第35話 穴熊

-1時間後

@カナルティアの街 マーケット


「ほえ~、色んな店があるんだなぁ」

「ハハハ。おいヴィクター、あんまりキョロキョロしてるとバカにされるぞ」

「どうせ俺は田舎者だよ!」


 マーケットは様々な屋台や店が立ち並んでいた。野菜、果物、パン、よく分からない焼肉の串などの食料や、惣菜などが売られている。だが、クエントとミシェルの目的は食料ではない。

 俺は、立ち並ぶ屋台を眺めつつ、目に入る看板などから物価を把握していく。


(食パンが1斤500Ⓜか……って、さっきの店超高かったんじゃねッ!? まあ、美味かったけどさ。ミシェル……実は腹黒い奴なのか?)

「どうかしましたか、ヴィクターさん?」

「……何でもないよ」


 クエントが足を止める。目的の露店についたようだ。……ネジやら、機械の残骸などのガラクタが店頭に並んでいるが、商品なのか?


「なんだここは、廃品屋か?」

「まあ、そんなとこだな」

「廃品なんて何に使うんだ?」

「色々さ。俺達スカウトは罠や工作が役割だからな、色々と入用いりようなのさ」

「なるほどね」

「クエントさんは、凄いんですよ! この前も、念の為にキャンプの周りに仕掛けたトラップで、ミュータントを撃退したんですから!」

「ヤメロ! そんなに褒めても、お前の銃の代金は出ないぞ!」

「う……そんなつもりじゃ」

「まあ、スカウトは需要が高い割に、不人気なポジションだからな」

「そうなのか?」

「ああ、それで高ランクのパーティーに入り易くて、俺はそのおこぼれを貰ってるだけに過ぎない」

「……でも、罠とかの代金を出してくれる方は少なくて、毎回カツカツですけどね」

「そうなんだよ、地雷とか爆薬はタダじゃ無いんだぞ! 必要経費だってのに、皆1Ⓜ︎も出そうともしないんだからな!」

「た、大変なんだな……」


 それはクエントが舐められているだけだと思うが、話がややこしくなりそうなので、やめておくとしよう。

 それにしても、ポジションにも人気不人気があるのか……。勉強になるな。


「そういえば、ヴィクターも登録したんだってな? ランクはやっぱり、いきなしBとかだったりするのか?」

「……いや、Fだ」

「え、ええええふぅ!? おいミシェル、一緒にいたんだろ!? ちゃんと説明してやったのかッ!?」

「し、しましたよぉ!! でも、ヴィクターさんが免除申請はしないって……」

「何!? どういう事だ、ヴィクター!?」

「うるさぁい! 店先で騒ぐなぁ!!」

「「「 あ、ゴメンなさい!!(なんで僕まで……) 」」」


 よくやった、廃品屋のおっちゃん!! おかげで、深掘りされずに済んだ。

 おっちゃんに謝り、商品を物色する。


「今回は、掘り出し物は無さそうだな……」

「掘り出し物?」

「たまに、崩壊前の遺物が並んでることがあるんだ。ま、使えないんだけどな!」

「ダメじゃん……」

「いや、修理できるかも? ってのが良いんだよ!!」

「……そのせいでこの前、全財産ガラクタにつぎ込みましたよね?」

「あ、あはは……いやぁ~照れるねぇ!」

「少しは反省してくださいよ!!」

「お、これは買いだな!」

「……もうヤダ」


 クエントは、買ったガラクタを大きな麻袋に詰めると、袋の口を縛り、肩に担いだ。


「じゃあ、次は武器屋だな」

「ええ、ボリスさんの所ですか?」

「ああ、じゃあマーケットから出よう」

「ん? マーケット内の店じゃないのか?」


 先ほども道すがら、武器を売ってる露店を見かけていたのだ。


「ん? ああ、ここのはダメだ。粗悪品しか無い」

「大抵、マーケットで売られているのは中古品とか粗悪品が多いんですよ」

「なるほど、そんな物は使えないと」

「そういう事だ。新品とか、良い物が欲しけりゃ、ギルドの系列店とか、街中の店に行かなきゃ置いてない」

「これから行く武器屋も、ギルドの系列店なんですよ」

「ほう、それは楽しみだな」


 武器屋……男心をくすぐる、耽美な響き。凄く楽しみだ!



 * * *



-数十分後

@カナルティア南部地区 BAR.アナグマ


「……」

「着いたぞ。何してんだヴィクター、早く着いてこいよ」

「って、バーじゃねぇかよ!! 看板におもっきし『BAR』って書いてあるだろ! 武器屋って言ったのは、俺の聞き間違いか!?」

「いや、あ〜すまん。説明が足らなかったな、まあ中に入れば分かる」

「ただいま閉店中、って看板が出てるが……」

「いいからいいから」


促されるまま中に入ると、正真正銘ただのバーだった。窓のない少し薄暗い店内には、カウンターと奥にアンティーク調のテーブルとスツールが置かれているのみの、シンプルな内装だった。


「……いらっしゃい」

「なあクエント、やっぱり俺にはバーに見えるんだが?」

「まあまあ。ボリスさん、お久しぶりです」

「……ああ」

「『戦士の火薬庫』を一つ」

「クエント、なんだそれ? カクテルか何かか?」


 クエントの注文に、カウンターの奥でグラスを磨いていたバーテンダーの男が、その手を止めてこちらに近づいてくる。

 ボリスと呼ばれたバーテンダーの男は、スキンヘッドで、右目部分にある傷跡を隠すようにサングラスをかけた、2m近くの厳つい大男だった。服の上からでも、その身体の筋肉が浮き上がるように見える。恐らく、相当鍛えている筈だ。

 ボリスは店の入り口に鍵をかけると、カウンターの奥の酒が並ぶ棚の前で手招きする。そして、棚の手摺り部分を掴むと、そのままドアを開けるように手前に引く。


「こいつは、隠し扉か!?」

「ああ、ボリスさんの趣味だ」

「……いや、防犯目的だ」

「かっこいいですよね!」

「本来なら、この店はCランクのレンジャーにならないと教えてもらえないんだ」

「俺とか、ミシェルはいいのか?」

「ああ、合言葉を知ってるレンジャーの同伴なら大丈夫だ。今回、助けてもらったからな」

「……中へ入りな」


 隠し部屋に入ると、壁一面に武器が並べられ、中央の大きなテーブルの上には整然と銃が並んでいた。まるで、映画の世界だ……。

 また、部屋の奥には作業台らしき物や工具が見える。メンテナンスでもしてくれるのだろうか。


「お、これ新しく入荷したんだな。……でもやっぱ買えねえな」

「うわ~、どうしようかな……」


 二人は武器を見るのに夢中らしい。


「……その銃、6.8mmだな? 遺物か?」

「うわぁ、脅かすなよ!」

「……すまんな」

「いや、急に背後から出てきたから驚いただけだ。それよりあんた、この銃の事分かるのか?」


 俺は、担いでいたアサルトライフルを指す。


「……ああ、崩壊前の銃だな。使ってる奴は初めて見たがな」

「そうなんだよ。でも、ボロボロだから俺も新しいのが欲しくてねぇ」

「……確かにはそう見えるな。だがは違うはずだ」

「なっ……あんた、何者だ!?」


 コイツ、俺の銃がボロボロに見えてるだけって事を見抜きやがったッ!


「……そう警戒するな。気になっただけだ。すまん、話したくないならそれで良い」

「あ、ああ……いや、こっちこそスマン」


 どうやら反射的に、腰の拳銃に手を伸ばしていたようだ。


「確かに、これは遺物だ」

「……やはり」

「だが、ばれたくない。そこで、ウェザリングを施してカモフラージュしてるって訳だ」

「……なるほど、見事な腕前だな。俺は武器が好きでな、ちょっと見せてくれないか?」

「ああ、別にいいぞ」


 ボリスに担いでる銃を渡すと、興味津々に隅から隅まで凝視している……ように見える。


「ボリスさ~ん、ちょっといいですか~!!」

「……今行く。返す。良い出来だった、ありがとう」

「お、おう」


 ボリスはミシェルの元へと歩いていく。

 武器好きなおっさん……ってことでいいのかな? まあ、敵対はしなさそうだし、大丈夫かな。


「しっかし、俺の完璧なウェザリングを見破る奴がいるとは……」


 やはり、分かる奴には分かるのか。だが、褒められて悪い気はしない。



  *

  *

  *



「あ~、またお金貯めないと……」

「おい、ヴィクターはいいのかよ? お前の銃ボロボロだっただろ?」

「いや、これには愛着があってな」

「でも、そんなんだといつ暴発するか……怖くて見てられませんよ!!」

(いや、君たちの武器の方が、見てて怖いよ!? よくそんなのに命を預けられるね?)

「……見た目の割には、よく手入れされてる。大丈夫だろう」


 お、何かボリスが援護してくれたぞ。


「……ボリスさんがそう言うなら」

「そうだな、物には相性ってものがあるしな。ボリスさんが大丈夫って言うなら大丈夫なんだろ」

「……随分と信頼されてんだな、アンタ」

「……」

「いや、なんか言えよ!」


 照れてるのか?なんか無口で、表情が読みづらいんだよなコイツ。


「お、もうこんな時間か。ボリスさん、もう注文とかできます?」

「……ああ、コッチは店じまいだ」

「注文?」

「ああ、アーマードホーンから助けてもらったお礼に奢るって言ったろ?」

「え……この店、普通にバーとして営業してんのかよ!?」

「そうだぞ。昼間は武器屋、夕方からはバーだ。だから、さっき閉店中でも店のカギは開いてただろ?」

「……ここ、ギルドの系列とか言ってなかったか? こんな分かり辛くていいのかよ?」

「……支部長の趣味だ。ギルドの予算で酒を買いたいらしくてな」

「ソウデスカ」


 支部長、何者だ? こんな店にして、明らかに職権乱用だろ……。


「支部長か……あの人がいなくなってからは、厄介事続きだなぁ」

「そうですね……」

「そういえば、さっきヒス女がそんなことを話してたな」

「ヒス女? 誰だそりゃ?」

「クエントさん。フェイさんの事です……」

「うっわ、ヒデェ渾名あだなだな……何があったんだよ?」

「ガラルドさんの件を話したら、ちょっと……」

「ああ、その件か。俺がギルドについた時は、その話でもちきりでよぉ」

「……ガラルドさんがどうかしたのか?」


 ぬうっと、ボリスがカウンターの奥から身を乗り出す。

 クエントと俺でガラルドの話をしたとたんに、ボリスは手に持ったグラスを落とし、ガシャンとグラスの割れる音が店内に反響する。そして、話を聞き終わると無言でカウンターの奥へ行き、酒棚から瓶を1本持ってくる。

 俺は、その瓶に見覚えがあった。ガラルドと飲んだことのある、香草入りの蒸留酒だ。


「……ガラルドさんに取っておいた奴だ。アンタはもう一人と違って、酒が強そうだ。これはアンタにやる」

「そうか、この酒ここのやつだったのか。ガラルドも、この酒の事は褒めてたぞ」

「……少し席を外す」


 ボリスは俺に酒瓶を渡すと、店の奥へと消えていった。アイツ、ガラルドと仲が良かったのかな? まあ、この店の酒を持っていたんだし、常連だったのかもしれないな。


「……じゃあ、これ飲むか?」

「いいのかヴィクター?」

「ま、ボリスが帰ってくるまで飲んでようぜ」

「ミシェル……はまだ早いな。」

「そうですね。興味はあるんですけど、まだ早いと思います。今回は遠慮しておきますね」


 クエント達と飲んで暫くすると、ボリスが帰って来た。その後、彼に料理を注文して、皆で腹を満たした。

 店を出て二人と別れると、紹介してもらった宿に泊まる。1泊2,000Ⓜ……昼飯だけで、3泊できる。ミシェルはやはり腹黒なのか?





□◆ Tips ◆□

【レンジャーズギルド系列店】

 レンジャーズギルド製の武器を扱っている店。レンジャーズギルド製の武器は、崩壊後の世界では品質が高く、高価な物が多い。基本的に、高クラスのレンジャーにしか店の場所は教えて貰えない。これは、ギルド製武器の盗難防止や、低クラスのレンジャーが武器を眺めたところで買えないので意味が無く、買いに来た高クラスレンジャーの邪魔になるという考えに基づく。

 ギルド製の武器でも、構造が簡単な物は民間でもコピー品が作られているが、部品精度が粗悪な為に品質が良くない。

 別にレンジャーズギルド製の武器だけを扱っている訳ではなく、店主の仕入れた武器(主に新品かつ、品質の良い物)が置いてあることがある。

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