ディメンション・シャーク 異世界召喚されたと思ったらサメ映画の世界だった……確かにファンタジーな異世界には違いない
めぐすり@『ひきブイ』第2巻発売決定
第1話 転移した異世界はサメ映画?
目が覚めるとそこはアメリカ西海岸だった。
ビーチにパラソルは刺さっているが、寝そべる水着美女も半裸マッチョもいない。ド派手なオープンカーも走っていない。
熱い陽射しと波の音だけが夏の海を主張している。
波は高く、沖合の雲が厚くて黒い。
とても不穏な空気を醸し出していた。
途方に暮れる俺の足元で自由すぎる女神が土下座している。
古代ギリシャのキートンっぽく白い布をまとっているが、透けて見えるトロピカルなビキニのせいでパレオにしか見えない。スタイルはかなり良い。
この世界の女神らしい。
「サメ映画の異世界?」
「はい……元は剣と魔法の世界アサイラム。しかしサメ映画に飲み込まれてしまい、廃棄が決定された世界です。あなたも急いで脱出してください」
「いやいやいやいや! ここはどう見てもカリフォルニアだろ! サメ映画の聖地の! どこが異世界? 剣と魔法はどこ! サメ映画に飲み込まれるって何!?」
「実はこの世界の邪神ちゃんが日本観光中にサメ映画にドハマりしちゃいまして。気づけば世界がサメ映画の聖地カリフォルニアに作り変えられていました」
「サメ映画の魅力は神すらも魅了したのか……」
「はい……魔物も全てサメです。サメ以外の魔物は必要あるの? と真理を得たそうです。理不尽なところから現れます。竜巻内なら空も飛びます。地面を泳ぎます。屋内でも襲ってきます。タコと合体します。多頭も当たり前です。陸海空制覇です」
「まあサメだからな」
納得のいく理由だ。
サメのポテンシャルを舐めてはいけない。
「だとしても俺はどうしてこの世界に?」
「私がこの世界の廃棄を決定したせいです。サメは圧倒的です。すでにこの世界にサメ以外の生物はいません。全て絶滅しました。だから廃棄を決定したんですけど」
「けど?」
「邪神ちゃんが『この世界でサメに立ち向かう勇者が見たい』と。『サメのサイクロン……シャークロンに襲われて生き残る勇者の姿を見たいんだ!』そう邪神ちゃんに熱く語られまして。『確かに』と、つい勇者召喚を許してしまいました。誰かが攻略するまで廃棄は延期です。そんなわけでようこそサメ映画の楽園に!」
「ようこそじゃねー! お前が許可してんじゃねーか!」
「色々我慢はしたんですよ。最初に食べられる水着美女や漁師は不採用。パニックを起こすカップルもいない。サメの脅威を隠蔽するお偉いさんもいない。配役はサメ映画フリークのみを厳選した召喚勇者のみです」
「厳選?」
「あなたは召喚される直前のサメ映画を見ていませんでしたか? ポップコーンを用意して」
「見ていたけどまさか」
「転移の条件は私と邪神ちゃん監修のサメ映画『ディメンションシャーク』をポップコーン食べながら見ることです。ポップコーンの匂いにつられて、映画の中から勇者召喚用のサメが現れて、パクリと召喚完了する仕組みになっています。あなたで四八九人目の召喚勇者です。なぜか制作国のアメリカ人ではなく日本人が大半ですけど」
「そんなに召喚されてるの!? そして続いているってことは全員サメに食い殺されたのか」
「さすがに召喚しておいて殺すことはありません。この世界で死んでも元の世界に戻されるだけ。……おぞましい呪いがかけられますが」
「戻れるならよかった。けどおぞましい呪い?」
「サメ映画恐怖症の呪い。なんと一生サメ映画を見ることができない身体にされてしまうのです!」
「そんな呪いの存在が許されていいのか!? 人生の八割を損することになるじゃねーか!」
「はい……ですから是非ともあなたには生き残ってほしい。本当の勇者になってほしい。サメの脅威に打ち勝ってほしい。そう願ってます」
ノーサメ映画ノーライフ。
どうやら本気でこの世界を生きて脱出しなければいけないようだ。
だが知っている。
サメ映画の世界は常人の俺では生き残れるはずがないこと。
サメに食いつかれて海に引きずり込まれても無傷な身体。服が引っかかっただけで済む幸運。不意を突かれたの絶妙な安全圏を確保している間合いの取り方。全てを兼ね備えた勇者だけが生き残れる世界だ。
「なあチートはあるのか?」
「もちろんあります。元は剣と魔法の世界ですから。『魔力ゲージ表示』と念じてみてもらえますか?」
「えーと『魔力ゲージ表示』ってうわっ!?」
視界の上の方にゲームでお馴染みのヒットポイントゲージのようなバーが出てきた。現在は満タンのようだ。横にレベル表記もある。一だ。
「次は『ソード』。手のひらを海に向けて『ショット』。目の前に壁を作るイメージで『シールド』。順番にお願いします。別に唱える必要はありません」
言われたまま順番に念じる。
すると右手に光の剣が現れ、海に向けた左手からは光の弾丸が放たれた。シールドも言葉通りの意味で俺の身を守るように光の盾が出現する。
「以上が戦闘用コマンドです。シンプルイズベスト。形状、強さ、速さなど全て思考の仕方によって変幻自在です。ただし強い魔法は魔力の消費が大きい。また『ラーニング』能力もあります。これは街中に存在するアイテムをソードで刺して三つまで学習できる能力です。サメ映画でお馴染みのチェンソーやツルハシや酸素ボンベなどラーニング可能です。ちなみにウィジャ盤は不採用です」
「さすがにあれは不採用か。ここがすでに異世界だしな。霊界と繋がったらややこしい」
「さてそろそろ海岸から逃げましょう。来ますよ。シャークロンの前兆……シャークウェーブが!」
「シャークウェーブ? なんだあれは!?」
黒い海が押し寄せてくる。
津波か? 違う!
認識した瞬間、俺の足は市街地の方に走り出した。
近くに高台はない。だが市街地の奥に高層ビルが見える。シーサイドホテルは論外だ。海沿いにある建物があの質量に耐えられるわけがない。
なぜならあの黒い波の正体は!
「全部サメじゃねーか! 絶対に逃げ切れないよなこれ!」
「あっ! 移動コマンドの説明を失念してました。『ダッシュ』で高速移動。『ジャンプ』で大ジャンプが可能です。あと壁や障害物を蹴ってジャンプもできます。『ダッシュ』で市街地の奥に逃げ、シャークウェーブに追いつかれたら『ジャンプ』で近くの建物に避難しましょう。低地は水没するので即ゲームオーバー! サメと戦っても多勢に無勢で飲み込まれて死ぬだけなので逃げ一択です!」
「先に言えよサメ神!」
「サメ神!? 少し気に入りました!」
こうして俺は車などの障害物をジャンプで避けながら、ダッシュで市街地の奥に向かう。
視線の先には巨大な電波塔。その手前には大型高層ビルが一つある。
あそこまで行くことができれば安心だが、途中でシャークウェーブに追いつかれるだろう。今はとにかく海から全力で離れるしかない。
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