第129話 ある者の影

〜エルフ〜


私は上半身だけ起こして、リーナに後ろから抱え込むように抱かれてる。


「いい匂い…」


頭を一定のペースで撫でられ眠気が襲ってきた、

この光景を神様が見たら、鼻血を出しながらカメラで録画してテンションが上がるって酷いことになるな。


「んー、そろそろ服変えよっか!」


唐突だなぁ…


「お姉ちゃんに似合う服があったんだよー。

ちょっと寒いかもだけど…」


神様が作った服だろうし、露出激しかったりコスプレだったり…

私はどんな服を着させられるんだ。


「はーい、首輪見せてね〜?」


「ん…」


着替えるだけなのになんで首輪なんだろ…

この前のゲームのせいで首輪見せるの怖いんだよ、エルフボディも少し震えちゃう。


「もう〜、怖がらなくていいのに〜!」


「う…ごめん、ね…」


またまた撫でられる。

めっちゃ安心するよ、これ絶対に魔法使ってるよね。


「ちょいちょいって変えてあげるからね。」


カチッ


ボタンを押した音が聞こえ、肩の辺りが少し肌寒くなる。


「え…!」


着替え終わってるし!

流石は神様、無駄に高性能な道具しか作らない。


私が着てる服は…なんだこれ?

肩が出てて、ドレスっぽいけど…

さっきまで着てたワンピースの肩露出が増えた感じで、色は薄めの緑で邪魔にならないぐらいの装飾がついてる。


「ちょっと、寒い…」


「やっぱり?

でも私と一緒に過ごす時は基本それ着てもらうから我慢してね。」


「…うん。」


私の一言で、なんとなく嫌な空気になりつつもリーナは全く気にしていない、また首輪に手を回す。


カチッ


肩の肌寒さが消えて暖かくてモコモコする。


「んぅ…?」


うわ!めっちゃモコモコ!

雪が降って寒い地域で着る服みたい、鏡が無いから詳しくは見えないけど、フワフワのボールが沢山ついてて多分可愛い系の服。


「わお、こんな服入ってたんだ〜。」


「モコモコ…」


「いいね〜、可愛い。」


暑くなってきた。

やばい、この部屋は少しだけ肌寒いとはいえ、こんなモコモコ着てたら暑くなる。


「暑い…」


「あ、ごめんごめん。

直ぐ変えるね〜。」


カチッ


「ふぅ…」


服が変わる、これは暑さも寒さもいい感じ。

さっきまで暑かったから息切れしてるけど。


「似合って…ひっ!」


「……」


リーナに服装の感想を聞こうとしたら、凄く怖い真顔だった…

わからない、なんの地雷に触れたんだろう。


恐怖を表に出さないようにしつつ見つめ合う。

いや正しくは私がリーナの眼を見てるだけ、リーナは私を見てない何か別の物を見てる。


「ーーー…」


「…?」


エルフボディでも聞こえないぐらい小さな声でボソボソなにか言ってる。


「大丈夫…?」


声にも反応がない。


リーナを引き寄せて抱きながら頭を撫でる。

色々と過激なところもあるけど、優しい子だって事はわかるから


少しでも楽になれば良いなって。


カチッ


リーナが首輪を操作して服を変えた。

でもリーナの状態は変わってないから殆ど無意識っぽい。


「いい子、いい子…」


ーーーーー


お世話係のお姉さんが来てから、ご飯4回分。

お姉さんは何も話してくれないけど、1人でいた時より気持ち的に楽な気がする。


『……』


椅子に座ってボーッとしてる。

私が動くと少しだけ怯えた目を向けるから、なるべく動かないようにしてるの。


グ〜


あ、お姉さんお腹空いたのかな?

私も偶にご飯貰えなかった日とかなるし、お姉さんは私よりおっきいから足りなかったのか。


仕方ない、隠してたお肉あげよう。

リーナは硬い!って言ってたけど私にあげられるのはコレしかないから。


『…な、なんですか?』


『……』


お肉を差し出す。


『…要りません。』


さらに近づく。

お姉さんは手を伸ばせば触れるぐらいまで近づいても何も言わないし、私を見ようとしなかった。


だけど身体は細かく震えてた。


『要らないって言っているでしょう?!

なんなのよ!』


近くで何をするでもなく、お肉を差し出す私に我慢の限界が来たのかお姉さんが叫ぶように怒鳴る。


『私が悪いの?!』


お姉さんの顔は苦しそうで、悲しそうで…

目から溢れ出る涙を止めてあげたいのに、どうしたら良いかわからない。


『王族の専属メイドを任されるぐらいになるまで、私は努力したの!

それなのに王女様が、貴方なんかと会ってて…』


お姉さんの言葉は、私には理解できないのが沢山あった。

ただ一つだけわかるのは、


『ちゃんと見てないからだって、よりにもよって元凶で忌子のお世話係になるなんて…

全部貴方のせいよ!』


私のせいでお姉さんは苦しんでるってこと。


『わかったら私に近寄らないで!

呪いたければ呪えばいいわ、貴方と一緒に永遠に過ごすぐらいなら苦しんででも死んだほうがマシ。』


『……』


そうだったよ、忘れてたんだ…


リーナと関わって

楽しい時間があって

初めての事を沢山知って

リーナの心地良い視線と感情を沢山感じて幸せで…


だけど私に向けられるのは嫌な感情だけなんだ。

昔から言われ続けたじゃないか、

不吉な忌子、王族の恥だってさ…

そんな当たり前だった事を、今やっと思い出したんだ。


『なんで、なんでぇ…

王女様は利口で可憐で、なんでこんな事に…』


ははは…

楽し事を知ってると、嫌な事は苦しくなるんだな…


ふらつきながらもベットの上へ。


ポタ、ポタ…


今日は初めて心から泣いた日。


そして…


心に傷がついた日。


ーーーーー

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