第78話 金塊ハント2

「デュラ……ハン……!? なんでこんな所に……」

「マズいな」


 率直に言って、今の状況はマズい。銀行に入る為に、武器は全て置いてきているので、俺達は今丸腰だ。

 何故、ミュータントが銀行内にいるのか、そして警備ロボ達が無反応なのかは不明であるが、対処しなくてはなるまい。


「ちょっと、どうすんのよヴィクター!?」

「まずは、ここのコントロールを掌握する。そうしないと、武器を中に持ち込めない」

「ね、ねえ……なんかコイツ、動き回ってない? こっちに来るんじゃないの!?」

「……なるべく急ぐ」


 モニターに映ったデュラハンは、ゆっくりと廊下を歩き、時折ドアが外れた部屋の中に入って行ったり、出てきたりと、あちこち動き回っている。しかも、機器の誤作動の為か、何故かデュラハンが“人間”として認識されている為、ロボットやタレットも攻撃を加える様子はない。また、デュラハンの方も無機物は食料にならないのか、ロボットを襲うようなことはしていないようだ。


 俺は、警備室のコントロールパネルを操作して、銀行の警備システムの権限を俺に移譲する手続きを行う。こうすれば、銀行内のロボットやタレットを使用して、デュラハンを始末することができるはずだ。だが、手続きが完了するまでには時間がかかるらしく、モニターには手続きが完了するまでの時間を示すバーが表示され、少しずつ進んでいく。


「ヴィクター、見てッ!!」


 カティアの悲鳴に振り帰ると、先ほどのデュラハンが移動を開始したらしく、ホログラムの見取り図を見ると、俺達がいる警備室に着実に迫って来ていることが分かった。


「ねえ! アイツこっちに来るわよッ!?」

「くそッ! 手続きはまだか!?」


 モニターを見ると、先ほどまで順調に進んでいたバーが、後半に差し掛かって、何故か進みが遅くなっていた。とても、もどかしい……。


(ッ! カティア、静かにしろ!)

(う、うん!)


 デュラハンが外の廊下に到達したらしい。万が一、ここにいるのがバレたら……そう思うと、心臓の拍動が強く、早くなる。



「グルルル……」


──ドス……ドス……ドス……


 ドアの外で、デュラハンが歩く音が聞こえる……。気が付くと、俺は震えていた。自分では冷静に行動しているつもりでも、心では、本能では怖いと感じているとでもいうのか?


──ドス……ドスドスッ……


「ヴァ~?」


 デュラハンが、警備室の前で立ち止まる。モニターをチラリと見ると、デュラハンが警備室の前でキョロキョロと周囲の様子を窺っているのが見える。匂いでも残っていたのだろうか?


(クソ、あっちへ行け!!)


 そう思ったその時、コントロールパネルが手続きの完了を告げる。


『……手続き完了。戦時下緊急措置に則り、当行の管理権限を軍に移譲しました』

「ッ! ヴア゛ァァァアッ!!」

「くそ! 音声のミュート機能は無いのかよッ!」

「ば、バレた!!」


 完了を告げる音声が流れ、デュラハンを刺激してしまったらしい。デュラハンはその場で両腕を広げて、あの気味の悪い咆哮をすると、警備室のドアを破壊した。

 だが、焦ることはない。俺にはもう、対抗手段があるのだから。


「きゃぁああああッ!!」

「よう、相変わらず気持ち悪い野郎だなッ!」

「ヴア゛ァァッ!!」

「これでも食らえッ!」


──ジュイィィッ!!


「ヴェアッ!?」


 俺は電脳を使った手動操作により、廊下の天井に設置された、侵入者迎撃用のタレットを起動させる。小口径のレーザーが、デュラハンの肩を焦がし、ほんの少しの間をおいて、レーザーがデュラハンの腰を貫通して、床の絨毯を焦がした。突然の頭上からの攻撃に、デュラハンは膝を突き、崩れ落ちた。


「よし、今の内に逃げるぞ! カティ……おい、カティア!」

「あ、ああ……」


 カティアは、俺の膝に抱き着いて震えていた。……さっき自分が震えてたと思ったけど、コイツが原因だったわ。


「ほら、立て! 今の内に逃げるぞ!」

「ご、ゴメン……さっき驚いて、足くじいちゃって。……私の事は置いて行っていいから」

「わかった、じゃあな!」

「え!? ちょ、ちょっと待ちなさいよ! そこは担いでくとか、何かするところでしょうが!?」

「ん~? いや、お前を助けようという気持ちが、不思議とこれっぽちも湧かないんだわ、これが」

「はぁ!? 私たちチームでしょ!? 私もほら、結構見た目は良い方でしょ? お、男なら助けなさいよ!?」

「見た目はな……。それ以外は……はぁ……」

「な、何よ! その間は何なのよ!?」

「ヴ……ヴア゛ァァッ!!」

「おっと、おふざけはこれくらいにして……よっと!」

「え? きゃッ!!」


 俺は、カティアを俗に言うお姫様抱っこで持ち上げて、床でうずくまるデュラハンを横目に、警備室を飛び出した。

 ……さっきカティアが漏らしたとか言ってたから、背負ったらなんか汚そうだと思ってこの持ち方にしたのだ。別に変な意味は無い。


 にも関わらず、カティアは何故か顔を赤らめている。俺は鈍感じゃない(自称)から、分かる。コイツ、今俺に惚れてるな……。後で、勘違いしないように釘を刺しておかなければ。



 * * *



-数分後

@セルディア中央銀行 入口前


「ヴア゛ァァァアッ!!」

「やっと来たか」


 銀行の入り口から、回復したデュラハンが出てきて、階段を下りてくる。対するこちらは、重武装のテトラローダーが6台、離れた所に整列している。……勝ったな。


「よし、やれ!」


 俺の合図と共に、テトラローダー達は一斉に機関銃を発射する。デュラハンは、文字通りハチの巣となり、階段を転げ落ちて、銀行前の道路に倒れる。


「今だ! サーモバリック弾、撃てッ!」


 テトラローダーの一台が、肩に搭載された60mmグレネードランチャーを発射する。グレネードランチャーとは言うものの、軽迫撃砲並みの高威力な弾を撃ち出す事ができる。

 ……これで、確実にトドメを刺せるはずだ。


 比較的低速の弾が、デュラハンの至近に着弾する。すると、周りの空間が一瞬霞んだような、歪んだような状態となったかと思うと、その場に火球と白煙が発生し、爆発を引き起こした。


《……》


「ん?」


──ドゴォンッ…!!


 爆発が収まって様子を窺うと、デュラハンがいた所を中心に、地面がパチパチと音を立てながら燃えている。どうやら倒す事が出来たようだ。


「や、やったの?」

「カティア、足は大丈夫か?」

「えっ……う、うん。さっきよりは大分マシになったわ。もう一人で歩ける」

「そうか」

「ね、ねぇ!」

「何だよ?」

「さっ、さっきは……その……ありがと」

「ああ、気にするな。お前が死ぬと、借金を返して貰えないからな」

「はぁ!? あ、アンタねぇ……人がどういう気持ちで……!」

「そんな事より行こうぜ? きんがまだ残ってるといいが……」

「そんな事!? そんな事ですってッ!? あ、ちょっと待っ…ッつ〜! ま、待ってよ! 足まだ痛いんだからッ!!」


 騒ぐカティアを無視して、俺はデュラハンのいた所を横目に、銀行へと歩みを進める。


《……ロゼッタ》

《どうされました、ヴィクター様?》

《いや、さっき電脳通信に反応があった気がしたんだが……。その様子だと、ロゼッタは違うか》

《私は今まで、皆さんの訓練をしていました。ヴィクター様に通信はしておりませんが?》

《そうか。すまん、俺の勘違いだったみたいだ。訓練頑張ってな!》

《はい!》


 さっき、デュラハンにトドメを刺そうとした時、一瞬だけ電脳通信で誰かから通信が入ったような気がした。考えてみれば、今この世界で電脳通信ができるのは、俺とロゼッタくらいのもんだ。おそらく、気のせいだったのだろう。

 ……そういえば、以前も似たような事があった気がする。最近、問題が山積みだからストレスでも溜まっているのかもしれないな。さて、これから開ける大金庫の状況次第で、問題が解決するかしないかが決まる。さっきデュラハンと戦った時よりも緊張してきたぞ。



 * * *



-数分後

@銀行地下 大金庫


「……よし! 開けるぞ」


 金が保管されていた、大金庫の入り口を開ける。ノア6の厳重なドア以上の重苦しい扉が、何重にも開かれていき、最終的に丸い形のアナログな気密ドアが出てきた。

 ドアのハンドルを回そうと手をかけるが、錆びついているのか、長い年月をかけて癒着したのか、ハンドルは動かない。


「ぐっ……か、かってぇ〜! カティアも手伝ってくれ!」

「よっし、まっかせなさい!」

「よし、いくぞ? せ〜の!」

「「 ふん! ぬぐぐぐぐッ!! 」」


──ギィ……キィン……ガシャンッ!


「よし、ハンドルが回ったぞ!」

「あ、後はどうするの?」

「一緒に引っ張れ! いくぞ?」


 カティアと共に、最後のドアを開ける。ドアと言っても、とてつもなく分厚い金属で出来た、金庫の栓の様なものだ。支えられているとは言え、ドアを開けるのは重労働だ。

 そして、ドアを開けて、大金庫の中に入った俺達は絶句した。


「「 …… 」」


 大金庫の中は、小さな牢屋の様な物で仕切られており、牢屋の中は棚が並べられていて、その棚にはきんの地金が所狭しと積み上げられていたのだ!

 金の地金と言っても、よく見る100gとか500gとかのちゃちな物ではない。10kgとか12kgとかの台形の断面の黄金……まさに金塊と呼ばれる、金のインゴットだ。


「えっ……ちょ、ちょっとちょっと! 何コレ!? 金? 金よね? 嘘でしょ!? ヤバいヤバいヤバい! こ、これだけあれば……ふ、ふへへ」

「あっ、マズい!」


──ドシュッ!


「ふぇ? な……に……?」

「おっと……。やべ、思わず眠らせちまった」


 狂喜乱舞しそうなカティアに、思わずダートピストルを発射してしまった。倒れこむカティアを支えて、そっと床に寝かせてやる。

 俺も、まさかこんなに金が残っているとは思わなかった。これ、本当に世界の金の5分の1位あるんじゃないか?


 とにかく、カティアには悪いがこんな物を表に出す訳にはいかない……。


《……ロゼッタ。聞こえるか?》

《はい、どうされましたか?》

《訓練は中止だ。至急、準備させてたノア6の全車両……いや、ヘリとVTOL機も全部こっちに寄越せ! 全力出動だッ!!》

《ッ! 了解しましたッ!!》



 * * *



-5時間後

@セルディア中央銀行 入口前


「よし。それで最後だな、カイナ?」

「は、はいっす! ご主人様!!」

「ご、主人様……も、持って来ました」

「悪いな、ノーラ。重かったろ? ジュディにやらせりゃ良かったのに」

「……ご主人様に、腕がちゃんと治ったの見てもらいたくて」


 あれから、ノア6にある軍用車両や輸送機などをピストン輸送させて、銀行の金を運び出した。当然、行き先はノア6だ。これで、少なくとも俺が生きてる間はきんに困らないだろう。

 とりあえず、大量の金塊の内の二本を、村と自分達用に確保する事にした。ノーラが金塊を持って来てくれたが、女の子には重かっただろう……。


 銀行には金の他にも、銀やプラチナ、パラジウムなどといった貴金属が保管されていた為、それらも有り難く頂戴する事にした。


「ヴィクター様、お時間お掛けして申し訳ありませんでした」

「いや、皆んな良く働いてくれた。ロゼッタも、あれだけの車両の遠隔操作、大変だったろ?」

「いえ、別に戦闘させる訳ではありませんでしたから、大した事はありませんでした」

「そ、そうか……。じゃあ、後は頼むぞ?」

「はい、キチンと保管しておきます。ヴィクター様のお陰で、今後ノア6も安泰ですね」

「ああ、そうだな」

「それで……ロボット達もこちらで頂きましたが、どうされるのですか?」

「ああ、アイツらには別の仕事を任せる予定だ。とりあえず、ノア6に連れて帰ってくれ」

「かしこまりました」


 銀行にいたロボット達や、タレットなどのまだ生きてる機械も、当然回収した。これら崩壊前の遺物は貴重だ。有り難く頂戴する。


「皆さん、帰りますよ」

「「 はい! 」」


 カイナとノーラが、軍用トラックの荷台へと乗り込む。ジュディの姿が見えないと思ったら、作業の邪魔になるからと、銀行の入り口の所に寝かせていたカティアの所にいた。


「……カティア」

「ジュディさん、帰りますよ」

「ッ! はい、ママ……ロゼッタさん!」


 ジュディは立ち上がると、トラックの荷台へと駆けていく。

 ……今、ロゼッタの事、ママとか言ってたよな? ロゼッタは一体、彼女達にナニをしているのだろうか? 気になる!


「それではヴィクター様、失礼します」


 ロゼッタは、アーマードマニュピレーター……通称AMと呼ばれる兵器に乗り込むと、トラックや装甲車などを伴って、ノア6へと帰って行った。





□◆ Tips ◆□

【AM】

 アーマードマニュピレーター。通称、AM。元は、レガル共和国による南極大陸開拓事業に利用する為に開発された、大型のパワードスーツ。開拓事業が国際世論の反発を受け中止された後、宇宙開発での利用の為に目をつけた連合に、技術を有償供与した事により軍事転用され、発展していった兵器。大きさは約10m前後。

 装甲を施し、武装すると兵器になる事から、連合と共和国の軍需企業間で共同開発が行われ、次第に両陣営の陸戦兵器としての地位を獲得していった。ただし、認識には双方に違いがあり、連合側は兵器であると公言していたが、共和国側はその出自からあくまでも作業用機械の一種であるとの見解を示していた。

 操縦者の電脳とAMをリンクする意識操縦により、自分の手足を動かす感覚で操縦する事が可能となっている。その為、操縦者自身が戦闘訓練で身につけた技能が、そのままAMの戦闘にも反映でき、訓練期間を短くする事ができるという点で画期的だった。

 初期の作業用パワードスーツに改造を施し、武装させた第1世代型、初めから戦闘目的に設計されて短距離飛翔能力を獲得した第2世代型、遠隔操縦も可能になった第3世代型がある。

 第2世代型までは、作業用パワードスーツ時代の名残りである、二本の操縦桿がコックピットに備え付けられており、操縦桿によるマニュアル操縦が可能だった。

 動力は当初、バッテリー駆動方式だったが、第1世代型では内燃発電機関を搭載する事で、出力向上に伴う電力消費を補っている。また、連合軍では第2世代型以降の機体に“受信機”を搭載しており、衛星からの電力を受け取る外部電源方式を採用していた。

 連合では、兵器の一種類として運用されていたに過ぎないが、逆に共和国では事から、民間企業(PMC)により積極的に運用されていた。

 ペットネームは、神話の巨人や神、英雄などからとられているのが特徴。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る