第7話 救世主
-プロローグ後
@カナルティア 新市街地
あのゲイ教官のおかげで、逃げ足だけは自信があったが、どうもこれまでかもしれない。
現在、俺は7匹の猿の怨霊に包囲されている。
左右には、廃墟となった高層ビル。前後には猿の怨霊。逃げ場はない!
「クソ……何なんだよ、コイツらッ!?」
俺が自棄になり、騒ぎ出した瞬間、前にいた猿の怨霊の1匹が飛び掛かってきた。その瞬間、世界がスローモーションのようにゆっくりと時間が進む感覚になる。
(死ぬ直前は、スローモーションに見えるって言うが本当なんだな。……って、死んでられるかよォ!!)
──バシュッ! ビリビリビリッ!
俺は、腰から自衛用のスタンガンを抜くと、飛び掛かってきた猿に向けて発射した。空気が破裂するような音と共に、電極の針が射出されて猿に突き刺さる。その瞬間、強烈な電流が流れ、猿の全身の筋肉が硬直する。
そのままでは、猿の身体が自分に突っ込んでくるので、俺は急いで膝をついてその場に屈む。猿の身体が俺の頭上を飛び越し、俺の背後に落ちた。
「ギャギャギャギャギャギャギャ!!」
受け身が取れず地面に激突した猿が、電撃を受けて激しく悶えている。その光景を見た他の猿たちは、驚いたのか、目を見開いたように悶えている猿を見つめている。
「今だッ!」
──バシュッバシュッ!
そう言うと、俺は前にいた残る2匹にもスタンガンを発射し、電撃を加えると、スタンガンの電線が伸びているカートリッジを外して、放り投げる。
そしてそのまま前に走り出し、大通りへと逃げだした。
しばらく走っていると、後ろから猿の鳴き声が聞こえてきた。チラッと振り返ると、他の猿よりも一回り大きい、灰色というよりは銀色に近い色の体毛を持つ猿を先頭に、何十匹もの猿を連れてこちらに向かってきていた。
「ボス猿か!? 勘弁してくれよ! だ、誰かぁ〜助けてくれぇ~!!」
俺の情け無い叫びが、ビルの谷間で反響する。
「本当に誰もいないのかよッ!! クソっ!!」
そうボヤいた瞬間、俺は道路に出来た亀裂に足を取られ、転倒する。
「うわぁ! ってぇ~なぁ。あっ……!」
奇跡的に怪我は無かったが、猿の群れに追いつかれてしまった。……ボス猿の牙が剥かれ、周りの猿も今にも飛び掛かってきそうな感じだ。
(終わった……)
そう思った瞬間、俺の背後……走っていた方向からパァン! という乾いた破裂音が聞こえ、目の前の猿の1匹が頭から血を流し倒れる。そう、銃声だ。
驚いた俺が振り返ると、無骨なデザインの車から、男がライフルを構えているのが見えた。
「援護する! 早くこっちに来いッ!!」
そう俺に向かって、男は声を飛ばす。
助かった、人がいた! そう思いながら立ち上がって、男の元へ走りだす。
──パァン! パァン!
男のライフルの銃声とともに、背後から猿の断末魔が聞こえる。男の元にたどり着くと、急いで車の助手席に飛び乗る。
「離脱するぞ! とにかく前列の奴から撃ちまくれ!」
タイヤが一瞬、キキーッ! と空回りした後、急発進する。俺は担いでいた“アンバージャック”を構え、後ろの猿の群れへと、フルオートで発射する。6.8ミリ口径のライフル弾が命中し、猿が前のめりに倒れたり、転がっていく。倒れた猿達の身体に、後ろの猿が巻き込まれて倒れていくが、飛び越えたり迂回してきたりで、その勢いは止まりそうにない。
──ダダダン! ダダダン! カチッカチッ……。
弾倉内の弾を撃ち尽くして、予備の弾倉を持ってきていないことに気がつく。
「しまった!」
「おい! どうしたんだッ!?」
「た、弾切れだ!」
「なら、こいつを使え! このままだと、追いつかれちまうぞ!」
そう言いつつ、男が俺に見たこともない銃を渡してくる。これは何だ?と一瞬ためらったが、差し出された銃を受け取り、後方に向かって構える。ちょうどボス猿が前に飛び出してきたので、狙いを定める。
初めての銃に戸惑ったが、引き金を引くと、フルオートで発射される。
先ほどまでのアンバージャックと比べると、粗末な出来で、反動も大きかったので大半は外してしまったが、何発かボス猿に命中したようで、ボス猿が倒れると、群れの勢いが遅くなる。
車が、次第に道の悪い箇所を抜け、速度を上げていくと猿の群れは遠ざかっていく。
「ふぅ~。間一髪だったなぁ、兄ちゃん!」
そう言われて、ハッとした俺は男に感謝を述べる。
「あ、ありがとうございます! 助かりました!!」
どうやら、俺は助かったようだ……。俺は隣に座る、俺の救世主となった男に感謝する。そして、彼との出会いが、俺の今後の人生を大きく左右することになることになるのだった……。
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