第10話
テァランギを追ってきたマーレと合流したあと、ココンたちはラージャオが挟まっている路地へ戻った。ラージャオは荷物ごと詰まったまま動けなくなっており、三人がかりで押したり引いたりした結果、なんとか自由になることができた。
その後もブロンちゃんの捜索は夕方まで続いたが、結局目的の猫どころか、白猫すら見つけることができずに日が沈んでしまった。暗くなっては猫を探し出すのは難しいし、危ないので、ココンたちはとりあえず捜索を一旦中止することにした。
町の人々も同じ判断をしたようで、ひとまず猫の町には静けさが戻った。といっても、変わらず猫たちの賑やかな鳴き声は響き渡っているが。
「多分、何か作戦を立てないことにはブロン嬢は見つけられないね」
楽器の弦をいじりながら、マーレが言った。既に寝巻きに着替え、ベッドの上であぐらをかいている。
ココンたちが泊まることした宿には一人部屋と二人部屋の二種類の部屋があった。二人部屋の方が一人当たりの値段が安くなるため、ココンたちはココンとマーレ、ラージャオとテァランギの二組に分かれて部屋を取った。
ココンも自分のベッドで寝転がり、今日起きたことを色々考えていた。ただの観光として寄ったはずの町で、まさか迷い猫を探すことになるとは。
「猫の世話に慣れているはずの町の人も、ブロン嬢を探すのには手間取っているそうじゃあないか」
「僕らは、僕らの方法でブロンちゃんを探さなきゃだね」
ココンは応えたが、名案はなかなか浮かんでこなかった。ココンたちの手札は、小さな体とそこそこの脚力、森出身の狩人であるテァランギの存在だ。そしてもうひとつ。
「そういえばマーレ、猫の鳴き真似が本当に上手なんだね」
マーレはにこりと笑い、一度にゃあと鳴いてみせた。
「歌と同じ要領さ。お手本は町のそこらじゅうにいるしね」
「マーレは歌が好きなの?」
マーレは答えるかわりに楽器を鳴らした。
「海で歌えば、それは海の歌になる。山で歌えば、それは山の歌に」
楽器の音に応えるように、窓の外から一際大きな猫の鳴き声が聞こえてきた。マーレは窓に目をやる。
「猫の町で歌えば、それは猫の歌に」
マーレは大きく息を吸い、歌い出した。
猫の鳴く町で
きっと不思議な出会いがある
金色のお日様と
燃え盛る赤い火花
優しい緑の揺れる木漏れ日
暗闇に灯る小さな光
マーレの指が、器用に弦を弾いていく。ココンは静かに、それを眺めていた。
猫のにゃく町で
きっと不思議にゃ出会いがある
「マ、マーレ?」
戸惑うココンの声にも、マーレはお構いなしだった。楽しそうに歌い続けている。
にゃんにゃらのにょひにゃにゃと
にょえにゃーにゃーにゃんにゃんにゃ
にゃーおにゃーお
にょんにゃらにゃ
「ど、どうしたの?」
少し怖くなってきた。マーレはにっこり笑っている。一通りにゃあにゃあ言ったあと、演奏は終わった。マーレはふうと息を吐き出し、ココンを見た。
「どうだった?」
「えっと…いい曲だったと思う」
「それはよかった」
マーレは満足そうに微笑み、楽器をケースにしまった。
「ボクはそろそろ寝ることにするよ。キミも早く休むといい」
「うん、そうするよ」
マーレは布団をかぶり、寝っ転がった。ココンはというと、実はまだあまり眠くなかった。体はとっくにへとへとなのに、妙に頭が冴えているのだ。
「ねぇマーレ、君はなんで『土地巡り』を…」
言いかけたところで、ココンは止めた。マーレは既に、寝息を立てていたのだ。いくらなんでも眠るのが早すぎるような気もしたが、たしかにマーレは既に夢の中だった。
考えてみれば、彼だって今日はたくさん走ったのだ。昨晩は野宿だったそうだし、今夜はゆっくり休ませてあげたい。
ココンは部屋の明かりを消し、廊下に出た。少し歩けば、眠くなってくるのではないかと思ったのだ。
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