終わり、を感じる

CHOPI

終わり、を感じる

 ふとカレンダーを見ると、もう8月も終わりだった。あぁ、通りで、と思う。朝方、久しぶりに寒いと感じて目が覚めた。つい数日前までは薄手のタオルケットでさえ暑く感じたのに、もうすっかり秋がお隣までやってきているのだ。


 今年の夏、自分は何かしただろうかと振り返ってみる。学生の頃はあんなに長かった夏休みだけど、社会人にもなるとそんなもの、今は昔。お盆休みの数日間が取れれば御の字で、私は今年、まだ夏休みを取れていなかったことに気が付く。

『……、このままじゃ、休み取れたって秋休みじゃんね……』

 そんなことを思ったところで、仕事がどうにかなるわけじゃなし。諦めて今日も大人しくPCに向かって無機質な文字を打ち続ける。


 お祭りも、花火も、海も、山も、川も。野外イベントや、コラボイベントも。夏休みだからという理由で開催されたそれらに何一つ参加できず、かといって休みがとれていたら参加していたかと聞かれれば、それはそれで微妙な話ではあるんだけど。でもやっぱり夏って不思議なもので、何か『らしいこと』をやっただろうか、ということを振り返ってしまう。で、やれていないことに対して、微妙な焦燥感を抱くまでが私のここ数年の夏のお決まり。


 毎年『今年こそ!』って意気込みはする。でも一瞬で過ぎ去っていく夏に、大抵乗り切れずに『あぁ、今年も夏が終わった』なんて思う。始まってもいないはずなのに、ちゃんと終わりは感じるなんて。なんなんだよー……って頭を抱えてしまうのも、もはやお決まり。


 時間は待ってくれない。そう強く感じるのはそれこそ『夏』だからなんだろうか。青い空、白い入道雲、うだる暑さ、降り注ぐ蝉の声、殺人的な光の乱反射。それらが一気に和らいで、突然原色の青や白や緑が、一気にくすんだ赤や黄色や茶色に覆われる瞬間。いつ、というのはうまく言葉では言い表せないけれど、確実に訪れるその景色の変化で『終わり』が来たのだと感じる。


 今日あたりから、鳴く虫の声も少しずつ変わっていくんだろう。あぁ、本当に、今年も夏が、終わっていく。


 

 ――……二度と来ない、夏。

 その言葉が持つ意味を、考えてしまうくらいには、自分は大人っていうものになっているのかもしれない。

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