恋人ができないことを妹に相談したら、妹がなんか積極的になった。
花枯
第1話
もう高校三年生にもなった
恋人ができない、ことだ。
それは思春期だからこそ、同じ悩み持つ少年少女は多いだろう「恋人の作り方」について、健二は今日も頭をフル回転させていた。
「うーん……」
それはもう、今の高校の入試を解いている時のように眉間に皺を作り、真剣な眼差しをまっすぐテレビ横の真っ白な壁に向ける。
「モテとは……なんだ?」
ポツリと溢れしまった独り言に、近くを通りかかった気配がキュッと足を止めた。
「リビングで何やってるの……お兄ちゃん」
「あ、
柳井燈。同じ高校の一年生で、ただ一人の妹である彼女はまるでゴミでも見るような眼で健二を見下ろした。
「どうしたんだ、こんな遅い時間に」
「私は喉乾いたから、水飲みに来ただけ。それに今のセリフはこっちの方だから。もう夜中の一時なのに、一人リビングで、モテとは……とか独り言言ってる方が怖いんだけど。あとキモい」
おいおい、そんな酷いこと言わなくたって良いじゃないか。お兄ちゃんだって、真剣に悩んでいるのだから。あとヒドい。
燈は冷蔵庫からミネラルウォータを取り出すと、コップに注ぎゴクゴクと飲み干すと部屋には戻らず、どういう気まぐれか健二の隣に腰掛けた。
別に仲が悪いわけではないが、普段から「キモい」とか「は? 意味わかんない」とか「バカじゃないの?」とか言ってくる燈には珍しい行動と言えるだろう。
二人掛け用のソファにピッタリ並ぶ二人に、数秒の沈黙が生まれる。
「……んで? お兄ちゃん、彼女でもできたの?」
燈の方から切り出した。
「違う。むしろ逆だ。どうやったら彼女ができるのかなって考えてた」
「何それ、ウケるんだけど!」
深夜という時間帯の配慮なのか、声を押し殺しながら笑いを洩らす。
「高三男子が、深夜にリビングで彼女の作り方をマジで考えてるとか、めっちゃシュールなの分かってる?」
「そうなのか? だが、彼女が欲しいのは真実だ。俺はモテたことがない。誰かから告白されたことも、チヤホヤされたこともないんだ。けど、高三にもなって、そろそろ彼女くらい作りたいと思うのは普通だろ?」
「うーん、どうだろ。普通はもっと早くに欲しいと思うかもしれないけど、人それぞれだし……。でも、お兄ちゃんにも普通の男子っぽい感情があって私は安心したけどね」
「ん? どういうことだ?」
「だって、お兄ちゃん、なんか普通じゃないっていうか、ちょっとズレているっていうか、少し変だもん」
「変、なのか……」
健二は視線を落として自分の身体を見渡す。
「でも、お兄ちゃんって顔は悪くないし、その変な感じがなければ結構モテそうだけどね」
「そ、そうか?」
燈は、一年でありながら既に学校ではモテている。一年から上級生まで、既に何人かは燈に告白して玉砕しているほどだ。
そんな彼女が提言していることに、健二は謎に自信が湧いてきた。
「そうだ、お兄ちゃん。これはどう?」
「……?」
首を傾げる健二に燈は不敵な笑みを浮かべてこう言った。
「私が協力してあげる。どう? 私がお兄ちゃんをもっと私ごの——コホン、もっとモテる男にしてあげる!」
心なしか燈の眼が輝いているように映る。
だが、これは健二にとってもありがたい提案だった。
これなら俺にも彼女ができるかもしれない。
こうして俺と燈の不思議な協力関係ができたのである。
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