第7話 帰宅――そして、本音

 正直、あのドライブの出来事からずっと彼女のことを避けている。

 僕に対する気持ちもそうだが、何より嫉妬からくる異常な行動についていけなくなっているというのが大きい。

 何かに誘われたりしても、就活を理由に会うのを断っていた。

 ただ、就活を積極的に進めているのは本当で、今回の面接で受けた企業から内定を貰っている。

 帰宅する時も、彼女がいないか確認してからマンションの中に入るようにしている。無論部屋の前で待たれていたら意味が無いが……。


「おかえり。斗真」


 抱いている不安を察知でもしたのか。

 ドアの目の前に、シャノンが立っていた。

 帰宅した僕を迎えるような、優しい笑顔を浮かべている――が、目の奥が笑っていない。まるで顔全体が凝固したような、そんな笑顔だった。


「今日は遅かったね……大学の授業もほとんど無かったはずなのに……何してたの?」

「しゅ、就職活動だよ。色々やらなくちゃいけないことがあるから大変なんだよ……」


 咄嗟に目を逸らして答えてしまう。

 嘘では無いが、本当でもない。


「ふーん……どんな業界を受けてるの?」

「主にIT系とか……語学力って意味なら外資系とかも狙ってたりしてるよ」

「……今日はどの会社に行ってきたの?」

「い、色々だよ……」

「色々って? 具体的には? 面接でどんなこと訊かれたの?」

「なっ……」

「行った会社の社風は? 面接官はどんな人だった? 今の時代、少ないかもだけど、圧迫面接とかされた?」


 矢継ぎ早に質問を繰り出してくるシャノン。

 表情は先程からの目の奥が笑っていない、固まった笑顔のまま、唇だけを動かして訊いてくる。


「な、なんでそんなこと教えなきゃいけないんだよ……!」

「斗真の話ならたくさん聞きたいんだもん。ねぇ、どんな会社だったの? もし入社したら長く勤められそう?」

「いや、だから――」


「もしかして――嘘吐いたの?」


 曲がりなりにも笑顔を浮かべていた美貌が歪み、能面のような不気味さを表出させる。


「アハハハハハッ!! そっかー!! 嘘なんだ!! 酷いなぁ……斗真、私に嘘吐くなんて……」

「う、嘘なんて――」


「――嘘だよね?」


 誤魔化そうとした矢先、ピシャリと否定された。


「昨日も今日も、大学終わってからずっと家にいたよね!? 私知ってるんだから!」

「……っ!」


 沈黙が流れる。

 永遠に続くかと思われたそれは、シャノンの痛ましく、辛そうな声音によって突き破られた。


「大きな声出して、ごめん……でも嘘を吐いたり、黙って避けたりはしないでほしいの……嫌だと思うことがあるなら言って……」


 そこまで言われて、僕も覚悟が決まった。

 やはり、彼女に対して抱えていた不安や恐怖をはっきりと口にしよう。


「僕の事を好きだと言ってくれたのは、嬉しい。でも……嫉妬したりするとすごく怖くて近寄りがたくなるし……暴走して他の人を敵視したり、ドライブの時みたいなことをされるのは、もっと怖い」

「……」

「近くにいるのさえ、緊張するくらいなんだ。――だから、シャノン、君の想いには応えられない」


 言いたいこと、思っていることを吐き出しきる。


「そっか……」


 僕の言葉を聞いて、シャノンは取り乱すでもなく、怒り狂うのでもなく、ただ坦々と頷いた。


「フラれちゃったんだね、私」

「……本当に、ごめん」

「わかった……でも最後に、今日は……今日だけは斗真と一緒にいたいから、今から私の家に来て。それで最後にするから。本当に最後だから……!!」


 今にも泣きだしそうな顔を見て、同情の念が顔を出す。

 最後くらいは、我儘を聞いてあげよう。


「わかった……今からシャノンの家に行くよ」

「……ありがとう。斗真はやっぱり優しいね」


 こうして、二人だけの夜が始まった。

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