AM:共和国機

 レガル共和国は、国防や軍事のほぼ全てを国内の企業に依存していた関係で、戦闘機や戦車といった代表的な兵器の開発・取得は殆ど行われていなかった。

 しかし国内の軍需企業が、連合との共同開発や独自開発を通じて、AMの開発を盛んに行っており、様々な機体が製作されていた。

 その関係で、連合とはAMの戦術も運用も異なっており、共和国においてAMは、重量級AM(HAM)、中量級AM(MAM)、軽量級AM(LAM)と3つのカテゴリーに分類されており、連合には無い独特の多様性があった。また共和国では、法的にAMを兵器ではなく作業用機械であると認識しており、企業にとっても取得が容易だったことから、戦闘において積極的にAMを運用しているのが特徴となっていた。

 連合とはAMの共同開発を行なっていたが、連合の持つ衛星からの無線給電技術は開示されなかった。その為、共和国製AMでは動力源として内燃機関や、バッテリーなどを使用していた。その関係で、莫大な電力を消費する光学兵器等の運用を避けて、実弾兵器を多用しているのも大きな特徴となっている。

 ペットネームにはそれぞれ、HAMには神話の神や巨人、MAMには女神、LAMには魔狼の名前が採用されている。




●重量級AM

 通称“HAM”と呼ばれる、大型のAM。通常のAMよりも一回り大型であり、砲撃や制圧用途に用いられ、重装甲かつ大火力を誇る物が多い。また、水陸両用機といった特殊な用途をする機体も存在する。通常のAM用武装はサイズが合わない事が多く、機体によって独自の武装を持つ。

 共和国独自のカテゴリーであり、その外観や装備は明らかに兵器であるが、共和国はあくまで作業用重機の一種であると主張していた。



【H-305 アングルボザ】

 共和国陣営に運用されていたHAM。がっしりとしたボディと、それに見合った重武装が特徴的な機体。多連装のミサイルランチャーや、戦車砲、機関砲などで武装しており、基本構成は射撃に特化したものとなっている。

 最大の特徴として、自機搭載UAVによる前線偵察・測位・攻撃システムを搭載しており、自機のランチャーから複数のUAVを射出し、それらを観測に用いた正確な遠距離攻撃や前線指揮などを行える。

 これらの機能を全て使いこなすにはパイロット一人では負担が大きい為、AMとしては唯一の上下複座式のコックピットをもつ。コックピットは、機体の操縦を行うパイロットと、UAVや砲の管制官の二人乗りが基本である。

 機体の特徴としては、重いペイロードを支える為の重厚な脚部を持っている事が挙げられる。この脚部は、LAM開発で得られた技術が用いられ、足裏と踵部に無限軌道が装備されており、これを用いた移動が可能となっている。これにより、LAMほど高速ではないが、見た目と重量に反して機敏に動ける為、迅速な射撃位置の転換ができる。戦場では、1機のアングルボザが迅速な配置転換で敵を翻弄し、敵側に複数機と対峙していると錯覚させたという逸話がある。



【H-278 エーギル】

 共和国陣営に使用されていたHAM。水陸両用機であり、水中からの侵攻を主眼に置いた唯一のAM。本体は卵型の丸みを帯びたボディをしており、そこから手足が生えているような姿で、AMとしては特異な外観をしている。

 水中での機動性を向上させるべく、潜航時は手脚が胴体に内臓、もしくは密着される形となる。水中から敵地に上陸し、敵地の制圧や橋頭堡の確保などに従事する。

 潜水活動を行うという性質上、ボディは非常に頑丈な耐圧構造をしており、その関係でAMの中でもトップクラスの防御力を誇る。

 武装は内蔵式の機関砲や、ミサイルランチャーの他、対水上戦闘用の魚雷や、対地対潜両用の爆雷が用意されている。





●中量級AM

 通称“MAM”と呼ばれる、基本的なAMの総称。連合諸国で採用されていたAMは、ほぼ全てがこのMAMに分類される。

 汎用性に富み、幅広い任務に対応できるのが特徴。



【M-3 スクルド】

 連合との共同開発により誕生した、初の実戦型AM。連合の「AM-3 サイクロプス」の共和国仕様機であり、機体構成はサイクロプスと殆ど同じであるが、装甲は各社が独自に製造した物を使用しており、連合のサイクロプスとは仕様が若干異なる。

 動力に関しても、連合が高出力のガスタービンエンジンを採用したのに対して、スクルドは生産性の観点からディーゼルエンジンを採用しているのも大きな特徴。出力はサイクロプスに劣るが、ディーゼルエンジンは引火しにくい為、パイロットの生存性は高いとされる。



【M-7 ヘルヴォル】

 連合軍の次期主力AMを決めるコンペに向けて開発された機体。だが、無線給電システムの搭載を前提に開発された「AM-5 アルビオン」に敗れ、連合軍での採用を逃した。その後は、共和国の各企業により購入・運用される事となった。

 動力は、既存の全個体アルミニウムバッテリーと、半個体リチウムイオンバッテリーを利用した物となっており、所謂枯れた技術を利用した物となっている。

 固定武装として、左腕部に“ティルヴィング”と呼ばれる内臓式の射出式高周波ブレードを装備している。



【XM-54 フレスヴェルグ】

 AM史上初の、小型核融合エンジン搭載機。

 核融合により生み出される莫大なエネルギーを用いた、核推進エンジンを搭載している。このエンジンは、大気中の空気を推進剤として用いる事が可能であり、ペイロードや空力特性に限界のあるAMに、飛行能力を付与する事に成功している。このエンジンを用いた飛行能力が、この機体最大の特徴であり、航空戦力の少ない共和国陣営の貴重な戦力となるべく、少数が量産され、初期作戦能力を獲得していた。

 しかし核融合炉の小型化に難があった事から、肝心の融合炉が機体背部に寄生する様な形となり、防御面ではかなりの不安がある。

 




●軽量級AM

 通称“LAM”と呼ばれる。MAMをベースに、主にコストの削減を目的に開発されている。AMに使用されている高価な装甲や、電子機器、センサー類などを最低限の装備に留めており、機体の単価を安く抑える事に成功している。共和国では、最も多く運用されており、主力となっていた。

 主にHAMやMAMの随伴機として用いられ、単価も安く、機体が軽量で輸送しやすい特徴から、高価なHAMやMAMを揃えられない中小企業や、フリーランスの傭兵などに人気があった。大企業でも、ハイローミックス運用や、低強度紛争への傭兵派遣で運用していた。

 特徴として、スラスター等の高価な跳躍機動装置は搭載していない為、三次元的な戦闘は不得手である。しかし、脚部等にタイヤや無限軌道キャタピラを用いた走行装置を搭載しており、地上を高速で滑走する事(いわゆるローラーダッシュ)で高い機動力を獲得しており、地上戦で高い戦闘力を誇る。

 MAMと比して若干小型となっているが、武装はMAMと同じ物が使用可能となっている。



【L-02 ガルム】

 初の量産型LAM。傑作機として有名であり、雪原から砂漠まで、どの環境下でも安定した稼働が可能であり、世界中の戦地に派遣されていた。共和国では、導入していない企業は無いとまで言われている程普及しており、単純な重機目的から戦闘用まで、幅広く利用されていた。

 MAMよりもユニットコストを削減するべく、ベトロニクスを必要最小限にとどめている他、機体も装甲を削減・軽量化して、MAMと比べて小型軽量になるように設計されている。

 MAMとの戦力差を埋める為に、脚部や足裏には無限軌道やソリッドタイヤが装備されており、これらを用いた高速移動が可能。これにより、地上での機動性を向上させている。



【L-04 スコル】

 大都市での市街戦を想定して開発されたLAM。最大の特徴は、同盟の多脚戦車に用いられている技術を転用した“グレイプニル”と呼ばれる、高粘着性の高分子ワイヤーの生成・射出装置を、腕部と腰部に装備している点にある。

 グレイプニルにより、市街戦で高層ビルをラペリングしたり、ワイヤーによる障害物の作成が可能となり、LAMの弱点である三次元戦闘能力の低さを補っている。



【L-02M/L-07 マナガルム】

 その名が示す通り、L-02 ガルムの近代化改修機であり、最新の技術を用いた改修が施されている。パーツの60%近くをL-02 ガルムと共有しており、これまでの生産ラインをそのまま利用する事が可能。

 ベトロニクスのアップデートが施された他、走行装置の強化が図られ、「L-04 スコル」にて導入された、“グレイプニル”を腰部に2基装備している。

 特に強化された脚部は、関節が2つと人間の物より1つ多く設計されており、膝がそれぞれ逆方向に2つ存在する特異な外見をしている。

 走行装置を起動させる際は、足とその上の関節を折り畳み、膝立ちのような姿勢で移動する。これにより走行装置の接地面積の確保につながり、安定した走行が可能になるだけでなく、副次的な効果として、姿勢を低くする事でAMの弱点でもある前面投影面積の低減を図る事ができ、被弾率の低下に繋がっている。



【L-11 フェンリル】

 崩壊前に製造されたLAMの中では、最新かつ最高の性能を誇る機体と言われている。

 本機最大の特徴として、LAM独自の地上滑走機能の強化を主眼に設計されており、脚部の他に、胸・肩部にソリッドタイヤが組み込まれている事が挙げられる。これにより、上体を屈曲させて地面に接地させ、脚部を折り畳む事で地上を滑走する形態……通称、“ビーストモード”に変形できる。これにより、従来のLAMよりも滑走時の空気抵抗が低減し、高速を発揮できる他、脚部と肩部の4点で走行する為に、走行時の安定性が向上している。また、ビーストモード時、機体の前面投影面積が他のAMと比べて圧倒的に小さくなる事で、被弾率の低減を図る副次的な効果もある。

 もちろん、従来のLAMのように二足歩行時の走行装置の使用も可能だが、ビーストモード時と比べて速度と回避率は落ちる。

 LAMとしては機体価格が高価であり、MAMよりユニットコストが高くなってしまっているのが欠点であり、生産数は他のLAMと比べて少ない。





●特殊機体

【XJL-004 シグルズ】

 某企業が、自社の宣伝用に試作した特別機。次世代型AMの概念実証機を謳っているが、その実態は対AM戦専門に特化した“駆逐AM”とでも呼ぶべき代物である。

 身体のサイボーグ化を含む、種々の調整を施した選抜のエースパイロットの搭乗を前提に、パイロットの身体負荷を無視したピーキーなカスタムが施されているのが特徴。対AM戦闘……それも高速機動の接近戦に特化した機体構成をしている。

 特筆すべきなのは、『タルンカッペ』と呼ばれる光学迷彩を搭載している事で、これにより機体の隠蔽や、接近戦時の奇襲などに用いる事ができる。ただし、バッテリーの消費が激しい為に、長時間の使用には限界がある。

 機体軽量化の為、装甲は極限まで削られているが、代わりに背部に大出力のスラスターウィングを装備しており、軽量な機体重量も相まって、戦闘時は変態的とまで言える機動性を発揮する。戦闘機動時は、スラスターから自機以上の巨大な噴射炎と噴射光を放つ為、相対するパイロットは、まるで目の前で爆発が起きたような錯覚に陥る。

 当時のAMにしては珍しく、パイロットのブラックアウトやレッドアウトによる機体制御不能に備えて、コックピット内にAIデバイス搭載用のマウントが設置されており、AIによるバックアップを受ける事が可能。

 専用の武装として、『グラム』と呼ばれる大型のプラズマカッターが標準装備されている。グラム起動時は、剣の如くプラズマが細長く放射される為、迫力がある。しかし、決して見掛け倒しという訳ではなく、AMを一撃で葬る威力を持っている。

 しかし極端な軽量化と、開発当初から射撃兵装の運用は考慮されていなかった為、武装はグラムのみとなっている。その為、グラム1本で戦闘を行う必要があり、パイロットには相応の技量が要求される。

 


[動力]全個体アルミニウムバッテリー、半個体リチウムイオンバッテリー

[武装]グラム




【XH-666 スルト】

 共和国が開発していた、極秘兵器。世界を破壊する終末兵器の一種。動力には、帝国から提供された試作型の対消滅エンジンを用いており、従来のAMでは考えられない程の大出力・駆動時間(ほぼ無限)を誇る。しかし、多数の新機構を導入した結果、特に対消滅エンジンを基準に機体が設計された為に、機体が20m弱まで大型化している。

 機体内に戦略兵器……“N-3”の製造機関『ラグナロクシステム』を有しており、これ1機が核ミサイルや衛星兵器に並ぶ、れっきとした戦略兵器である。N-3はナノマシン兵器であり、発動すると周囲の物質が有する原子を無差別に用いて自己増殖を始める。その結果、周囲の環境を原子レベルで分解してしまう。その威力は、一都市を文字通り塵にするほどである。

 XH-666 スルトはこの恐るべき兵器N-3を、戦術レベル及び、次世代の戦略兵器として使用する事を目的に試作された機体であり、完全にワンオフの特別機となっている。

 ラグナロクシステムは、機体の周囲に自機で製造したN-3を散布して、N-3濃度の高い空間(N-3フィールド)を作り出す。これにより近くの目標を原子レベルで分解することで、目標への攻撃や、飛来する敵弾への防御にも使用できる。

 また、機体表面にはナノマシンによる自己分解を防ぐために、不活性N-3を表面側に配した特殊なナノグラフェンコーティングが施されており、その関係で機体は全身黒塗りのような外観となっている。

 ラグナロクシステムの展開中は攻撃手段が限られる(自機の放った砲弾も、瞬時に分解されてしまい、弾道変化や威力減衰してしまう)ので、ラグナロクシステムの範囲外より敵を攻撃する為の“ムスペル”と呼ばれる小型UAVを背部に搭載している。また弾速が速く、ナノマシンの影響を受けずにN-3フィールドを貫通する事が可能な、レールガンを主兵装としている他、万一の接近戦用に“レーヴァテイン”と呼ばれる高出力の腕部内臓式プラズマカッターを装備している。

 他にも、迅速な攻撃遂行の為に“ナグルファル”と呼ばれる飛行輸送ユニットが用意されており、片道ではあるが目標地点まで機体を空輸する事が可能。機体本体にも、帝国製の反重力機関による飛翔能力が備わっており、三次元戦闘を可能としていた。

 H-305 アングルボザでのUAV技術や、XJL-004 シグルズでの強力なプラズマカッター開発など、これまで共和国が培ってきたAMに関する技術の粋を集めた機体でもある。

 崩壊前の時点では、未知のエンジンの調整不足により未完成のままであったが、何者かの手により、2世紀の時を超えて完成された。

 


[動力] 帝国製対消滅エンジン

[武装]・ラグナロクシステム

    ・多連装ミサイルランチャー

    ・ムスペル×2

    ・携行式レールガン

    ・レーヴァテイン



●ムスペル

 XH-666 スルト用に開発された、凧形全身翼のUAV兼巡航ミサイル。

 普段はスルトの背部に取り付けられている。使用する際は、まずロケットエンジンにて機体後方斜め上空に打ち出され、その後射出用ロケットをパージした後に、搭載されたジェットエンジンにて推力を得て飛行する。

 大容量のバッテリーとコンデンサを内臓しており、機体下部にビーム砲を装備し、敵の上空から攻撃を行う事が出来る。また、高性能爆薬を内蔵している為、敵目標へ突入させる事で、巡航ミサイルの様に使用することも可能。

 使い捨ての為、一度発射すると回収は不可能である。



●レーヴァテイン

 XH-666 スルト用に開発された、大型のプラズマカッター。並のAM程度なら、一刀両断することが可能な威力を誇る。 腕部内臓式であり、右腕に搭載されている。

 XJL-004 シグルズ専用武装である『グラム』を開発した際の技術と経験が活かされている。対消滅エンジンによる豊富な出力を活かしており、その刃渡りはグラムより太く長い。また、起動時には空気中に放散したプラズマにより、刀身が青く燃え盛るように見えるのも特徴。

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