第4話 課外活動と打ち上げ、そして……
「リンゴは英語で、Appleだよー! バナナはBanana! 最初のnaを強く言おう!」
「Jack can swim. ――ほら、ジャックくんは泳げるんだよー。見て見てー! お魚さんと同じくらいはやーい!!」
「Twinkle, twinkle, little star. How I wonder what you are――そう! わかった子もいるよね。これはきらきら星を英語で歌った時の歌詞なんだよー! 私が教えるから、皆で一緒に歌おうねー!」
語学サークルの活動の一環である、幼稚園での課外活動。
定期的に開催されるこの活動は、幼稚園の子供たちに英語に触れさせて、興味関心を広げていくという理念の下で行われている。
今回の活動はシャノンのデビュー戦というわけなのだが――
「せんせー、えいごしゃべるの、すごくじょうずー!」
「ほんとー? 嬉しい! ありがとー!!」
子供たちと戯れるシャノンの様子を見て、驚きを禁じ得ない。
英語の絵本や子供向けの本を読み聞かせながら、和気あいあいと触れ合って教えている。発音も綺麗で、傍から聞いている僕たちにとっても聞き取りやすい。
加えて、ちょっかいを出してくる子供にも笑顔を絶やさずに面倒を見ており、外部から招聘された英語の先生というよりも、本当の幼稚園の先生なのではないかと思うような振る舞いを見せている。
「シャノン先生、さようならー!!」
課外活動が終わる頃、子供たちの元気な声が響き渡る。
どうやら相当懐かれていたようだ。
初めての彼女の課外活動は成功したと言っていいだろう。
幼稚園を後にして最寄り駅に到着する頃には、すっかり日も暮れていた。駅前にはぽつぽつと家路につくサラリーマンや学生らしき人影が喧騒を奏でている。
「みんな今日はお疲れ様!! この後打ち上げでイタリアン居酒屋予約しているので参加する方は集まってください」
部長――いや、この場合はサークル長という名称が正しいのか――が、打ち上げ参加者の再確認をする。
あらかじめ出欠は取っていたようだが、急遽不参加というメンバーもいるからだろう。
課外活動の後の恒例の打ち上げ――まあ要するに、早い話が飲み会である。
当日来店人数変更可能で値段もリーズナブル、だとか。
部長、いいお店を見つける才能あるなぁ……。
駅から少し歩いたところで、件のイタリアン居酒屋に到着した。
どうやら飲み放題プランがあるらしく、参加したメンバーはどこかテンションが高そうだった。
打ち上げが始まってから30分もしないうちに賑やかになってきた。
「やっほ~。斗真、飲んでますかー!?」
テンションの高いシャノンがグラスを持ちながら僕の肩にしな垂れかかってきた。
「飲み過ぎないようにね」
「大丈夫大丈夫。私お酒強いから」
「はぁ……」
「そういう斗真はあんまり飲んでないみたいだね」
「僕はそんなにお酒強くないから」
「佐野君もあんまりお酒飲まないんだね」
近くにいたのであろう佐々木さんが会話に入ってきた。
「うん、そうだねー。そこまで不味い、と感じる訳ではないんだけど、無理して飲まなくてもいいかなー、って」
「私もそんな感じ。あと、お酒よりも美味しい食べ物のほうが好きかも」
「ああ、確かにそれは言えてる。僕もそっちの意見寄りだと思う」
よかった。佐々木さんも似たような考えの持ち主のようだ。あんまりお酒を飲まない僕が参加することで雰囲気がしらけてしまったらどうしようかとちょっとだけ不安だったから。サークルのみんな優しいから、そんなことはないと思うけど……。
「――ねぇ、斗真、私何だか飲み過ぎちゃったみたい」
それまで静かだったシャノンが、神妙な面持ちのまま口を開いた。
「えっ、さっきお酒強いとか言ってなかった?」
「そうでもなかったみたい。帰るの不安だから、送っていってくれると嬉しいな」
「でも――」
応えに窮している僕の腕を引っ張ってそのまま席を立つシャノン。
「え、ちょ――」
困惑と驚きを隠し切れない佐々木さんを一瞥もすることなく、店の入り口近くにいた部長と2、3言葉を交わすシャノン。
「おお! 事情はわかった。気を付けてな。佐野、頼んだぞ~」
それだけ言うと、そのままお店を後にした。というか僕の場合はさせられた。
「とりあえず、タクシーを拾って、自宅まで戻りましょう」
それからしばらくして――
マンションへと戻ってきたのだが、シャノンは自分の家に戻ることはなく、さも当然のように、僕の家へと一緒に入ってきた。
靴を脱いですぐ、一目散にシャノンはベッドにダイブした。
「い、いきなりどうしたのさ……酔ってるなら、自分の住処に戻りなよ……」
酔っていないのはタクシーに乗ってた時から薄々感じていたが、目的がわからなかったので素直に問いただす。
「ん~? いや、別に斗真と飲みなおしたくなっただけだよ~」
「ええ……さっき飲みすぎちゃったかもしれないって言ってなかった……?」
「ああ、アレ、嘘」
悪びれもせず、あっけらかんとシャノンは告げた。
「――斗真と二人きりになるために、嘘ついちゃった」
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