お花畑のフィズとルジェ

雨間 京_あまい けい

ツクール×カクヨム ゲーム原案 C弾頭編 1万字縛り

第1話 Se estas,aliaj ne.

 怒声の方に視線をやると、屈強そうな男が幼気いたいけな少女を睨んでいた。


「あれま」


 男の制服は治安警察のものだと思わしく――少女の方は髪と手首が布で隠れていないことから、中立地帯からの流れ者だと私は判断した――この国での身の振り方を知らないのだ。


「…―…」


 治警への信頼の低さからケリンブ国民の団結は強い……けれど、それは同時に異物への排斥力にもなる。

 道行く人々と同じように目を伏せて、私は先を急いだ――


「あん? なんだお前」


 ――はずだった。


「我が弟! だーめじゃないかっ我が弟!」


「弟ぉ?」


 少しキツかったか。そりゃそうだよね、とごちる前に、私は次策を展開する。


「この子ツイてます!」


「え……」


 あ。女の子泣きそう。


「よく見てください」


「どこを」


「私の目です」


「そっちかよ!」


 ん? おまわりさんその言い方……いや何でもない。


「我が弟! いーくぞっ!」


 手を引っ張った後で、ちょっと強かったか、と後悔する。

 後で謝ろう、なんて……まだ余裕があった。




「おい――待てやコラぁ!」



 想定外だった。

 右手をかぎに、左手を鈍器に。

 ただの通行人でしかなかった私が、いつの間にか暴力の的になっていた。

 風圧が顔面に達し、恐怖で逃走もままならなくなる。


「ひぃ! ごめんなさいぃぃ!」





「……フィズ、何やってんだ」


「「うぇ?」」


 2周りも年下の少女と同じリアクションをしてしまった。

 なんとか恥ずかしさに打ち勝ち顔を上げる。


 そこには拳を包む掌があり、その持ち主は私のよく知る、鬱陶うっとうしいパーマの男だ。


「治警じゃん……コイツら__と__があって気が立ってるんだから、余計な刺激をだな……」


「ばっ、ちょっ、ルジェのバカ! フランス語通じちゃうんだって!」


「うぇ?」


 間抜けな声を出すルジェに抑えられた岩のような拳は、ずっしりとした体格ごと小刻みに震えていた。

 その懐からゆるりと――


「「conteauナイフッ⁉」


 二人の手を引いて走り出すがもう遅い。

 投擲とうてきされた得物えものは訓練された彼自身と同じく、まっすぐ私へ向かい――




「うぇ?」




 少女のつぶやきが遠くに聞こえる。

 こつん、と鼻に当たった何かが地面に落ちる。

 今日はコスモスだった。


 ああ、またやっちゃった。




「は――ハ――




 ――ハックションッッッ‼」





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