#4



― アマイア暦1328年桜の月4月14日 午後 ―

    <大都市ネゴル ギルド 相談室>



「…いてっ…………ふむ。じゃあこれならどうだ?………うぉっ…」


昼食を取った後、シュゼットが洗面所から戻り、相談室を覗くと、高野がソファーに腰掛けながらぶつぶつと呟いていた。


「ん?先生ぇ…………なにやってんです?それ。…ドM?」


見れば、彼は嬉々とした表情で細い針を何度も自分の左腕に突き刺しているではないか。そして机には銅のナイフまで置かれている。


「へ、変態ですぅ…ちょっとついていけません~」


「ま、待て、誤解だ!」


ひぃん、と小さく叫んで部屋から飛び出そうとするシュゼットに気づいた高野は、慌てて彼女を呼び止める。


「じゃあ、なんで針でチクチクチクチク、自分の身体を刺して喜んでるんですかぁ。フツーに絵的にヤバい人ですぅ」


「説明を…説明をさせてくれ…っと」


慌てて立ち上がろうとする高野はしびれを感じ、ソファーに再びストン、と腰を下ろす。


「説明ぃ~?」


疑い深い目で高野を見るシュゼットをなんとか引き止めて、向かいのソファーに座らせる。


「…スキルの実験をしてたんだよ」


「実験?」


高野は頷いてシュゼットに針を見せる。


「初心者講習で『狩人』の職業ジョブを選択した時に『麻痺攻撃』ってスキルを覚えたんだけど、武器や拳に効果を付与する以外のことができないかって考えててさ」


「ふむふむ…」


なんとなく面白くなりそうな雰囲気を察したのか、いつの間にか真剣に高野の話を聞くシュゼットに「例えば、これ」と、小さな瓶を渡す。


「なんですかぁ?これ」


一見、透明の液体が入っているようにしか見えない。


「一滴だけめてみて」


「…この文脈でめる人はバカだと思いますぅ」


シュゼットは目を細めて高野を睨むが、高野は「いいから」と促した。


「本当に大丈夫なんですかぁ?…んぅ?!」


シュゼットは目を丸くする。


ひたは舌がひたは舌がふまくうまくまはひまへぇん回りませぇん


「…麻酔だ。濃さを水で薄めれば戦闘中でも痛み止めとして使える。これは凄い発見だと思う。…『眠り攻撃』があれば眠剤や抗不安薬も作れるかも…」


目を輝かせる高野に、「む~~~~」とシュゼットが実験台にされたことを怒り、ポカポカと拳で叩く。


「いたたたた…ごめんごめん」


高野はシュゼットに謝る。口を膨らませて怒るシュゼットをなだめながら「じきに効果は薄れてくるから…」と言うと「あはひまへへふぅ当たり前ですぅ!」と再び怒鳴られる。


ほうひどどもう二度とへんへいほほと先生のことひんひまへん信じません!」


「ごめんごめん。お詫びに仕事終わりになにか甘い物おごるから」


ほーはつドーナツほーはつほドーナツをはふはん沢山はっへふははい買ってください!」


「わかった。何言ってるかわかんないけど、沢山買って欲しいのね。買う買う買うから…!」


シュゼットは高野にドーナツを奢らせる約束を取り付けたことで機嫌を取り戻し、「ほれへそれで?」と続きを促す。


「で、何にでも付与できそうだから、色んなことを試しているところです」


その笑顔を見て、シュゼットは「うわっ…悪そうな顔してますぅ」と心の中で呟く。時々、高野がなにを考えているのかわからなくて少し怖い。


「今やってたのは細い針で刺すのとナイフで斬った場合の効果の比較で―――」


はうほアウトほほそのひょうふほう表情はうほアウト!」


ナイフと針を持って笑う高野を指差してシュゼットは首を振る。


「結論からいうと…なんと同じ効果だった。切り傷の差もなさそう…これは結構凄い発見だと思う」


「…ほへ?」


首を傾げるシュゼットに「つまり」と説明を補足する。


「相手に『麻痺攻撃』を当てるのに大きな傷は必要ないってこと。こんな小さな針でも刺せば麻痺にさせられるんだ」


「ふむ?」


「次なる課題は『麻痺耐性』を持っていたり、レベル差がある相手を麻痺にすることができないか、だね。いくつか考えていることはあるけど、適当な相手がいないからまだ実験できてない。人体実験するわけにもいかないからね。…だから自分で試していたってわけ」


ほういうほとそういうことはっはんへふへだったんですね…はぐッ!?」


シュゼットはろれつが回らないまま喋り、舌を噛む。


「…あ、そうだ。シュゼット。この世界に毛生え薬ってある?」


高野はなにかひらめいたようにシュゼットに悪戯いたずらっぽい笑みを向けた。






― アマイア暦1328年桜の月4月14日 夕方 ―

      <大都市ネゴル 大通り>



「まったく、もうっ!!!」


元に戻ったシュゼットはプンスカと怒りながら袋に沢山入ったドーナツを1つ取り出しかじる。


「ごめんって。俺、『麻痺耐性』持ってるからさ、イマイチどれくらい効くのかわかりにくくて」


昼間の麻酔の実験台にしたお詫びに、仕事帰りに約束通りドーナツを山程買わされた高野はひたすら謝る。


かなり濃度も薄めた薬を1滴垂らしたなので、舌が喉に詰まって窒息ちっそくしたりはしないとは思っていたが、予想外に効果時間が長く、治った後に猛烈に怒られた。


これならばレベル2くらいの相手までなら、ある程度通用しそうな予感はある。


毛生え薬が売っている道具屋に案内しながらシュゼットは「…で」と切り出す。


「なんで毛生え薬なんて欲しがるんですかぁ?………はっ!!!先生ぇ…まさか…」


口に手を当てて目を細めたシュゼットは「お気の毒ぅ」と小さく呟く。


「いや、違うよ?…一応、そういうのも知りたくなってくる年頃ではあるけど、俺はまだフサフサしてる…よね?なんか、心配になってきた」


高野は喋りながら不安になってきたのか、シュゼットに頭頂部を見せる。


「あっ…………ああああああ!!!!…………あああ………」


シュゼットがなにかを見つけたような声を上げ、徐々に声のトーンを下げていく。


「なになになになに!?ない?もしかしてない?!ね、シュゼット!シュゼット!」


叫びながら近くの店の中にある鏡で自分の頭皮の確認をしようとする。


「………なにやってんの?タカノ」


道端で悲鳴に近い声をあげる高野に後ろから白い狼の獣人が近づき、呆れた声をあげる。


「ひぎゃっ?!………って、ぐ、グラシアナさん!?」


「久しぶり」


立っていたのは異世界転移したばかりの時、高野が世話になったオネエの獣人―――グラシアナだった。


彼女は金色のリングタイプのピアスをつけて、サングラスをかけ、ゼブラ柄のワンピース、ウエストには太いベルトを巻いている。その姿はバッチリ決まっており、さながら「お忍びの芸能人」のようだ。


「狼がゼブラ柄って…」というツッコミはあるものの、それを口にする勇気はもちろんない。


「…うちの店の前でなにしてるの?」


「店?………あ」


振り返ると、そこは確かに以前グラシアナがデザインした服が売っていると言っていた店だった。


「………え?うちの店?も、もももももも、もしかして『DiMitディミット』の…」


隣を見ると「あわわわわわ…」とシュゼットが震えている。


「かかか関係者さんですかぁ?店長さんとか?」


「ここの服のデザイナーだけど…あら、うちの店をご存知?」


その問いに対し、グラシアナが笑って応えると「あばばばばば…」とシュゼットが奇声をあげる。


「だだだだ、大ッッッッ好きです!!!えー!あそこの服のデザイナーさん?すげぇ!………ちょっと先生ぇ、そういうこと、早く教えて下さいよぅ!マジ、天上人じゃないですかぁ!!!」


興奮したシュゼットが高野の襟首えりくびを掴み、ぶんぶん、と前後に揺らす。しかし、高野は「それより俺の頭!ハゲてない!?」とシュゼットに半泣きで確認する。


「そんなのどうでもいいから、いいから早く私にこのお方を紹介してくださいよぅ!!!」


「…毛が抜けたくらいで大げさねぇ。私なんて冬はびっくりするほど抜けるわよ?」


グラシアナが呆れたような声を出す。


「季節の変わり目の生え変わりじゃないんです!!!」


それに対し、高野は泣きそうな声で抗議する。


カウンセラーにはスキンヘッドの偉人がいるが、ハゲたならば、いっそ彼をリスペクトして頭を丸めるべきだろうか、と真剣に検討を始める。


「ああ、めんどくさい。ハゲてねぇですよ。このハゲ!……昼間のお返しですぅ~」


「あ、酷い!ハゲてるの?ハゲてないの?!」


シュゼットの暴言に高野が抗議しつつ、尚も事実確認を行う。


「大丈夫。ハゲてないわよ」


イライラし始めるシュゼットに対し、怯まず詰め寄る高野、そしてその高野の頭頂部を確認し、コメントするグラシアナ―――ハイブランドの店の前で繰り広げられた茶番はグラシアナのコメントで収束する。


「…ハゲてないか…。良かった」


ふぅ、と息をつき、落ち着きを取り戻した高野を見て、「なんでそんなに不安になってるのよ」とグラシアナが笑った。


「そりゃ、なりますよ。うちは父親が髪薄いので、そろそろ危ないんです」


何度も頭頂部を確認するように触りながら高野は口を尖らせる。


「で、この子は?」


「あ、ああ、失礼しました。グラシアナさん、彼女はシュゼット。ギルドの同僚です」


「シュゼットですぅぅぅ。お会いできて光栄ですぅぅぅ」


シュゼットがグラシアナに握手を求め、「おおおおおお」と喜びの声をあげる。


彼女がそんなにこのブランドのファンだとは知らなかった。


確かに、流行りものなどに敏感なところがあるし、彼女が身につける小物などもセンスがいい感じはある。


―――なるほど、オシャレ女子であったか…


高野はシュゼットの新たな一面を発見し、シュゼットがグラシアナに服の素晴らしさを熱弁する様子を遠くで見つめる。


ブランドトークが一段落したところで、グラシアナが「それで、2人で仕事終わりになにしてるの?」と話を高野へ振る。


「あ、ああ、実はちょっと買い物に…」


「毛生え薬が欲しいんですぅ」


せっかく言葉をにごしたのにシュゼットがさらりと打ち明けてしまう。


「…なんで?ハゲてないって言ってるのに。予防?」


不思議そうな顔で尋ねるグラシアナに高野は首を振る。


「いや、ちょっと試したいことがありまして」


「毛生え薬で?…ふうん」


グラシアナは興味深々の様子だったが、「あ…」と声をあげ、弾かれるように通りに顔を向ける。


「…ごめんなさい。その話、凄く気になるんだけど、人と約束があるの。よければまた今度聞かせて………またね、シュゼット」


「はぃぃぃ!」


誰かと待ち合わせをしているらしいグラシアナはサングラスをずらしてウィンクをすると足早に去っていった。


「有名デザイナーだから忙しいんですかねぇ。カッコいいですねぇ」


その後ろ姿に手をぶんぶんと振りながらシュゼットは呟いた。






― アマイア暦1328年桜の月4月14日 夕方 ―

      <大都市ネゴル 道具屋>



この世界の道具屋はなかなか興味深かった。


雑貨屋、という表現が一番近いだろうか。いや、今はめっきり見なくなったが、この雑多な感じは駄菓子屋に近いかもしれない。


ポーションや薬草、魔法草などいわゆる冒険で傷を治したり、魔力MPを回復させるのに役立つアイテムだけでなく、携帯食や爆薬、たいまつ、装備の手入れ用品などが並んでいる。


また、冒険者から買い取った魔物や魔獣の角や爪、皮、内臓の干物なども並んでいて、これぞファンタジーの世界という雰囲気だ。昔からRPGが好きだった高野はワクワクする気持ちを押さえられない。あまり大きい店ではないが、許されるのなら何時間でも潰すことができそうだ。


「うぉ、これ、これ欲しい」


店の中を探していると、薬草のコーナーに「眠草」を見つける。隣には「毒草」、「麻痺草」と物騒な名前のものが並んでいた。


「うぉ、『眠草』ってこれ、うまく使えば眠剤とか抗不安薬になりそう」


「これ、葉っぱだと効果ありませんよ。いっぱい煮詰めてエキスを抽出しなきゃいけないんでぇ」


シュゼットが高野の手に持つものを覗き込んでアドバイスする。


ギルドの治癒師になるためには薬学的な知識もいるのだろうか?特に資格などはないらしいが…。


「え?そうなの?」


「眠り薬を作りたいんですかぁ?だったらできてるものが既にここに」


シュゼットがポーションの棚を指差すと共通語で「眠り薬」と書かれた液体の瓶があった。


「値段は…500G!…むむむ…」


高野の月給の10分の1。なかなか高額だ。麻痺薬であれば、いくらでも作れるが、ギルドの相談室でこの眠り薬を使うとなると、ゲブリエールに相談が必要だろう。自腹で治療すれば赤字になりそうだ。


瓶を手にとって「むむむ…」とにらめっこをしていると、シュゼットがジトッとした目でこちらを見る。


「こんな薬をなにに使うんですかぁ?魔物とかに奇襲で使ったり、女性に乱暴したり、暗殺する時に使う薬ですよ?」


「今日はなんかやけに俺への当たり強くない?」


「今日の先生がいつもに増して変だし、危ない感じがするからですよぅ」


シュゼットが「まさかアタシに使う気じゃないですよね?」と自分の肩を抱きながら後退あとずさるので、「もうやらないから…」となだめる。


「でも、魔物に使うのはいいとして、女性に乱暴したり、暗殺に使える薬を一般のお店に置くのはいかがなものだろう?」


「そんなこと言ったら武器だって売ってるわけですから。…自分の身は自分で守る。当然のことですよぅ」


―――そうだった。この世界では誰かが助けてくれることを当てにしてはいけない。自分の身は自分で守らなければならないんだった。


高野はそもそもなぜ自分の戦闘スキルの研究を始めたのかを思い出す。


さっさと当初の目的の毛生え薬を見つけなければならないが、その前に、シュゼットにこれ以上変な誤解を与えると面倒なので、説明を行うことにする。


「眠り薬をなにに使いたいか、だけどさ。…カウンセリングを利用する人たちの中で、結構眠れないという症状を訴える人がいるんだよね」


「言われてみればそんな気はしますねぇ」


シュゼットがうんうん、と頷くので、高野は続ける。


「眠りってそもそもなんで必要だと思う?」


「…へ?体力を回復させるためでしょう?」


「それもある。…けど、それだけじゃない。眠りは体力の回復だけじゃなくて、脳…つまり心の回復にも必要なんだ」


「ん?心って魂のことでしょう?心は心臓にあるんじゃないんですかぁ?」


「うーん…」


簡単に済ませる筈の説明が思ったよりも長くなりそうな予感があり、高野はどこまで説明するかを迷う。


心は脳にあるのか、心臓にあるのか、などという話や、魂は実在するのか、など医学的、哲学的な話をすると眠り薬の重要せいからどんどん離れていきそうだ。


そもそも脳の話はこの世界でどのくらい通用するのだろうか。色々考えると説明が面倒になってくる。


「…まあおいおい説明するよ。とりあえず、心の調子が悪い時は眠れないことが多くて、眠り薬をうまく使えば心の調子を回復させるのに役立つかも、ってことだけ知っておいて」


「あぁ、先生ぇ、さては説明するのが面倒になりましたね?」


「あはははは…。あ!!…あった。これだ」


シュゼットの質問から逃げるように視線をそらした先にそれはあった。


ポーション瓶入った2つの濃い茶色の液体と赤黒い液体、それぞれにラベルが貼られている。


「『フッサフサX』と『ボウボウZ』?」


説明書きを見ると、あからさまに怪しい名前のそれらはどうやら高野が求めていた毛生え薬のようだった。


「どう違うんでしょう?」


エルフの店主に2つの商品を持っていき、尋ねると、「フッサフサX」は毛が伸びる効果、「ボウボウZ」は毛が生える効果の薬だという。


「なるほど…」


元いた世界では「毛生え薬」というとこの2つはまとめて扱われることが多い。


しかし、元の世界の分類で厳密に言えば、「フッサフサX」はいわゆる発毛剤、「ボウボウZ」はいわゆるAGA(|Androgenetic Alopecia《雄性発生脱毛》)治療薬と言われる薬だと思われる。


どちらも「ハゲに良いんでしょ?」と思われがちだが、メカニズムで考えればこの2つの薬は全く別物だと考えた方が良い。


ハゲはAGAという脱毛症が原因だ。AGAの発症には男性ホルモンと遺伝が大きく関係していると言われている。


…悲しいことだが、人間の一生で、生える髪の毛は有限である。毛周期と呼ばれる一定のサイクルで毛は抜け、新しい毛に生え変わっている。つまり髪は抜ければ抜ける程、ゆるやかにハゲに近づいていくわけだ。


だが、AGAが発症するとそのサイクルが極端に早くなり、抜け毛が増え、新しい毛が生える速度が上がる―――早い話、一生分の髪の毛をあっという間に生やしきってしまうのだ。


話を戻すと、「フッサフサX」、つまり、発毛剤は塗った箇所の頭皮の血管を拡張し、毛に栄養を運ぶ血の巡りを改善することで、毛髪の成長を促進することを目的とした薬だ。


ただし、これは今ある毛をパワーアップさせる薬であり、AGAに対する効果はない。そのため、厳密に言えば「すでに生えてる毛を立派にする薬」であって、「毛生え薬」ではない。


一方の「ボウボウZ」はハゲの原因であるAGAの進行を止める効果がある。AGAが止まれば結果的に髪の毛の生え変わりのスパンが緩やかに戻るため、ハゲの進行が止まる。その結果、生えてきた毛も太く成長する時間があるため、結果フサフサになる。そういうメカニズムの筈だ。


―――つまり本当の意味で無から有を生み出す毛生え薬は存在しない筈だ


「…でも、それは元の世界の常識。…こっちの世界の薬は実際、どのくらい効果があるんだろう?」


「ボウボウZ」を手に取り、高野は呟く。


「なにいってんですか、どっちも効きますよぉ?」


シュゼットが当たり前、というようにあっさり応える。


「………そうなの?」


異世界に希望を見た気がした。


なぜ彼女が毛生え薬の事情を知っているのかも気になるが、高野は聞き返す。


「当たり前じゃないですかぁ。変装したりするのに使う薬ですよ?効果がなかったら意味ないじゃないですかぁ」


「……ん?…………聞き間違えじゃなければ……即効性があるってこと?」


「当たり前ですぅ」


「……………」


高野は黙って「フッサフサX」と「ボウボウZ」を手に取る。


実は高野の目当ては厳密には毛生え薬ではない発毛剤「フッサフサX」の方だったが、即効性があるというならば「ボウボウZ」も…。


―――っていうか、この「ボウボウZ」、AGA治療薬ではなく、無から有を生み出す本物マジモンの賢者の石か?!


しかも、値段を見るとどちらも500G。元の世界なら超高額で取引されても良い薬が5万円。…眠り薬と同じ値段だ。


この世界では5万円払えば、自在にハゲを治すことができるらしい。なんというハゲ知らずの世界!


…ということは、逆言えば、道端にいるハゲはファッションハゲか、見た目に気にしないハゲだけということになるだろうか。


もし、こちらの世界と元の世界を行き来できるならば、元の世界から眠剤を大量にこちらの世界へ、「ボウボウZ」をこちらの世界から元の世界に持っていき、売りさばけば巨万の富が得られるだろう。


…いや、これ以上、ハゲの話はやめよう。あまりハゲハゲいうのは言葉狩りが厳しい今の時代、異世界だって厳しい筈だ。


と、思考を打ち切り、高野は結論を下す。






「…どっちもください!!」


眠り薬はまた今度にすることにして「フッサフサX」と「ボウボウZ」の購入を決める。


「毎度!」


エルフの店主はニヤリと笑って高野に薬を渡した。



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