第13話 修行の成果
-3週間後
@死都 旧官公庁街
「来るぞ、気をつけろ!」
「了解だ、ガラルド!」
俺は今、ガラルドと共にレンジャーの修行と、素材集めを兼ねて、ミュータントを狩りに来ていた。
あの、鹿肉歓迎会の後、俺はガラルドの弟子となり、崩壊後の生き残り方を教わっていた。
因みに、余った鹿肉は燻製して、ジャーキーとして生まれ変わり携帯食料となっている。
今俺達は【アーマードホーン】と呼ばれる、サイが変異したと見られるミュータントと戦っていた。
アーマードホーンは、通常のサイより一回り大きく、全身が鎧の様な分厚い硬質の装甲で覆われている。まさに戦車の様な、危険なミュータントだった。
「避けろ!」
ガラルドがそう言った瞬間、アーマードホーンが、俺達に向かって突進して来た。迫り来る直前、二人で左右に分かれ飛び退く。
目標を失ったアーマードホーンは、俺達の後方にあったバスの残骸に突っ込む。
ガッシャーン!と、大型車の追突事故が起きた様な、とても大きな音がしてバスがくの字に曲がる。
「まるで、交通事故だな……」
「油断するな、来るぞ!」
アーマードホーンは、バスの残骸を振り解くと、こちらに方向転換した。
──ダダダダダ。
俺がアーマードホーンに、牽制の為にダムの連射を浴びせる。しかし、その鎧の様な装甲に弾は弾かれ、貫通する事はなかった。
──カラン……。
弾薬を撃ち尽くしたダムの保弾板が、地面に落ちる。俺は、右手に持ったダムを左に傾け、左手で新しい保弾板を装填し、給弾トレーを叩く。
練習した結果、ダムのリロードも様になって来た。
アーマードホーンが俺に狙いを定めると、俺に向けて突進してきた。
俺は、迫る直前に横に飛び退くと、アーマードホーンが今度は後方にあった建物に突っ込む。
アーマードホーンは、建物に頭が突っ込ませたままもがいている。
「今だ! やれッ!!」
ガラルドの指示とともに、俺は包丁槍を構えて走り出す。
アーマードホーンにも弱点はある。腹部は装甲が薄くなっている他、膝裏など関節の可動部には、どうしてもその鎧に隙間が生じてしまう。特に首は、どの生物も脳に血液を送る為の主要な血管が走っている。さらにアーマードホーンは、体内の熱を首元から放出しているらしい。その為皮膚も薄く、血管も太い。狙えれば致命傷を与える事ができるそうだ。
そこで、俺達はアーマードホーンの動きを止め、首元に近接攻撃を仕掛ける作戦をとったのだ。
「うおぉぉぉ! いっけぇぇ!!」
俺は、アーマードホーンの背中に飛び乗ると、動く背中の上で包丁槍を構え、首筋の隙間を狙い体重をかけ突き刺す。
ザクっ!とアーマードホーンの首筋に包丁槍が突き刺さる。槍が深く刺さると、槍を捻って傷口を広げる。ブチっと血管が切れる感覚を感じると、突き刺した槍をそのままに、乗っている背から飛び降りて急いでその場を離れる。
「ン、ンゴォォォ!!」
アーマードホーンが暴れ、首筋から鮮やかな血が噴き出す。上手く動脈を切れたらしい。
建物から抜け出したアーマードホーンが、首を振り回して大暴れし、近くの車の残骸を吹き飛ばし、信号機をなぎ倒した後、膝をつきドガ~ンと倒れる。
ガラルドと二人で、銃を構えながらアーマードホーンに近づく。地面には血が池の様に広がっている。
恐る恐る、アーマードホーンの柔らかい腹を蹴る。反応は無い。
「やったのか?」
「ああ、コイツはもう死んでるな。しかし一撃とはな、やるじゃねぇか!!」
「倒したのか……ふぅ」
ホッと胸を撫で下ろすと、ガラルドが肩を組んでくる。
「やったな、アーマードホーンを一撃で倒すなんて、レンジャーになって3週間の新人とは思えねぇぞ!」
「そんなにスゴイことか?」
「ああ、普通コイツを討伐するならBランクかAランクのレンジャーが必要だ。やっぱり、にいちゃん筋がいい! 教えている俺も優秀だがな!! ガハハ!」
ガラルドが言っている、BランクやAランクと言うのはギルドのレンジャーのランクらしい。階級が高いほど、強いと言うことらしい。
ちなみにガラルドは、A+ランクらしい。凄いのかよくわからないが、腕は確かだ。この辺りだと、一番強いと豪語していたが、果たして本当だろうか?
もし本当なら、そんな人物に教えを受けている俺は、運がいいのかもしれない。
その後、ガラルドと共にアーマードホーンの角や、関節部の装甲を剥ぎ取った。肉はマズイらしく、結局、角と関節の装甲だけを持ち帰ることにする。
どちらも高く売れるらしく、関節の装甲は、肩パッドやらの防具になるらしい。
……何で、世紀末や文明が荒廃すると肩の防具が流行るのだろうか? 崩壊前の漫画や映画でも、肩がトゲトゲした感じの服装のキャラクターは多かった。
ガラルドも、肩にプロテクターをしている。もちろん、肩だけではなく肘や膝にもしているのだが──。
以前、何故プロテクターをしているか聞いてみたが、「軽くて動きやすいぞ!」と言われた。どうやら、何故関節だけを守っているか聞かれたと勘違いしたようだ。まあ、関節の防護は大事なのだが……。
実際、軍用の防弾装備にも、肩部にプロテクターがあったりする。きっと、大事なんだろう。考えるのはやめよう。
* * *
素材を回収し、帰ろうとした時、ガラルドが険しい顔をして動くなと制止した。
前方を見ると、ガラルドの車の前にノア6の門番と同型の警備ロボが周囲を警戒していた。恐らく、最終戦争時、市街地の警備を行なっていたのだろう。まだ動いているものがあるとは……。
アーマードホーンをはじめ、動物園から逃げ出した動物がミュータントになったものや、この様な生きているロボが闊歩する為、ここ旧セルディア首都カナルティア市街地は「死都」と呼ばれ、人々に恐れられている。
ガラルドは、俺の手を引いて路地裏に隠れた。
「いいか、声を出すなよ。アイツはヤバイ。崩壊前の戦闘ロボだ、仲間も何人も殺られてる。」
「……あいつの事は知ってる。」
「なら話は早い。いいか、じっとしてろよ! ああクソッ!このままだと、見つかるのも時間の問題だ。どうするか…」
俺は無言で立ち上がると、路地裏から出る。
「ッ……馬鹿野郎!早く戻って来い!!」
「ガラルドのおっちゃん、前に俺が崩壊前の人間だって話したよな?」
「おい、んな事はどうでもいいから早く戻れ!!」
「アイツをどうにかしてみせたら、信じてくれよな!」
「な!おい、待てヴィクター!」
ガラルドの制止の声を振り切り、俺は警備ロボの元へと歩いて行った。
□◆ Tips ◆□
【アーマードホーン】
サイのミュータント。色は白く、頭部に2本の角があるところは普通のシロサイと同じだが、角はサイよりも大きく丈夫になっている。体もサイより大きく、重くなっている。体表面にエナメル芽細胞や象牙芽細胞などが発現しており、全身を分厚い硬質の装甲で覆っており、大抵の銃器は無効化される。ただし、膝裏など関節の可動部には装甲が無い他に、腹部(真下)は装甲が薄くなっていることと、首筋が致命的な弱点になっている。
しかし、膝裏に装甲が無いといっても、4トン半近い体重で最大50km/h近くで走る馬力がある為、脚は非常に頑丈になっており、やはり首筋を狙うのが有効なのだが、それができる人間は限られてしまう。
サイとは異なり、群れを形成せず単独で生活する。縄張りを形成し、縄張り内は他の動物やミュータントが少なくなるのが特徴。
危険度はB。
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