ep.2 ゲーム

 ――結論から言うと、ゲーム作戦は成功だった。


 私の部屋には、型落ちのゲーム機がある。買ったわけでも懸賞けんしょう等で当てたわけでもない。置いていかれるのだ。


 よくウチに遊びに来ている幼なじみはゲーム好きで、家に様々なゲーム機を持っている。そして、それらの多くは最新機種が新たに出る事によって旧型に変わる。そうなるとその幼なじみは、旧型となった機種を私の部屋に持ってきては置いていく。更に要望があれば、元々あった二つ前の型を引き取ってくれるサービスまで付いている。

 これで価格はぜろ円というのだから、某テレビショッピングもビックリの神対応だ。

 まぁ、ソフトまではさすがに付いてこないので、それは自分で買わないといけないのだが、そこまで求めてはバチが当たるというものだ。


 閑話休題かんわきゅうだい


 やり始めた当初こそ動きや表情に硬さが見えた優子ちゃんだったが、徐々にゲームにのめり込み、と同時にどちらの硬さも取れていった。


 いくつかのゲームをやる中で優子ちゃんが一番気に入ったのは、四角いブロックで構成された世界で建物を作ったりモンスターと戦ったり出来るあのゲームだった。今まで存在は知っていたが触れた事はなかったようで、終始楽しそうにプレイしていた。


 開始から一時間半程が経ち、キリがいいところで私は、ゲームとテレビの電源を切る。


「どうだった?」


 そして、優子ちゃんに感想を尋ねる。


「日頃スマホでしかゲームやらないので、なんというか、新鮮でした」


 今の時代、優子ちゃんみたいな人の方が多数派なのかもしれない。ゲームは実況動画を見れば充分なんて人もいるぐらいだし。


「どれが一番面白おもしろかった?」

「うーん。やっぱり、最後にやったやつですかね。自由度が高そうで、いろんな事出来そう」


 優子ちゃんの回答は、私の予想通りだった。

 というか、やっているところを見たら、誰でも分かるか。


「パソコンでも出来るのよ」

「そうなんですか? 家に帰ったら、ちょっと見てみようかな」


 すっかり先程のゲームに興味津々の優子ちゃん。それを見た私の顔には、知らず知らずの内に笑みが浮かんでいた。


「どうかしました?」

「ううん。なんでもない。さっきのゲーム、オンラインで同じワールドに入れるから、もし興味があってやるようなら一緒にやりましょ」

「はい。それはもう是非ぜひ


 一人でコツコツやるのもいいが、複数人で和気あいあいとやるのもまた楽しい。特にこのゲームは建築も出来、作った人のセンスや考えがそこから見て取れるのが面白い。堅実けんじつに作る人、奇抜に作る人、奇抜かつ堅実に作る人、さて優子ちゃんはどのタイプだろうか。


「なんだか今日は、みどりさんの色々な一面を知れた気がします」

「そう?」

「部屋に本が多くなかったりゲームをしたり、後、お母さんへの対応だったりとか」

「……」


 改めてそんな風に羅列られつされてしまうと、少し気恥ずかしいものがある。


「がっかりした?」


 多くの人が相手に対し、自分の中のイメージを見る。優しそう、怖そう、賢そう、頭が悪そう、〇〇が好き、〇〇が嫌い。特に優子ちゃんは私の事を買いかぶっている節があるので、実際の私とのギャップにネガティブな感情を抱いていないか心配になる。


「え? がっかり? がっかりする要素なんてありました?」


 言われてみれば、確かにその通りなのだが。優子ちゃんが私に対し、どういうイメージを抱いているか分からないため、そこの判断が付きづらい。


「まぁ確かに、みどりさんは本好きなイメージありましたし、ゲームをやるイメージもあまりありませんでした。でも、それらのイメージと違ったからと言って、私は別にがっかりはしません。むしろ、新しいみどりさんが知れてラッキー、なんて思ってたり?」


 そう言うと優子ちゃんは、悪戯いたずらを見つかった子供のようにちらりと舌を出した。


「ラッキー。そんな風に思うんだ」

「それにですよ。新たな一面を知れたという事は、私の中のみどりさんに対する理解度がまた一つ深まったという事にもなるので、そういう意味でもラッキーです」

「なるほど?」


 熱っぽく語る優子ちゃんに気圧けおされ、私は不必要な疑問符を思わず語尾に付けてしまう。


 みんながみんな彼女のような考え方をしてくれたら、この世界はもっと生きやすくなるのに、なぜそうはならないのだろう。


「優子ちゃんってホントいい子よね」

「なんです? 急に」

「いや、今のやり取りで改めてそう思って」


 深い意味はない。ただの感想だ。


「私から言わせれば、みどりさんの方がよっぽどいい人ですけどね」

「そうかなぁ?」


 優子ちゃんはどの辺を見て、そんな風に思うのだろう。


「だって、さっきのゲームも私が緊張してたから、それをほぐそうと思ってすすめてくれたんですよね?」

「……チガウヨ」

「えー。ホントですか?」


 自分ではさり気なくしていたつもりが、まさか当の本人に気付かれていたとは……。


 あぁ、ここがゲームの世界なら、イベントリーからスコップを出して、自分が入るための穴を簡単にれるのに……なんて。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る