控え室



教会で誓いの言葉を述べた私達は晴れて夫婦となった。


私はもう王女ではなく、公爵夫人なのだ。



満天の青空の下行われた披露宴では多くの方々から祝いの言葉を貰う度にハルト様と二人で照れくさい気持ちになる。




「おめでとう、ミリアさん」


「バーバラさん!ありがとう」



久しぶりに会う友人の姿に嬉しくなり、ハルト様と組んでいた腕を離して、彼女の手を握りしめる。



「…なんだか、たくさん大変な思いをしたあなたが幸せそうで安心したわ」


「ええ、ありがとう本当に。バーバラさんがいなかったら、敵も味方もわからないあの学園で私はぽっきり折れちゃってたかもしれないわ」


「そうねえ、本当に本当にあの時は辛いことばかりで、あなた毎日酷いクマをつくって通学してきていたものね。必死に化粧で誤魔化そうとしてたけど」



バーバラさんは私と話しているのに、何故かハルト様をじっとり見つめながら言葉を続ける。



「最強の勇者様の失態に、学園のまともな殿方達が影でこぞってミリアさんを狙い始めていたのが懐かしいわ。失礼だけど、あなたの旦那様なかなか頼りがいが無さそうよ?本当に大丈夫なの?」



どうやらバーバラさんは私以上にあの件を引きずって、怒ってくれているらしい。


どこまでも私の気持ちを思ってくれる大切な友人に出会えたのだから、あの学園もそう悪いものではなかった。




「ミリア、この方が君がよく話してくれるバーバラ嬢かな?」


「ええ、大切なお友達よ」




「そっか。ありがとうバーバラ嬢。#今まで__・__#ミリアにとても良くしてくれたみたいだね。不甲斐ないところばかり見せてしまったようだけど、これからは僕がしっかりミリアを支えていこうと思ってるから心配しなくても大丈夫だよ」


「…あら、これからも私とミリアさんは親友だから気にしないでくださいな。今まで通りミリアさんの悩みや旦那様の愚痴なんかは私がしっかり受け止めて慰めてあげるつもりですわ」



なんだか二人の間でバチバチと火花が散っている気がするのだけど、気のせいかしら。




「そう言ってくれると心強いよ。まあきっとそんな機会は来ないと思うけど。不安や悩みなんてわかないくらい、ミリアにはしつこく愛情を注いでいくから」


「そう、せいぜい頑張ってくださいな」



微笑みあう二人が今までで一番怖く思えるのも、きっと気のせいよね。



「ではバーバラ嬢、僕らはこれで失礼するよ。僕らに挨拶したい紳士淑女の皆がそろそろ行列を作ってしまいそうだから。一度控え室に逃げてしまおうかな」


「バーバラさん、またお茶会でもしましょうね。今までもこれからも、あなたとはずっとお友達でいたいから」


「ええ、勿論よ。また今度改めてお祝いもさせてもらうわ」



バーバラさんにお礼を述べると、私はハルト様に手を引かれて控え室に戻るのだった。




「おかえり、ミリア」


「やっと戻ったのか!疲れてないか?」


「姉上、美味しい菓子と紅茶もすぐ用意させますね」



どうして私の控え室に、兄様達やユリウスが我が物顔で集合しているのだろうか。


隣にいるハルト様も笑顔のままで固まってしまっている。




「ふむ、そのように二人が並んでいると確かにお似合いとも思えるかもしれないな。見た目だけだが。オーツ公爵は容姿だけは整っているから、我が麗しい妹と並んでも遜色ないというのはなかなかのものだ」


「生憎私達は最愛の妹を傷つけられたことを当分許す気にはなれないが、ミリアが幸せならこの苦汁だって甘んじて飲みほそう」


「がぶ飲みだ、がぶ飲み」



兄様達は相変わらず家族以外に厳しいのだ。




「…ありがとうございます」



げんなりしてしまうハルト様だが、引け目があるのか返す言葉もないみたいだ。


少し可哀想に思えてしまう。



ここで私が庇ってしまうとより一層兄様達のネチネチ攻撃が苛烈になってしまうから口を挟むことはできないけれど。




「兄上達もあまりオーツ公爵を虐めては姉上が悲しみますよ」


「ユリウス、あなたなんて良い子なの…」


「僕は姉上が大切ですから、姉上の大切な方のことも尊重したいだけですよ」



にっこり笑ってそう言うユリウスに感動と愛おしさが溢れて止まらない。


隣国に留学してそんなに経っていないのに、すごく大人になっている気がする。




「ユリウスはなんと言うか…今まで以上にあざとくなっていないか?そういうところも可愛いのは変わらないが」


「そうだな、あざと可愛いな」


「同感です兄様」



こくこく頷いて同意を示していると、隣から伸びてきた腕に抱き寄せられる。



「どうしました?ハルト様」


「今日は僕らの結婚式なんだから、ミリアは僕だけ見てて欲しいなって」



…ここにも可愛らしい人がいました。


拗ねたような声がなんというか、母性本能を擽られる。



「今日のハルト様はなんだか素敵すぎて、あまり直視できません…」


こんなにかっこいいタキシード姿をじっくり見れないなんてもったいないことだけど、視界の端に映すことで正直精一杯なのだ。



「そうなの?だったら尚更僕を見て、たくさん惚れ直してもらわないとね」


「うっ」


この人の笑顔は殺人級だ。




「ということで王家の皆さんはさっさと控え室から出ていってくださいね。花嫁の部屋に入るなんてマナー違反ですよ」


どの口が言うんだ。




「やれやれ、妹の花婿殿は随分と嫉妬深いらしい」


「ミリア、いつでも戻ってきていいのだからね。私達は王宮で君の帰りを待っているよ」



「姉上!隣国に戻る前に一度食事にでも行きましょうね!」



そう言って彼らは、意外にもあっさりと控え室を出ていくのだった。


いつもならもっと粘りそうなのに、不思議だ。




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