第2話 ヌル村
いくつもの文明、いくつもの実力を破壊してきた。
正当な理由があったわけじゃない。
ただ、彼はその筋から狙われていて、逃避行に巻き込まれた不幸な人たちがいたってだけ。
悪魔と呼ばれたこともあった。
「お得意の嗅覚はどうしたのさ」
「だってあのナイフ新品だったし……」
「じゃあ何? いつもは血の匂いに反応してるわけ?」
子供の前でみっともなく争ってしまった。
ただこれは彼が悪いと思う。
この子にも危険が及んだんだし。
「あ、ごめんね」
ポカンとする彼女の裏に微笑みがあったことは、思い違いでないといいな。
アティエノと名乗った少女に案内され、私たちはヌル村へやってきた。
中立地帯でありその筋が
いつまでも世界は騙し通せない。
向こうはどこまで掴んでいるか。逃走のためでさえ、追手に近づく必要があるのだ。
「……って、思ったんだけどな……」
「ネイティブ裏社会じゃなかったんですか? 鼻詰まってんの?」
「こんな砂まみれのとこで鼻水が出るかよ。お前じゃあるまいし」
半円状に半径25メートル。
茶色いキャップに緑の制服。アティエノと私の中間くらいの年の男もおり、なぜかそっちの方に私は戦慄した。
40人も集まって銃口を向けられると、さすがに一介の花屋娘では足が
「手足から」
彼らの言語で合図があった――と同時。
40発の弾丸がダンスを始めた。
私とアティエノは頭蓋と鼻へ9発、ルジェには
アティエノは涙さえ恐怖に
ちゃんと説明しておけばよかったな、
「――みんな、お花になぁれ!」
ポン! という効果音さえつけたつもりだった。
「「……⁉」」
いくつかの驚愕が重なった。
シクラメン、カーネーション、サンタンカ。
茎から上を切り取ったような色とりどりのお花たちが、しめて40種、短く滞空した
もちろん殺傷力など持ってはいない。せいぜい
「へくちっ!」
「詰まった?」
「うん。後でティッシュちょうだい」
すっ、と銃口と視線が交錯した。
気味悪がりながらも、確実に私を排除しようとしている。
物騒だ、と子供心に思った。
「やめなよ」
全て、だった。
コミカルでケミカルな煙とともに。
重火器からムチに棒、軍服、そこに潜んだ数多の武装。
人類が築き上げた遺産を、笑いの出るほど大量のお花に変えてやった。
「「……⁉」」
「「……‼」」
風上で良かった。
こほん、と咳払いをし、鼻声で話し始める。
「これが私の特技。なんでもお花に変えられる。
人間にも使えるけど……まあ、倫理を優先しようか。
どうする? ねぇルジェ」
「――逃げろ!」
数瞬、意識が飛んだ。
(もう1人!?)
鈍痛が後頭部でさざなみのように
むしろ、大の男の一撃で気絶しないだけ
「っ! 早く――!」
危険度を測りかねていた40人の兵士が再び動き出す。
素の身体能力を見破られ、82の鈍器が殺到する。
「うああああああ‼」
彼らはもう動けない私に関知しなかった。
まるで怯えるように、ルジェの確保を最優先した。
抵抗するだけ彼は痛めつけられていく。
肉が骨で潰れ、グチャグチャという粘着音がマスタードガスのようにこびりついた。
「――……――」
自分でも何て叫んだのか
ただ、アティエノに抱き起こされた時には――42人の男はまとめていなくなっていた。
ルジェは大きな情報を得すぎた。
あれだけあった花弁は兵士たちに踏み散らされ、
――これは、彼の話だ。
ルジェは聞いた。
徹底的に痛めつけられながらも、どこかで理性を残して。
『予想外の抵抗があったが……早めに来て良かった。
巻き込まれずにすんだからな』
(フィズ……っ!)
「ああ。
C弾頭だけは勘弁願いたいね」
(村には誰一人残すな……
皆殺しにされる‼)
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