第98話 新車

-翌日 昼

@死都 ノア6前


 現在、俺はモニカを連れてノア6へと帰って来ていた。モニカを連れて来たのは、ノア6へ服飾技術を提供してもらうのが目的だ。

 今後、ロゼッタの服や、他のメンバーの服や装備を作る際に、役立てることができるだろう。


 死都に入り、モニカは不安がっていたが、道を確保したお陰で、あっという間にノア6に到着した。すると、1台のテトラローダーが近づいてきて、身元確認をはじめた。


『お帰りなさい、総司令官』

「ただいま。この娘も中に入れるぞ」

『現在、当施設は関係者以外の立ち入りが禁止されています。身分の提示をお願いします』

「ぁ、ぁぁ……」


 モニカには、例の“腕時計”を渡してある。これがあれば、電脳化していなくても、セキュリティチェックをパスできる。

 だが、モニカはテトラローダーに怯えてしまい、茫然自失となっていた。


『身分の提示をお願いします』

「モニカ、さっきのやつを見せるんだ。大丈夫だから」

「は、はい……!」

『認証。モニカ・ルーンベルト技術少尉、お勤めご苦労様です。ようこそ、ノア6へ』


 モニカは、テトラローダーが去るのをポカンと見つめている。崩壊後の人間にとって、アイツらは死を振りまく存在であり、恐怖の対象だ。それが、こうもあっさりと引き下がったのだ……きっと、自分は夢を見ているとでも思っているのだろう。


「……ヴィクターさん、さっきの話って……本当なんですか?」

「ああ。前から言ってる通り、俺は崩壊前の人間だ。今も襲われなかったろ?」

「……ええと、混乱してて……何を言えばいいのか。その、ごめんなさい! 私、ヴィクターさんの話……つまらない冗談だと思ってました!」

「まあ、無理もないだろ。それに、中に入れば驚くぞ? 中は崩壊前そのものだからな」

「あ、あの! 崩壊前の服とかってありますか!?」

「ああ、あるぞ。……そういえば、崩壊前の服とかファッションに興味があるとか言ってたな?」

「はい!」

「そうだな……じゃあ、ファッション誌とかも印刷してやるか」

「ファッション誌……?」

「流行の服とか、ファッションを専門に特集した雑誌だな。崩壊前には、色んな会社が配信してたんだ」

「何ですかそれ、最高ですかッ!?」


 ノア6の入り口が開かれ、中に入る。

 昨日のワニ退治を終え、カティア達をグラスレイクに置いてきているが、俺はすぐに迎えに行くつもりは無かった。別に、後で迎えに行くとは言ったが、今日行くとは言ってないのだ。しばらくは問題ないだろう。

 俺はカティア達がいないこの際に、今まで2人乗りだった車を、4〜5人が余裕で乗れ、かつ狩った獲物を積めるように、積載量も充分なものを組み上げようと考えていたのだ。今までの車は、残念ながらお蔵入りになるだろうな。


「お帰りなさいませ、ヴィクター様」

「「「 お帰りなさい! 」」」

「ただいま」

「えっ……と、ヴィクターさん。こちらの方々は?」

「う〜ん、俺の家族とその従者みたいな?」


 ロゼッタがこちらに歩いてきて、モニカに挨拶する。


「はじめましてモニカさん、ロゼッタと申します。以後よろしくお願い致します」

「あっ、ご丁寧にどうも……」

「ロゼッタ、まずはモニカのメディカルチェックを頼む」

「はい。ではモニカさん、こちらへお越し下さい」

「え、えと……」

「大丈夫だモニカ。とりあえず、ロゼッタの言う通りにしてくれ」

「は、はい。よろしくお願いします」


 モニカは、ロゼッタに連れられて、医務室へと向かって行った。モニカも、俺のハーレムの一員なので、健康管理はしっかりとするつもりだ。

 俺のハーレムに入れば、医療、健康増進、資産形成からライフサポートまで、手厚い待遇が待っている。俺のハーレムは、ホワイトなのだ。……ちなみに、まだまだ募集中だ。



「ご主人様、ウチら以外にも女作ってたんすか?」

「何だカイナ、妬いてるのか?」

「そ、そうじゃないっすよ!」

「まあ、仲良くしてやってくれ。あの娘、服作るの上手いから、後で全員の身体を測らせてもらうぞ?」

「うぇっ!? ちょ、ちょっと今日は……昨日食べ過ぎちゃって……」

「いつもバカ喰いしてるからでしょ……カイナ」

「そ、そんな事ないっすよノーラ! いつも、ロゼッタさんの訓練で動くから、チャラっすよ!」

「は? あんなので、チャラとかナマ言ってんじゃないわよ」

「ウチはジュディみたいに、ハードに動けないっすッ!」


 3人は今、来るべき時に備えて、それぞれの得意分野を中心に、ロゼッタに訓練して貰っている。



●ノーラ

 彼女は現在、狙撃銃を中心に長距離射撃の訓練を行っている。ノーラは、孤児院時代から射撃の成績はトップクラスだったらしく、狙撃の適性があった。

 また、彼女の右腕を治療した際に、実験的にマイクロマシンを腕の神経にインプラントしてみた所、神経の伝導速度が向上し、以前より速く引き金を引く事が出来るようになっていた。一瞬の判断が命中に影響する狙撃において、この事は都合がいいだろう。



●カイナ

 カイナはレンジャー登録時、“バックアップマン”というポジションに就いていたらしい。ロゼッタに色々と適性を検査してもらったが、残念ながらどれもパッとせず平凡だった。

 カイナには、他の二人の支援役として……文字通りのバックアップマンとして動けるように、訓練を行っている。

 具体的には、ノーラの観測手としての訓練の他に、自動車の運転、射撃訓練、基礎体力訓練などを行なっているそうだ。



●ジュディ

 ジュディは“ストライカー”という、近距離での戦闘を得意とするポジションについていたらしい。女性は男性より筋力が劣る為、ストライカーにつく女性はほぼいない。

 何故彼女がこのポジションになったかというと、孤児院時代から射撃が下手で、撃つよりも殴った方が早いし確実と考えたからだそうだ。幸いにも、彼女の身体は発育が良く、ストイックな精神の持ち主だった為、女性離れした膂力りょりょくと体力を手にするに至った。

 たが、俺と戦った時も感じた事だが、彼女は技術面を疎かにしている感じがした。なので現在、ロゼッタと組手をして、技術を磨いているらしい。

 また、接近戦だけという訳にもいかないので、散弾銃や短機関銃などを中心に射撃訓練もしているそうだ。



 訓練が終わり次第、彼女達はレンジャーに復帰してもらい、秘密基地の管理や、俺やロゼッタの手足となって街で働いて貰う予定だ。


「そういえばヴィクター、ロゼッタさんが車のパーツ出来てるって言ってたよ?」

「ああ、聞いてるぞ。さっそく行くか」

「そういや、頭ん中で会話出来んだっけ? 崩壊前の奴らは無茶苦茶だね……。そんな連中に歯向かってたなんて、ビックリだよ」

「お前らにあげた腕時計でも、連絡は取れるぞ?」

「ああ、あれね……。実はまだ慣れなくてさ……カイナ達は使いこなしてるみたいだけどね。よく、【メッセージ】とかいうので、絡んでくるよ」

「へぇ、どんな話してんだ?」

「あわぁ! ダメっすよッ!!」


 ジュディの腕時計から、メッセージの履歴を俺の電脳に転送する。そこには、生々しい年頃の娘達の会話が繰り広げられていた。


────────────────

〔カイナ〕            

 ねぇねぇジュディ、ご主人様と

二人の時ってどんな事したの?


〔ジュディ〕

 とつぜんなに


〔カイナ〕

 決まってるじゃん、夜の話!

えっちだよ、えっち!

 ご主人様、ママの次にジュディ

がお気に入りって感じだから、特

別なことしてるのかなって


〔ジュディ〕

 とくべつなことはしてないとお

もう


〔ノーラ〕

 カイナ、目の前にいるのに何で

コレで話してるの?


〔カイナ〕

 ノーラ!? 何でウチらの会話

に!?


〔ノーラ〕

 これ、私達の連絡用のグループ

だよ?


〔カイナ〕

 ホントだ! ジュディにこっそ

り聞こうと思ったのに


〔ジュディ〕

 いまきづいたのかよ


〔ノーラ〕

 カイナ。ママとジュディの共

通点って、何だと思う?


〔カイナ〕

 強い所?


〔ノーラ〕

 おっぱいが大きいでしょ?


〔カイナ〕

 なるほど


〔ジュディ〕

 おい


〔ノーラ〕

 私達じゃ、初めから勝負にな

らない。他の分野で戦うしかな

い!


〔カイナ〕

 持たざる者は辛いっすね


〔ジュディ〕

 おい


────────────────


「……持たざる者、ねぇ?」

「だ、ダメって言ったのにィ……!」



 * * *



-数時間後

@ノア6 車両倉庫


「よし、7割がた終了ってところかな?」


 俺の目の前には、ダブルキャブのピックアップトラックの様な車があった。2列シートで5人乗り、最悪荷台にも乗せられるので、突然人数が増えても問題無いし、積載量もバッチリある。

 そして、なんと言ってもその特徴は、6×6の6輪駆動車というところだ。崩壊後の世界では、道路が整備されておらず、剥き出しの大自然を走ることも多い。前の車でも充分に対応出来たが、6輪駆動になったことで、より安定感のある走りと、登坂力の向上、射撃時の安定性向上につながるだろう。

 当然、防弾仕様にしてあるし、ルーフにはRWSの砲塔を取り付けてある。その為、前の車と違って、オープンには出来ないが、戦闘力や防御力は向上している。


 以前は、崩壊後でも目立たないことを念頭に車を組み上げたが、結局目立ってしまった。考えてみれば、俺は崩壊後の人間ではないので、彼らの感性に合わせることはできない。

 だから目立つ事は諦めて、逆によりゴツく、威圧感を与える様な車にして、俺の車に近寄り難い様にする事にしたのだ。


「ヴィクター様、終わりましたか?」

「いや、明日には終わると思う。モニカはどうだった、ロゼッタ?」

「はい。皆さんの身体を測定して頂いた後、雑誌を読み漁っております。それから、モニカさんから話を聞いて、製造機のデザインシステムを書き換えました」

「よし、これで身体に馴染む服が、ノア6で作れるな!」

「はい。ですが、モニカさんが私の服を作ってくれるそうで、しばらく我慢しようと思います」

「そうか。モニカにも悪いし、それがいいな」

「それから、全員が食堂に揃っております。そろそろお食事にされてはと思いまして……」

「もうこんな時間か……。よし、飯にしよう!」



 その後、車を組み上げたり、走行試験などをして、車の完成までに2日を要してしまった。その間、モニカはノア6のメンバーとの懇親を深めつつ、それぞれに配る予定の防具のデザインを考えていた。

 彼女達がレンジャーに復帰する際には、俺の試作兵器の他に、モニカ製の防具をプレゼントする予定だ。例の巨大ワニの革を使って防具を作り、彼女達に装備させれば、モニカの作品の広告になる上、防御力も確保できるだろう。



 * * *



-ワニ討伐から5日目

@グラスレイク ヴィクター邸


「よう、待たせたな!」

「遅いッ! 一体いつまで待たせるのよッ!」

「へ〜、ここがヴィクターさんのお家ですか……」

「あれ? 何でモニカがここに?」


 ノア6で車が完成した後、俺はカティア達を迎えに来た。

 ちなみに、モニカにはノア6の話を、カティア達に黙っているように伝えてある。もっとも、話したところで信じてもらえないだろうが……。


「ヴィクターさん!」

「ミシェル、悪いな……遅れた」

「てか、何でこんなに遅くなったのよ?」

「ああ、今から説明してやる。ガレージに来い」



 カティア達を屋敷のガレージに連れて行き、俺の新車を見せる。


「じゃーんっ!!」

「デカッ!? えっ、タイヤ6個付いてない?」

「わぁ……何か、強そうですね!」

「ヴィクター、この車どうしたのよ!?」

「ま、前の車を(ベースに)改造した(物を新しく用意した)んだ。ほら、どことなく面影があるだろ?」

「う〜ん……確かに、角張ってるけど……」

「この車を準備するのに、かなり時間がかかっちゃって……皆、すまんな」


 嘘は言ってない。詳しくは言ってないが。


「ほら、乗れよ」

「帰るんでしょ? 言われなくても……って、何これ!?」

「中きれいですね! す、凄いです!」

「よし、皆乗ったか? んじゃカナルティアの街まで、出発だ!」


 全員を乗せて、カナルティアの街へと帰る。グラスレイクにいる間、ミシェルはメイド達に料理を教えてくれていたらしい。ありがたいことだ。

 カティアの方も、湖の調査などを手伝ってくれたそうだ。村人達だけで調査を行うより、レンジャーが護衛にいるだけで、安心感があっただろう。それも、自分達と一緒に助け出された、面識あるレンジャーだったので、話しやすかっただろうな。


「はぁ、あの3人も生きてたら……」

「あの3人って何だ、カティア?」

「いや、私を狼旅団から助けてくれた時、同じ孤児院出身の子達が狼旅団にいたのよ……。あの子達も野盗なんかにならなければ、この村で働けてたのかな……とか思っちゃって。まあ、過ぎた事は仕方ないんだけどね!」

(多分、そいつらと数時間前まで一緒にいたぞ?)


 ジュディ達が、カティアと再会するのはもうしばらく先になるのだった。





□◆ Tips ◆□

【メッセージ】

 腕時計の機能の一つ。いわゆる、SMSみたいなもの。



【ビートル】

 6輪駆動車。以前の車より、オフロードでの走破性、積載量、防御力、戦闘力が強化された。他にも女性陣の為に、インテリアは高級感溢れる仕様になっている。

 ルーフにはRWSの砲塔があり、車内から安全に射撃ができる。

 6輪駆動方式を採用したのは、崩壊後の悪路対策とヴィクターの趣味。命名はカイナ。


[武装]  12.7mm重機関銃

[モデル] Flying Huntsman 6X6

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