第14話(2) 好意
「――いらっしゃいませ」
鈴の音と共にお客さんがやってくる。
扉を開け入ってきたのは、常連の男子高生。
最近は
「
「あ、どうも」
軽く頭を下げ、男の子が店の奥に進む。
その後はいつも通り、お
なんの不自然さもない、
「ねぇ、みどりちゃん。何かあった?」
にも関わらず、コーヒーを入れる合間に
おかしい。不自然なところは一片たりともなかったはず。なのに、一体どうして……?
「動きに遊びがなさ過ぎるというか、
表情や反応から思考を読み取ったのか、百合さんがそんな風に私の疑問に答える。
「気になる話を友達から聞きまして」
そこまで言われてしまっては仕方ない。
私は
「ふーん。それでみどりちゃんも意識しちゃったってわけ?」
「まぁ、十中八九違うんですけどね」
ただ単にそういう事が身近で起きたというだけの話で、だから私がどうという話では決してないのだが。
「そうかなぁ?」
「
「だって……」
おそらく、百合さんも
もちろん、私の判断が間違っている可能性はある。というか、その可能性の方が高い。
自分の事となると、私の判断能力は
だからと言って、百合さんの話を無条件で信じる気にもなれない。何か納得の出来る根拠があれば話は別だが……。
そもそも、普通の好きと恋愛の好きはどう違うのだろう? 恋をしたら自然と、後者だと気付けるものなのか?
「百合さんは、その、恋した事ってあります?」
「あるよ」
即答だった。
「友達や家族に対する好きと、それはどう違うんですか?」
「うーん。難しい質問だね」
そう言うと百合さんは、考える素振りをみせた。
「私の場合、胸が高鳴ったかな。トクンって。でも、その時にはまだ自分では恋って気付いてなくて、日が経って何度も自問自答してく内にようやく気が付いたの。あ、私、今恋をしてるんだって」
話しながら当時の感情が
それはまさに、恋する乙女のような表情だった。
いつか私にもそんな日が来るのだろうか? 胸が高鳴るそんな瞬間が……。
「とりあえず、今私がみどりちゃんに言える事は……」
「言える事は?」
「ブレンド一つ、二番さんに」
「……」
カウンターの上に置かれたカップを私は無言でお
「お待たせしました。こちら、ブレンドになります」
そして、男の子の前に置いた。
「あ、ありがとうございます」
「ごゆっくりどうぞ」
頭を下げ、
不自然さはなく
「うん。大分良くなったかな」
しかし、百合さんから下されたジャッジは、思ったよりも辛口だった。
意識しないようにするのは、思ったよりも難しいらしい。
そもそも、相手からアプロ―チを受けたわけでもないのに、何を意識する事があるのだろう。
これで私の(というか、百合さんの)
笑いものにならないためにも、せめて表には出さないようにしないと。
深呼吸を一つ。それで気持ちを切り替える。
よし。
ちょうどその時、扉が開く気配がした。
「いらっしゃいませ」
私は体を出入り口の方に向けると、新たにやってきたお客さんを笑顔で出迎えた。
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