第100話 山奥の寒村2

-翌朝

@オカデルの街近郊 目的地への道中


「〜♪」

「……な〜んかご機嫌ね、ヴィクター?」

「いや、ワンナイトラブってのも中々楽しいもんだな、ってさ」

「はぁ、サイアク」

「ヴィクターさん……」


 今朝起きたら、昨日のお姉さんがベッドの上で、潰れたカエルみたいになって気を失っていた。昨日、お姉さんが調子に乗っていたので、つい張り切ってしまった……。

 起こすのも悪かったので、俺の部屋だけ1日延長しておいた。ゆっくり休んでくれ……ええと、お姉さん。

 そういえば名前は聞いてなかったな。


 これだけ紳士的に行動しているというのに、何故2人はそんな、羽虫を見るような目で俺を見るのだ? 納得いかない!


「……あっそうだ、今日中には麓にある村まで行く予定だから、皆覚悟しとけよ?」

「何で?」

「何でって……この先、川があったり、山道に入ったりする予定だからな」

「うげ……マジ!?」

「車で大丈夫なんですか、ヴィクターさん?」

「安心しろ。この車なら大丈夫なはずだ。6輪駆動の力を見せてやるぜ!」


 そう、今回の依頼を受けたのは、この車の性能調査が目的だ。正直、依頼なんて二の次……ついでに片付けてあげてもいいよ?位にしか考えていない。

 科学者の端くれとして、自分が作ったマシンの性能は、試さずにはいられないのだ。


「二人とも……何かあった時は頼むぞ?」

「ふふん、任せなさい!」

「はい!」


 砲塔の操作は、ミシェルに任せてある。カティアには接近してきた敵や、ミシェルが撃ち漏らした敵に対処してもらう予定だ。……まあ、防弾性能が下がるので、窓を開ける事は殆どないだろうがな。



 * * *



-夕方

@山の麓の村


 ……何の問題も無く、目的地である村についてしまった。確かに山道だったが、想像したような悪路ではなく、砂利が敷かれた道を、緩やかに登ってきただけだった。途中、川もあったが、ちゃんと木製の橋が架かっていたし、何の苦労も無かった。


「こ、こんなはずでは……」

「何ショボくれてるのよ……。ほら、宿ないか探しましょ?」


 カティアに促され、村の中に宿屋が無いか探す。だがこの村は、せいぜい果樹園があるくらいの小さな村で、宿屋らしき建物は見当たらなかった。

 そして、村の隅にギルドの出張所という小屋を見つけたので、中に入り話を聞くことにした。


 出張所に入ると、小さな一人用のカウンターがあるだけの粗末な作りで、そのカウンターに受付嬢が突っ伏して寝ていた。


「……ここと比べると、グラスレイクの出張所ってかなり立派に作ってるんだなぁ」

「そうね。普通、出張所っていったらもうちょっとちゃんとしてるけど、グラスレイクほどじゃないわね。ここは、本当にただの小屋みたいだけど……」

「村の様子から察するに、これでも問題ないんでしょうね」

「むにゃ……はっ! レ、レンジャーズギルドへようこそッ!」

「あっ、起きたわね」

「ね、寝てませんよっ!?」


 受付嬢に、依頼の確認をしてもらい、情報を提供してもらう。


「ああ、この依頼ですか……」

「知ってることがあれば、教えてほしい」

「ちょうど一月前くらいに、レンジャーが3人くらい来たらしいですね。その後どうなったかは、知りませんが……」

「らしい……って、どういう事?」

「この村の出張所……ご覧の通り、小屋でしょう? ここに出張所があるなんて気がつかずに、素通りして行くレンジャーが多いんですよ、信じられます!?」

「ああ、確かに……看板見ないと分からんな」

「だいたい、こんな小さな村に出張所なんて要りますか? ここに飛ばされるって聞いた日の夜は、泣き腫らしましたよ! ……まあ、果物は美味しいし、仕事も殆ど無いから楽だし、村の人達も親切だけど……皆、お爺ちゃんお婆ちゃんで、若い人がいないのは何とかならないんですか!? こう刺激が無いなんて、年頃の娘には耐えられないですよ、本当に! そもそも──」

「は、はぁ……」

「受付嬢ってのも大変ね……」

「お、お疲れ様です……」


 受付嬢は、俺達が自分と歳が近いことを知ると、急に愚痴り始めた。しかも相当溜まっていたらしく、1時間ほど拘束されてしまった。


「ふぅ……なんだか、スッキリしました!」

「はぁ」

「それは」

「よかったデスネ」

「何か皆さん、ゲッソリしてません?」

「お陰様でな……で、依頼の話を聞いてもいいか? 依頼にあった、危険なミュータントって何だ?」

「それなんですけどね……この村は平和そのもので、人を襲うミュータントなんて出てないんですよね……」

「何……どういう事だ?」


 受付嬢曰く、依頼は受けたが、そんなミュータントが出た話は聞かないし、村自体は平和で、特に困った事も無いらしい。不自然には思ったが、お金も充分用意されていたので、依頼を受理したそうだ。

 ちなみに村の依頼には、村にある出張所から街の支部へと流れる場合と、出張所が無い場合は直接街の支部へ依頼する場合がある。俺達が調べている依頼は前者らしく、ある日突然この出張所に持ち込まれたものらしい。


「で、依頼を出した奴ってどんな奴だったんだ? この村にいるんだろ?」

「それが……改めて思い返すと、この村にあんな人いないんですよね。誰なんだろう?」

「怪しさが増したな……。ちなみに、特徴とか教えてくれ」

「う〜ん、中年の男性で……そう、何か気持ち悪い笑顔をしてましたね……」

「気持ち悪い笑顔?」

「ええ……。あまり人の顔を悪く言うべきじゃないんでしょうけど、目はギョロっとしてて、不自然に口角が上がってて、歯をむき出しにするような笑顔でした……。今思い出すと、寒気がします」

「ふむ、病気か何かかもしれないな」

「そういえば、書類とかペンを持つ時、身体が震えてましたね。何か痩せてたし、そうかもしれないです」


 何だろう。病気で頭がおかしな奴が、妄想で依頼を出したとかだろうか?

 だとしたら、30人以上のレンジャーが失踪している理由は何だ? もしかしたら、本当にそんな強敵がいたのかもしれない。一度現地を見に行くか……。


「この村に来たレンジャー達は、皆どこに行ったんだ?」

「この村の奥にある山ですね。依頼だと、その辺りでミュータントが出るって書いてあったので」

「山か。あそこには、何かあるのか?」

「何も? 木と森と、川とかしかありませんよ?」


 それだよ! 俺はそういうのを求めてたんだ! やっと新車の出番だな。明日、楽しみにしておこう……。


「……ああ、そういえば村のお爺ちゃん達が言ってたんですけど、昔は山奥にも村があったそうですよ?」

「山奥に村? 何でそんな不便な所に……」

「昔は山奥に鉱山があったそうです。そこに住む人達の村があったらしいんですけど、廃坑になったらしくて。その後は廃村になってるんじゃないですかね」

「なるほど……とりあえず、キャンプを張るには良さそうだな。覚えておくか」


 調査がすぐに終わるとは限らないので、そうなったら何処かを拠点に、キャンプをする必要があるだろう。廃村なら、開けた所もありそうだし、失踪したレンジャー達の痕跡も見つかるかもしれない。


「ああ、もうこんな時間! 終業だわ!」

「そうだ、この辺に宿とかないかな? あったら紹介してほしいんだけど……」

「宿? こんなド田舎に、そんなのある訳ないでしょ?」

「マジかよ!? 他の連中はどうしてたんだ?」

「馬小屋に寝泊まりしてたり、空いてる所でキャンプとかしてたわよ?」


 馬小屋とか、正直勘弁してほしい。カティア達を見れば、露骨に嫌そうな顔をしている。俺だって嫌だ。


(ヴィクターさん、どうしますか? 僕は故郷で慣れてるので、馬小屋でも大丈夫ですけど……)

(はぁ!? 何言ってるのミシェル、私はゴメンよ!)

(俺だって嫌だ)

(じゃあ、どうするんですか?)

(……お前ら、俺が今からやる事に文句言わないなら、策はあるぞ? 今夜、テントを張らなくて済む上に、屋根のある所で眠れる……)

(な、何をする気なんですかヴィクターさん?)

(どうでもいいわ! もし本当なら、文句どころか感謝するわよ! 何でもいいから、やって!!)

(よし! 後で絶対文句言うなよ!?)


「あ、あの〜皆さん。お話し中のとこ悪いんですけど、そろそろ閉めたいので……」


 カウンターから出て、こちらに近づいて来た受付嬢を捉えると、壁に追いやって、壁ドンの体勢になる。


「な、ななななんですか急にッ!?」

「「 あっ…… 」」


 カティアとミシェルは察した……。


「……今夜、君の家に泊めてもらえないかな?」

「うぇ!? わ、私はこの出張所で寝泊まりしてて……それに、部外者をギルドの施設に泊める訳には──」

「部外者なんて、酷い事言うなよ。君達、受付嬢はレンジャーのサポートが仕事だろう?」

「そ、そうですけど! さ、流石に男の人と一緒っていうのは……」

「ほら、連れに女の子いるだろ? 大丈夫だって。それに、夕飯まだだろ? 一人より皆で食べた方がいいって。ウチには腕の良いシェフもいるしさ……どうかな?」

「うっ、でもぉ……」


 よし、後一息だな。昨日の堅物の受付嬢と違って、この娘は上手くいきそうだな。俺の作戦、それは……ナンパして泊めてもらう。以上! あわよくば、ワンナイトだ!

 さっきこの娘は、刺激が無いとかでウンザリしてたから、ちょっと刺激を与えればコロッといくはずだ。


 後一息……刺激を与えるには、どうするか……。そうだ! この娘もフェイと同じ受付嬢だし、フェイが大好きな耳元での囁きをやってみるか!


(ボソボソ)

「はうっ!? み、耳元で囁かないで!」

(コソコソ)

「あっ、ひぃん!」


「何やってるんですかね、ヴィクターさん?」

「どうせ、碌でもない事言ってんでしょ……」

「……わ、分かりました! 出張所を開放します! ベッドは一つしかないので、自分達で毛布とか、寝袋を用意して下さいね!」

「ありがとう、助かったよ! 良かったな、皆!」

「ソウネー、ヨカッタヨカッタ」

「あ……僕、食事の準備しますね」


 出張所のロビーに、野営の時に使っているコット(折り畳みベッド)を並べる。屋内なので、テントで寝るよりはマシだろう。


「……ヴィクターのは、当然無い訳ね」

「そりゃあ、ねぇ?」

「このケダモノ!」

「あれ? 誰のおかげで、ここに泊まれるんだっけ?」

「うっ……!」

「感謝するとか言ってたよな?」

「……アリガトウ!」

「よろしい」

「クソッ!」


 その後、4人で夕飯を食べ、シャワーを借りて就寝することにした。

 当然、俺は受付嬢と同衾だ。だが、俺が期待しているような事は出来ず、処女だからと抵抗された為、ペッティングまでで終わってしまった……。まあ、そこそこ気持ち良かったし、無理矢理も良く無い。後何回かやれば最後までいけるだろうが、まあ、そんな機会はもう無いだろうな……。


 こんな田舎の山で、女の子と同衾できただけで、満足すべきだろう。



 * * *



-翌日 

@セルディア北部 山岳地帯


「コレだよ、こういうのだよッ!!」

「ちょっ! ヴィクター、前に川よッ!」

「あわわわ!」

「大丈夫だ、問題ない」

「何で、そんなキメ顔なのよッ!!」


 翌日、村のお爺ちゃんに話を聞いて、昔あったという村の位置を教えてもらい、そこに向かうことにした。来た時と違い、今度は本当の山道、獣道といった感じのオフロードだった。

 今、目の前には川があり、橋は無い。だが、このくらいの深度だったら、問題無いはずだ!


「行くぜぃッ!!」

「本気ッ!?」

「いやぁぁぁ!!」


 バッシャーンと水を被りながら、車は前へと進んで行く。


「どうだ! この車で行けない所は無い!」

「もう! 心臓に悪いわよッ!!」

「ヴィクターさん、安全運転で行きましょうよ!」

「あ、ちなみに後何個か川を越えるから、先に言っておくわ」

「「 ゲェ! 」」



 * * *



-数時間後

@山奥の村


 川を越え、舗装されていない山道を越え、目的地の廃村にたどり着いた。これでこの車は、オフロードでも、何の問題もなく走ることができると証明されたといえよう。

 結構、楽しかったのだが、カティアとミシェルにはお気に召さなかったらしい……。


「や、やっと……着いた……。もう二度とゴメンよ!」

「ま、まだ腰がガクガクします……」

「何だ二人とも、だらしないなぁ。言っとくけど、帰りも同じ道通るんだからな?」

「「 うげっ! 」」


 そんなこんなで、村を見渡すと、意外な事に人が住んでいるようだ。皆、こちらの様子を伺っているが、何か不気味な雰囲気だ……。


「何か、ヤな感じね……」

「僕、ちょっと怖いです……」

「まあ、余所者は歓迎してないんだろうな」


 村の入り口で様子を伺っていると、村から男が歩いて来た。不自然に痩せ細り、目が落ち窪み、ギョロギョロして血走っている。

 受付嬢の言っていた特徴と合致する……。


「ようこそ、私が村長です。何かご用ですかな?」

「ああ、この近辺で出るって言う、ミュータントについて話を聞きたい」

「おお、レンジャーの方ですな、歓迎しますぞ! ささ、こちらでは何ですから、家にいらして下さい」

「じゃあ、お言葉に甘えて……」


 村長に案内され、村へと入る。村人達がゆっくりとワラワラ出てくるが、皆村長と同じく不自然に痩せ細り、血走った目がギョロっと見開かれていた。


「村長、皆痩せているが病気か何かか?」

「いえ……。この村はある問題を抱えていて、食料が足らんのですよ」


 問題……例のミュータントだろうか? そういえば、森の中を衛星でスキャンしたが、この辺りには動物が少ないようで、安全そうだった……。

 もしかしたら、以前のワニのように、何らかの方法でスキャンを回避されたのかもしれない。動物が少ないのも、そいつが喰い尽くしたか、縄張りに入らないように避けられているのかもしれないな……。


《ロゼッタ。もう一度確認するが、付近に大型の生物はいないんだよな?》

《はい。確認できません》

《衛星はダメか……。厄介な相手かもしれないな》

《今後も監視を続けますが、どうかお気をつけ下さい》

《ああ、頼む》


 ロゼッタと通信しつつ、村長の案内について行き、村長の家の前までやって来た。


「──おかげで村人達も痩せ細り、農作業も滞っておりまして……。そもそも、この辺りでは碌な作物が育たないので、困っておった所なのですよ」

「依頼を出したのはお前達か? 麓の村に、救援を要請した方がいいんじゃないか?」

「ええ、そうです。この村は、頑固者が作った村でしてね……あまり大っぴらにしたくなくて、麓の村にはこの村のことを控えて依頼を出したのです」

「この状況……そうも言ってられないんじゃないか?」

「そうですな……。ですが、貴方達が来てくれたなら大丈夫でしょう! さ、この家です。どうぞ中に……」

「ヴィ、ヴィクターさん!」


 ミシェルがしきりに背後を気にしながら、声を上げる。振り返ると、村人達が無言でこちらを見つめていた……って怖すぎるわッ!! 期待するのはいいが、その見た目でこっち見んなよ!

 ……まあ、飢えてるのは分かるが、少し自重して欲しいな。


「ほら、ミシェル。気にするな、中に入ろう」

「まあ、期待されてるんでしょ! 気にする事無いわよ、ミシェル」

「だ、だといいんですけど……。何か怖いです、この村……」


 俺達は、村人達に見守られながら、村長の家へと入った。

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