第2話
お兄ちゃんはずっと恋愛に興味がないと思っていた。
別に兄妹で恋バナをしたことがあるわけではないが、健二に彼女ができたことは今までに一度もない。それどころか女子と仲良くしているところすら燈は知らないほどだ。
そんな兄が「モテたい」「恋人が欲しい」と男子高校生としてかなり普通なことを言ってきた。
燈にとっては嬉しいような、少し焦りが出るような不思議な感情に襲われた。
「ほんと……お兄ちゃんの、バカ」
部屋に戻った燈はベッドに横になると、込み上がる想いを抑えるように枕をギュッと抱きしめた。
さっきまで自分の言動を振り返る度に、恥ずかしさと嬉しさが。健二の恋人が欲しいという言葉に、不安や寂しさ、怖いという感情が燈の中で混ざり合う。
そう、柳井燈は兄である健二のことが好きなのだ。
幼い頃からの初恋の相手であり、現在進行形で想い人である健二。そんな彼とは兄妹である以上、付き合うことはできない。それを幼いながらも知った燈は、段々と健二と距離を取るようになり、いつかこの自分の恋心が消えることを祈って日々を過ごしてきた。
いつか私にも普通の恋ができる日が来る。
しかしそんな考えは、きっと健二がこれまで女っ気のない人間だったから生まれた浅慮だったのかもしれない。
現に燈は、健二の言葉を聞いて焦ったのだ。ずっと大好きな存在である兄に彼女ができることを想像した途端、胸が締め付けられるような苦しみが生まれた。
お兄ちゃんに彼女ができるなんて嫌! お兄ちゃんを誰にも渡したくない。
ずっと誤魔化し続けてきた自分の気持ちが、騙せなくなった。
「私……お兄ちゃんのことが好き」
ポツリと静寂な部屋で呟く。
私の恋は叶うことはない。それでも、お兄ちゃんに協力する形で、側にいたい。もう自分の気持ちに嘘をつかずに、思うままに行動したい。ぶつかりたい。
きっとこれはチャンスだ。
燈は覚悟を決める。
今まで距離を作っていたけど、もうそんなことはしない。お兄ちゃんに、たくさんアピールする。それと同時に、お兄ちゃんにも協力すればいい。
胸の鼓動がうるさい。早く波打っているのが自分でも分かる。
とっくに深夜二時を過ぎているというに、一向に興奮は止まず眠気も襲ってこない。
次の日も学校だというに、結局燈が眠るより前に外が明るくなり始めるのだった。
恋人ができないことを妹に相談したら、妹がなんか積極的になった。 花枯 @hanakare
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