第2話 俳優仲間との密会


栗太は橋部になぜ快く迎えてくれたか尋ねた。『どうして俺みたいに素行が悪くて、演技もダメなやつを家に入れてくれたんだ? もしスキャンダルとして撮られたらお前の方が危ないぞ』

橋部は笑いながら言った。

『そんなの決まってるよ、僕は栗太くんが好きだから、栗太くんの演技も好きだし栗太くんの素行の悪さだってプロとして不出来でもそれでも栗太くんの性格が好きだよ、それは勿論友だちとしての好きだけどね』

俺は橋部よると友達になって良かったと感じた。

橋部は俺に料理を振る舞ってくれた。料理をしている橋部はまたカッコよかった。橋部は料理をしながら自分の悩みを話した。

『栗太くん...僕はね、演技が上手いとか下手とかどうでもいいんだ。みんなが見ているのは演技者自身なのだから。僕は役を演じてきて、1番なりたかったのは自由がある人だった。自由にものを言って全てを成立させてきた人、そんな人物を役でも人としても演じて生きたい...それが今近いのが栗太くん君なんだ。』

そんな真面目な話に俺は戸惑った。

『はぁ?何言ってんだよ。俺は自由より不自由感じてきたぜ、それに俺はただの駄々っ子』

橋部は続けて言った。

『僕は、次の作品が自分が目標とする役で、その役を演じきったら長い休みを取ろうと思ってる。今まで休んでこなかったら、休もうと思って。次の作品のために金髪にしたんだ、分かるぅ?』

彼は俺にまじまじと髪色を見せてきた。

俺は彼に笑顔で言った。

『かっこいいな、金髪。まるで違った人に見えるよ』

橋部は急に悲しげになり、言う。

『僕...違った人間になれるのは嬉しいんだけど、ずっとそのままになってしまうんだ。いわゆる憑依型というか、それが心配なんだ。この間もヤク中に潰れたホストを演じたんだけど、本当のヤク中みたいになって風邪薬を大量に服用して救急車に運ばれたんだ、しかもそれはニュースで放送されて色々大変だった。役に入り込むと自分を見失うからそれが心配でならない』

俺は料理中の彼の背中を思いっきり叩き言った。『大丈夫、俺がついてるからさ。なんかあったら言えよ』

橋部はああ、と笑って返事をした。

その日は橋部よるの家に泊まって、次の日家に帰った。

その1ヶ月後橋部よるのドラマ『ポイズンプリンス』という毒舌王子と塩対応アイドルの恋物語が放送された。放送された3ヶ月後の2023年3月31日橋部よるは転落死した。自殺と思われている。俺はニュースを見て言葉が上手く出てこなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る