第101話 山奥の寒村3
-数分後
@山奥の村 村長宅
村長宅に招かれた俺達は、依頼のミュータントについて話を聞いた。
「で、どんなミュータントなんだ?」
「それはそれは、とても恐ろしいミュータントでした……」
「もっとこう、具体的な特徴とかを教えてもらえないか?」
「目が二つありましたな……」
「ほう」
「それから、口は一つ……」
「ふむ……それで?」
「ああ、あと耳は二つでしたな」
「……」
いや、それって殆どの生物に当てはまるだろうが。……何だろう、馬鹿にされているのだろうか?
さっきも、村人達からは変な目で見られていたし、やはり余所者が嫌いなのだろうか?
「あ〜……じゃあさ、他にもレンジャーが来たと思うんだけど、そいつらの事、何か知らないか?」
「はて……何の事でしょう? そのような者達が来た覚えはありませんが……」
「そうなのか?」
「この山奥ですからな。見つけられないのも無理はないでしょうて……」
確かに、この村は分かりにくい所にあった。森に囲まれていたので、見つけるのは難しいかもしれない。
だが、さっきから村長の言葉に信憑性が感じられないというか、胡散臭いというか……とにかく怪しい感じがする。
「おお、そういえばもう昼ですな。どうです、ご一緒に?」
「いや、俺達は大丈夫だ。もう食ってる」
「ままま、そう言わずに……」
実際、車の中でミシェルが作ったサンドイッチを食べている。だが、村長は俺の話を聞かずに台所に向かうと、トレーに乗ったスープを持ってきた。
……用意が良いな、ますます怪しい。
村長がトレーを運んでいると、突如トレーがカタカタと震えだし、ビチャビチャとスープが飛び散る。
「ヴィクター、その人ッ!」
「ん?」
村長の顔を見ると、引き攣ったように口角を上げて、歯をむき出しにした様な不気味な笑みを浮かべていた。
その光景に、座っていた椅子から腰を浮かべた時、村長の身体の震えが大きくなり、皿の一つが床に落ちてしまった。
「お、おい……大丈夫か?」
「ッ!? ヴィクターさん、こ……これ!」
「ん? ……ま、マジかよ!?」
ミシェルが床に溢れたスープを指差していたので、視線を向けると、何と蛆虫の様なものが入っていたのだ!
「くく……っと、すいません。この辺の風土病の様なものでしてね……時々、今の様に震えが止まらなくなったりするんですよ。怖がらせて申し訳ない」
「そ、そうなのか……」
昔、鉱山があったとか言ってたからな……鉱毒の一種か?
「そういえば、そのスープは……?」
「ああ、
「ね、鼠……蛆虫……」
「ッ!? ミシェル!」
「おっと……」
色々とショッキングだったのか、ミシェルがフラフラと床に座り込んでしまったので、倒れないように肩を支えてやる。
「すまんな村長。せっかくの好意だが、俺達に虫やら鼠を食う習慣は無くてな。悪いが遠慮させてくれ」
「…………そうですか。では、お連れ様がお疲れのようですので、部屋をお貸ししましょう」
「……助かる」
「ヴィクターさん……ご、ごめんなさい……」
正直、さっさと出て行きたい所だが、ミシェルがこの状態だ。少し休ませたい。
「では、どうぞこの部屋に……」
案内された部屋は、窓が無く、薄暗い倉庫にベッドが一つあるだけの様な部屋だった。
「なあ、ワガママを言うようだが、せめて窓のある部屋に……」
──バタンッ! ……ガチャリ
「……マジかよ」
俺達が部屋に入ると、ドアが閉められて鍵がかけられた。
「ちょっと、何が起こってるの!?」
「慌てるな。今、灯りをつけるから」
「私たち、閉じ込められたの!?」
フラッシュライトを取り出して、部屋の中を探索すると、ロウソクが見つかったので、ライターで灯りを点ける。
「……で、どうすんのよ!?」
「まあ、待て。……ミシェル、具合はどうだ?」
「はい、大分落ち着きました。ごめんなさい、迷惑をお掛けして……」
「まあ、ショッキングな光景だったしね。仕方ないわよ」
ミシェルは、目の前で仲間がアーマードホーンに殺されていたり、カティアは絞首刑を目の前で観れてラッキーとか言っていたが、俺としてはそっちの方がショッキングだと思うのだが……。やはり、時代により価値観は変わるのだな。
しばらくして、ミシェルが調子を取り戻したので、作戦会議を始める。
「多分、依頼にあったミュータントなんていない。失踪したレンジャーも、村長……いや、この村が何か絡んでいるはずだ」
「異議なし。アイツら怪しすぎるわ」
「こ、これからどうするんですか?」
「ま、当然逃げるわな。多分、連中は俺達が武器を持ってないと思ってるんだろうが、俺は拳銃やら色々携帯して来てる」
「私はナイフだけ……」
「僕は、以前ヴィクターさんから貰った拳銃と、手榴弾が2本ほどです」
「よし、じゃあカティアこれ使え。前に使ったことあるだろ?」
カティアに拳銃型スタンガンを渡す。
「あ、これビリビリする奴ね!」
「よし、これで最低限身を守れるな。次は、鍵だ」
ドアを調べたが、おそらく部屋の外側にサムターン、内側に鍵穴があるという、完全に監禁する事を前提にしたとしか思えない構造をしていた。しかも、鍵穴は4つも付いていたのだ。
部屋に入る前に気がつくべきだったな……。
タックルしたり、拳銃で鍵穴を撃ち抜いたりすれば、出られないことも無いだろうが、音でバレてしまうだろう。
逃げるならコッソリと、気づかれ無いようにやるのが基本だ。
「ミシェル、やれるか?」
「やってみます。ライトを貸してもらえますか?」
「じゃあ、私が持っててあげる」
カティアにライトを貸して、俺はロウソクを持って部屋を探ってみることにした。
そして、しばらくしてベッドのマットレスの下に、手帳のようなものを見つける。
「何だこれ?」
「ヴィクターさん、開きました!」
「ああ、お疲れさん!」
手帳を腰のポーチに入れ、ドアの元へ向かう。ドアをそっと開け、外を伺うが、誰もいない。俺が一人で屋内を見て回るが、家には誰もいないようだった。
全員で、音を立てないように静かに玄関まで移動すると、外の様子を伺う。先程まで、村人が外にいたが、今は不自然なほど誰もいない。
今がチャンスだとばかりに、村長の家を出て、車に向かう。幸い、車に変な細工などは施されてはいないようで、無事に逃げることが出来そうだ。
「ヴィクター、さっさと逃げましょう!」
「いや、このまま帰っても意味がない。この事件とこの村は、何か関係があるはずだ。もう少し探る」
「正気なの!?」
「ああ。嫌ならここで待っててくれ」
「い、行くわよ! 二人で探した方が、効率いいでしょ!? それに、こんな所でジッとしてるなんて無理!」
「あ、あの……僕も行きます!」
「いや、悪いがミシェル。お前には留守番を頼みたい。何かあった時、この車の砲塔が役に立つはずだ」
「で、でも……!」
「頼む。この車は、ロック掛けときゃ安全だ。ミシェルは小柄だから、車で隠れてても外から気づかれにくい。足手まといとか考えてる訳じゃなくて、万一に備えてミシェルに頼みたいんだ。分かるか?」
「は、はい。分かりました! 皆さん、お気をつけて!」
「ああ、そうだ。さっき拾った手帳、気になるから読んどいてくれ」
ミシェルに、先程拾った手帳を渡す。中はまだ見てないが、何か手掛かりになるかもしれない。
俺とカティアは、アサルトライフルやカービンといった長物を装備すると、静かに村へと戻って行く。
* * *
-数十分後
@山奥の寒村 厩舎
村へと戻った俺とカティアだったが、村は不自然なほど静まり返り、無人の状態だった。
衛星のデータを確認すると、村の裏山……恐らく、廃坑になった鉱山の前に、多数の熱源を確認した為、カティアがそちらを確認し、俺がその間に村を調べることにした。
村を見回っていると、
「……何もいない?」
本来ならいるであろう、馬やロバといった動物が中にはおらず、中は静まり返っていた。さらに厩舎の中は、本来漂っているであろう動物の匂いが無く、代わりに血の匂いが漂っていたのだ。
「……随分と、きな臭くなってきたな」
アサルトライフルのコッキングレバーを引き、弾が装填されているか確認する。そのまま銃を構えながら、ゆっくりと中を確認すると、厩舎の奥に、白いような、灰色のような物が積まれているのを確認した。
「なっ……こいつはッ!?」
近づいてそれらを見ると、明らかに人骨であった。さらに、近くにあった作業台の上には、骨になった者達の物であろう……ネックレスや指輪といった装飾品の他に、レンジャーのドッグタグが並べられていたのだ。
「Cランク:ジョシュ、Dランク:ガニー……行方不明の連中か?」
先程、レンジャーはこの村に来てないと言っていたが、これで嘘だとハッキリした。どういう理由があるかは知らないが、やはりこの村からはさっさと逃げた方が良さそうだな……。
作業台に並べられていたドッグタグや、アクセサリーの類を全て回収すると、俺は厩舎から出た……。
* * *
-同時刻
@山奥の村 ヴィクターの車
ミシェルは、先程ヴィクターから渡された手帳を読んでいた。手帳は、あるレンジャーの日記帳であった。
仲間との活躍、依頼で行った知らない街の話、危機に陥った話など、その内容はミシェルの好奇心を刺激する、よく出来た内容だった。……最期までは。
ミシェルは手帳を読んでる内に、彼らがこの村に来るまでの経緯と、どういった最期を迎えたかを知ることになった……。
────────────────
〔○月□日〕
今日は、珍しくガニーの奴が、
良い依頼を見つけてきた。この街
に来て、早々に稼ぐことが出来そ
うだ。
こんな割のいい依頼が残ってる
なんて、奇跡だな!
〔○月×日〕
依頼にあったミュータントを探
し、今日で2日目だ。そろそろ食
料が底を尽きそうだ。明日、何の
成果も無かったら、麓の村に帰る
ことになるだろう。
高報酬の依頼だからと、覚悟は
していたが、まさか発見が難しい
厄介な相手とはついてないな…。
てか、そもそもどんな奴が相手
なのだろうか? ガニーの奴も知
らなみたいだし、ひょっとして今
回は骨折り損かもしれないな。
〔○月△日〕
ガニーが、なんと山奥に村を見
つけた! 村は変な雰囲気だが、
飯はくれるし、部屋も貸してくれ
た。
3日ぶりに屋根のあるところで
寝れて、最高だ!
……ただ、飯に鼠や蛆虫を使っ
てるのはどうかと思うがな。ジョ
シュは、用意してくれた村人に悪
いとか言って食ってた。この真面
目野郎め!
ガニーは、馬鹿だから気にして
ない様子だった。俺は遠慮させて
もらったがな!
飯を食ったら、皆疲れたのか眠
っちまった。俺も明日に備えて、
寝ますかね。
〔○月○日〕
ちくしょう! 奴らハメやがっ
た! 昨日食った飯の中に、睡眠
薬か何かが仕込まれてたらしい。
昨夜寝ている時に、ジョシュとガ
ニーが、村の連中に連れさられち
まった! 抵抗できたのは、飯を
食ってなかった俺だけだ。何とか
森に逃げ込めたが、仲間を見捨て
る事はできねぇ!
〔○月▷日〕
クソッタレッ! この村はヤバ
い!! ヤバすぎだッ!
ジョシュとガニーを助けに村に
戻って来たが、村はお祭り騒ぎだ
った。村の中心で肉が焼かれて、
皆狂ったように、その肉を喰って
た。
問題は、その肉がガニーだって
事だ。肉を焼いてる隣で、ガニー
が解体されてたんだぞ! 信じら
れるか、人間を喰うなんてさ!?
思わず悲鳴を上げちまった俺は
村人達に取り抑えられて、また捕
まっちまった。監禁部屋にはジョ
シュがいたが、両脚を切断されて
いて、逃げる事が出来ない状態だ
った……。
ちくしょう、こんな事ならあの
まま逃げるんだった!
〔○月◁日〕
村の連中め……地獄に堕ちろ!
今日、ジョシュが喰われた。連
れて行かれた時の悲鳴が、まだ耳
に残ってる。さらに、俺も脚を斬
られちまった! クソ痛いし、も
う逃げられねぇ!!
ちくしょう、こんな事で死にた
くねぇ!
〔この手帳を読んでる奴へ〕
今すぐニゲロッ!!
────────────────
最後のページをめくった時、手帳から何かが落ちる。恐る恐る拾い上げると、それはレンジャーのドッグタグで、『Dランク:レオ』と刻印されていた……。
「こ、これは!? た、大変……ヴィクターさん達が危ないッ!!」
ヴィクターから渡された手帳を読んだミシェルは、そのおぞましい内容に、鳥肌が立ち、胃から酸が込み上げる感覚を覚える。
そして、ヴィクター達が帰ってくるのに備えて、車の砲塔を村に向けるのだった……。
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