第8話(2) ようこそ、我が家へ。
「――お、お邪魔しやっす!」
我が家の
「うー」
まぁ、あれだけ完璧に噛めば、大抵の人はこうなる。一部の例外を除いて……。
「どうぞ」
「お邪魔します」
先程と同じ
とはいえ、緊張が
まぁ、気持ちは分からないでもない。初めての場所は私でも緊張する。慣れるまでもう少し時間が必要なのだろう。
「あら」
音と気配で
「もしかして、あなたが……」
そして、優子ちゃんをその視界に
「あの、私、
「ホントに? この子、あなたに迷惑掛けてない?」
「……」
なんて事を言うんだとツッコミたかったが、私がそれを口にするのはなんだか違う気がして結局言葉を
「この子、しっかりものに見えて、どこか抜けてるのよねー。誰に似たんだか」
もし仮に私が抜けているのだとしたら、間違いなくそれは母親からの遺伝だろう。
少なくとも、父ではない事は確かだ。
「いえいえ、そんな。抜けてるのはむしろ私の方で、みどりさんにはいつもフォローしてもらいっぱなしで……」
「へー」
優子ちゃんの言葉を受け、私に意味深な視線を向ける母。
なんだ、その表情は。
いや、言いたい事は分かる。ほとんどの人が、その場所場所でそれぞれ違う顔を持っている。もちろん、私も……。
とりあえず、
「行こ、優子ちゃん。私の部屋二階だから」
「あ、はい」
「ごゆっくりー」
能天気な母の声に見送られ、私と優子ちゃんは階段を登り二階に向かう。
登り切った場所から見て右の二つ目、一番端にある扉が、私の部屋のそれだった。
「ここよ、私の部屋」
部屋の前で立ち止まり、優子ちゃんにそう紹介をする。
「いよいよ、みどりさんのお部屋に」
「そんな大層なものじゃないから……。どうぞ」
苦笑を浮かべた後私は、扉を開け優子ちゃんを室内に
「お邪魔します」
「奥のクッションに座って」
「はい……」
落ち着かない様子のまま、優子ちゃんは私の言う通り部屋の奥に進み、クッションの上に腰を下ろす。
それを見届けると、私も手前のもう一つのクッションに座る。
「特に面白みのない普通の部屋でしょ」
「いえ、そんな……」
口ではそう言うものの、優子ちゃん気を遣っているのは声と表情からして明らかだった。
基本的に私には、趣味や収集
「本もあまり置いてないんですね」
「高校入るまでは結構読んでたんだけどね。当時はほら、図書館や図書室で借りてたから」
中学の時は自由に使えるお金が今とは比べ物にならない程少なく、とてもではないが月に何冊も本を買う余裕はなかった。高校生になりお
とはいえ、私の部屋に本はそれなりに置いてあり、読まない人間に言わせると充分ある状態らしいので、
なぜだか知らないが、大抵の人は私の事を読書家だと
ふいに、誰かがこちらにやってくる音と気配がした。そして、外側から扉がノックされる。
「はーい」
立ち上がり扉に近付くと、私はドアノブを回しそれを引いた。
「お待ちどおさま」
そこには、お
「ありがとう」
お礼を口にし、私はお盆を受け取る。
あえて、母の顔付きについては触れない。この場合、触れたら余計に面倒な展開になる事を私は今までの
「なんの話してたの?」
「別に、なんでもいいでしょ」
母に背を向けテーブルの方に向かうと、私はお盆をその上に置く。
「えー。気になるー」
「はいはい」
用が済んだのに全然帰ろうとしない母を、私は扉を閉める事で物理的に
「え? ちょっ――」
さすがの母も扉を開けてまでやり取りを続ける事はせず、程なくして足音が階段の方へ遠ざかって行った。
「明るいお母様ですね」
「騒がしいの間違いじゃなくて?」
そう言って私は振り返る。
「元気な証拠ですよ」
「物は言いようね」
苦笑を浮かべると私は、テーブルに近付き手前のクッションに腰を下ろす。
お盆の上のカップとお皿を、それぞれの前に移動させる。カップの中身はコーヒー、お皿に乗っているのはショートケーキだった。後は、フォークとフレッシュが一つずつ。
「優子ちゃん、
「はい。あっ」
フォークに手を伸ばした優子ちゃんが、途中で何かに気付いたようにその動きを止める。
「どうかしたの?」
「お
「食器を返しに行く時に、私から渡しておくわ」
「お願いします」
まぁ、あれだけ緊張していれば、忘れるのも無理はない。
今もまだ緊張しているみたいだし、早くこの場に慣れるために私の方から何かアプロ―チをしてみるか。
とはいえ、一体何がいいんだろう?
うーん……。こういう時に打ってつけの物……。あっ。
「ねぇ、優子ちゃん」
「……はひ?」
ちょうどケーキを口に入れたタイミングで私が話し掛けたせいで、優子ちゃんの返事はひどく
「それ食べ終わったら、ゲームやらない?」
「え? ゲーム、ですか?」
ゲームは国境を
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