第10話 俺の得物

「そうと決まれば、得物が必要だな。付いてきな!」


 そう言うと俺たちはテーブルを離れ、地下駐車場内から続く、ホテルの地下のエレベーターホールに向かう。

 エレベーターホールには、駐車場管理室や倉庫、厨房、器具庫、機械室、ボイラー室などがあった。どうやらこのビジネスホテルは、地上はエントランスと客室などが主体だったようで、主要な設備は地下に設置していたようだ。

 ボイラー室には緊急用の自家発電装置があり、それをレストアして使用し、地下の照明を点灯させているらしい。


 倉庫の1室に入ると、部屋の床には銃の様な物や、弾薬の入った箱などが転がっていた。どうやら今は武器庫になっているようだ。


「この中から、好きな物を選びな!」

「……なあ、何でこんなにあるんだ?」

「ああ、それは野盗を倒した時の戦利品だったり、レンジャーの死体とかから回収した物だ。街に帰った時に売っ払う、まぁ小遣い稼ぎにはなるな」

(なんかゲスいな…)


 どうやら、死体から回収した物らしい。流石は、崩壊後の世界というわけか。


「なあ、弾があればこれが使えるんだが」


 俺は持っていたアンバージャックを掲げる。


「それを使ってるところを見られるとマズいって言ったろ。それ、結構発掘される遺物だからな。使ってるの見られたら、色々面倒な事になるぞ」

「そうだったな……」

「それに、弾は無いと思うぞ。それ、何使ってるんだ?」

「えっと、6.8mm弾だな」

「そんなもん、店にも売って無いぞ。売ってても錆び付いてたり、火薬がダメになってる。諦めて、武器を変えた方がいい」


 恐らく、軍用の6.8×43mm中口径高速弾は、崩壊前のアサルトライフルが使われなくなった為、廃れてしまったようだ。残念ながら、アンバージャックはお役御免になりそうだ。


「似たようなモンならこれか」


 ガラルドは、床に転がる銃から1つ拾い上げると、俺に手渡す。


「これは……キラーエイプから逃げる時に貸してくれたやつと同じやつか?」

「ああ、【ダム】って呼ばれてる。俺のはカスタムしてるがな……。連射時の命中率は悪いわ、過熱して暴発したり動かなくなるわ、ポンコツでロクな事がねぇ代物だ」

「ダメじゃねぇか、そんなもん勧めるんじゃねぇ!」

「だが、安くて使ってる人間は多いから、弾は出先で人間の死体を漁れば回収できる事が多いぞ。持っていける弾薬にも限りがあるからな。現地で弾が拾えるのはデカい」


 なるほど、それは一理あるかもしれない。もし、手持ちの弾薬が切れても、現地で回収できれば、継戦能力は高まる。

 それにこの武器は、アサルトライフルに近い。銃といえば、拳銃とアサルトライフルぐらいしか使ったことがない俺には丁度いいチョイスかもしれない。


 だが、コレを扱い切れる自信は俺にはない。そもそも、アンバージャックのようにマイクロマシンの補正が無い上に、射撃支援ソフトも無い。つまり、完全に自力で扱うしかないのだ。

 少しの間、軍で訓練したことのある人間が、初めて使う銃に命を預けるのは非常に抵抗があった。その上、作動方式が俺の知っている銃とはあまりにかけ離れていた。

 

(結局、あのボス猿に全弾撃ち込んで、全然当たらなかったしな……)


 それに、外観もお粗末だった。アンバージャックの様な、人間工学に基づく洗練されたデザインとは程遠い、無骨な外観をしていて、手作り感たっぷりである。

 こんなのに、命を預けなきゃならないとは……。


「ああ、それから武器は複数持って行く事を勧めるぞ。いつ使えなくなるか分からんし、違う弾が使えた方が、回収出来る弾と合致する可能性が高まるからな」

「なるほどね、確かにこんなのだけに命は預けられねぇわ……ん、コイツは?」


 俺は、机の上に回転式拳銃リボルバーが置いてあるのを見つけた。これは俺も見たことがある。【バイソン】と呼ばれていたそれは、崩壊前は警察官が使用していた38口径のリボルバーだ。信頼性が高く、自動拳銃が主流になっても、未だに使われ続けていた実績があった。

 9×33mmR弾などのマグナム弾にも対応できる為、民間でも人気があったモデルだ。それにしても、この個体は品質が良さそうだ。コピーか、レストアでもしたのだろうか? とても200年以上前の代物には見えない。


「この銃は? 崩壊前にも見たことあるが、遺物じゃないのか?」

「それは、崩壊前から作られてるらしいな。構造が単純なもんで、今でも作れるらしい。遺物にはならんな」

「崩壊前の物でも、崩壊後も作れる物は遺物にはならないって事か……」

「ま、そんなとこだな。しかし、それを選ぶか。ギルド製だし状態も良いから、いい金になりそうだったんだがな……。まあいい、持ってけ!」

「ギルド製?」

「レンジャーズギルドが作った物って事だ。そこらの職人よりも高性能だ。値段は高いがな。ギルド製じゃない銃は、そこらの職人や民間の工房が作ってる。ちなみにダムは後者だな」

「頼りないな。そういやこのバイソン、銃身に彫刻があるな?」

「ああ、ギルド製の武器には、ギルドのマークが彫られているんだ。分かりやすいだろ?」

「このマーク……“オリーブレンジャーズ”のマークか?」


 オリーブレンジャーズとは、退役した軍人達が興した、国際的なボランティア組織だったはずだ。なるほど、だから“レンジャー”というのか。


「……よく知ってるな。ギルドの正式名称なんて、今時知ってる奴は一握りだぞ。お前さん、本当に崩壊前の人間なのかもな!」


 ガハハとガラルドが笑う。それより、まだ俺がコールドスリープしてたって信じてないのかよ!


「で、もう一種類位持ってったらどうだ? お前さん、ガタイが良いから持てるだろ?」

「そうだなぁ……」


 チラッと、床に並べられている武器を眺めるが、パッとするものが無い。

 ダムやリボルバー以外だと、水道用配管や鉄パイプを銃身にした、パイプガンと呼ばれる粗末な銃や、水平二連式の散弾銃、廃材から作ったであろうナイフやらが転がっていた。どれも使いたくない。もっとマシな物は無いのか。


「どうした、選べないってか? だったら、こいつなんてどうだ?」


 そういいながら、ガラルドが手渡したのは、長さ1m半程の鉄パイプの先に、包丁の刃の様な物が溶接された槍だった。名前があるとすれば、包丁槍ってところか。


「なんだこれ、槍か?」


 何でこんなの物を!? と聞こうとした瞬間、ガラルドは語り出す。


「ミュータントの中には、硬くて銃が効かない奴もいる。それに、野盗を相手にするなら、銃は使わず、気付かれないように近づいて、一人ずつ始末する事も戦法の内だ。槍なら、素人でも奇襲で致命傷を与えられる筈だ」

「硬くて銃が効かないなら、槍も効かないんじゃないか?」

「いや、それはレンジャーの戦法次第だな。まぁ、そのうち教えてやるさ」


 どうやら、何の考えも無しにこんな物を選んだ訳ではなさそうだ。結局俺は、ダムとリボルバー、そして、例の包丁槍を持って行く事にした。


「よし、それでいいな? じゃあ行くか!!」

「えっ、行くってどこに?」

「どこって、今日の晩飯を獲りに行くんだよ!」


 そうして俺は、ガラルドと一緒に車に乗り込むと、地下駐車場を出て、今日の晩飯とやらを獲りに行くのだった。





□◆ Tips ◆□

【ダム】

 崩壊後における代表的な銃器で、価格も安く、流通量も多い。崩壊後製アサルトカービンといった立ち位置。

 いわゆるホチキス式機関銃に似た給弾機構を採用しており、ダブルカラムの箱型の保弾板を機関部右側から横向きに、左側に飛び出すように挿入する。保弾板は向きが存在し、片側にストッパーが付いていて、給弾時に左側にすっぽ抜け無いようになっている。リロードは、保弾板を挿入した後、給弾の為せり上がった給弾トレーを叩き、ボルトを引いて完了する。

 射撃していくと、左側に突き出た保弾板が、徐々に右側にせり出してくる。

 ピストルグリップで、通常はワイヤーストックを装着している。

 連射時の命中率が悪い上、オーバーヒートにより機関部が正常に機能しなくなり、弾詰まりを起こす困ったちゃん。人により、過熱対策にヒートシンクとしてバレルジャケットを装着したり、フォアグリップを装着したり、ストックを変更するカスタムが施される。

 弾薬は、崩壊前は同盟製ライフルで使用されていたRKシリーズに使用され、低価格で人気があった5.45×39mm弾を使用する。取り回しの良さを優先した為、5.45mm弾を使用するRKシリーズと比べ、銃身が短い為に有効射程、威力共に低くなり、弾丸初速の低下が命中精度の低下の要因の一つになっている。


[使用弾薬] 5.45×39mm弾

[装弾数]  30発

[発射速度] 650発/分前後

[有効射程] 150m

[新品価格] 約15,000メタル

[モデル]  MP34, ブレダM30



【バイソン P-16】

 警察用に作られたリボルバー 。スイングアウト式。警察用拳銃は、自動拳銃が主流になっていたが、更新されずに使われていた物が多い。

 耐久性が高く、マグナム弾にも対応している。

 マグナム弾は、ストッピングパワーに優れ、中型の獲物に対応出来る為、崩壊後もコピーされたものが使用されている。

 リボルバーのリロードの遅さを補うために、サードパーティー製のプラスチック製円形スピードストリップの製造データが販売されており、家庭用立体プリンターなどで手軽に製造できた。


[使用弾薬] 9×29.5mmR弾 / 9×33mmR弾

[装弾数]  6発

[有効射程] 50m

[モデル]  S&W M19



【バイソン(ギルド製)】

 バイソン P-16のコピー品。ギルド製で、精度が良い。崩壊後は、主にストッピングパワーに優れたマグナム弾の9×33mR弾が使用される事が多い。ギルド製の物は、フレームにギルドのマークが彫られている。


[使用弾薬] 9×29.5mR弾/9×33mmR弾

[装弾数]  6発

[有効射程] 50m

[新品価格] 80,000メタル

[モデル]  S&W M19

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