第8話 ベースキャンプ1

-数分後

@カナルティア 道中


 猿の群れを振り切り、車は先程までいたカナルティア新市街地の中心部から離れていく。


「兄ちゃん、あんなところで何してたんだ? 見た所、レンジャーでもなさそうだし、野盗にも見えねぇしな……なんか訳ありか? 借金抱えて夜逃げか、自殺志願者か何かか?」

「レンジャー、野盗? とにかく、助けてくれてありがとうございました!」


 猿の追撃を振り切った俺たちは、廃墟の街を車でドライブ中だ。一体どこへ向かうのだろうか?

 それにしても、先程から聞き慣れない言葉ばかりだ……。


「あの、お聞きしたい事があるのですが……」

「ん? まぁ、詳しい話はベースキャンプに着いてからだな。もうすぐ着くぞ」

「ベースキャンプ?」


 俺たちの乗った車は、廃墟群を走り、街の中心から離れていく。



 * * *



ー数十分後

@ビジネスホテルの廃墟


 車に揺られること数十分後、ベースキャンプと呼ばれる場所に到着した。


「着いたぞ、ここだ!」


 到着した場所は、小さな通りに面したホテルだった。かつてはビジネスホテルだったこの建物も、長い年月を経た為か、外壁にはヒビが走り、蔦のような植物に覆われている。

 だが、ゲイ教官のせいで一種の男性不信に陥っていた俺の心は、とても穏やかじゃなかった。


「ホテル……ま、まさかアンタもそっちの気が!? か、勘弁してくれぇ!」

「さっきから何言ってんだ? ああそうだ、今からシャッターを開けるが、ここの事は他言無用に頼むぞ、いいな?」

「あっ、はい……」


 そのまま、車はホテルの地下駐車場へと進み、駐車場入口のシャッターの前で停まる。

 シャッターが開かれ、駐車場までの直線路に入ると、所々土嚢が積まれていたり、折れた鉄筋などがこちらに向かって牙を伸ばしていた。おそらく、進入する車両の速度を落とす為だろうか。……物騒だな。


 それらの障害物を避け、グネグネと蛇行しながら地下駐車場の広間に出る。


 地下駐車場の中には、大きなテントが張られ、その近くには焚火の跡や、上のホテルから持ってきたのであろう、ボロボロのソファやテーブル、作業台、ベッドなどが置かれ、食器や工具が散乱しており、生活感を醸し出していた。


 なんかワクワクする、男の秘密基地(世紀末ver)ってな感じか?


「へへっ、驚いたか? 俺の城だ、死都の中じゃ一番快適だぞ!」


 男はそう言うと、車を停め、エンジンを切る。


「俺はガラルド、レンジャーだ。ここで死都の偵察をやってる」


 ガラルドと名乗った、この男。見た目は、体格のいいおっちゃんだ。……ちょっと腹は出てるが。

 40代後半? 50代前半くらいか? 白髪混じりの灰色の髪と、白い無精髭をたくわえている。


 格好は、革製の焦げ茶色のジャケットの上に、チェストリグの様なものを着て、肩や肘、膝に金属製と見られるプロテクターを着けている。

 特に肩のプロテクター、肩パッドと言うのか?には短いビスか何かが数本飛び出て、ちょっとトゲトゲしている。昔、映画か何かで見た、世紀末って感じがする……。


「まあ、座りな兄ちゃん」


 ガラルドがテーブルに座ると、俺に椅子を勧める。俺は椅子に座ると、このおっちゃんに自己紹介をし、聞きたかった様々な事を聞いた。今は何年か? レンジャー? 野盗? あの猿は何?


 俺の質問に、ガラルドは1つ1つ答えてくれた。



   ・

   ・

   ・



 聞いてみて分かった事をまとめると……


・今は統一暦730年で、俺がコールドスリープしてから210年経過している。これは事実である事。


・あの猿は【キラーエイプ】というミュータントである。ミュータントとは、最終戦争で使用された兵器の影響で動物が変異したものを指す事。


・最終戦争前を“崩壊前”、戦争後の現在を“崩壊後”と呼ぶこと。


・レンジャーとはギルドに属し、スクラップの回収や、ミュータントや野生動物の討伐、野盗の討伐を生業としている者達のことである。


・野盗とは、街の外で人を襲い、強盗や殺人などを行うならず者達のことである。


・街とは、人が多く居住している居住地であり、今いるカナルティアの都心部から北部の郊外に“カナルティアの街”と呼ばれる街があり、ガラルドはそこを拠点に活動しているらしい。


・崩壊後の、ここかつてのカナルティア市街地は、崩壊前のロボットや、動物園から逃げ出した動物が変異した、危険度の高いミュータントが跋扈ばっこしている為、超危険地帯となっている。現在は「死都」と呼ばれているらしい。




 ──などなど、今の世の中についての情報を聞き出すことができた。色々と信じられない事もあるが、今は人に会えた事が喜ばしい事だ。


「それにしても信じられんな。210年眠ってたなんて、新手の宗教か何かか? まあ、嘘ならもうちょいマシな話を用意するんだな」

「いや、本当なんだって! ノア6から出たら街はボロボロだし、猿に追いかけられるわでもう訳がわからん!」


 しばらく話している内に、敬語が取れた。年上のおっちゃんに対して、それはどうかとも思ったが、ガラルドが気持ち悪いからヤメロと言うので、普段通りの口調で話すことにした。


「あ~、そのさっきから言ってるノア6って何なんだ? 街の名前か? 聞いたことないぞ」

「ええと、ここの中心部から南に3時間程歩いた先にある、ピラミッド型の建物だよ」

「ハハッ、それこそ冗談だろ。あの遺跡に近づいた人間は、生きては返って来れねぇからな」

「……どういうことだ?」

「なんでも、崩壊前の遺物が手つかずで眠ってるらしいが、中に入れた奴はいないらしい。生きて帰れた奴の話じゃロボットがウジャウジャいて、遺跡に入る者を皆殺しにするそうだ」

「は、はぁ……」

「“死のピラミッド”って呼ばれてて、今じゃ誰も……ミュータントですら近寄らねぇ魔境だぞ」


 おそらく、コールドスリープ前にノア6の警備レベルを最高に設定した所為であろう。俺が寝ている間に、泥棒とか入ったら嫌だし、施設管理者の責任とか取らされたりしたら嫌だったし……。

 それにしても、まさかこんなことになっているとは……。





□◆ Tips ◆□

【キラーエイプ】

 ヒト科の類人猿のミュータント。各地で様々な形態を持つ亜種が存在している。死都のキラーエイプは、コンクリートジャングルに適応する為に、鋭く頑丈な爪と、高い跳躍力を持つ。

 単体での戦闘力は大したことは無いが、群れを作る特性上、出会ったら死を覚悟した方が良い。

 ギルドによる危険度は大体、単体:D、数匹の群れ:C、ボスのいる大規模な群れ:Bといったように、群れの規模や様相によって危険度が変わる特徴がある。

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