第8話(3) ようこそ、我が家へ。
ノックをし、中からの返事を待ってから扉を開ける。
思えば、こんな風にして自室の扉を開けるのは初めてかもしれない。幼なじみが中にいる時はノックなんてしないし。
「あ、お帰りなさい」
「ただいま」
優子ちゃんに笑顔で言葉を返しながら、後ろ手で扉を閉める。
すでに部屋には布団が
布団はさっき彼女がお風呂に入っている間に私が、テーブルを
「はー……」
「何?」
ぼっと
「あ、いえ、みどりさんのパジャマ姿を初めて見たので、その、思わず見惚れてしまって……」
むしろ、それを言うなら優子ちゃんの方が――
彼女の現在の
ちなみに、お風呂上りという事で、優子ちゃんの髪は今すとんと下ろされている。
日頃二つ縛りにしたところしか見ていない事もあって、なんだかその姿はいつもより
「優子ちゃん」
「はい?」
「ちょっと、そのフード被ってみてくれない?」
「フード、ですか? いいですよ」
私の申し出を受け、優子ちゃんがおもむろにフードを
「こ、これは……」
想像以上の可愛らしさだった。
私はウサ耳×優子ちゃんのポテンシャルを、少々
娘に着せ替え人形よろしく、色々な服を着せたがる母親の気持ちが少し分かった気がする。
そう言えば幼い頃、当時の私は可愛い服を母に着せられるのがとても嫌だった。
自分自身その手の服が似合わない事は自覚していたし、被害妄想かもしれないが、周りの目も
――と、それはそれとして、
「いい。凄くいい」
優子ちゃんの格好は本当に可愛らしく、もし許されるなら写真を
「本当ですか? 気に入って買ったはいいけど、いざ着てみたら少し子供っぽいかなって……」
そう言って優子ちゃんは、自分のウェアを見下ろす。
「全然そんな事ないよ。女の子らしくて、優子ちゃんにとてもよく似合ってる」
「なら、はい、良かったです」
私の言葉に
優子ちゃんは私に少し似ている。
扉から離れ、ベッドに腰を下ろす。
「服って難しいよね。試着して買ってもいざ着てみたらなんか違ってたり、人からの評価がいまいちだったり」
「あー。分かります。で結局、
優子ちゃんもやはり私と同様の経験があるようで、言いながら
「みどりさんにも着たい服ってあるんですか?」
「そりゃ、ねぇ」
言われて思い浮かんだのは、バイト先のあの人の姿だった。
「ちなみに、どんな?」
「シックで大人っぽい感じの服、かな」
「え? みどりさんなら、普通に似合うんじゃ……?」
「近くに自分より
「そういうものですか」
「そういうものです」
中にはそれでも
「みどりさんの憧れの人か。どんな人なんだろう?」
「憧れって……」
いや、
でもまぁ、そういう事なら――
「明日、自分の目で確かめてみたら?」
「え? それって……」
優子ちゃんの言葉に私は、返事の代わりに笑みを返す。
「ところで明日は、十時半に家を出る予定だからそのつもりで」
さすがに四時間も店内にいさせるのは、優子ちゃんにも店側にも悪い気がする。かと言って、方向
「あ、はい。任せてください。ちゃんと準備しておきます」
私の言葉に、そう言って意気込み優子ちゃん。
準備、と言っても、着替えるくらいしかやる事はないはずだけど……。心の準備的な話、だろうか。
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