第12話 今夜は焼肉だ!
「何だったんだアイツは……」
「アイツは【デュラハン】ってミュータントだ。中々しぶとい奴でな、相手にしない方がいい。どうしても戦うときは注意しな」
俺たちは、車であの場から逃れると、獲物を奪ったミュータントについて話していた。
「それにしても、なんであんなとこにデュラハンが……。ここは奴の縄張りじゃない筈なんだがな」
「鹿、奪われちまったな」
「まあ、2頭確保できたじゃないか。諦めよう。デュラハンから逃げられるなら、鹿の1頭位安いもんさ」
「なあ、アイツって元は何だったんだ?」
「ん? ミュータントになる前の動物ってことか?」
「ああ」
「んなモン知るかよ、俺は学者じゃねぇぞ。気になるなら、ギルドにでも聞いてみな」
「……そうする」
「それより、獲物を解体するときは気をつけろよ! 血の匂いにつられて、ああいうミュータントが集まってくるからな。獲物が獲れたからって、絶対に油断するなよ!」
「ああ、肝に銘じるよ」
「それにしても、今日はよく逃げる日だなぁ!2度あることは3度あるって言うしな。また何かあるかもな!」
「おい、変なこと言うなよ!!」
「ガハハハ!!」
* * *
-数十分後
@地下駐車場
道中、ガラルドからの話を聴きながら、地下駐車場へと帰還する。結局、無事に帰ることができた。
荷台から獲ってきた鹿を降ろすと、ガラルドは鹿の解体を始めた。俺は、ガラルドの隣でもう一頭の鹿を、見よう見まねで、ガラルドの指導を受けつつ解体する。ガラルドは皮を綺麗に剥ぎ、内臓を取り出し、鹿が肉へと変わっていく。
ちなみに俺の解体はガラルド曰く、「まだまだだが初めてにしちゃ上手くできてる」そうだ。大学で解剖の経験がある為に、抵抗感が少なかったのが幸いしたのだろうか。
その後、水が張られた桶で鹿の皮を洗う。皮は腐敗を防ぐ為に、干したり、塩漬けにして街の皮革加工業者に売るらしい。
そんなこんなで加工に長い時間を費やした後、今度は調理に取り掛かった。
「今日は大量だからな、御馳走だぞぉ!」
そう言うと、ガラルドはドラム缶を改造したバーベキューセットの様な物で鹿肉を焼き出した。辺りに肉の焼けるいい匂いが充満する。
俺は、焚き火の上で蒸した芋を潰して、マッシュポテトを作る。
「そろそろいいだろ」
どうやら肉が焼き上がったらしい。皿に肉を乗せ、付け合わせのマッシュポテトを乗せる。ソースは、厨房にあったワインや、調味料から適当に作ったらしい。でもそれ、崩壊前の奴だよな。大丈夫なのか?酒や調味料なら使える……のか?
しかし、ガラルドがテーブルに置いた鹿のステーキを見ると、腹が音を立てて空腹を訴えてくる。鹿肉バーベキューステーキ……凄く美味そうだ。
「よし、食うぞ!」
「美味そうだな!」
俺達はテーブルに着くと、ガラルドが厨房から持って来たワインをマグカップに注ぐ。
ワイングラスで頂きたい所だが、無い物は仕方ない。
「よし、乾杯だ!」
「おう!」
「新しいレンジャーと、俺の弟子に乾杯!」
「えっ、いつ弟子になったんだよ! か、乾杯!」
「「 ……ブフゥーッ!! 」」
乾杯して、ワインを口に入れた瞬間、二人でワインを吐き出す。ワインは、古ければいいというものではないのだ。長期保存するには、色々と繊細な事が要求される。この厨房にあったというワインも、ワインセラーの電源が止まり、管理されずに200年以上経っている為か酷く劣化しており、とても飲めた物では無かった。
「マッズ、何だよコレ……」
「やっぱダメだったか。ガハハ」
「おい、分かってたならこんなの飲ますなよ!」
「コレでソース作ったからな、イケると思ったんだよ!」
「おい、それ大丈夫なのか?」
「まあまあ、食ってみなって」
ガラルドが、ニヤニヤしながら俺を見つめる。
恐る恐る、鹿肉ステーキを口に運ぶ。
「うっ……!」
「どうよ?」
「うまい! 鹿って美味いんだな!? 臭みもぜんぜん無いぞ!」
「肉もそうだが、俺はソースの話をしてるんだぜ?」
「ソースも美味い、とても劣化したワインから作ったとは思えねぇ!」
「ガハハ、そうだろ、そうだろう!」
「悔しいが、コイツは絶品だな……」
「まあまあ、さっきの詫びだ。コイツを飲みな」
そう言うと、ガラルドは酒瓶を取り出し、マグカップに注いで俺に渡した。
「こいつは街の酒場で買って来た奴だ、今度は大丈夫だからよ!」
差し出された酒は、透明で恐らく蒸留酒の類なのだろうか、酒精が強そうに見える。
意を決して、口に含むとアルコール独特の苦いような甘いような味と、何とも言えない香りが鼻腔をくすぐる。恐らく、果実や香草の類が漬け込まれていたのだろう。酒精は強いが、美味い酒だった。
「美味い!」
「だろ! ほら、もう一杯!」
結局、あの後ステーキを3枚平らげ、酒を飲みつつ、ガラルドの話を聞いて眠りについた。
(こんな日が来るなんて、昔なら思いもしなかったな。……でも、悪くないかもしれない)
俺の知っていた世界が突如無くなり、今後の身の振り方を考えてはいたが、結局答えは出なかった。
俺はこれから何のために生きていけばいいのか? 崩壊前の知識を持つ俺はこの崩壊後の世界に存在しても良いのか?
突然の出来事に、考えるよりも先に身体を動かして、ノア6を飛び出てしまった。そして、運よくガラルドに出会う事ができた。
今は、ガラルドと一緒なら、俺の悩みも忘れることができる……。俺は、そうして心の安らぎを得るのであった。
□◆ Tips ◆□
【デュラハン】
ヒト型のミュータント。名前は、シルエットが首なしの人間に見えることが由来。
生命力が非常に強く、四肢を爆弾で吹き飛ばしても数日で再生する。赤黒い体表と、人間の肩が肥大し頭が埋もれたようなずんぐりとした上半身が特徴。個体により爪が発達した個体や、体表が硬質の装甲で覆われた個体が確認されている。
身体的特徴から、首が回らない為に視野が狭いのが弱点。非常に攻撃的かつ食欲が旺盛で、視界内の生物を見境なく捕食しようと襲い掛かってくる。
危険度はA。
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