第80話 オークション
-翌日
@街中央地区 大広場
バザール初日。俺達は、ギルドの確保してくれた特等席とやらで処刑を鑑賞することになった。何でも、今回の功績が大きいとか何とかで、支部長たちが配慮してくれたらしい。そんな事するなら、ランク上げるとかしてくれりゃいいのに……。
正直、処刑とか見たくない。関係ない人間が死ぬところなんて、面白くも無い。俺の知らないところで、勝手に死んでくれよ……。
そう思う一方、隣に座るカティアは「こんないい席で見れるなんて、ラッキー♪」とか言って、ワクワクしている。周りを見れば、大勢の見物客で賑わっており、この中でおかしいのは自分なんだと認識させられる。
これが、崩壊後の常識なのだ。慣れなくては……。
「離せぇ! 僕を誰だと思っているんだッ!!」
「やめろ! 娘は関係ないだろぉ!!」
「くそ、ここまでか……」
「……」
広場に設置されたΠの字型の絞首台に、腕を縛られた死刑囚達が連行されていく。どっかで見た事のある奴もいるが、誰だったかな? ……まあ、もう死ぬんだしどうでもいいか。
絞首台の足元には、トラックが2台停められており、その荷台へと死刑囚達が立たされていく。そして、赤いシャツの自治防衛隊の代表者が前に出て、死刑囚達の罪状を述べていく。
「ピート・スカドール。貴様は、野盗と共謀した罪で絞首刑に処す!」
「ふざけるなッ!! 貴様ァ! 僕をスカドール家の長男と知っての狼藉かッ!!」
「続いて、パンテン・ルーンベルト。貴様は、ギルドへの裏切りにて極刑に処すッ!」
「い、嫌だぁ! 待ってくれ!!」
「続いて、ヤグリ。貴様は、キャラバン襲撃、禁制品取引、殺人、その他諸々の罪で絞首刑に処す!」
「……くそったれ!」
「続いて、カルニ。貴様は、詐欺、違法賭博、禁制品取引、その他諸々の罪で絞首刑に処す!」
「……」
ちなみに、この死刑囚達。全員が、ヴィクターが捕まえたり、その悪事を暴かれた者達だ。ヴィクターは関係ないと思っているが、実のところ、それは誤りだったりする。
「罪人の首に縄を掛けろ!」
代表者の合図で、死刑囚達の首に縄が掛けられ、目隠しがされる。その光景に、見物人たちは盛り上がった。
「うおォォォ! 殺セェェェッ!!」
「ざまぁぁぁぁ!!」
「ねえ、今どんな気持ち? ねえ、どんな気持ち?」
「今回は4人もいるのか!?」
「何でも一人のレンジャーがやったらしいぜ?」
「あれだろ? ヴィクターとかいう……」
「英雄ガラルドの弟子だっけ?」
「さあ、誰が最後まで生き残るか賭けろ! 販売終了はもうすぐだよ?」
「あのピートとかいうデブは無いな」
「ああ、体重重そうだからすぐくたばるな」
「俺はカルニに賭ける!」
「俺はヤグリ! おっちゃん、券3枚くれ!」
「へい、まいどあり! 当たるといいね!」
見物客を見ると、何やら券を握りしめている者達がいたり、箱を担いで券を売りさばくブックメーカーの様な者達もいる。どうも、どの死刑囚が最後まで生き残るか賭けているらしい。とても野蛮だ。
そして、しばらくして準備が整ったのか、トラックがホーンを鳴らしてゆっくりと進みだす。
──プァン! ブロロロロ……
「や、やめろぉ!」
「嫌だ……嫌だぁ!!」
「クソックソックソォォ!!」
「……」
そして、足場を失った死刑囚達は宙ぶらりんになり、トラックはそのまま走り去っていく。宙ぶらりんになった死刑囚達は、宙でしばらく暴れた後、そのまま痙攣し、動かなくなってしまった。
その後、公開処刑が終了してからは、見物客が賭けの結果に騒いだり、吊られた死体に石やレンガを投げたりして、多くの者が去っていった。だが、見た目が裕福そうな者達はこの場に残っていた。これから、オークションが始まるのだ。
正直、処刑はどうでもいいが、このオークションには興味がある。その為に、今日ここ来たのだ。
「それでは、オークションを開催致します」
オークションは、フェイがオークショニアを務めるらしい。フェイの宣言に、客席からパチパチと拍手が鳴る。
オークションに参加するのは、俺達と同じ特等席にいる者達だ。参加者には、事前に番号が振られた札が配られている。その札を得るには、参加費として金を支払う必要があるらしい。その為、オークションはある程度の金持ちが参加することが多いそうだ。
今回は、俺達も特等席に座っているので、オークションに参加できる。この点だけは、支部長の爺さんに感謝しないとな。
そして、もし使えそうな遺物とか、いい感じの女の子が犯罪奴隷にいたら、
「それでは初めさせていただきます……!」
* * *
-2時間後
@オークション会場
「150万!」
「ぐぬぬ……!」
「150万です! 他、いらっしゃいませんでしょうか? では、こちらの商品、150万で落札とさせていただきます!」
カンッ!と、フェイがハンマーを振り下ろす。フェイは、かれこれ2時間もの間、一人で場を盛り上げている。相当大変だろう。
あれから、オークションが続いているが、良い物は無かった。奴隷の方に期待しよう……。
「……では、続きまして犯罪奴隷の方に移らせていただきます。」
フェイの合図に、ゾロゾロと拘束首輪を付けられた男達が壇上に上げられる。まずは男性の奴隷からなのだろうか?
その後、裕福な農村の代表者とか、鉱山関係者などが奴隷を競り落としていった。その光景を見て、難民達の村にも買ってみようかと考え……やめた。難民達も、立場は違うが奴隷になっていたかもしれないのだ、流石に不謹慎だろう。
そして、オークションは進んでいき、いよいよお目当ての女性の奴隷のオークションへと移る。
「んがっ! ふわぁ〜、ヴィクター終わった〜?」
途中で飽きて居眠りしていたカティアが、目を覚ました。
「いや、これからだな。やっと目的の女奴隷のオークションになったよ」
「そう……って、えぇ!? 買うの? 奴隷を!?」
「良い娘がいたらな」
「何でよ? フェイだけじゃ満足出来ないの!?」
「はぁ? いや……こ、これはフェイの負担を減らす為でもあるんだ! フェイもほら……出来ない日とかあるだろ!?」
「ああ、確かに……。でも、それって我慢できないの?」
「出来ません!」
「そ、そうなの……」
もちろん、そういう下心がない訳では無い。だが、主な目的は違う。
「それに、家事ができる奴隷がいたら、任せてもいいだろ? あの家で、料理とかする奴いないし」
「た、確かに……」
ガラルドガレージでする家事といえば、休みの日に掃除と、溜まった洗濯物を洗ったりしているが、正直面倒くさい。しかも、ガレージが無駄に広いので、掃除も一苦労だ。ちなみに、今の食事はフェイが持って来てくれるか、外食で済ませてしまっている。
もし奴隷がいれば、性奴隷兼家政婦として、俺の性生活とガレージの家庭環境が、大幅に改善されるはずだ。
「……でも、犯罪奴隷にそんな人いるかしら?元は野盗とかだし……とても、家事が出来るイメージが湧かないけど。やっぱりやめたら?」
「ほ、ほら……俺たち、依頼で家を開ける時が多いだろ? 誰か留守番がいた方がいいだろ?」
「何でそんなに必死なのよ……。でも、家に盗られて困る物とか置いて無いわよ?」
「……ある日、カティアが帰って来て、知らないおっさんがカティアのベッドにいたらどう思う?」
「えっ、気持ち悪い」
「シャワーを浴びて、チェストを開けたら……自分のパンツが減っていることに気づいたり……」
「ひっ……!」
「ある日突然、妊娠するかもしれない……」
「いやぁ! 何それ!? 何があったのよ!?」
「留守番……欲しくない?」
「わ、分かったわよ……買えばいいんじゃない!?」
カティアは、割と防犯意識が低いと思う。恐らく、今までは英雄ガラルドの住まいということで、空き巣や盗みに入る輩がいなかったのだろう。だが英雄亡き今、そんな奴が現れないとも限らない。少なくとも奴隷に留守番させれば、空き巣は防げるだろう。
それにしても、カティアはガラルドがいない間、女一人だった訳だが、何も考えなかったのだろうか? 余りに防犯意識が無さ過ぎる。
……考えなかったんだろうな、馬鹿だし。
*
*
*
「それでは、次で最後になりますが、私の出番はここまでとなります……お付き合い頂きありがとうございました」
「……ヴィクター、結局買わなかったじゃない」
「だって、タイプじゃないし……おばさんもちょっと……」
「何よ、結局そういう目的なんじゃない!」
女性の犯罪奴隷は、数が少ない。なので、あっという間に最後の一人になってしまった。しかも、ここまで良いと思った者が一人もいない。それでも、全員高値で競り落とされていく所を見るに、合法的に所持できる女性の犯罪奴隷は貴重なのだろう。
フェイが次の奴隷が最後だと宣言した後、壇を降りる。交代だろうか? ……しかし、なぜこのタイミングで?
フェイと交代で支部長が壇上に上がり、説明をはじめる。
「次のロットはちと特殊でしてな……。私が取り仕切らせて頂きます」
支部長がそう言うと、最後の奴隷が前に出される。その奴隷は、他の者より扱いが良いのか、身なりが良いように見える。そして、俺はその人物を知っていた。
なんと、俺の服を仕立ててくれた、ローザ服飾店の職人……モニカだったのだ。
「この者は、先程“極刑”にてそこで吊られたパンテン・ルーンベルトの娘で、この度犯罪奴隷として出品されることになりました」
「なあ、カティア……話が見えないんだが。何で関係ない奴が犯罪奴隷になってんだ?」
「何言ってんの? “極刑”なんだから当たり前でしょ?」
カティアの話によると、崩壊後の世界において、最も重い刑罰……つまり極刑は、死刑では無いらしい。崩壊後の世界における極刑は、当事者を死刑にした後、当事者の親子兄弟を犯罪奴隷にするという連座が行われるらしい。
ローザは家の事情で辞めたと言っていたが、まさかこれのことか!?
「なるほどね……って、納得できるか!」
『では、始めます。500万Ⓜ︎から!』
「高ッ!?」
『510万!』
『600万!』
『なっ!? 650万!』
『1000万!』
『1500万!』
『1800万!』
価格が最初から高く設定されたにも関わらず、早速元値の3倍以上に跳ね上がった。それもそのはず……モニカはかなり可愛い娘で、まだ若い。しかも、あのローザ服飾店の元職人だ。
「3000万だ!」
『『『『『 なんだと!? 』』』』』
俺は、宣言と共に札を上げる。流れを無視した高額の提示に、場は一時騒然となる。そして、支部長は俺を見て目を丸くしている。まさか俺が参加するとは思わなかったのだろう。
だが、俺も招待された身とはいえ、参加する権利はあるのだ。遠慮なくやらせてもらう。
モニカがこんな事になったのは、全て彼女の父親が悪いのだろうが、俺がいなければ巻き込まれなかったかもしれない……。それに俺は、彼女には大金を支払う価値があると考えていた。だから、確実に落とさせてもらう!
「ちょっ!? ヴィクター、本気!? 元値の6倍よ!?」
「いや、まだだ……多分まだ上がるぞ」
俺がそう言うや否や、他の者が札を上げる。3人ほど、まだ諦めないみたいだ。
『さ……3,100万!』
『3,150万!』
『3,300万!』
「4,000万だ!」
『『『 なっ…… 』』』
俺は、値段を1000万単位で引き上げる。こうして余裕を見せれば、他は引くと考えたのだ。実際、2人は諦めて、残る1人……身なりの良い青年だけとなった。
『よ、4,100万!』
「5,000万!」
『何ッ!? くっ……5,100万!』
「6,000万!」
『そ、そんな馬鹿な……!』
元値の12倍……流石に青年も諦め、他に札を上げる者はいなくなった。
「他にはいらっしゃいませんな? では、これにて落札とさせて頂きます!」
「ヴィクターッ! アンタ馬鹿なの!? 6,000万よロクセンマンッ!? 今回の稼ぎの殆どがパァよッ!!」
「まあ、落ち着けよ。金なら、また稼げばいいだろ? とりあえず、受け取りに行こうぜ?」
「ムキーッ!!」
* * *
-1時間後
@ギルド 応接室
ギルドにて、奴隷の登録手続きと、代金の支払いを行った。俺の奴隷となったモニカは、
「はい。これで手続き完了です……。ねぇ、ヴィーくん……どういうつもりなの?」
「な、何が?」
「私がいながら、奴隷を買うなんてどういうこと!? ま、まさか……私に飽きたとか!?」
「違う! そんなんじゃ無い!」
「グス……捨てないで……嫌だよぅ、ヴィーくん……」
「だから、話を聞けってッ!!」
その後、フェイを
「ほんと? 捨てたりしない?」
「当たり前だ! そんな事する訳ないだろ!」
「グス……わかった。でも、今度女の子増やす時は、前もって言ってね?」
「えっ、それはいいのかよ!?」
「えっ?」
「うん?」
聞けば、俺のように稼ぎが期待でき、複数の女性を養っていける力を持つ者は、重婚やハーレムが許容されるらしい。だが、そうでない者が同じことをすると、即座に滅されるというのが、崩壊後の価値感なのだそうだ。
つまり、今後ハーレムを拡大する事に関しては、何のお咎めもないらしい。なんと素晴らしい世界だ! 崩壊後の世界にも、良いところはあるものだ。
「よし。じゃあ、行くか」
「あ、ヴィー君。支部長が呼んでたわよ? 支払いがあるとかで」
「お、わかった。カティア、その娘連れて先に待っててくれ」
「はいはい……。えっと、モニカ……だったっけ? 行きましょ」
「は、はい……」
カティアが、モニカを連れて応接室から出ていく。
「フェイもご苦労様。オークション、大変だったろ?」
「ほんとよ、も~……。でも、お陰で明日と明後日は休みが取れたから、この二日間はバザールを満喫できるの! ヴィー君も、仕事しないよね?」
「ああ、一緒に回るか?」
「うん! あ、夕方には仕事終わらせて、そっちに行くから!」
その後、支部長室で例の報奨金を貰う。
余談だが、警備隊とギルドでは犯罪奴隷の販売ルートが異なるらしく、値段も変わる。普通の野盗であれば、警備隊が引き取って奴隷商へと販売し、その値段は比較的安くなる。だが今回の様に元レンジャーなどの場合であれば、ギルドがオークションを開催する為、その値段は高くなるそうだ。
元レンジャーの犯罪奴隷は、拘束首輪で安全が保たれる上、体力があり、戦闘経験もある。労働力から戦力まで使い勝手が良いので、他の奴隷より高値が付き、需要も高いらしい。この場にノア6の3人がいたら、大変な事になっていただろうな……。
……で、何が言いたいかというと、かなりの額を貰うことができたのだ。
「占めて3,600万Ⓜになります」
「いや~、君には驚かされますね。昨日の金塊といい、先ほどのオークションといい、君は何者なんですかねぇ?」
「知ってんだろ? D+ランクのレンジャーだよ。ああ、アレッタ。その金はチームの口座に振り込んでおいてくれ」
「は、はい!」
この金は本来俺の物だが、今回は予想外の大出費になった事と、カティアに相談せずに使ったので、その補填としてチームの口座に寄付することにした。
「邪魔したな」
「ああ、そうそう……君達には近々、Cランクに昇格してもらうつもりでいるからそのつもりで」
「やっとか? さっさとSランクにしてくれてもいいんだぜ?」
「そ……それは、本部のギルドマスターでないと無理ですね」
「そうか。まあいいや、カティアには俺から話しとくわ」
「ええ。お願いします」
やっとCランクか。といっても、他の人間と比べたら早いんだろうが……。まあ、気長にやってくしかないか!
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