第112話 うん、喜んでる

〜エルフ〜


着いてきた事を激しく後悔している。


大きめの机を囲うように10人と1人が椅子に座ってる。互いに探るような目で見てるし、誰1人喋らず、椅子に座ったまま。

凄まじく気まずい空間の完成である。


「「「……」」」


なんか喋ろ?!

え、なんか…えぇ…


流石のエルフボディでも、この空気には耐えられなかったようで、朱音さんに話しかけるのを途中で辞めた。

大人しく、朱音さんの腕の中で寝たふりをしてよう。


「師匠、少しお話し良いですか?」


「え…あ、はぁ、どうぞ。」


この空気の中動けるのすごいな。

でも、そのオールバックは似合ってない。朱音さんの弟子ならダサいのはやめてほしいね。


「今回は、オススメの訓練方法を教えていただきたく。」


目がすっごくキラキラしてる。


「あの、その前になんで師匠?」


「それはですね。

俺、いや私は師匠に負けるまで調子に乗りすぎていました。髪を金に染め、ピアスを開け、弱い者をイジメる、そんな最低な奴でした。」


それは最低だな。

このテーブルに居るってことはそこそこ強い筈だし、力を手に入れて調子乗っちゃったパターンか。


「でも、師匠にボコされて目が覚めました。

私は気づきました、本当に強い者は力を誇示したりはしません、能ある鷹は爪を隠す、正に師匠の為の言葉。」


「ハハ…」


饒舌に話し続けてる。

朱音さんから乾いた笑いが聞こえた。顔見えないからわからないけど、多分目から光が消えてってるんだろうなぁ。


「私は一度死んだのです。

あの日師匠に敗れて、そして同時に生まれ変わりました。貴方に憧れ、そして貴方のような生き方をしたいと。」


「「……」」


「私にその生き方を、教えてください。」


弟子になる許可、朱音さんにとってなかったんかい!

てか周りシーンってなってる。話してる時、凄まじい圧だったからね。


ギュ…


腕が、キツくなった。


「弟子の件ですが、お断りさせていただきます。」


「な、何故でしょうか?」


「まず私はチンピr、貴方の事を詳しく知りませんし、急に喧嘩売られた相手としか認識してません。」


チンピラって言いかけた?

今は違うけど、さっき言ってた特徴の姿で調子乗ってたなら…

うん、チンピラだね。


「……」


チンピラは俯き、黙ってしまった。

周りからは何故かこっちへ視線が集まる。責めるような視線ではないけど、なんとかしてあげて欲しい、みたいな視線。


「…なるほど!」


「グェ…」


急に大声出さないでよ。

朱音さんが驚いて、私が締め付けられちゃってるから!


「私はまだまだ未熟ということですね!」


ん?


「私をチンピラと呼んだのも、姿が変わっただけで本当の意味で本質がまだ変わっていないのを見抜いてくれたんですね!」


なに言ってんだこいつ…


「は?」


朱音さんもわかってないよ。


「まだ、私は未熟!鍛え直してきます!」


すごいスピードでどっか走ってった、あの速さは多分魔法で強化してる。


「「「……」」」


あのチンピラはなんだったんだろ?


「……」


で、また無言空間。


仕方ないなぁ、一応社会人だった私が一肌脱いであげよう。


(誰か〜。)


(はーい、どうしたリース。)


お、女神様口調戻ったんだね!


(おめでと…)


(ありがとう!それでどうした?)


(トランプ、使いたい…)


(ん?わかったよ、ポッケに転移で入れとくからね。それとケルベロスは出てないから安心して。)


(うん、ありがとう…)


ふぅ…

今思ったんだけど、トランプの為だけに女神様呼んだのか。私すっごく失礼な事したな。


「朱音、ちょっと離して…」


「え、はい…」


めっちゃ落ち込んでる?!

ごめんよ。トランプ出すのなんて、すぐ終わるから許して。


「よし…」


「トランプ、持ってきてたんですか?」


「うん…」


でも、どうしよう。

取り出したはいいけど誘えるかな?


なんとかするとは言ったが、エルフボディじゃ緊張しすぎて誘える気がしない。


「むぅ…」


誰か誘いやすそうな人…


このテーブルに居る人は…

探るように見てくる4人

興味無さそうな3人

消えたチンピラ1人

めっちゃ見てくる女の人1人

朱音さん


よし、女の人を誘おう。


「やろう…」


「良いですよ、何しましょうか?2人だし…」


いやいや朱音さん。

誘いやすそうな人が居るじゃないですか、朱音さんが2人って言った瞬間、

誘ってくれないかなぁ

って視線に変わったし、誘えば絶対成功する。


「違う、3人…」


「友美さんは仕事中ですよ?」


「任せて…」


女の人の元へ、殆ど反対側だから歩いてるんだけどめっちゃ見られる。


そういえば自己紹介してなかったな、それで警戒されてる?!


「トランプ、やろう…」


「は?私ですか?」


めっちゃ美人だし目力強!

顔見た時は、この人が朱音さんに言ってた性格の悪い美人かと思った。

だけど声かけた時、喜んでる雰囲気あったから違う人。


「こっち…」


「ちょ、ちょっと!」


声大きいし、怒ってるのかと思うぐらい語尾が強いけど、エルフボディは誤魔化せません。


喜んでます。


「何、やる?」


「私まだやるって言ってないんですけど。まぁ、なんでもいいですよ。」


ツンデレかよ。


「朱音、3人目…」


「あのリースちゃん…うん、やろうか。」


朱音さんどうしたんだ?

怖がっ…てるのとは違う。


「んー…」


まいっか!


「私が、ディーラー。」


おいエルフボディ、私は簡単なジジ抜きとかやろうと思ってたのに、ディーラーが必要な奴やるん?


「ディーラー?それってカジノとかに居る人の事ですか?」


「うん」


「あの、簡単なやつで良いんじゃない?」


「わかった…」


特に粘らずディーラーは終了。

エルフボディ渾身のボケだったのか。


「じゃーん、けーん、ポン!」


「私からですね。」


さぁみんな、いつでも声かけてきていいんだよ?

トランプやりながら待ってるから。

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