第25話 出発前夜

-3日後

@ノア6 武器庫


「よし、これにするか。」

「Ⅱ型ですか……。私はⅢ型の方がよろしいと思いますが」

「別に戦争しに行くわけじゃないからな、これで充分だと思うぞ? それに、Ⅲ型だと見た目が悪い。上に何も羽織れないからな」

「……確かに、仰る通りかもしれないですね」


 俺たちは、明日の旅立ちに向けて装備の選択と調整をしており、今は俺の【強化服】を選んでいるところだ。強化服とは、着用者の筋力を高めたり、防弾やNBC防護、光学迷彩などの機能がある、ピッチリした外観の装備だ。


 この強化服なのだが、作戦に応じて色々なタイプがあるので、どれを装備するか選んでいた。

 今、ロゼッタと話をしていたのはⅡ型か、Ⅲ型のどちらを選ぶかなのだが、Ⅲ型は防御を優先している為に少々ゴツい外観をしている。ロゼッタは俺の安全を重視したいのだろうが、俺はこれから崩壊後の人間の中に混じって生活するであろう関係上、これだと目立ってしまう。

 一方のⅡ型は、身体のラインに沿ったピッチリした外観で、上から服を羽織っても不自然に感じない。また、必要な機能も確保できるのでⅡ型にしたいところなのだが……。


「……でも、やはり何かあっては、と思うと心配です」

「いや、大丈夫だって! 俺も結構強くなったし!」

「ですが……」

「……あっ、そうだ!」


 俺は、崩壊後の人間……ガラルドの姿を思い出す。彼は関節部にプロテクター、肩には俗に言うビスが飛び出た肩パッドを装備していた。

 ロゼッタの推すⅢ型を見る。主要部はリキッドアーマーで覆われ、胸部や関節部は耐衝撃防弾プロテクターで覆われている。

 そう、


 ──これだッ!!


「ロゼッタ、ちょっと見てろ」

「はい……?」


 俺は、Ⅱ型を着るとその上から都市迷彩柄のカーゴパンツと長袖のTシャツを着る。更にその上からタクティカルベスト、肩や膝、肘の関節部にプロテクターを着用する。


「……これでどうよ?」

「はい! これでしたら、問題無いです」

「えぇ、いいのかよっ!?」

「はい」

「なんかこの、肩のプロテクターって邪魔なんだよなぁ」

「ヴィクター様、それが一番重要なのです! 絶対に外さないで下さいッ!!」

「えっ……?」


 ロゼッタ曰く、上腕部……特に三角筋部に装着するプロテクターには、肩や腋から侵入した弾丸が、肺や心臓といった急所を傷つけるのを防ぐ役割があるらしい。……知らなかった。決して、ファッションじゃ無かったんだな……。



 その後、必要なものを車に積み込む。

 この車……元はガラルドの物だが、大規模に改造させてもらった。エンジンはディーゼルハイブリッドの、より高出力・低燃費な物に変え、ロールバーフレームの吹きっさらしだったボディーには、取り外し可能な防弾製のドアとルーフを取り付け、フロントガラスを防弾ガラスで作り、冷暖房を完備した。

 見た目は元の車に近づけたつもりだが、殆どを新しく作り直したので、もはや別の車へと変貌を遂げてしまったが、これくらいならやってもいいだろう。

 俺の基本方針は『自重』だ。ノア6から崩壊前の遺物や、テクノロジーなどはなるべく表に出さないようにする。この時代にどんな影響を与えるか分からないからな。今回は、俺の身を守る最低限の物を持ち出す。持ち出す武器も、アサルトライフルはウェザリングでボロボロに見せているし、問題は無いだろう。


「……もう昼か。意外と早く終わったな。今日はどうするかな」

「とりあえず、お昼にいたしますか?」

「そうだな」



 * * *



-数分後

@ヴィクターの部屋


 今日のロゼッタは、スーツとタイトスカート、ハイヒール、伊達メガネの秘書風スタイルだ。初期化騒動前は、毎日俺がロゼッタが着る服を選んでいたのだが、騒動以降は自分で着る服を選んでいる。なんでも、自分で色々とやってみたいそうだ。今まで我慢していたタガが外れた感じか?


「その服、似合ってるぞ」

「ありがとうございます。以前見た映画で、この格好をした女優をヴィクター様が凝視してましたので、真似てみました」

「あ、ソウナノ。ベンキョウネッシンデスね……」


 今後、ロゼッタの前では視線に気を付けなければ。やっぱ無理かも……。


「あの、ヴィクター様が留守の間、施設を使ってもよろしいですか? もちろん、ヴィクター様のサポートもきちんと遂行致しますので」

「ん? ああ、暇になりそうだしな。大丈夫だぞ」

「ありがとうございます。映画をもっと見てみたいと思っていたのです。ヴィクター様も映画好きですから、一緒にお話しできるようになりたいです」


 あれだな。ロゼッタは男に合わせるタイプなのか? 可愛いやつだな。


「ああ、期待してるよ」

「はい!」

「じゃあ、飯も食った事だし……」

「?」

「午後からは、旅立ち前だしベッドインしようか!」

「……あの、大変恐縮なのですが」

「ん?」

「ヴィクター様は激しすぎます。正直、毎日お相手すると……その……」

「え……」

「最近はヒリヒリして……せっかく頂いたお身体ですので、私としては大事にしていきたいと──」

「ゴメンッ! ごめんよォ、ロゼッタぁ!!」


 その日は明日に備え、装備の整備や最終チェック、身体のストレッチやマッサージを行い早めに就寝した。





□◆ Tips ◆□

【強化服】

 着用者の戦闘力向上を目的に開発された、戦闘用スーツ。特殊部隊や、前線の兵士向けに開発され、様々な型が存在している。基本はツーピースタイプの装備で、身体にピッチリとフィットするデザインをしている。

 特殊繊維と人工筋肉繊維により、耐熱、耐水、耐衝撃、体温調製機能、パワーアシスト機能、防弾性能を獲得し、薄くてもライフル弾程度なら防ぐことができる。ただし、薄手の物は、被弾時の衝撃が緩和しきれず、そのまま着用者に伝わってしまうため、注意が必要。

 電力は表面電位、体温、光、特殊繊維の伸縮などから得ている。


Ⅰ型……一般の兵士向けに開発された強化服。機能は限定的で、外観はピッチリした半袖Tシャツと、レギンス。小規模なパワーアシスト機能が付属しているが、機能は上腿と体幹部に限定されている。光学迷彩は搭載していない。


Ⅱ型……特殊部隊向けに開発された強化服。主要部をリキッドアーマーで保護し、光学迷彩と、小規模なパワーアシスト機能が付属しており、着用者の身体能力をある程度向上させる効果がある。強化服の中では薄手の為、これらの機能は厚手の物に劣るが、戦闘に必要な機能は一通り揃っている。光学迷彩は、専用のバッテリーパックが存在し、機能の持続時間は約3時間とされる。


Ⅲ型……突入部隊や、爆発物処理班向けに開発された強化服。防御力を優先した設計で、厚手の特殊繊維で織られ、その上からリキッドアーマーや装甲版で全身を保護している。専用のヘルメットと、ガスタンクを装備することでNBC環境下での活動が可能。背中に、ガスタンクや分隊支援火器用の弾薬箱のマウントがある。

 耐爆性、耐熱性、耐弾性が高く、重機関銃弾の直撃もある程度は防ぐことができる。パワーアシスト機能により、重装備での行動を補助している。光学迷彩は非搭載。ほとんどパワードスーツの様な物。



【ギルド製四輪駆動車・改】

 元ガラルドの車と称する事実上の新車。ヴィクターが、カスタムカーの雑誌を片手に3か月の間、コツコツと作り上げたもの。ヴィクター曰く“外観は元の車に似せてはいるつもり”だがもはや別物。防弾製のドアと、ルーフを取り付け、冷暖房を完備した。

 崩壊前の軍用4輪駆動車用のエンジンの予備を流用し、その他のパーツも流用している。崩壊前の車を使用した方が早いのだが、ヴィクターのポリシーである「ノア6からはなるべく持ち出さない」に従うべく、あくまで元ガラルドの車のカスタムとしている。

 ルーフやドアを取り外し、フロントウインドウを前に倒す事で、オープンカー状態にすることができる。


[モデル]ジープ・ラングラーJL SPORT

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