第64話 屈辱のくっころ作戦

-帰還当日 夕方

@ノア6 ヴィクターの私室


 カイナと引き離されたアタシは、別の部屋へと連れてこられていた。

 カイナの方は大丈夫だろうか? あの子、普段はお調子者だけど、怖がりな性格だから心配だ……。


「ねぇ、アタシをどうするの? カイナは無事なんでしょうね?」

『しばらくお待ちを……』

「ちっ! 何なんだよ、お前らは!? 訳わかんないッ!!」


 コイツらは何なのだ? 不気味なマスクは外さないし、何も答えない。その上、バカみたいに強いし、アタシらは言いなりになるしかないのか……ムカつくッ!


 そう思っていると、突如マスク女が、頭に被っていた不気味なマスクを外した。


「……えっ!?」

「……ふぅ。お待たせしました。申し訳ありませんが、その質問にはお答えできません」

「アッハイ……ソウデスカ……」


 マスクの下……女の顔は今まで見た、どんな女性よりも美しかった。あまりの美貌に、思わずしどろもどろになってしまう。

 そんなことしていると、部屋にマスク男が入って来た。


『……ああ、コレは必要ないんだったな』


 男もマスクを外した。……中は、普通よりはマシな顔立ちって所だろう(ジュディの主観)。


「じゃあ、ロゼッタ……後は俺がやるから、お前は食事との用意を頼む。ああ、あとあの服も持って来てくれ」

「承りました」


 コイツらの会話を観察する限り、男の方が主導権を握っているらしい……。


「ええと、お前の名前はジュディ……で合ってるか?」

「……」

「おい、だんまりか? これだといつまでも進まないぞ?」

「うっさいッ! アタシにたまたま勝てたからって、調子に乗んなッ!! 卑怯な道具使いやがって!!」

「ハハ……あの戦いで、まだ実力差を理解できないのか? こっちは手を抜いてあげてたの、気づいてたろ?」

「くっ……!」

「切り札の不意打ちも、封じてやっただろうが」

「くそ!」


 アジトでこの男と戦った時、確かに勝てないと感じた。アタシとこの男には、大きな実力差があったのは間違いない。だが、このまま大人しく従うのもしゃくだった。

 アタシは、拳を握りしめて構えを取る。


「……何だよ、やる気か?」

「アンタを倒して、アタシはここから出て行く! カイナを連れてね!」


 私は素早く踏み込み、男に連打を打ち込むが、全く当たらない。ならばと、回し蹴りを放つが、そこに男の姿はなかった。


「なっ!?」


 ポンッと肩を叩かれる。振り返ると、いつの間にか首筋にナイフを添えられていた。


「く、くそっ!!」

「全く、人の部屋で暴れんじゃねぇよ……」


 男は、ナイフを仕舞うとアタシを椅子に座らせ、テーブルの対面に座った。


「じゃあ、もう一度聞くぞ? お前の名前は?」

「ちっ! ……ジュディ」

ファミリーネームは?」

「孤児になった時に捨てたよっ!」

「そうか……おっと自己紹介がまだだったな? 俺はヴィクター・ライスフィールドだ」

「……」

「ヴィクターが名前で、ライスフィールドが姓だ」

「だから何? 自慢してるの?」

「そうだよ? 人が持ってない物って、自慢したくなるだろ?」

「何なの!? ホント、ムカつくッ!!」


 本当に、この男は何がしたいのか? 全く意味が分からない……さっきから人を馬鹿にしてるとしか思えない!


「ねぇ、アタシらに何の用なの? なんでこんな所に閉じ込めるの? ていうか、ここは何処なのッ!?」

「じゃあ、次の質問だ。お前らは、狼旅団とかいう野盗の構成員で間違いないな?」

「質問に答えろッ! 何なんだよ、ほんっとキモいっ!!」

「お前に質問する権利は無い。俺の質問に答えた方が楽だぞ?」

「ちっ!」


 多分、このまま抵抗を続けても、無駄にエネルギーを使うだけだ……。アタシは、諦めて男の質問に答える事にした。

 ……その後、「スリーサイズは?」とか、「経験人数は?」とか、セクハラな質問もあった。クソムカつくし、答えるのは屈辱だった。スリーサイズに至っては、大きいの気にしてたから、嘘ついたけど何故かバレた……何なのコイツ、キモっ!?



 * * *



-帰還当日 夜

@ノア6 ヴィクターの私室


 あれからジュディに対して、敢えて屈辱を感じるような質問を続けた。ジュディの顔は紅潮し、肩はプルプルと震えており、今にもキレそうな感じだ。

 お陰で、メチャクチャ睨まれている……メッチャ怖いが、何だか変な性癖に目覚めてしまいそうだ。


 ジュディは、例えるなら不良のお姉さんみたいな感じだ。そして、そんな娘に限って、やたらとエロい身体をしているものだ。

 まあとにかく、ジュディは気が強い。洗脳プランとしては、徹底的に屈辱を与えてはずかしめ、彼女の精神的支柱を折る。その後は、例のごとくロゼッタに任せるという算段だ。


 そろそろ本当にキレそう……という所で、ロゼッタが食事を運んで来た。


「お待たせ致しました」

「おっ! じゃあ、ジュディ。質問は終わりだ」

「クソッタレッ! 死ねッ!!」


 ロゼッタが、テーブルの上に食事を並べる一方で、俺はジュディを立たせると、拘束首輪を取りだす。この首輪は、村人を助けた時に、大量に手に入れる事が出来た。


「なっ……それは!?」

「ジュディ、俺からのプレゼントだ」


 ジュディは、首輪を見ると額から冷や汗を流して、こちらを睨みつける。これが何なのか、よく分かっているのだろう。


「そ、そんなのいらないッ!」

「照れるなよ、ほら付けてやるよ」

「やめろ、これ以上近づくなッ! やだやだやだッ!!」

「暴れるなって、さっきも言っただろうが!」


 俺は、ジュディに足を掛けて引き倒すと、ジュディの背中にのしかかる。そして、ジュディの首に首輪を当てる。


「や、やめろ……やめてッ!」

「もう暴れないか?」

「ッ、わかった! もう暴れないからッ!!」

「良し、分かってくれたか。……じゃあ、聞き分けの良い娘にはプレゼントをやろう」


 カチッ!という音と共に、拘束首輪のロックがかかる。この時点で、ジュディはもう俺に逆らう事が出来なくなったのだ。


「あ……あああッ! 何で……くそっくそっくそぉ!! この野郎ッ!!」

「はい、ドーン!」

「あががががッ!!」

「さっき、暴れないって言ったのは嘘かよ」


 首輪をつけられたジュディが、逆上して襲いかかってきたので、首輪の無力化装置を作動させる。装置を作動させると、ジュディは悶絶して床に突っ伏した。


「野盗の末路としては、お似合いだな?」

「くそぉ、くそぉ……ぐすっ……」


 おっ、ちょっと泣いてる? これは、意外と早く折れるかも? ……と思っていると、泣きながらも俺を睨んできた。まだまだか……。


「おっと、そうだ。お前には服を着替えてもらう……奴隷に相応しい服をな。ロゼッタ!」

「こちらに」


 ロゼッタは、患者用の検診衣を改造した服を持って来てくれた。灰色に脱色して、敢えて所々破いている為、みすぼらしく見える。


「さあ、着替えてくれ?」

「ぐ、クソ……」


 ジュディは、無力化装置の余韻でまだ動けないようだ。まあ、狙ってやったんだけどね……。


「あっ、動けないか! じゃあ、着替えさせてやるよ」

「さ、触るな! この変態野郎ッ!!」

「はーい、脱ぎ脱ぎしましょうね〜」

「やっ、いやぁ!!」

「……こいつは!」


 ジュディの服を脱がせて裸にすると、ジュディの身体に驚いた。マッシブでグラマーな体型もそうだが、右肩と腰にはタトゥーが彫られ、臍にはピアスが付いていた。

 人によっては、抵抗感があるかもしれないが、何かエロくて俺は大歓迎だね!


「おい、それはどうしたんだ?」

「……」

「何でタトゥーとか、ピアス開けてんだよ? ……答えないと、首輪使おっかなぁ〜?」

「くそ! ……か、カッコいいと思って」

「あっ、そうなの。エロくていいね、男が喜ぶよ!」

「そんなつもりじゃないッ!! ふざけるな!」

「まあいいや、早くその服着て」


 段々と身体の自由を取り戻してきたジュディは、ヨロヨロと服に手を伸ばした……。



「さて、食事にするか。ロゼッタ、犬に餌をやれ」

「かしこまりました」


 ロゼッタは、ジュディの前の床に深皿を置く。中にはオートミールが入っている。オートミールと言っても、崩壊前の技術で作られ、味付けしてあるので、宿で出されていた奴よりは何百倍もマシだ。……それでも、他の料理と比べるとマズいのだが。


「……何のマネ?」

「ジュディ、お前は今から犬になってもらう」

「はぁ!?」

「狼旅団なんだろ? 狼ってイヌ科だし……けど、今のお前は狼みたいに気高いように見えないから、みすぼらしい野良犬が似合うかなって」

「だから、床で食えってこと!? 馬鹿にしないで!」

「あ?」


 俺は無力化装置を作動させる。


「あががががッ!!」

「キャンキャン吠えるな、犬。餌をやってるだけ、ありがたいと思え!」

「くそ、くそぉ……」

「ちゃんと、犬らしく四つん這いで食えよ! 手を使ったら、罰を与えるからな?」


 その後、四つん這いになり、たわわを揺らしながら犬食いするジュディを眺めながら、俺はテーブルで人間的な食事をするのだった。

 別にそういう趣味がある訳ではない。これは、彼女を引き入れる為の手段の一つなのだ。


 ……だが本当に効果あるのか、コレ?



 * * *



-帰還より2日目 深夜

@ヴィクターの私室


 アタシは、犬喰いで食事をさせられた。拘束首輪に、ボロボロの服……嫌でも奴隷になってしまったことを、自覚させられる。


 食事は、オートミールのようだった。……何故かオートミールにしては、凄く美味しく感じた。そして、それが屈辱でもあった。

 男はというと、イヤらしい視線をこちらに向けながら、側に仕える金髪の女性にグラスに飲み物を注がせて、まるで見せつけるかのように豪華な食事をしていた。


 その後、バケツで冷たい水をぶっかけられて、あろうことか掃除用のモップでアタシの身体を拭きやがった。しかも、「感謝しろ」だと……ふざけるのもいい加減にしてほしい。


 そして、アタシは拘束を解かれて小さな檻に毛布一枚で閉じ込められた。

 男は女との情事の後、疲れたのか寝息を立てて、幸せそうに眠っている。女は、男が寝静まった時を見計らって、アタシに小声で話しかけてきた。


(ジュディさん? 大丈夫ですか?)

(失せな。敵と話す趣味はないよ)

(自己紹介がまだでした。私はロゼッタと言います)

(……)

(それから、コレを……)

(ん? 何よ、コレ?)


 女は、檻の隙間から何かを渡してきた。手に取ると、シュークリームであった。


(これは……?)

(先程の貴女への仕打ちが見てられなくて……。ヴィクター様には内緒ですよ?)


 そういえば菓子なんて、しばらく食べてないな。ここ最近は生活するのにやっとだったし、それが苦で狼旅団に入ってしまったから、菓子とは無縁だった。

 先程の屈辱的な食事の後に、このシュークリームは輝いて見えた。


(あ、ありがと……あなた、本当はいい人なんだね……)

(申し訳ありません。私では、ヴィクター様をお止め出来ないので、そのお詫びです)

(……ねぇ、ロゼッタさん。あの男は、何で私にこんな事させるの? 変態なの?)

(そ、それはその……。貴女も見たでしょう? 私の乱れた姿を……)

(えっ、ええ。そ……そういえば、身体は大丈夫? あの男、相当ロゼッタさんで楽しんでたみたいだけど……)

(まあ、いつもの事です。それより、ヴィクター様が私達の行為を貴女に見せつけた、と言う事は近々ジュディさんがヴィクター様のお相手をすることになるでしょうね)

(何だって!?)


 あの男と寝る!? 冗談ではない!! あのクソ男に、アタシの純潔を散らされるのは絶対にゴメンだ!!

 アタシは、ロゼッタさんに頼んでみる事にした。


(ロゼッタさん、アタシを逃してくれない?)

(……申し訳ありませんが、それはできません)

(お願い! こう見えて、経験無いの! あんな奴に、抱かれてたまるもんか! そうだ、一緒に逃げよう! ロゼッタさんなら、アイツより強いでしょ?)

(それはできません……)

(そう……じゃあ最後に教えて。カイナは無事?)

(ええ、無事ですよ)

(良かった。ありがとう)


 ロゼッタさんのおかげで、少し元気が出た。カイナも無事らしい……良かった。

 だがこの夜以降、ロゼッタさんと話す機会は訪れなかった。


《ロゼッタも役者だなぁ》

《ヴィクター様が不在の時に、色々と映画を観て学びましたので》

《それは、今後も期待できそうだな》



 * * *



-ヴィクター帰還より7日目

@ヴィクターの部屋


 も、もう限界だ。強がってきたけど、毎日毎日屈辱を与えられて、アタシの精神はズタズタだった……。


 いつだったか……アタシがあの男に純潔を奪われた次の日、壁一面にその時の映像を映し出し、アタシに見せつけてきた。映像の中で泣き叫ぶ自分の姿を観て、男に憎悪を抱くと共に、自分の惨めさに涙が出た。


(……ジュディさん)

(……ああ、ロゼッタさん。アタシ、もう死にたいよ……)

(そ、そうですか……)

(ねぇ、殺してよ……アタシを殺して……)

(それはできません)

(ハハ……。前にアンタのこと、いい人だって言ったけどね……訂正するよ……)

(……)


 ボケッと何も考えずにボーッとしていたら、あの男がやって来た。


「ジュディ、どうだ? 素直になったか?」

「……」

「お前にいい話が……」


 男の顔を見ていたら、急に殺意が湧いてきて、アタシは男の顔に唾を吐いていた。


「失せな、遅漏野郎ッ!! アンタの話なんて聞くもんかッ!!」

「……あれ、おかしいな?」


 男は呟くと、部屋から出て行った。


《あの、ヴィクター様?》

《う〜ん、変だな。俺は、手順通りにした筈だが……何でまだ抵抗する意思が残ってるんだ?》

《そう仰る割には、関係ない質問や、手順に無い行為があったような気もしますが?》

《あれ、そうだったか? ……はい、俺のせいですね》

《それで、ジュディさんはどうするんですか? このまま洗脳が成功するとも思えませんが》

《……責任持って、捨ててきます》

《そんな、犬猫じゃないんですから……。ですが、確かに不穏分子は排除すべきですね》

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