使用され、グリップの形状を個人に合わせて変更可能な仕様により、手の小ささに悩む女性警官からの人気が高かった。


[使用弾薬] 10×22mm弾

[装弾数]  13発+1

[有効射程] 50m

[モデル]  H&K VP40




●カイナの装備●


【MAR-64 A3+GL】

 連合軍の旧式アサルトライフル。

 以前まで、ヴィクターが使用していた物のお下がり。カイナ用カスタムとして、光学照準器と、バレル下部にグレネードランチャーを装備している。

 ヴィクターが施した「今にも暴発しそうなウェザリング加工」は、カイナに不評な為、後に塗装を変えられる予定。ヴィクターは悲しんでいる……。


[使用弾薬] 6.8×43mm弾 / 40mmグレネード弾

[装弾数]  30~60発 / 1発(グレネードランチャー)

[発射速度] 650-750発/分

[有効射程] 500-600m

[モデル]  レミントンACR+FN EGLM



【リングハンマー】

 カイナのサイドアーム。

 ヴィクターが、様々な会社の拳銃を参考に、フラッシュライトやサプレッサーなどのオプションパーツの装着を前提に開発した拳銃。開発後、わざわざ作るより、完成度の高い既存の拳銃で十分だと気がつき、お蔵入りに……。

 一応、崩壊後の世界で目立たないように配慮して、古き良きハンマー撃発式を採用している。(崩壊前の自動拳銃の殆どはストライカー式)

 現在、カイナによる塗装などのカスタムにより、痛銃化が進行中。

 

[使用弾薬] 10×22mm弾

[装弾数]  13発+1

[有効射程] 50m

[モデル]  FN FNX-40




●ノーラの装備●


【GW-422R】

 旧式の狙撃銃GW-422のマイクロマシン対応の近代化改修型。ボルトアクション式だが、ストレートプルボルトを採用しているため、射撃間隔はセミオート並に早い。長年使用されてきた信頼性と、電脳との連動による精度向上により、戦闘力は大幅に向上している。

 電脳化していないノーラでも、高精度の狙撃が可能。


[使用弾薬] 8.6×70mm弾

[装弾数]  5発

[有効射程] 1500m

[モデル]  L115A3



【HP-98+HPワンタッチカービン®︎】

 ノーラのサイドアーム。

 連合軍正式採用拳銃:HP-98に、民生品のピストルカービン化コンバージョンキットを装着したもの。ワンタッチで展開するストックと、専用のホルスターにより、高い携帯性と射撃精度の向上を実現している。

 ヴィクターの改造により、マシンピストル化されているが、発射速度が速く制御に難がある為、ノーラは基本セミオートで使用している。


[使用弾薬] 10×22mm弾

[装弾数]  17発+1

[発射速度] 1200発/分

[有効射程] 100m

[モデル]  SIG SAUER P320+FLUX Defense MP17

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