第2話 サメ映画的に考えよう!
海水よりも早く陸を埋め尽くしたサメの群れ。
脳裏に焼き付くのは俺の背中に迫ったサメの牙。
口を大きく開けたサメのアップは夢にまで見た大迫力の瞬間だったが命が惜しい。慌てて残りの魔力を注ぎ込み、ビルの三階の窓にジャンプして難を逃れた。
現在休憩中だ。動かず休むことで魔力の自動回復は早まるらしい。
「ヤバいだろシャークウェーブ。先頭のサメが押し潰されるのが前提で押し寄せてきやがる。海水とか真っ赤に染まっているし、恐怖感ハンパねえ」
「そうですね。いつ体験しても凄くスリリングでした。迫りくる絶望。圧倒的な恐怖。やっぱりサメは絵力が凄い!」
「っておいサメ神! どうしてあんたまでついてきているんだよ!?」
「召喚勇者のナビです。ちょっとしたアドバイスもできますよ」
「それは心強い……確認したいんだけどお前が邪神じゃないよな。この世界をサメ映画にした」
「よくぞ見破った!」
「やっぱりそうなのか!」
「と言いたいところですけど違います。邪神ちゃんとは仲がいいですけど別柱です。いつもならば邪神ちゃんも空に浮かびながら『サメに選ばれし勇者よ! 我が試練を乗り越えてみせるがいい!』とか登場しているんですけどね。こ最近は『最近の若者はサメ愛が足りない』とふて寝してます。あまりに攻略されないから拗ねてしまったんです。困った邪神ちゃんです」
「お前みたいなのがもう一柱いるのか……やべーなこの世界」
「そんなことより喋っていていいんですか? サメ映画的に」
「そうだった! サメ映画的に同じ場所に留まっていたらダメだ。ありえない場所からサメに強襲される展開しか思いつかない! 急いで移動しないと!」
「ここは市街地奥にある建物の三階ですし、シャークウェーブ直後は安全圏ですよ。今のうちに建物内を探索してラーニングするアイテムを選びましょう。ボーナスタイムです。あっ! 窓から顔を出さないでくださいね。問答無用でサメが空から飛んできます」
「サメが空を飛ぶのはサメ映画の常識だからな」
「あとシステム的な説明の続きですけど、この世界にはレベルアップの概念があります。サメを倒して強くなれ! すでにあなたの身体能力も魔力も大幅にアップしていませんか?」
「レベルアップ? そう言われても俺はまだ一匹も……ってあれレベル五十二になってる」
魔力ゲージの横にあるレベル表記が増えていた。
「……シャークウェーブで大量のサメがお亡くなりましたからね」
「自滅したサメも経験値に加算されるのかよ」
「レベルアップすると身体能力と魔力の総量が上がります。まあサメの攻撃を食らうと死にますけど」
「それじゃあ意味がない……わけじゃないか。さっきまであんなにしんどかったのにかなり楽になったし、体が軽い」
「レベルアップの恩恵ですね」
「動けることがわかった。ボーナスタイムのうちに探索するか」
ボーナスタイム。心躍る響きだが先を考えるといい意味に聞こえない。わざわざ設けているということは自由に動ける時間が有限なのだ。以後アイテムを得る時間がないと考えていい。
サメ映画はその場にあるもので機転を利かせる。それも醍醐味だが、この世界にそんな余裕があると思えない。なにを覚えさせるか。真剣に考えないと。
そう思っていたのだが。
「おいサメ神。チェンソー多くね?」
「チェンソーの形や大きさやメーカーにこだわってみました!」
「バラバラにすんぞサメ神が!」
「神はバラバラになった! とはなりません」
チェンソーばかり無駄に転がっている。
一番取り回しが利きそうな標準タイプのチェンソーを選ぶ。大量に種類があっても困るが、サメ映画的にチェンソーを選ばないわけにはいかない。
「酸素ボンベはないんだな」
「海沿いのシーサイドホテルにはありましたよ。でもこの建物は市街地の奥なので」
「もしかして海沿いの建物に逃げるのが正解だった?」
「海沿いの方が酸素ボンベやパラグライダーやフライボードなどラーニングアイテムは充実してました。でも、かなり魔力消費が激しく扱いが難しい。襲ってくるサメも多い。出発点としての難易度はここよりも上です」
「難しいのか。それにフライボード……お! 消火器があった。二つ目はこれにしよ」
「消火器をショットで撃ってもサメは爆散しませんよ。いいんですか?」
「消火器さんのポテンシャルの高さは映画界で有名だからな。鈍器としても優秀だし。あとは……」
「移動用にロープがオススメです」
オススメ。案内役気取りのサメ神がわざわざ口にしたんだから必須なのだろう。けれどロープか。
「すぐに切れたりしないよな? サメ映画的に」
「組み合わせの問題ですね。潜水用のケージとさえ組み合わせなければロープは優秀ですよ」
「……組み合わせとかあるのかよ」
「海の臭い。もうボーナスタイムも終わりです。早くこの建物の屋上に向かいましょう! サメがすぐそこまで迫ってます。海面上昇によりここももうすぐ水没しますよ」
「水没するの!?」
急いで階段に向かう。エレベーターは使えない。サメ映画的にケージとワイヤーのセットは必ず切れる。あれは棺桶だ。
階段から下を覗くとすでに一階は水没。サメが泳いでいる。そして二階を闊歩するサメの姿を見つけた。
そのサメから大量の触手が伸びてくる。
「シャークトパス! あんなものまで生み出したのか!」
「究極サメ合体生物はロマンです!」
「まさか狼鯨やプテラクーダも!?」
「サメ以外はちょっと……メカシャークも落選でした」
ソードで触手を切り払う。数が多い。建物内のシャークトパスの機動性も侮れない。
早速だがラーニング武器に頼らせてもらう。
ソードが光り輝く消火器に変化する。
「合体サメとまともに戦う気はないんだよ!」
物凄い勢いで噴射される白い煙幕。吹き飛ばされそうになる体を必死に押さえつけて階下に向ける。触手の攻撃が止んだ。
階下は白く染まっている。サメは視覚で獲物を見つけるわけではない。ロレンチーニ器官で電気信号を読み取っている。
ラーニングした消火器は粉末噴射型消化器だ。電気を通さない。ロレンチーニ器官に有効だ。
「急いで屋上に逃げましょう。この建物は七階建て。もっと高層の建物に逃げないと」
「七階建てで水没するのかよ! 屋上に行ってどうするんだ? サメが飛ぶようなシャークロンの中だぞ!」
「先ほどロープを使って屋上伝いにビルを飛び移るんです。階下はすでにサメの海。陸路はありません」
サメ神の案内に従って屋上を目指す。
全て水没するならば例え嵐の中でも外にしか活路はない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます