第36話 翌日
現状を整理しよう。今の俺の目標は『この世界で生き抜く』ことだ。
だが、ただ生きていくだけなんてつまらない。そんなの、ノア6でゴロゴロしてればいいだけだ。
そこで俺のポリシーというか、今後の方向性を考えた結果、「楽しく、気持ち良く、自由に生きていく」という方向性が決まった。その為の障害は全力で排除するし、何にも縛られるつもりもない。
それから、極力崩壊前のテクノロジーは用いない事か。この時代はこの時代で、人間の歴史の一部なのだ。崩壊前のテクノロジーは、この時代にとって大きな影響を与えてしまう。あまり俺が関与するべきではない。
もちろん、秘匿することで自分の身を守るという大きな目的もあるが……。
ひとまず、この街での目的はガラルドの遺志を継いでレンジャーになる事、ガラルドの言っていた弟子とやらに会う事、そして愛人を作ることだ。
……何で愛人か? それは、俺の大事な大事な家族である、ロゼッタの負担を減らす為だ! 彼女とは自覚は無いが、2世紀以上もの間一緒にいる……もう家族のようなものだ。
だが昨日の出発前に、毎晩抱いてる事が彼女の負担になっていたことを知った俺は、考えた。どうすればロゼッタの負担を減らし、かつ俺が満足できるのか……。
そんな時、ロゼッタが観ようとしていた映画をチラ見した俺は、その映画の内容を思い出した。その映画は、古代の王朝を舞台にした映画だったのだが、王が何人もの女を侍らせているシーンがあった。
俺は、気付いた。「そうだ、ハーレムだ!」と……。毎日、ローテーションすれば良いじゃないかと!! 時代は崩壊後の世紀末ッ! 法律は無い! 重婚、不倫なんでもござれの筈だ!!
ひとまず、レンジャーにはなれた。後の目標も、順調に達成できることだろう……。男の野望、ハーレム創設に向け……じゃなかった、崩壊後の世界で生き抜く為に、明日も頑張ろう。
──なお、この時ヴィクターは、自身が(性的に)自重する事は全く考えていなかった。この3ヶ月間、ロゼッタと過ごした所為で、軽く依存症気味というか、女の子無しの人生が考えられなくなってしまっていたのだった──
* * *
-翌朝(街に来て2日目)
@カナルティアの街 レンジャーズギルド
《おはようございます、ヴィクター様。昨夜は眠れましたか?》
《いや、ベッドが合わなくてな。一応、この辺ではまともな宿屋だったらしいが、朝食も不味いし、最悪だった》
《何を召し上がったのですか?》
《オートミールだ。しかも、お湯ぶっかけただけのクソまずいやつだ! あんなの料理でも何でもねぇ!》
《外の世界は過酷なのですね》
《おっと、人が来た。切るぞ》
《はい、お気をつけて……》
「お、ヴィクターじゃねえか、おはよう!」
「ヴィクターさん、おはようございます!」
「おはよう、クエントにミシェル。何か、昨日より混んでないか?」
ギルド内は、昨日と比べて少しだけ混雑していた。
「朝は、日帰りの依頼を受ける人で混みますよ。これでも、以前よりは空いてるんですよ」
「そうなのか?」
「ええ。今Cランク以上の人の多くは、ギルドからの任務で、街の周りの村々に派遣されてて、一定期間その村に常駐することになってるんです」
「そのせいで、残ってるCランクは俺と、何人か……Bランクに至っては一人しかこの街に残ってない」
「その、“任務”ってのは何だ? “依頼”とは違うのか?」
「依頼はレンジャーが自由に受けられる仕事で、任務はギルドの支部長クラスの人間が出す仕事だ。断ることもできるが、ペナルティが付いちまう。ほぼ強制みたいなもんだな」
「近隣の村々は、強いレンジャーがいてくれて助かってるみたいですけど、そのせいで昨日みたいに危険度の高いミュータントなんかが街に攻めてくると、対処が難しくなる恐れがあって……」
「ん? 任務って、支部長が出すんだろ? そういえば、今は支部長がいないって言ってなかったっけ?」
「ああ……」
「えっと……」
二人が難しい顔をしている。
「それが、今は副支部長が代理をやってるんだがな、横暴というか何というか……」
「さっきの任務も、副支部長が出したんですが、反対する人が多いのに無理やり……って感じでした。他にも、高ランクのレンジャー達とひと悶着あったらしくて、街にいてもギルドに顔を出さない人もいるとか……」
「あと、ここだけの話だが……レンジャーを辞めて、野盗になってる奴らが多いらしい。最近、狼旅団も暴れてるしな……」
「そのせいで、ギルドは支部長が出ていく前と比べてレンジャーの数が半減したと言ってもいいと思います」
「狼旅団……」
狼旅団……忘れもしない、俺とガラルドを襲撃した連中だ。連中に出会った時、俺は平静を保てるのだろうか?
「あっ、貴方は!」
「ん?」
声がする方を見ると、昨日絡んできたヒス女がいた。確かフェイとかいったか?
「貴方にお話があります!」
「……何ですかね?」
「ブレアっ! ちょっとこっちに来なさいッ!!」
「は、はい!!」
フェイに呼ばれたブレアと呼ばれた受付嬢……あのギャルがこちらにやってくる。ギャルは、クエントを見かけると急に作り笑顔を浮かべる。クエントは、そんなギャルを見て鼻の下を伸ばしていた。
「お、ブレアちゃんおはよう!」
「あ、クエントさ~ん♪ おはようございますぅ♡」
「ブレアッ!!」
「あ~、ブレアちゃん。俺は向こうに行ってるわ!」
「クエントさ〜ん、めんご! また後でね♪」
「あ、クエントさん! 置いてかないで下さい!!」
クエントとミシェルが離れていく。
「……で、何の用だ?」
「貴方、昨日ドッグタグの精算で、この娘からいくら貰いました?」
「げっ……」
「確か、45,000Ⓜ︎だったかな?」
「……ブレア?」
「……さ~せん」
「ブレア!! また貴方、報奨金を勝手に増額したわね!? もうこれで何回目よッ!」
「……俺、もうあっち行っていいか?」
「ダメです!! 貴方には、過払い金を返却して貰いますッ!! ちょっと別室へ来て下さい!」
「ハァ!? それは、そっちの不手際が原因だろうが! なんだその態度はッ!! そういや、俺はガラルドのドッグタグの報奨金を貰ってない気がするが? そっちはどうなってるんだよ?」
「くっ……い、いいから今すぐ一緒に……」
フェイが俺の手を掴もうと腕を伸ばそうとしたその時、ギルドの奥から何やら偉そうな格好の男が出てきた。
「なんだね、騒々しい」
「くっ、遅かったか……」
「おお、君かね。あの英雄ガラルドの弟子だというのは!」
その言葉に、ギルド内が騒めく。
(ガラルドさんの弟子だってよ……)
(カティアだけじゃなかったのか……)
(嘘だろ。あんな奴見たことねえ)
誰だこのおっさん。なんで俺の事知ってるんだ? ……とりあえず、とぼけよう。
「おいおい、おっさん。昨日の酒が抜けてないんじゃないか? 馬鹿を言っちゃいけない……俺には何言ってるか、さっぱりなんだが」
俺がそう言った瞬間、ギルド内に嘲笑の渦が巻き起こる。
「なんだよ、副支部長の妄言か」
「いつもいつも、いい加減にしろよ!」
「けっ……」
偉そうな男の顔が真っ赤に染まる。
「なっ!? コイツ、こちらが下手に出れば……まあいい、とりあえずついて来いッ!」
「え、嫌ですけど」
「なにぃ!? 貴様、私を誰だと思っているッ!!」
「……酔っ払いのおっさんかな? 顔も真っ赤だしな」
再び、ギルド内が笑いに包まれる。
「ブハハハハッ!」
「いいぞ兄ちゃん、もっとやれぇ!!」
「ゲラゲラゲラ!」
「グ…グギギギ……」
おお、怒ってる怒ってる。俺は、相手の態度などには、相手と同じように返すように心がけている。例えば相手が丁寧なら、こちらも丁寧に接するし、相手が失礼ならこちらも失礼な態度で接する。
俺はこのおっさんから、何か胡散臭いというか、ウザいというか、何か関わりたくないようなものを感じ取っていた。実際、カマをかけるようにとぼけてみたら、周りの野次馬の嘲笑も合わさって、化けの皮が剥がれてきたように見える。
まあ、周りの反応から察するに、碌な奴じゃないことは確かそうだ。
「私は、副支部長のパンテン・ルーンベルトだ! いいから支部長室に来い!!」
「支部長室? なんだ、副支部長室は無いのかよ?」
「貴様ぁ!! いいから来いッ!」
「はいはい、声のデカいおっさんだなぁ。もしかして難聴なのか?」
「いいから来いッ!」
とりあえず、面倒臭いから着いてってやるか。
* * *
「お前がガラルド・ラヴェインの弟子というのは本当か!?」
「さあ、なんの事ですかね?」
「とぼけるなッ! 話は聞いているんだぞ!」
「人違いだろ。俺はほら、この通りFランクだし」
人の口に戸は立てられないとはよく言ったものだ。どこかから俺の情報が漏れたようだ。
しばらく、違う違わないの問答を繰り返すと、諦めて次の話題へと移った。……勝ったな。
「では昨日、中央地区でスカドール家の者が不当な暴行を受けた事件があったのだが、何か知っているかね?」
「はぁ、なんのことやら」
あれは、通りかかった旅人が起こした事件だ。俺じゃない(事になっている)。
その後、おっさんが色々と鎌をかけようとしているのが分かったが、下手すぎてバレバレだった。もちろん、相手にこちらの情報を与えぬよう、逆にこちらが情報を得られるように会話を進めて、部屋から出た。
話の内容から推察するに、副支部長は支部長不在をいいことに、色々と裏で何かやっているみたいだ。どうも外部に協力者の様なものがいるらしいこと位しか分からなかったが、俺がどうこうする話では無さそうだ。
「ね、ねえ……」
「ん? なんだ、まだ用か?」
支部長室を出るとすぐに、フェイとか言う受付嬢が話しかけてきた。
「なんの話をしていたの?」
「お前には関係ないだろ?」
「うっ、それは……」
「じゃあな」
「待って! 最後にこれだけは答えて!!」
「……何だよ?」
「貴方は……本当にガラルドさんの弟子なの?」
さて、どうするか。恐らくさっきの野次馬の反応を見るに、俺が自分で「俺はガラルドの弟子だ」って言っても多分誰も信じないだろう。別にこの女に、真実を話しても問題ないだろう。
コイツが他の奴に話したところで、“ヒス女”から“妄想癖を抱えた女”にクラスチェンジするだけだ。
「……ああ。だが、周りには知られたくない」
「……そう、分かったわ」
そう言うと、フェイは去って行く。何だったんだ?
* * *
-数分後
@ギルド ロビー
「お、ヴィクター。大丈夫だったか!?」
「ヴィクターさん!」
「二人とも、ただいま。今まで何やってたんだ?」
「いや、誰かとパーティー組んで依頼を受けようと思ったんだが、マッチングしなくてな」
「今日は、内職ですかね?」
「お前ら二人で行けばいいんじゃないか?」
「俺達スカウトは、矢面に立つ事は向いてないんだ。そりゃ、必要があればやるけどな?」
「確かに、自分の得意分野で戦う方が、生存率が上がりそうだな」
「そんな訳で今日は俺たち、宿屋で罠とか爆弾を造って売る事になるかな」
「昨日、材料は調達しましたしね……」
なんか、しれっと恐ろしい事してるんだな……。宿屋で爆弾とか、崩壊前だとテロ準備の容疑で即刻捕縛されるぞ。ってか、暴発したら宿屋大変だろ!?
「あ、そうだ! よかったら、俺と依頼を受けないか?」
「ヴィクターとか……。まあ、アンタがいいなら俺も大丈夫だ。ミシェルはどうだ?」
「僕も大丈夫です!」
「よし、じゃあ今日は俺たちのチームとヴィクターでパーティーを組んで、依頼を受けよう。」
「ん? そういえば、“チーム”と“パーティー”は違うのか?」
「ああ。違いを説明すると、チームは固定メンバーだな。いつも同じ
「僕たちは、クエントさんと二人でチームを組んでます。大抵、師弟関係の方はチームの場合が多いですね」
「……なんか、超えられない壁を感じるな」
「そりゃ、信用第一だからな」
二人との間に、超えられない壁があることを感じながら、依頼を受けにカウンターに向かう。依頼は、パーティーの戦力から考えて、受付嬢が提示したものを選ぶシステムのようだ。
てっきり「ギルド 依頼」と聞いて、掲示板に貼られた依頼を剥がして受けるものをイメージしていたが、違ったようだ。
さらに驚いたことに、これらの管理にはパソコンを使っているようだ。どうやら崩壊後の技術の水準には、色々とバラツキがあるようだ。
「そういえばクエント、お前俺がガラルドの弟子って知ってたのか?」
「ああ。昨日再会する前に、警備隊のダチとか、警備隊長がドヤ顔で話してたぞ?」
「あいつ等ぁ、何が『他言無用だ! いいな!?』『了解ですッ!!』だよォ! 全然守れてねぇじゃねえかッ!!」
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