第26話 再びの世紀末

-翌日

@ノア6 正面出入り口


 内側の密封ドアが閉まり、外への気密ドアと何重もの耐爆ドアが開けられ、外の光が差し込んで来る。

 俺は、新たに用意した車のエンジンを起動すると、外へと前進させる。


《そういえば、3か月前にノア6に乗ってこられた車は、出力が弱かったですね》

《ああ、崩壊後は技術力が低下してるらしいからな。性能の良いエンジンは造れないらしいぞ》

《ですが、新しく作られたその車でしたら問題ないでしょう。疑問なのですが、1からお造りになるよりも、兵器庫にあった車をお使いになればよろしかったのでは?》

《……ロゼッタ、いいか。これは作ったんじゃない。前の車をカスタムしたんだ、外観だって前のとそっくりだろ?》

《えっと、どの辺りがでしょうか?》

《……全部、かな?》

《……申し訳ございません。私、デザインや芸術には疎くて》

《……そ、そうか。とりあえず、これは部品とかパーツは全部新しくしたけど、カスタムなんだ! これは作ったって言わない。だからノア6からは、何も持ち出したことにならないんだ!》


(……カスタムって何なんでしょうか?)


《それじゃ、行ってくる》

《無事をお祈りしています。お気をつけて》


──ブロロロロ……


 外に出るのも久しぶりだ。外はまだ肌寒いが、雪は残っていない。外は、緑が芽を出し、春を迎えようとしていた。

 俺は今、死都……旧カナルティア市街地に向けて車で走っている。最初の目的地は、ガラルドの秘密基地だ。ガラルドに挨拶と、置いていた荷物を回収する必要がある。



 * * *



-数時間後

@死都 ベースキャンプ


 道中、警戒しながら進んでいたがミュータントや野盗の襲撃無く、無事に秘密基地へと辿り着くことができた。

 車を降り、ガラルドの墓へ向かう。


「ようガラルド、帰ってきたぞ」


 ノア6の付近に生えていた花を適当に摘んできていたので、それらをガラルドの遺骨が入った箱に置く。


「こんなもんかな。テキトーだな!って笑われそうだが、俺にそんなセンスは無い。悪いが諦めてくれな」


 ガラルドに挨拶を済ませると、放置していた荷台を車に連結する。そして、地下駐車場の管理人室にあったドッグタグの入った箱を回収し、秘密基地を後にする。


 1時間ほど走ると、市街地を抜けて平野が広がってくる。崩壊前は世界的に環境保護が進められ、都市部と自然部が分けられて、人口の多くは都市部に集中していた。俺が知る旧カナルティア周辺は、郊外にショッピングモールとニュータウンなどが存在していた他は、のどかな平原が広がっており、場所によっては地平線を臨むことができた。

 だが、昔と違う点がある。


「……あれが街、なのか?」


 車を停めて、平原の奥……ちょうどショッピングモールとニュータウンがあった方角を双眼鏡で覗くと、コンクリートの壁の様なものが広がっていた。


《ロゼッタ、街の方向はこっちで大丈夫そうか?》

《はい。衛星で確認したところ、その方角に人工物が多数確認できます》

《わかった》


 一応、ロゼッタに確認したが、やはりあの壁の向こうが『カナルティアの街』なのだろう。


《ヴィクター様!》

《どうした?》

《2時の方角、約2km先にサイ?のような生物を発見しました。複数の人間と戦っているようですが……》

《わかった、ありがとう》


 あれか、確かアーマードホーンって奴だ。

 双眼鏡を覗くと、確かにサイの様な生物と、横転したトラックの傍で6人程の集団が対峙しているように見える。


「……あっ」


 アーマードホーンが突進し、人らしき影が空中を舞う。


「何やってんだよ、アイツら」


 恐らく戦っているのだろうが、苦戦しているようだ。対峙していた集団はしばらくすると、散り散りに逃げだしていく。

 さて、どうするか。俺には今、2つの選択肢がある。連中を助けるか、見捨てるかだ。


 助けに入った場合、俺も無事かはわからない。一度倒したことはあるが、あれは廃墟の中での話だ。遮蔽物の無い平野で、勝てるかは分からない。

 見捨てた場合、連中が全員くたばった後、アーマードホーンがこちらに突っ込んでくるかもしれない。丁度、俺の進行方向付近にいるので、その可能性は高い。


「……どちらにせよ、あのサイをどうにかしなきゃならねえな」



 * * *



-同時刻

@カナルティアの街近郊 平野


──ダダダダダダッ!


「ひぃぃぃ! 来るな、来るなよぉ!! わぁぁぁぁあッ!! グボぉはぁ……!?」


 恐怖に駆られて銃を乱射した男が、アーマードホーンに突き上げられ、鮮血をまき散らしながら空に舞う。そんな光景に、僕の脚は言うことを聞かなくなり、その場に立ち尽くしてしまう。


「だめだぁ! 逃げろォ!!」

「うわぁぁッ!!」

「死にたくないッ!!」

「ヒぃぃぃぃ!!」

「おい待て! 急に動くんじゃないッ!!」


 このパーティーのリーダーである、クエントさんの警告を無視して皆は散り散りに逃げだした。

 アーマードホーンは、逃げだした人を追いかけ、一人、また一人とその命を奪っていく。


「クソっ! ……ミシェル、いいか。倒れたトラックの荷台に隠れるぞ。ついてこい、静かにな!」

「は、はい……」


 クエントさんについて行こうとするが、脚が動かない。


「あ、あれ……脚が、うごかない!」

「ミシェル! 何やってんだ、早くこっちに来いッ!!」

「は、はい……。動け、動いてよォ、このままじゃ死んじゃうよ!!」


 脚を叩くが動かない。何とか脚を前に出そうとしても、もつれて転びそうになる。あれ、歩くってどうやるんだっけ?


「ゴボォヴァァッ!!」


 アーマードホーンは逃げ出した最後の一人を突き飛ばし、くるりと向きを変えると、僕と目が合ってしまった。


「ヒィッ!!」


 僕は腰を抜かしてしまい、その場にへたり込んでしまう。一方のアーマードホーンは、前脚で地面を摺ると、こちらに走り出した。


「あ、あぁ……」

「ミシェルっ!! くそ……」


 僕にその角が迫り来るその時、急に風を切る音がしたかと思うと地面に黒い棒が生えた。突然目の前に生まれた突起物に驚いたアーマードホーンは、脚を停め急ブレーキをかける。


「……これは、棒……いや槍!? 一体どこから?」


 周囲を確認しようとすると、真横のほうから銃声が聞こえる。


──ダダダンッ! ダダダンッ!


「ブモっ!?」


 どうやら、弾がアーマードホーンの頭に当たったらしく、怯み出した。

 銃声のする方へ眼を向けると、100m位先に車から銃を構えている人が見えた。


「クソ、やっぱり効かねぇか……」

「ブモォォォッ!!」

「お怒りだな……。付いてこい! このデカブツ!」


 どうやら怒ったらしいアーマードホーンが、その車に向けて走り出す。と、同時に車も走り出して行く。


「おいミシェル! 大丈夫か!?」

「……は、はい」


 クエントさんが、僕の元に駆け寄ってくる。


「助かったな。ほら、手ぇ貸すぜ」

「あ、ありがとうございます……」

「よっと」


 クエントさんに引き上げられた後、肩を支えてもらいながら倒れたトラックの傍まで歩く。


「しかし、物好きな奴もいたもんだな……。自分を犠牲に、見ず知らずの他人を助けるとはな」

「犠牲……? 犠牲って、どういうことですかッ!?」

「見てなかったのか? お前を助けた奴の車、トレーラーを牽引してたろ。いくら平地だとしても、不整地でトレーラーを牽引してたら速度はでない。多分、アーマードホーンに追いつかれて死ぬぜ、アイツ」

「そ、そんな……」

「ほれ、見てみ。もうじき追いつかれるぜ……。ありゃ?」

「……引き離してませんか、あれ。」


 先ほどの車を見ると、アーマードホーンを引き離しながら、草原を爆走していた。


「まあ、なんだ……。今の内に、荷台に隠れよう。うん? ミシェル、腰のあたり濡れてるぞ」

「ッ! さ、触らないで下さいっ!!」

「ああ、悪い悪い。怖かったもんな、しょうがない。うん」

「ち、ちがいます! こ、これはその……みずたまり。そう、転んだ所に水たまりがあって!!」

「うんうん。分かってる分かってる」

「絶対、信じてないですよねっ!? 僕は、漏らして無いです!!」

「ん? 俺、そんな事一言も言ってないぞ?」

「……クエントさんの意地悪」

「はは、拗ねるなよ。それより、脚動かせるようになったな!」

「……あれ、ホントだ」


 気が付くと、脚が言うことを聞くようになっている。


「じゃあ、早いとこ……」


──ドォォン!!


「おいおい、今度は何だッ!?」

「わぁッ! ……あ、また」

「またチビッたのか?」

「ち、違います!!」


 突然車が爆走してた方角から、爆音が聞こえてきた。

 二人でそちらを確認すると、僕たちを襲ったアーマードホーンがその動きを止めていて、その傍らには爆走していた車が停まっていた……。

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