第79話 換金

-翌朝

@死都 秘密基地


「グヘヘ……大金持ちらぁ〜……」

「はぁ、幸せそうな顔しやがって……」


 あの後、金塊の輸送を終えた俺達は、既に夜になってしまっていたので、秘密基地で一夜を過ごす事にした。カティアは、あれから目覚める事はなく、こうして朝までぐっすりと眠っていたようだ。

 だが、そろそろ起きてもらわねば困る。


「おい! カティア、起きろ!」

「ハッ、金は!? 金塊はどこ!?」

「……お前は何を言っているんだ?」

「え、ヴィクター? あれ……私は一体……金庫を開けて、それから……あれ?」

「大丈夫か?」

「それよりも、金は? 金はどうしたの!?」

「ほら、そこだ」


 俺は、傍に置いてある金のインゴット2本を指差す。


「……えっ……それだけ? あの、山のようにあった金はどうしたのよッ!?」

「だから、お前は何を言っているんだ? 金庫にはそれしか入って無かっただろうが」

「う、嘘よ! 私は確かに……」

「お前……金庫開けて中に入る時に、また足挫くじいて転んで頭打って、そのまま気絶しただろ? ……きっと、夢でも見てたんだろうな」

「嘘ォォォッ!?」


 カティアには、夢でも見てたという事にして、誤魔化す事にした。気絶した時の記憶が曖昧なので、カティアは俺の話を信じるしかない。


「そうだ。……ほら、受け取れ!」


 俺は大小二つの、丸まった布をカティアに渡す。


「何これ? ……って、これ私のパンツとズボン!? えっ……きゃぁぁぁッ! なんで私、下穿いてないのッ!?」

「お前が漏らしたとか言ってたから、洗ってやったんだよ。焚火で乾かしたから、ちょっと煙臭いかもしれないがな」

「だからって、普通女の子を脱がす!? ちょっと、変なことしてないでしょうねッ!? てか、煙臭いって……まさか嗅いだの?」

「何もしてないわッ! だいたい、お前いつもシャワー浴びた後、下着でうろついてんだろうがッ! 今さら恥ずかしがってんじゃねぇよ!」

「そ、それとこれとじゃ、事情が違うでしょうがッ!!」


 その後、カティアをなだめて朝食を済ませた。そして、カティアがどうしても信じられないとゴネたので、再びセルディア中央銀行へと向かうことになった。ちなみに、カティアに渡していた腕時計は、寝ているときに回収済みだ。そのことに気が付いたカティアが「消し炭になっちゃう!」とか言って騒ぎ出したが、既に銀行はもぬけの殻となっているので、必要ない。


 そして、すっからかんになった大金庫を見たカティアは、その場で膝を突いた。


「嘘でしょォォォッ!!」


 カティアの叫びが、大金庫の中に空しく響き渡る……。



 * * *



-4時間後

@カナルティアの街 南門


「……」


 現在、南門で街に入る為に、馬車やトラックなどと共に検問の列に並んでいるが、かれこれ1時間ほど待たされている。そのせいか、車内の雰囲気が重い。というか、カティアが不貞腐れている。


「なあ、カティア?」

「……何よ?」

「前から聞きたかったが、何でお前はそんなに金を稼ぐ事に固執するんだ? 俺からの借金を返す為って訳じゃないだろ?」

「はぁ!? 別に固執してないし! それにお金を稼ぐのに、理由なんて要るの?」

「それを言われたら、何も言えないな」

「それに、貴方には関係ないから……」

「……」


 え……めっちゃ気になるんだが? すごく重い事情があったりとか……いや、騙されないぞ! どうせカティアの事だ、しょうもない話に決まってる。


「……ヴィクター、今失礼な事考えたでしょ?」

「いや? 何のことやら……」

「よし、次! よう弟子、待たせたな!」


 俺らの順番が回ってきたようだ。いつもの隊長のおっさんが、車に近づいてくる。


「本当だぞ。何でこんなに混んでるんだ? いつもはガラガラだろ?」

「ん? 何だよ知らねえのか? 明日からバザールだぞ。近隣の村とか街から、人や物がわんさか集まってきてる。この門は空いてる方だぞ? 西門とか3時間待ちらしいからな」

「ああ、そういや明日とか言ってたな」


 支部長との会話を思い出す。明日からバザールが始まるとか何とか……。

 門をくぐると、街は屋台の準備をしていたり、飾り付けがされたりと賑わっていた。娯楽が少ない世の中だ……皆、全力で楽しむのだろう。


「本当にお祭り騒ぎだな……」

「ヴィクターは初めてなんだっけ?」

「ああ、どんな事するんだ?」

「明日は初日だから公開処刑とオークションがあって、その後はサーカスとか色々あるわよ」

「……公開処刑って、あの絞首台か?」

「そうそう! 死ぬまでじっくり眺めて、その後皆で石投げたりするわね。その日は見せしめで、1日吊るされたままになるのよ」


 おっかねぇ……。崩壊後の人間の倫理観は、一体どうなっているのだろう。


「それにしても、この金塊……一体いくらになるかな?」

「ふんっ! どうせ私には一銭もくれない癖にッ!」

「勘違いするな。これは、俺達の共同資金だ。俺達の、俺達による、俺達の為の金だ!」

「わ、分かったから! 顔近い、顔近いぃ!!」


 俺達が入手した金塊は、一つが難民達の村の資金として、もう一つが俺達の共同で使う軍資金とする事に決まった。というか、認めさせた。

 カティアはかなりゴネたが、今回は……いや今回も殆ど俺が働いているので、文句は言わせない。


 まあ、だが流石に小遣いくらいはやるか……。順調に借金も返せてるし、金には当分困らなそうだしな。



 * * *



-数分後

@レンジャーズギルド


「フェイ、ちょっといいか?」

「どうしたのヴィーくん?」

「ほら、カティア」

「お、重いぃ〜ッ!!」


 カティアが、受付に金塊が入った麻袋を載せる。そして、中身を確認しようとしたフェイの手を止めて、そっと警告する。


「ッ! どうしたの、ヴィーくん?」

「フェイ、なるべく周りに見えないように、中身を確認してくれ……それはかなりヤバい」

「わ、分かったわ……。ッ! こ、これは……ヴィーくん、付いて来て。カティアは、それ持って来て!」

「えっ、またぁ〜!?」



   *

   *

   *



「で、では……こちらの金額を、全額ヴィクター様のチームの口座に振り込んでよろしいですか?」

「いや、半分をチームの口座に……もう半分は俺の口座に入れといてくれ」

「う、承りました……!」


 あの後、支部長室にて金塊の換金が行われた。最初は、大金を提示されたのだが、なんだか納得出来なかったので、交渉の結果、同重量の金の地金(100万Ⓜ︎)と金貨(10万Ⓜ︎)と交換する事にした。

 そして、持ち込んだ金塊が本物か調べられた後に、支部長室に大型の天秤が運ばれて、同重量の金硬貨が幾らになるか計算した。……その結果、支部長が初めに提示した額より1.2倍程大きい結果となった。


 支部長の爺さん、やはり油断できないな……。


「で、では……6605万Ⓜ︎をチームの口座に……残る6605万Ⓜ︎をヴィクター様の口座に入金させていただきます!」


 本日の換金額……1億3210万Ⓜ︎也……。

 流石に、そんな大金を持ち歩く気は無いので、ギルドの口座に入金する事にした。そんな大金を引き落としたら、ギルドの金庫にもふだが、全額俺の口座に入金するのも、カティアの目が痛い。だからといって、カティアの口座に入金するのも論外だ。


 レンジャーズギルドの規則上、口座は一人一つしか持てない。だが、俺が困っていると、フェイが裏技を教えてくれた。店や団体などの法人用の口座なら、年会費は掛かるが作る事が出来るという。

 年会費も、そんなに高くはなかったので、俺は法人を立ち上げ、口座を作ったのだ。とりあえず、俺達のチームの軍資金は、この口座に入れることにする。


「あ、すまん。10万Ⓜ︎程、チームの口座から引き出して、現金でくれないか?」

「は、はい……!」


 アレッタから現金を受け取って、カティアと合流する。


「遅かったわね……」

「そう不貞腐れるなよ。……ほら、コレやるよ」

「何これ……って、お金ッ!?」

「小遣いだ。ほら、バザールとかあるし……現金無いと困るかと思ってな? 借金もちゃんと返せてるし、今回はサービスだ」

「ヴィ、ヴィクター……。ありがとうっ!!」

「よし、腹減ったし飯でも食いに行くか! 当然、今日は金もあるし、奮発するぞ!」

「やった! 行く行くッ! ……あっ、でも待って」

「どうした?」

「……下着、変えてきてもいい?」

「……帰るの面倒だから、新しいの買ってけば?」



 この時……大金を得て余裕が出来た俺は、かなり舞い上がっていた。そして……再び金欠に陥る事になるなど、夢にも思わなかった。



 * * *



-少し前

@レンジャーズギルド 受付


「あ、あの……フェイさん」

「どうしたの、アレッタ?」

「法人の登録なのですが、これ……登録しちゃっても、大丈夫なんでしょうか?」

「どれ?」


-----------------------------------------------------------

法人番号:○○-×××××-△△△△△△

商号  :ヴィクターのチーム

本店  :カナルティアの街南部地区

業種  :サービス業

業務内容:ヴィクターと愉快な仲間たち

目的  :特になし

代表者 :ヴィクター・ライスフィールド

-----------------------------------------------------------


「……どこに問題があるの?」

「えっ!?」

「手数料も貰ったんでしょ? 登録して大丈夫よ」

「で、でも……業務内容とか設立目的も意味不明ですし、流石にこのまま登録というのは──」

「アレッタ」

「は、はい」

「やりなさい」

「わ、分かりました……」

(ヴィーくんったら、私達を笑わせたいのかしら♪)

(フェイさん……どうしちゃったんだろう……)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る