第100話 あぁ、死んだかも…

白仁朱音しらにあかね


もう帰りたいです…


「た、体調悪くなっちゃいましたか?!一応、医者が常駐してるので、診てもらいます?」


「あ、大丈夫ですよ…」


ここに居る人達、堂々と詠唱してるなぁ。

此処にいるのは、ざっとみた感じ80人くらい。知り合いは近くには居ない。


「なにしてれば良いですか?」


「えっと、教官?が来るまで自由時間です!多分…」


わかってないのかい!

少し強い口調で、しっかりしてください!って言いたいんだけど、


「うっ…の、飲み物入りますか?」


「大丈夫ですよ。」


なんか言いづらい、頑張ってくれてるのが伝わって見守ってあげたい気持ちが…

ナインさんの方が年上なんですけどね。


「ナインさんの事、教えてもらえませんか?」


「え!な、ななんで?」


「仲良くなれたら嬉しいな、と…」


私が小学生の時にきた転校生みたいです。

あの子は緊張してたのと、不安が混ざって、上手く喋れてなくてクラスメイトから遠巻きにされちゃって…

私の後悔の1つです、声をかけてあげればよかった。


「好きな事とか。」


「好きな事…お父さんです。」


それは好きな事というより、好きな人ですね。


「お父さんは!」


おぉう、ビックリ。


「優しくて、あったかくて、良い私じゃなくてダメな私でも、愛してくれて…」


柔らかい笑み、色々あったんでしょう。


「だから、大好きなんです。」


「そうなんですね。」


「はい!と、椅子探しませんか?立ちっぱなしで話すの、疲れますし…」


「そうですね。」


人多いですし、椅子があっても誰かしらに座られて空いてないかもしれませんね。


「おい。」


あー、壁側にベンチありますが全部使われてますね。

あんな小さい子も魔法使いになったのか、身長的に小学生かな。


「無視すんな!」


「ピィ!」


「は?」


いかつい声だったので、聞こえないフリしてたら肩掴まれました。

相手の姿は金髪にピアス大量、絶妙にダサいファッション、どうみてもチンピラです。


「なんですか?」


「初めてみる顔だが悪くない、俺の傘下に入れ。」


は?

なに言ってるんでしょうか、このチンピラは。


「………」


「ボディーガードの顔も悪くねぇ、気に入った!」


ナインさんにも絡んでる。護衛としての意地なのか、さっきまでのオロオロした少し頼りない姿はない。


「で?なんですか?」


「あ?少しついてこいって言ってんだよ。」


ナンパって奴ですかね?

ていうか、周りのスタッフとか警備員が止めるべきだと思うんだけど…

視線向けると、みんな逸らすから自分達でなんとかしなきゃダメですね。


「早くしろ!俺は此処で1番強い、大人しく言う事聞いておいたほうが身のためだぜ。」


どうしたらいいんでしょうか。

言ってる事はただのチンピラですが、これでも魔法使えるみたいですし、ナインさんに任せるのも不安ですね。


透明ボールの全力投球ならやれるか?


「早くしろって、言ってんのが聞こえねぇのか?!」


いや、やるしかないですね。


「さっきから黙って聞いてれば、語彙力小学生以下かよテメーは?!」


「「「!」」」


な、ナインさん?

貴方はそんなキャラでしたっけ?周囲の人達もビックリしてますよ。


「魔法使えない護衛如きが、一桁の俺に楯突くのか?」


「一桁って、9位じゃないですか。」


ランキングとかあるの?

初めて知ったんですけど、どういう基準なんでしょうか。


「それに、私の横にいる白仁さんは3位ですよ?貴方如きが話しかけていい相手じゃないんです。」


「は?」


ザワザワ ザワザワ


やったー、私3位〜…

周囲の人達が騒ついてる、なんか凄いとかカッコいいとか聞こえるなぁ〜。


「マジか。まさか謎の3位がお前みたいな女だとは思わなかったぜ。」


もう一回言っとくけど、初めて知ったよ?!

なんだよランキングって、取り敢えず基準を教えろよ、そして私はいつの間に3位になってたの?


「模擬戦しようぜ、お前みたいな訓練殆どしてない雑魚でも倒せば俺のランキングが上がりそうだ。」


「白仁様、やってやりましょう!」


嘘でしょ?

ナインさん、それは護衛としてはダメでしょ。


「ハッハッハ、それは面白そうですね。」


誰だろ。

スーツ着た男の人が近づいて来た。


「まだ揃うまで時間がありますし、やってみてはどうでしょう?」


「そりゃ良い。」


よくねぇよチンピラ。

なんとかして阻止しないと…!


ーーーーー


『謎に包まれていたランキング3位、拳で成り上がった9位の試合が始まります!』


ダメでした。

途中から入ってきた男の人、かなり権力者だったみたいでゴリ押しで試合決定してしまった。


気づいたらパイプ椅子大量に設置され、審判までいます。


「派手に怪我しても魔法で治されるからな、死にはしないが痛い目には会ってもらうぜ。」


透明ボールだけで、頑張ろう。

痛いのは嫌だなぁ…


「はは…」


『おっと白仁選手!余裕の笑みを浮かべています!』


そういう笑いじゃないよ!


『両者、位置についてください。』


はぁ…


「白仁様〜!頑張ってくださ〜い!」


私は止めるどころか相手を煽った貴方を許しませんよ、ナインさん。

この件は友美さんに相談の後、然るべき処分を求めますからね。


『では、始め!』


「オラァ!」


あぁ、死んだかも…

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